「ギャオスの煮つけ」の誕生と発展(完結)   作:ギャオスの煮付け

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●●との戦い

「み、見えますでしょうか! 神戸の町中でガメラと――何か巨大な怪獣が相対しています! 現在神戸市街地には避難命令が出ており、これ以上近付く事は出来ません!」

 

 上空を報道ヘリが飛ぶ中、ガメラとファントムは互いに睨み合っていた。

 赤い四肢に銀色の甲冑を纏ったような、邪神の面影あふるる姿にガメラは短く咆哮をあげる。

 亡霊に近づこうと歩みを進めるガメラを、ファントムは6本の触手でけん制した。

 イリスの物とは違う、二又ではなく()()を思わせる四又の突起物が付いた赤い触手だ。

 それを鞭のように激しく叩きつけてガメラが近づけないようにしている。

 時折その先端をガメラの体に突き立てようとするが、固い甲羅に阻まれて上手く行かない。

 不意にガメラの口元が赤く光る。火球だ。

 ガメラは触手を振り払いながら口から火球を吐き、ファントムに投げつけた。

 

「あっ!」

 

 投げつけられた火球はいとも容易く触手によって弾かれる。

 少し離れた場所に着弾した火球は市街地を焼き払い、その爆発を目にした長峰は思わず声をあげた。

 

「ファントムはガメラを近づかせないつもりです」

 

 戦いを見ていた綾奈が言う。

 ファントムはガメラから距離を取っていた。触手のリーチを上手く活かした立ち回りをしている。

 

「イリスがどうやって負けたか知ってるんだわ」

「な、なんでそんなこと……」

「記憶よ。やっぱりファントムは植田さんの記憶を持ってるのよ。だからガメラには近づかない。イリスがガメラに貫かれて死んだことを知っているんだわ。あの技を受けないために、距離を取ってる」

「火球も効かない、接近戦も出来ない。一体どうすりゃ良かばい!」

「……」

 

 綾奈はガメラの姿をただ黙って見つめていた。

 ファントムに近づく事が出来ず、一方的に触手の攻撃を受けるガメラを見守る事しか出来ない。

 ガメラは触手の攻撃をかわすため、ジェットを噴射し飛行形態へと移った。

 迫りくる触手を吹き飛ばし、そのまま上空へ飛び上がるや否や体を回転させて光の輪を作る。

 そのまま肉体を切り裂かんばかりの勢いで亡霊へと突撃したが、ファントムは差し迫る危機を察したのか身体を捻って光の刃をかわすと触手の先端から超音波メスを発射してガメラを攻撃する。

 回転を止めて飛行モードに入ったガメラにメスをかわされるとファントムは暫し思考したのち、六つの触手を一つに合わせた。

 

「何をするつもり……?」

 

 合わさった触手の先端から、ひと際眩しい光が放たれる。

 その眩しさに長峰達が目を細めた瞬間、光は収束し、より強い輝きとなってガメラを撃ち抜いた。

 

「ガメラ!」

 

 綾奈の口から悲鳴にも似た声が漏れる。

 ガメラは白い煙を上げながら市街地に墜落する。大きな地響きしたあと、落下地点と思われる場所には土煙が立ち上った。

 

「なんなのあれ、反則だわ!」

 

 長峰はファントムを見つめながら叫ぶ。

 六本の超音波メスを一本に収束させる。それによってより高出力な技を繰り出す事が出来るのだ。

 

「ガメラが……」

 

 ガメラは無事だった。いや、無事とまでは言えないかもしれないが、息はあった。

 穴が開いて傷ついた体を引きずるように起こしながら、体の内から燃え上がる炎を吐き出す。

 

 キュオン!

 

 その炎を見たファントムは短く嘶くと触手の先端をまるで盾でも作るかのように円形に掲げた。

 火球がそこに到達した時、触手によって受け止められた火球は輪のような形に変形し、触手の先端に吸収される。

 そしてその熱によって熱された先端部は高温で熱された鉄のように黄色く変色し、周囲の空気が焼かれて蜃気楼のように揺らめいた。

 

 キィイイン!

 

 六つの赤い鏃が発光し、周囲一帯に超音波のような耳を塞ぎたくなるような音が響く。

 嫌な予感がする。

 

「ガメラ……逃げて!」

 

 咄嗟に綾奈が叫んだ瞬間、六本の触手はガメラに向かって勢いよく射出されその身を貫いた。

 今まで触手を弾いて来た甲羅も炎によって熱された触手には敵わなかったようだ。

 

「炎を吸収するなんて……どうして……!」

 

 目の前で起こった惨劇を前に長峰は驚きの色を隠せない。

 炎を吸収するのはガメラの特性のはず。それをどうしてファントムが?

