「ギャオスの煮つけ」の誕生と発展(完結) 作:ギャオスの煮付け
20●●年8月11日「ひるワイド!」
今朝、日本全国を衝撃的なニュースが襲った。あの「タコ人間」がK市の自宅から失踪していたU氏だというのだ。今朝発売された●●●●●●●●によると●●テレビディレクターO氏が撮影した映像が現場に残っており、そこにU氏がギャオスのような物に変異する様子が映っていたというのだ。
警察は二つの事件の関連性について「捜査中の事案につき回答出来ない」と答えているが、警察がギャオス肉による変異が発生した事実を隠蔽しているのではないかという声も上がっている。
紙面には腕から触手のような物が生えたU氏と思われる姿が掲載されており、ギャオス肉を食べたことによってギャオスに変異したU氏の姿に世間では動揺が広がっている。
(画面が切り替わり街頭インタビューのVTRが流れる)
――「タコ人間」が人間だったことについてどう思われますか?
「いや、怖いですよね。ギャオスの肉を食べてギャオスになっちゃったんでしょ? 私はギャオス肉を食べたことがないから良いけど、家内は大騒ぎですよ。私もギャオスになっちゃったらどうしよう! って。実際どうなんでしょうね。まぁ、そもそもギャオスを食べようとしたこと自体が間違いだったんじゃないですかね」(50代男性)
「信じられませんよ! 警察が隠してたってことでしょ? だって亀岡の事件がギャオスによるものだなんて一言も言ってないじゃないですか! あの時公開していれば奈良の事件だって起こらなかったかもしれないのに……。これは警察の責任問題なんじゃないですか?」(30代男性)
「私、結構ギャオス肉を食べてるんですけど……大丈夫ですかね? いや、体調が悪いとかそういうのは無いんですけどなんか不安になっちゃって。販売元の会社に問い合わせても電話は繋がらないし、今日これから病院に行こうかなって思ってるんです。一応検査して貰おうかなって思って……。とても不安です」(20代女性)
ギャオス肉を食べてギャオスになるという前代未聞の事態。「ギャオスの煮つけ」で知られるI食品には問い合わせが殺到し、現在ホームページや電話回線が繋がらない状態となっている。
都内の病院には「ギャオス肉を食べてしまったが大丈夫か」という問い合わせや検査を求めて訪れる人が殺到しており、パンク状態となっているようだ。
消防によると「ギャオス肉を食べた」という通報が100件以上発生しており、通常業務に支障が出ている為自制するよう求めている。
「ギャオス肉を食べてギャオスになるなんて聞いた事がありません」
●●大学准教授S氏は言う。
「ギャオス肉が市場に流通し始めてから3年ほど経過していますが、その間にギャオスになったという報告や異常が現れたという報告は一件も上がっていません。それに市場に流通しているということは食品販売における規格基準を満たしているということであり、『安全な食品』であると認められているということです。
I食品でも販売する際に検査を行っているでしょうし、U氏が口にしたのは一般的な『ギャオス肉』ではなく『ギャオスの変異体の肉』であることにも注意が必要です」
専門家によると一般的なギャオス肉の危険性は低いのではないかということだが――。
また、騒動の震源地となったK府K市では周辺住民から不安の声が上がっている。
「ギャオスだったんでしょ? まさかこんな近くに……。怖くて眠れません」
そう語るのはU氏の近所に住むという女性だ。
「ただでさえ殺人事件が起きてUさんが行方不明だって言ってピリピリしてるのに、Uさんがギャオスになった? もう訳が分かりません。確かに警察の人は沢山来ていましたけど……。別に誰かがギャオスを見たって訳でもないし、警察の人だってギャオスの話なんて一切していなかったんですよ。
知らない間にギャオスがウロウロしていただなんて怖すぎます! 夜にジョギングをする事も多いので、もし鉢合わせていたらと思うとゾッとしますよ。事実を隠していた警察には不信感しかありません」
U氏の自宅周辺には未だに規制線が張られており、近づく事は出来ない。
事情を尋ねた周辺住民に対し、警察はギャオスに関する注意喚起をする事はなかったという。
「Uさん、まだ見つかって無いんでしょう? 気の毒だけど、これ以上被害が出る前に早く見つけて退治して欲しいです。またここに戻ってきたらって思うと怖くて」
今朝の報道を受け、K市では住民に対して不要不急の外出を控えるよう呼び掛けている。
(VTRが終わり、画面がスタジオに切り替わる)
「詳細をおさらいしましょう。今朝、衝撃的なニュースが飛び込んできました。『●●●●●●●●』によると、Kで行方不明になっていたUさんがN県M村に出現した『タコ男』であると。Uさんが『タコ男』に変身する映像が送られてきたと、そういうことらしいんですね。
映像によるとUさんはガメラと……イリス? の肉を食べ、腕から触手のような物が生えたあとに●●テレビのディレクターをしていたOさんを殺害したと」
「これが本当ならとんでもないことですよ。●●テレビはこのことを知ってたんでしょ? 知っていて隠ぺいしてたってことじゃないですか」
「●●テレビによると、現在捜査中の事案なのでお答えできませんとの事でした」
「あり得ませんよ。こんな映像を隠していたなんて。ギャオスが出たことを隠していたんですよ? インタビューにもありましたけどね、もしもすぐに公開していたらM村の事件が起こらなかったかもしれない。被害を最小限に抑える事が出来たかもしれないんですよ。
それに周辺住民の方々だって、こんなに不安な思いをしなくて済んだかもしれない。どうしてもっと早く注意喚起しなかったの?」
「えー……、そうですね。しかし警察関係者によると、まだUさんがギャオスになったと断言する事は出来ないということなので」
「でも映像にはっきり写ってるじゃない! これ以上の証拠あるの?」
「うーん、良く分かりませんけれども、ともかく捜査中の事案だからということみたいですね」
「捜査中捜査中って。まだ足取りさえ掴めていないじゃないか!」
「そうですね……はい。自衛隊も投入して捜索しているようですが、まだ発見には至っていないようです」
「あのー……、ギャオス肉は本当に大丈夫なんですか?」
怒り狂う男性俳優の話を遮るように女性アイドルが不安そうに尋ねる。
「専門家の方によると、今のところ他に被害が出ていないことから今すぐにどうこうなるような物ではないのではないかと。VTRにもありましたが、どうやらU氏が食べていたのは『ギャオスの煮つけ』のような一般的なギャオス肉ではなく、五年前に京都に出現した『ギャオスの変異体』の肉のようなんです。よってその『変異体』の肉よりかは安全なのではないかと……」
「でも怖いですよね。実際にこういう事が起こると……。私も結構ギャオス肉が好きで、家にもストックがあるんですけど、本当に大丈夫なんでしょうか?」
「恐らくご自宅に缶詰や総菜がある方も多いと思いますが、まずは落ち着いて、安全が確認されるまで食べるのを控えて頂くというのが一番良いのではないでしょうか」
「大体ギャオスを食べるってのが間違いなんだよ。あんなものを食べて平気な訳ないだろ」
「でも美味しいですよ。癖になる味っていうか。ちょっと怖いけど、もし安全だって分かったらまた食べちゃうかも」
男性俳優は「何言ってんだあんた」と呆れた顔をした。
「だって、今更ギャオス肉が無い生活なんて考えられないもん!」
女性アイドルは無邪気にそう答える。
「もしかしたら危険かも~程度だったら、私は食べちゃうな」
「……」
「家に『ギャオスの煮つけ』10缶くらいストックしてるんです」
なんとも言えない雰囲気の中、画面はCMに切り替わった。