「ギャオスの煮つけ」の誕生と発展(完結) 作:ギャオスの煮付け
「斉藤さん、ご無沙汰しています」
とある会議室。長峰は新たに出現した「ギャオスと思われる生物」に対する対策会議に出席するため東京を訪れていた。
「よもや再びこのようなことが起きるとはね」
「また南明日香村にギャオスが出るなんて……」
「タコ人間ですか」
「……」
「あれ、どう思います?」
「どうって?」
「亀岡の」
「植田さん……ですか?」
「ああ、そうそう。植田さん。彼、本当にギャオスになっちゃったの?」
長峰は少し考えた後に「分かりません」と答えた。
「遺伝子解析の結果はご覧になりましたか?」
「うん?」
「亀岡の現場から採取された粘液。その染色体は京都の変異体ともギャオスとも一致しなかった。つまり、今の所『ギャオスになってしまった』とは断言できないんです」
「ギャオスではない、何か……」
「ただ、彼が本当にイリスの――変異体の肉を食べて変異したのならば、ギャオスに近い生物になってしまった可能性は高いと思います」
「あくまでも可能性の話、と言う訳か」
「ええ……。目撃証言もなく、今のところ映像でしか確認出来ていない状況ですから。言ってしまえば映像に映っている物と現場に残っていた粘液の関連性だって不確かなままです」
「南明日香村も同じような物ですよ。目撃証言もなく、現場に残っていたビデオカメラだけが彼の存在を示唆している」
「なんだか幽霊みたいですね。ビデオカメラにしか映らないなんて」
「幽霊?」
「監視カメラにも映らない。目撃者も居ない。本当に実在するのかも曖昧な、亡霊みたいだなって」
「……」
斉藤は長峰の言葉を聞いて暫し黙り込み、突然「ファントム」と呟いた。
「ファントム?」
「名前ですよ。その生命体の。植田さん、と呼び続けるのは忍びないでしょう?」
「
「ファントムと言えば、空自の戦闘機に同じ名前の機体があってね。なかなか渋くて、好きなんですよ」
「……はぁ」
「……。そういえば、聞きましたか? 祠の話」
「祠?」
「社の沢にある祠が破壊されていたそうですよ」
「……えっ?」
長峰は思わず斉藤に聞き返した。
祠。
祠というと、イリスが生まれたあの洞窟の事だろうか。
「それって、社の沢にあるあの洞窟の事ですか?」
「いや、洞窟の外にある祠だよ」
「洞窟の外……」
「なんでも、十握剣とかいう神具が納められていたらしい。それが祠ごと破壊されたと」
「え……」
十握剣。その言葉に聞き覚えがあった。
五年前、京都駅で守部龍成が比良坂綾奈を助けるために使った「剣」。
代々守部家に伝わる神具のような物であると後日龍成が教えてくれた。
ガメラとイリスの戦いが終わった後、損壊していた剣は回収・修復され再び社の沢の祠へ納められたと聞いていたが、まさかそれが破壊されるなんて……。
「洞窟は? 変異体が封じられていたという洞窟は無事だったんですか?」
「うん。そっちは手つかずだったらしくてね。どうも最初から祠が目標だったらしい。件の大学生たちは祠を壊しに来た亡霊に鉢合わせたと、そういう事らしいんです」
「……」
「参りましたよ。まさかあんな画像が出回るなんて」
「タコ男」
「南明日香村の件は亀岡とは関係の無い事になっている。あの映像だって、表に出さないようテレビ局に要請している状態だというのに。もしも亀岡の映像が表に出たら」
「大変な事になりますよね?」
「……少なくとも肉を食べて変異したなどという事が明るみになれば混乱は免れない」
亀岡で撮られた映像には植田が「これはイリスの肉だ」と言っている場面も収録されている。
仮にディレクターを殺害したのが「ギャオスらしきもの」であると発表したとしても、その原因が「イリスの肉」であるということは隠し続けるつもりらしい。
「ギャオス肉について、どう思いますか?」
斉藤は長峰に問いかける。
「どうとは?」
「安全性とか……」
「……さあ。どうでしょう。植田さんの日記を読む限り、植田さんがイリスの肉を摂取し始めて変異したのは約一年後。ギャオス肉が流行り始めてもう数年は経っていますから、今まで同様の被害が出ていないことを考えるとイリスの肉よりは安全な気もしますが……」
「なるほど」
「もしかして、ギャオス肉を?」
「興味本位で少しね。ギャオスには散々悩まされましたから。その味がどんなものか気になって、つい……」
流石の斉藤も植田の件を知って不安になったらしい。
長峰の「安全」という言葉を聞いて安堵の表情を浮べた。
「私はどうにも気が進まなくて。あのギャオスを食べるなんて……。どうしても色々と思い出してしまうんです」
「そうでしょう。しかし、世間の人々にとっては案外そうでもないのかもしれませんよ」
「……」
「福岡、渋谷、木曽。言い方は悪いがギャオスの被害を受けたと言っても極めて局所的な物だ。遠く離れた場所に住んでいる大部分の人にとってはテレビの向こう側の生き物で、むしろ仙台を焼け野原にしたレギオンの方が印象に残っているかもしれない。だから存外、ギャオスを食べる事に抵抗が無いのかもしれません」
「そういうものでしょうか」
「我々は少し、怪獣と関わりすぎているのかもしれない」
「……」
「関わりすぎているが故に、一般的な感覚から乖離しているかもしれない。そう思いませんか?」
斎藤の問いかけに長峰はなんとも言えない顔をして苦笑した。