「ギャオスの煮つけ」の誕生と発展(完結) 作:ギャオスの煮付け
「いやぁ~、良かったですね。無事に解決して」
二週間後。長峰は東京にいた。
亀岡に端を発したギャオスの変異体に纏わる事象――通称「亡霊事件」についての報告会議に出席し、その帰り道に桜井と一杯飲もうという話になったのだ。
「無事じゃないわよ。神戸にもあれだけ被害が出たんだから。それに、植田さんだって」
神戸市街はガメラとファントムの戦闘により甚大な被害を受けた。
イリスとの戦闘と同じく、火球が市街地に落下したのが大きい。
とはいえ、火災以外の被害は比較的少なく街は落ち着きを取り戻しつつあった。
植田はファントムと同化したまま、塵となって消えた。
大好きなガメラに倒されたのだ。植田も本望だろう。
「植田さん、ガメラが好きすぎたんですかねぇ」
桜井がしんみりとした様子で言う。
「もしも植田さんがガメラマニアじゃなかったら、ファントムにはならなかったと思う?」
「どうでしょう。……まぁ、ガメラマニアじゃなかったらそもそもイリスを食べようだなんて思わないでしょう」
「それもそうね」
「愛と憎しみは表裏一体って言いますからね。元々相性が良かったんじゃないですか」
「なにそれ。変な事言わないでよ」
「だって、比良坂さんも言ってたんでしょ? 植田さんは自分と
「……それは、そうだけど」
比良坂綾奈の仮説は、正しかったのかもしれない。
ガメラを追いかけるために転職し、命を危険に晒してまで京都駅でガメラを撮影し続けた執念。
愛情と呼ぶにはいささか強すぎる情念のような物がイリスと共鳴し、イリスの肉と融合するという奇跡を齎した。
人間がギャオスに変異するという、前代未聞の事態。
世界中に衝撃を与えたそれを「たった一度だけ起こった奇跡」として片付けて良い物なのだろうか。
「でも、それなら今後同じようなことが起こる心配はないってことでしょ?」
「どうしてそう言い切れるの?」
「植田さん以上にガメラを愛している人なんて早々いないでしょ」
「……まぁね。イリスの肉は処分したし、ファントムの肉は消失したから大丈夫だとは思うけど」
ファントムは塵と化した。
ガメラの炎に焼き尽くされ、跡形もなく消え去ったのだ。
故に、今後その場から肉が持ち去られる心配も無いし、それを食べる事は叶わない。
「そういえば、比良坂さん、大丈夫だったんですか? なんか光がどうとか言ってましたけど」
「ええ。あの後病院で検査を受けたけど異常はないって。それにしても、なんだったのかしら」
「光、ねぇ」
「草薙さん曰く、祈りの力だって言ってたけど」
後日、長峰から話を聞いた草薙浅黄は電話越しにこう答えた。
『長峰さん、それはきっと祈りの力です。仙台でガメラが復活した時のことを覚えていますか? あの時、私達はガメラを信じて祈った。それにガメラは応えてくれたんです。きっと綾奈さんはガメラを救いたいと、ガメラを信じようと思ったんです。その祈りが届いて、ガメラがそれに応えた。私はそう思います』
「祈りの力ですか。なんだかオカルトみたいな話ですけど」
「そんなことを言ったら古代人がどうとか、マナがどうとか。ガメラやギャオスの存在だってオカルトみたいなものじゃない」
「それはそうですけど。そもそも肝心の比良坂さんはその光について何て言ってるんですか?」
「
全てが終わった後、天高く咆哮をするガメラを綾奈は眩しそうに眺めていた。
『私がガメラに貰った物を、返しただけなんです。ガメラが私に生きてと言ってくれたように、私もガメラに生きて欲しいって思った』
そう言う綾奈の顔は少し晴れやかだった。
「貰ったもの……。確か比良坂さんは一度命を落として、ガメラがそれを蘇生したんですよね?」
「ええ、そうだけど」
「その時になにかガメラの力みたいなものが、比良坂さんに宿ったんじゃないですか?」
「ガメラの力?」
「例えばそう――マナとか」
「マナ……」
『万物に宿る超自然的な力の事を、マナと呼ぶんです』
五年前、草薙に言われた言葉を思い出す。
