「ギャオスの煮つけ」の誕生と発展(完結)   作:ギャオスの煮付け

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高倉との会話

「大変なことになってしまいましたね」

 

 8月12日。高倉は電話越しに、まるで他人事のような口調で言った。

 

「大変どころじゃないでしょう? 世間はパニック状態なんですから」

 

 長峰は自室でパソコンのキーボードを叩きながら答える。

 

「まさかこんなに早く真実が明るみに出てしまうとは」

「いったいどこから?」

「さあ。新聞記事はぼかしていますが、●●テレビの社員が流出させたんじゃないかって専らの噂ですよ」

「身内の犯行ってことですか?」

「ええ。まぁ、映像を複製したものが●●テレビに保管されていたみたいなので、ほぼ間違いないでしょうね。今頃大変な騒ぎになっていると思いますよ」

「……そうでしょうね」

 

 植田の映像を「モーニングスポーツ」に売ったのは殺害されたO氏が所属していた●●テレビの社員である。それが高倉の見立てだった。

 警察が映像の流出について●●テレビに問い合わせたところ、「モーニングスポーツに渡った物は自社で保管していた映像と同じものである」との回答が返って来たのである。

 そもそも、あの映像が納められたカメラは未だ証拠品として亀岡警察署に保管されている。

 なぜあの映像を●●テレビが保管していたのか。

 

「おそらく、あの映像を●●テレビの社員に見せたときに隠し撮りでもしていたんでしょう」

「見せたんですか?」

「念のため、確認でね」

「なるほど」

「だから紙面に載っていた写真は少し粗いんです。ビデオカメラの画面を別のカメラで直撮りしたものを、さらに引き延ばしているんでね。だからうちで保管しているオリジナルではないと分かったんですよ。

 最初はしらを切っていましたが、そのことを指摘すると黙りましたよ」

「隠し撮りしていたって認めたんですか?」

「うちの社員が撮ったものだから、とかなんとか」

「はぁ」

「まぁ、こうなってしまったら今更そんなことを責めても仕方ないでしょう。もう誰もが知る所となってしまったんですから」

 

 高倉は短くため息をついた。

 

「うちにも早速クレームの電話が殺到していて、仕事にならない状況です」

「そうなんですか?」

「まぁ……植田さんのことを隠していましたからね。仕方ないですよ。そういった批判は甘んじて受け入れるつもりです」

 

 亀岡警察署には地元住民からのクレームが殺到していた。

 ●●テレビディレクターのO氏を殺したのは植田氏であり、植田氏は逃亡している。

 その情報自体は間違いではない。実際、O氏を殺害したのは植田氏であり、彼はその場から立ち去り行方不明になっていたからだ。

 ただ、問題なのはその植田氏がギャオスと思われるものに変異していたということ。

 それを地域住民に明かさなかったことだった。

 11日の朝、ニュースを見た近隣住民は驚いた。テレビに映っているのは良く見知った顔。

 つい二週間ほど前までそこに住んでいた青年が、得体の知れない物体に変異していく様がセンセーショナルに報道されてたのだ。

 この家の近くにギャオスが!?

 集落は瞬く間にパニック状態に陥った。

 住民たちはまだ規制線が解かれていない植田邸に押しかけ、そこを警備していた警察官に詰め寄った。

 

『なぜ黙っていたんだ』『隠していたのか』『俺たちに何かあったらどうするつもりだ!』

 

 そう口々に叫ぶ住民たちに対し、現場の警察官はただただ「まだギャオスになってしまったとは言い切れないので」と弁解するしかなかったのだ。

 状況的に、植田氏がイリスのような何かになってしまったのは間違いない。

 しかしながら人間がギャオスへと変化するという前代未聞の事態に加えて、映像と謎の粘液しか証拠となりえるものがない。

 故に、警察は「植田氏がギャオスになってしまった」と断言することが出来ずにいたのだ。

 

「奈良の件がありましたし、もうここら辺にはおらんのだと言って説得したようです」

「……お疲れ様です」

「にしても、今度はギャオス肉ですか」

 

 高倉はテレビに映るニュースを眺めながら言う。

 

「実際、どうなんです? あれに危険性はあるのでしょうか?」

「分かりません。ただ、遺伝子解析をした知り合いがいて……彼によると、『ギャオスの煮つけ』を食べても特に異常が起こるといったようなことはないみたいなんです」

「おお、そうでしたか。では、一応安全ではあると」

「いかんせんサンプルが少ないので断言はできませんが、やはりイリスの肉よりは安全と言えるかもしれません」

「となると、二次被害が出る可能性は低い」

「……と思います」

 

 亡霊騒ぎだけでも大変だというのに、これ以上「ギャオス人間」が増えたら困る。

 

「よかった。それを聞けただけでもありがたい。いや、これ以上何か起こったらどうしようかと」

「ニュースで見ました。いろんな所に人が殺到していて大変なことになっているって」

「ええ。110番もパンク状態でね。ギャオスの肉を食べただの、煮つけを食べて体調がおかしくなった気がするだの。あそこの店はギャオスの肉を出しているなんていう密告まである始末です」

「え?」

「過剰反応というか、なんというか。事件が解決するまではこんな感じでしょうね」

「早く解決すると良いのですが……」

 

 連日自衛隊による山狩りや空からの捜索が行われているが、未だに亡霊の行方は掴めていない。

 祠を破壊し、姿を消したままだ。

 事態を収拾するには事件を解決したのち、ギャオスの肉の安全性を再度確認するしかない。

 

「ああ、そういえば長峰さんに話そうと思っていたことがあったんでした」

 

 電話口で高倉は何かを思い出したように言った。

 

「話そうと思っていたこと? 何ですか?」

「いや、植田さんのお宅にガメラの肉があったでしょう?」

「ガメラの肉」

 

 長峰は例の映像を思い浮かべた。

 O氏が撮影した映像。ホットプレートの上に並べられた肉。

 確か最初に焼かれていたのが「ガメラの肉」だ。

 

「……ガメラの肉なんてあったかしら」

 

 そこまで思い出して長峰はふと呟いた。

 現場検証で尋ねた植田の家にガメラの肉などあっただろうか。

 あの家の冷蔵庫にあったのはたしか……。

 

()()()()映っていたでしょう?」

「ということは」

「なくなっていたんです」

 

 高倉は言う。

 

「あの家の冷蔵庫にはイリスの肉しか入っていなかった。もしかしたらすでに食べきっていたのかもしれないし、気にしすぎかもしれませんが一応お伝えしておこうと思いまして」

「……ありがとうございます」

 

 消えたガメラの肉。

 タコ人間。

 心の中にもやもやとした不安のようなものを感じる。

 

「では、また何かありましたらご連絡させていただきます」

「わざわざありがとうございました」

 

 電話を切った長峰は大きく伸びをして「ふう」とため息を吐いた。

 ギャオスが現れてから、日本はおかしくなってしまった。

 十年くらい前まではギャオスもガメラもいない平和な世界だったのに、一体なぜこんなことになってしまったのか。

 もしかしたら一生このままなのかも。そんな気さえしてくる。

 

「ん?」

 

 ピコンとパソコンの画面にメールの受信通知が表示された。

 メールソフトをクリックした長峰の手が止まる。

 

【差出人】比良坂綾奈

【送信日時】2004年8月12日 10:35

【宛先】[email protected]

【件名】ニュースのこと

 

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