「ギャオスの煮つけ」の誕生と発展(完結) 作:ギャオスの煮付け
「ギャオスの煮つけ――それは、1999年に起こったギャオスの大量発生を機に誕生したジビエ料理、「ギャオス料理」の代表メニューである。
当初、サメに似たアンモニア臭が原因で嫌厭されていたギャオス肉だが、適切な処理をすることにより美味しく食べられることが判明し、以降爆発的な人気を誇るようになった。
「あのギャオスの肉を食べるなんて」と批判されることも多々あったが、口の中でほろりととろけるゼラチン質の肉が美肌に良いと分かると女性からの支持を集め、ついには料理雑誌の表紙を飾るに至った。
「うちの親戚はギャオスにやられましてね」
そう語るのは1999年、渋谷駅周辺で発生したガメラとギャオスの戦闘で叔父を亡くしたという東京都在住のAさん。
「叔父とは昔から仲が良くて、良く上野の動物園なんかに連れて行ってもらったもんですよ。あの日もちょうど、上野で待ち合わせしてたところだったんです。僕が結婚をすることになって、久しぶりに飯でも食おうということになって。そうしたら、あんなことに。ギャオスが憎い。そう、思っていたんですけどね」
Aさんは手に持った「ギャオスの煮つけ」と書かれた缶詰を見せる。
「はまっちゃいました。ギャオスの煮つけ」
I食品から販売された「ギャオスの煮つけ」缶詰。それがこのギャオス肉ブームの火付け役だった。
京都で発生したギャオスの変異体とガメラの戦闘、その直後に大量発生したギャオス。
幸いギャオスの群れはガメラによって退けられたが、日本の各地には自衛隊やガメラによって屠られたギャオスの死体が大量に残された。
それを処理するには膨大な金と時間がかかる。
災害の爪痕が日本中に暗い影を落とす中、偶然自宅近くに落下したギャオスの肉に目を付けた男が居た。
I食品で商品開発の仕事をしているT氏である。
T氏はまだ新鮮だったギャオスの肉に着目し、「これを食べることはできないか」と考えた。
赤黒く、ねっとりとした表皮。鶏とも違う弾力のある肉質。多少臭いはあるが見た感じ食べられなくはなさそうだと感じたのだ。
T氏は早速ギャオスの肉を拾い集めて自宅の台所に駆け戻ると調理に取り掛かった。
いきなり生で食べるのは危険なのでまずは湯通ししてみる。
ギャオスは未知の生物だ。未知の病原菌や寄生虫がいるかもしれない。よく熱を通すのが鉄則だ。
大鍋で湯がくと身が白っぽく変色し、灰汁が大量に出てきた。
『鍋の底からどんどん灰汁が湧き出してくる。おまけになんだか熊のような、なんともいえない獣臭がした。「これは臭み消しが必要だぞ」と思い私は生姜を刻んで鍋に投入した』
(「ギャオスの食用利用について」より引用)
茹で上がったギャオスの肉は思いのほか柔らかく、箸で持つとほろりと崩れる。
T氏は恐る恐る一口、その肉を口に運んだ。
『「あっ」と驚くとはこのことだろうか。多少の臭みはあるものの、ギャオスの肉は思いのほか食べやすかった。魚と鶏の中間のような質感だ。皮はゼラチン質でぷるぷるしており、煮つけにしたら旨そうだ。これは人気が出るぞ、と私は衝撃を受けた。
日本人の口には絶対に合う。商品として売れる自信があった』
(「ギャオスの食用利用について」より引用)
T氏は試食をしたのちに急いで会社に連絡し、「ギャオスの肉を集めてほしい」と懇願した。
「いやね、気が狂ったかと思いましたよ」
当時T氏の上司だったU氏が語る。
「あんなことがあったでしょう。テレビを点ければ一日中ギャオスだなんだって、めちゃくちゃになった街の様子ばかり流れて気が滅入っていたところに『ギャオスは売れるから肉を集めろ』ですよ。もう、頭がおかしくなっちゃったんだって思って」
ギャオスを食べた。
その一言を聞いたU氏は電話口で絶句したという。