 

『なくなっていたんです』

 

 ふと、高倉の言葉が頭を過ぎる。

 

『あの家の冷蔵庫にはイリスの肉しか入っていなかった。もしかしたらすでに食べきっていたのかもしれないし、気にしすぎかもしれませんが一応お伝えしておこうと思いまして』

 

「ガメラの肉……」

 

 そういえば、植田はガメラの肉を食べていた。

 そして、植田の家からはガメラの肉が消失していた。

 もしもファントムがガメラの肉を摂取していたのだとしたら……。

 イリスはガメラの「炎を吸収して力とする」特性の前に敗れた。

 それを知らなかったから、ガメラに対してガメラの技である火球を撃ち、逆に技に利用されて負けた。

 植田はそのことを知っていた。彼はあの時、あの場所にいたのだ。

 それに……。

 

「私が、本に書いたから……」

 

 あの時の出来事を、長峰は本に書いていた。

 ギャオスの進化。変異体の進化の事。イリスがガメラの体液を吸収し、ガメラの技を疑似的に使えるようになったこと。それを逆手に取ったガメラに倒された事。

 植田は長峰の本を読んでいた。

 もしもファントムが植田の記憶を持っているならば、ファントムにガメラの切り札を教えたのは――。

 

 六本の触手に貫かれ、力なくぐったりとしたまま持ち上げられるガメラを眺めながら長峰は言葉を失っていた。

 

「私が、私が本に書いたから……」

 

 目の前で起こる悪夢のような光景に頭が真っ白になる。

 

「ファントムの様子が」

 

 ガメラを仕留めたファントムの腹部が光る。

 その挙動に綾奈は思わず身震いした。

 あの時と同じだ。

 

「ファントムはガメラを取り込もうとしている」

 

 ゆっくりと開いていく腹部に見覚えがあった。

 京都駅で綾奈を取り込もうとしたように、今度はガメラを取り込もうとしている。

 いや、神経系統の融合を図ろうとしている……とでも言えば良いのか。

 ファントムの目的はこれだったのだ。

 宿敵であるガメラと融合し一体化することによって更なる進化を目指す。

 ガメラの一部を取り込むことにより新たな能力を得られる事は既に実証済みだ。

 一部だけでは足りない。全てが欲しい。

 その強欲さが、ガメラの全てを愛する植田と共鳴したのかもしれない。

 

「ま、まずい……! こんままでは世界が終わる!」

 

 大迫の悲痛な叫びも虚しく、ガメラはゆっくりとファントムの方へと引き寄せられていく。

 

「ガメラ……」

 

 力なく機能停止したガメラを見て、綾奈はちくりと胸の痛みを覚えた。

 

『綾奈さん、あなたはあの日、京都駅で一度死んだの』

 

 病院に見舞いに来た草薙浅黄の言葉がふと頭の中に蘇る。

 

『それをガメラが助けてくれたの。()()()()をくれた。だから、生きて。ガメラのためにも、生きて』

 

 ガメラは自分を生かしてくれた。

 イリスを育て、多くの人の命を奪った自分に「生きろ」と言ってくれた。

 それなのに、どうして遠くから見ている事しか出来ないんだろう。

 私は、私は――。

 

 その時、綾奈の胸の辺りに微かな光が生まれた。

 その光はどんどん膨れ上がりやがて綾奈の体全体を包み込む。 

 

「これは――記憶?」

 

 真っ白な光の中、綾奈は夢を見ていた。

 真っ暗な海底から浮かび上がり、空に飛び立ったと思えば景色は大きなドームの前に代わり、中にある籠のようなものを見つめている。

 昼間の街並み。空から町を見下ろし、前方を飛行するギャオスを追いかけて――。

 

「ああ、これはガメラの記憶だ」

 

 そう思った。

 この時に、両親は、イリスは――。

 

 視界が切り替わり、夜の街。目の前に大きな花のような物が現れる。

 それを破壊したかと思うと黒い何かに視界が覆われ、何かが体を這うような不快感に綾奈は思わず顔をしかめた。

 その後に感じた大きな衝撃。突然真っ暗闇になり、何も見えなくなる。

 身体が凍り付いたように冷たくなって動かない。寒い。怖い。

 世界が失われて急に一人ぼっちになってしまったような恐怖を感じた。

 

「……光?」

 

 そんな暗闇の中に、チカチカと光る小さな光の粒が現れる。

 とても小さくて、今にも消えてしまいそうな……とても暖かい光。

 その光に手を伸ばすとなんだかとても安心して、温かい気持ちになる。

 光は次第に数を増やし、体中が温かなものに包まれた瞬間、視界が弾けて暗い夜の空へと弾きだされた。

 

「空を飛んでる」

 

 大きな月だ。

 雲の上の、ずっと高い所を飛んでいる。目の前には――。

 