「比良坂さんに宿ったガメラのマナ……もしかしてファントムはそれを感知して、神戸に?」
植田は綾奈のことを知らない。
だから何故ファントムが綾奈を狙ったのか分からなかったのだ。
もしもファントムが綾奈ではなく綾奈に宿ったガメラのマナを捕捉して神戸にやってきたのだとしたら、ガメラを求めるファントムの行動原理とも一致する。
「あの時ファントムは綾奈さんを殺そうとしたんじゃなくて、綾奈さんに宿ったガメラの力を取り込もうとしたんだわ」
もしもガメラの到着が一瞬でも遅れていたら、ファントムは綾奈に宿ったガメラの力を体内に取り込んでいただろう。
綾奈は命を落とし、祈りの力がガメラへと還元されることも無かった。
そうなればガメラに打つ手はない。
ギリギリだった。ほんの少しでも歯車が狂っていたら、今頃どんな状況になっていたか。想像するだけでもぞっとする。
「お待たせしました! ギャオスの肝焼きです!」
威勢の良い店員が桜井の元に何やら茶色い物体が載った皿を運んできた。
「よくこんな状況でまたギャオスなんて食べようと思えるわね」
「え? だって美味しいですし。安全ですし?」
「信じられない」
皿に載ったモノを見ながら長峰は顔をしかめた。
ファントムが倒れて亀岡の事件が解決したのち、I食品は「ギャオスの煮つけ」の検査結果を発表した。国立遺伝子研究所に依頼し、改めて安全性の検査を実施したのだ。
その結果、ギャオスの肉にはイリスの肉にあるような危険性はなく、
あれだけのことがあったにも関わらず「自己責任」の名の下でギャオス肉の提供が再開され、相変わらず多くの人が舌鼓を打っている。
「日本人ってこういうの好きじゃないですか。フグとか牡蠣とか鳥刺しとか。ギャオスの肉もそれと一緒ですよ。ほら、長峰さんもどうですか?」
「絶対に……嫌!!!」
ギャオスの肉が食用化されて約五年――。
数多の苦難を乗り越えて「ギャオスの煮つけ」は未だ、国民に愛されるロングセラー商品として輝き続けている。
「ギャオスの煮つけ」を生産し、一時は販売休止にまで追い込まれたI食品のI社長は語る。
「あれだけのことがあったのに、未だに多くのお客様にご愛顧頂いて……。何と言葉にして良い物か、この恩をどう返せばよいものかと寝ても覚めてもそればかり考えてしまってね。
あの事件以降苦情も返品も山ほど届いたけど、それと同じ位沢山の応援メッセージが届いてさ。もう涙が止まらなかったよ……。
言っちゃ悪いけど、正直最初は『こんなの売れるはずがない』って思ってたんだ。ギャオスの肉だなんて気味悪いだろ?
それでもうちの社員が一生懸命開発して、だんだんとお客様にも喜んでもらえるようになって、今や疑いようもない。うちの看板商品だ。
勿論、苦しい事も沢山あったけど……『ギャオスの煮つけ』は我が社の誇りだよ。
どうしたら応援してくれたお客様に恩を返せるのか考えた時に、私達に出来るのはこれからも絶えることなくお客様に『ギャオスの煮つけ』を届け続ける事だって思ったんだ。今後ともお客様のご期待に応えられるよう、誠心誠意『ギャオスの煮つけ』を作り続ける所存です」
ギャオスが発見されてから九年――。
これからもギャオスは日本人がこよなく愛する「国民食」として広く語り継がれていくことだろう。
(完)
『「ギャオスの煮つけ」の誕生と発展』はこれにて完結です。
ここまで読んで下さりありがとうございました。
最後まで書き切る事が出来たのは読んで下さった皆様、応援して下さった皆様のお陰です。本当にありがとうございました。
事前告知していた感想返信コーナーですが、本文に書いてしまうとハーメルンの規約に触れてしまいそうなので活動報告に枠を作ることにしました。
ご興味がございましたら以下のページからご覧頂ければ幸いです。
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感想返信コーナー
(1月10日投稿しました)
改めまして、最後まで読んで頂きありがとうございました。
皆様良いお年をお迎えください!