「ギャオスを食べた。あれはいける。商品化したら売れますって言われたんですよ。何言ってんだこいつと思いましたね。ギャオスを食べた? 信じられますか? あのギャオスをですよ。食べたなんて……」
鮮度が落ちる前になんとしてもギャオスを確保して欲しい。
そう言って騒ぐT氏が正気に戻るならと、U氏は要望通りギャオスの肉を集めることにした。
自治体に連絡して交渉し、タダで引き取ってくれるならと多くの自治体の協力を取り付けた。
I食品の倉庫はあっという間にギャオスの肉で一杯になった。
それからT氏は会社に籠り、日夜ギャオスの肉の調理に勤しんだ。
ある日は煮込み、ある日は焼き、冷凍しているからと生食にも挑戦した。
「Tは気がくるってしまった」と嘆く社員たちをしり目に、ギャオスの肉に一番適した調理方法を求めて朝から晩まで働いた。
『ギャオスの肉はうまい。それを世の中に分かってもらわねばならない。色々と試した結果、ギャオス肉の良さを一番引き出せるのは煮つけだということが判明した。ギャオスの肉は時間が経つとサメのようなアンモニア臭がするが、新鮮なうちに下処理をして臭みけしをしっかりすれば問題ない。
日本人に訴えかけるには日本人に親しみのある料理でなければならない。そう考えた結果たどり着いたのが「ギャオスの煮つけ」だった』
「これを食べてくださいって言うんだよ。『まさか、ギャオス?』って聞いたら『はい!』って元気よく言うの。目なんか輝かせちゃってさ。……食べたよ。まぁ、見た目はおいしそうだったしね。流石プロだと思ったよ。
味? ……うん、悪くはなかったよ。今まで食べたことがない食感だったけど、普通に食べれてびっくりした。『まだまだ在庫はありますから!』って言うんだけど、そりゃそうだよ。うちの冷凍倉庫一個使ってるんだから。
それでまぁ……試しに売ってみるかってなったの。ほら、ゲテモノブームとかあったじゃない? だからマニアにはウけるかもしれないって思ってさ」
そう語るのはI食品の社長、I氏だ。
そうして今やI食品の顔となっている「ギャオスの煮つけ」が誕生した。
「はじめはびっくりしましたよ。あのギャオスを食べるなんて馬鹿がやることだと思って。でも美味しかったっていう口コミをネットで見て、酔った拍子につい注文してしまったんです」
Aさんは言う。
「叔父を殺した憎いやつですが、食べてみると意外と美味しくて。あれ? いけるぞ? みたいな。それからです。なんだかハマってしまって。定期購入しているんですよ」
ギャオスの煮つけはI食品の通販サイトでしか購入することが出来ない。ギャオスの量にも限りがあるからだ。
「定期購入もいつまで出来るか分からないらしくて、もう新規申し込みはできないそうなんですよ。最近はギャオスもめっきり出ないですからね。寂しいものです」
近年、ギャオスの出現数が減少しており肉の流通量も減りつつある。
それに伴いI食品でも「ギャオスの煮つけ」の出荷量調整を行っており、手に入りにくくなっているのだ。
「昔は怖いだのなんだのって言ってたけど、今となってはおいしい食材ですからね。こうして年々減少しているのを見ると、そのうち食べれなくなっちゃうのかなぁって思いますよ。せっかくギャオスを捕獲出来る機械も出来たのにね。勿体ないですよね」
ギャオスの乱獲――。
高値で取引されるギャオスの肉を巡り、近年はギャオスの密猟者が増加している。
独自の狩猟方法を編み出し、所かまわずギャオスを乱獲し国際問題となっているが、そのほとんどが日本に密輸入されていると言われている。
「資源の保護? って言ったらおかしいかもしれませんが、長くギャオスを楽しむためにはもっとギャオスを大切にしないといけないのかもしれませんね」
ガメラが最後に出現してから●年――。
我々とギャオスの関係は今、新たな局面を迎えている。
特に目玉がおすすめです。