「イリス!」

 

 叫んでも声は届かない。これは記憶だ。ガメラの、記憶。

 燃え盛る京都の街。崩れかけた京都駅で、眼下に長峰と草薙がいて。

 イリスの腹からガメラが取り出した赤いもの。あれは……。

 

「ガメラ……」

 

 綾奈はぽつりと呟いた。

 イリスに取り込まれ、目まぐるしく変わる悪夢の中必死に助けを求めた。

 助けて……誰か、助けて……。

 その声に応えて綾奈を暗闇から引き上げてくれたのは、ガメラだった。

 苦しくて、ぐちゃぐちゃになって。必死に助けを求めた手を掴んで引き戻してくれた眩い光。

 目覚める直前、温かな光を感じた。

 冷たい暗闇の中で感じた、温かな光。

 さっき見た光と同じ、触れると温かくて安心する光。

 そうか、あれは――。

 

 ずっと考えていた。どうしてガメラは自分を救ったのだろうと。

 大勢の人の命を奪い、ガメラを傷つけた。それなのに、ガメラは自分を救い、命までも分け与えた。

 その優しさが辛かった。

 何度も悪夢を見る度に罪悪感に苛まれ、あの時何故死なせてくれなかったのかと思う日もあった。

 何故ガメラは私を救ったのか。何故……。

 

『綾奈さん、あなた京都駅で一度死んだのよ。それをガメラが助けてくれたの。新しい命をくれた。だから、生きて。ガメラのためにも、生きて』

 

 新しい命。

 一度死んだからと言って、自らの罪が雪がれるとは思っていない。

 それでも、あなたが「生きていて良いのだ」と言ってくれるなら。

 生きなければならない。イリスが殺めてしまった人達のためにも、ガメラの為にも、私は――。

 

「ガメラ……死なないで」

 

 綾奈は白い光の中、心から願った。

 

「ガメラ、生きて!」

 

 その刹那、体を包み込んでいた白い光が弾け飛ぶ。

 急激な脱力感に襲われ、綾奈はその場に倒れ込んだ。

 溢れ出た光の粒は一筋の光となりガメラの身体へと戻って行く。

 全ての光が吸収された瞬間、ガメラの傷口から僅かに白い炎が漏れた。

 

「綾奈さん、大丈夫!?」

 

 駆け寄った長峰に支えられながら、綾奈はガメラを見つめる。

 

「ガメラ……」

 

 ファントムはガメラの異常を察してより早く自分の元へ引き寄せようとするも、突然飛んできたミサイルによって肩と頭を撃ち抜かれて大きくのけぞった。

 

F-4戦闘機(ファントム)!」

 

 頭上を通過する二つの機影を見た大迫が声を上げる。

 ガメラを追尾していた空自の戦闘機だ。

 

『ガメラは生きている。時間を稼ぐぞ。ガメラを援護しろ!』

 

 ガメラの身体から炎が漏れているのを確認したパイロットが叫ぶ。

 ファントムには上空を飛び交う戦闘機の攻撃を防ぐ手段がない。六本ある触手を全てガメラに撃ち込んでいるからだ。

 仕方なく二本の触手を引き抜くと戦闘機に向かって超音波メスを放つ。

 戦闘機はファントムの攻撃を華麗にかわしながらも再びミサイルをファントムの体に撃ちこむと、機銃掃射をしながら強引に側面を通り抜けた。

 顔に弾を受けたファントムは鬱陶しそうに触手で戦闘機を追い払う。

 僅かばかりだが、その注意がガメラから逸れたその瞬間、大きな音と地響きがしたかと思うとガメラの背後に何かが落ちた。

 ガメラの甲羅を貫いていたファントムの触手の先端が焼け落ちたのだ。

 傷口から漏れだす白い炎はファントムの触手を侵食していた。

 焼け落ちた触手は炭となって消える。どうやら赤い炎と異なり体内に吸収できないようだ。

 触手の拘束を逃れたガメラは再び自らの足で地面に降り立った。

 痛々しい姿なれど、空高く吼えると闘志に燃えた瞳で動揺する亡霊を射抜く。

 六本の内四本の触手を失ったファントムは慌てて戦闘機を攻撃していた二本をガメラに向けた。

 二本の触手を合わせて超音波メスを発しようとしたその刹那、閃光が走ったかと思うとガメラはファントムに向けて白銀の火球を撃ちつけた。

 

 キュオォオン!

 

 ファントムは炎を吸収しようと触手を掲げるも、触手は瞬く間に焼き切れ弾く事すら出来ない。

 ガメラは大きく嘶くと再度大きな火球をファントムに向けて射出し、太陽の如く眩い白銀の火球は亡霊の影を跡形もなく消し去った。




次話、最終回です。
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