「ギャオスの煮つけ」の誕生と発展(完結)   作:ギャオスの煮付け

2 / 19
ソルジャーレギオンを食べようとした男

 皆さんは「レギオン」をご存じだろうか。

 今から●年前、1997年に札幌で発生した地下鉄事故。多数の死傷者を出したこの事故の映像をニュースでご覧になった方も多いのではないだろうか。

 また、同月に起こった仙台での大爆発。そして自衛隊による巨大生物迎撃作戦。

 これらは全て「レギオン(政府発表)」という地球外生命体と、それと共生する「草体」と呼ばれる植物のようなモノが原因であるとされている。

 ギャオスが去ってまた一難。

 相次ぐ巨大生物の襲来に恐怖を覚えた方々も多かっただろう。

 

 そんな「レギオン」を食べようとした男がいる。

 

 にわかには信じ難い噂を聞いたのはつい先日のことだった。

 「ギャオスの煮つけ」特集を見た視聴者から、「近所にこんな人物がいる」と情報が寄せられたのだ。

 

 レギオンを食べる……?

 

 本当にあの地球外生命体を食べようとした男がいるのか。その謎を探るため、我々は和歌山県某市に向かった。

 

 

 風光明媚な漁師町。

 少し小高い丘の上にその男の家はある。

 年季の入った日本家屋のチャイムを押すと、人の好さそうな男性が出迎えてくれた。

 

「遠くからわざわざお越しいただきありがとうございます」

 

 男性はそう言って我々に頭を下げる。

 どこにでもいそうな至って普通の中年男性に見えるが、本当に彼が「レギオン」を食べようとした男なのだろか?

 

――あの、レギオンを食べようとしたって本当ですか?

 

 居ても立っても居られず単刀直入に聞くと、男性はにこりと笑って「そうです」と答える。

 

「実際に見てもらった方が良いでしょう。どうぞ中へお入りください」

 

 実際に見てもらった方が良い。

 一体この家の中では何が待ち構えているのだろうか。

 微かな恐怖を感じながらも促されるままに家の中へ入る。

 

「レギオンと言っても、あの白くてデカイやつを食べようとしたわけじゃないですよ」

 

 リビングには大小様々なレギオンフィギュアが飾られていた。

 その脇にひときわ目立つ「足」がある。

 

「私が食べようとしたのはいわゆる『ソルジャーレギオン』と呼ばれているものです」

 

――ソルジャーレギオン?

 

「群体の方、と言った方が良いでしょうか。ほら、テレビで良く特集されていた、黒くてうじゃうじゃしているやつです」

 

――地下鉄で発見された……

 

「ああ、そうそう。それです。地下鉄を襲って大変なことになっていた。現地の住民が撮影した写真なんかがテレビで流れていて」

 

――そんなこともありましたね。

 

「それで、ニュースでソルジャーレギオンの写真を見たときに思ったんです。蟹みたいだなぁって」

 

――……は? え? かに? かにってあのカニですか?

 

「そうです。蟹に似ていませんか?」

 

――……えぇ?

 

 困惑する私たちをよそに男性は生き生きとした様子で語る。

 

「それで、送信所まで行ったんですよ」

 

――はい?

 

「ほら、送信所を小さいレギオンの群れが襲って駆除された話、ニュースであったでしょ? あれを見て現地に行ったんです」

 

――え、行ってどうしたんですか?

 

「足を一本貰ってきました」

 

――……。

 

 そう誇らしげに語る男性の背後に鎮座する「謎の物体」。

 まさかそれがソルジャーレギオンの足だとでも言うのだろうか。

 

「監視の目をかいくぐって作業をしなければならなかったので一本しか持ち帰れませんでしたが、これだけ大きければ十分かなって。どうせ処分してしまうのですから、足の一本や二本貰っても構わないでしょう」

 

――えぇ……。

 

「それで、持ち帰って調理したんです」

 

 男性は「足」を持ち上げると裏返して見せた。

 「足」の裏面にはカニの足を食べるときのような切込みが入っている。どうやら一度殻を割って中身を取り出し、再び元の形に修復したようだ。

 

「大変でしたよ。蟹よりもずっと硬いんです。ノコギリやドリルなんかを使ってようやく身を取り出すことが出来ましてね。中身はやはり蟹の身のような透明感のある身で、これは旨そうだぞと思ったんです。でも、ダメでした。食えたもんじゃない」

 

――というと?

 

「ゴムを食べているようだと言えば良いのでしょうか。焼いて食べようとしたらまず臭い。科学薬品を燃やしたような臭いがするんです。身も縮んで硬くなってしまい、まるで焼いたゴムを食べているような……。あっ、私、ゴムも食べたことがあるんですが。そんな感じで美味しくなくて。

 流石にがっかりしましたね。あれだけ苦労して採りに行ったのにこの味かと。見たときは絶対に美味しいだろうと思ったんですけど……」

 

 言葉を失う私たちなど気にも留めずに男性はニコニコと笑いながら話し続ける。

 

「もしかしたら大きい方なら味が違ったのかもしれないな。でも、大きい方はガメラに破壊されてしまいましたからね。採りに行こうとも思ったのですが、流石に近づけませんでした。

 ああそうだ。ガメラと言えば、仙台で丸焼きになったでしょう? 実はあの時にガメラを採りに行こうと思っていたんです」

 

――……は?

 

「あの時ちょうど仙台に住んでいて、ガメラを食べるチャンスだったんですよね。でも、なんか近くでキャンプしてる人たち? みたいなのに止められて近づけなかったんですよ。

 結局そのあとガメラが生き返っちゃって、千載一遇のチャンスを逃してしまったんです。

 そうそう、それに加えてあの時は花粉症が酷くて参りましたよ。草体? でしたっけ?  あの大きい花みたいなやつ。あれが爆発してから毎日くしゃみと鼻水が止まらなくて。

 爆発で花粉みたいなものがばら撒かれたのかななんて勝手に思っているのですが、まぁ草体アレルギーだとしてももう再発することは無さそうなので良いかなと……」

 

 ガメラを食べる。

 その突飛な発想に我々は唖然とするしかなかった。

 一体どうしたらテレビに映ったガメラの死体(と当時は思われていたもの)を見て「美味しそう」という発想が出てくるのか。

 

 そこまで考えてふと我に返る。

 

 「ギャオス肉」をこよなく愛する我々も、この男と何も変わらないのではないか? と。

 

 ギャオス、レギオン、ガメラ。

 ギャオスは良くてレギオンやガメラはダメ。それはあまりにも自分に都合の良い考えなのではなかろうか。

 当時の人々から見たらこのレギオンを食べようとした男性も、ギャオスを食べる我々も、同じ種類の人間にしか見えないのではなかろうか。

 

「ギャオス肉、食べたことはありますか?」

 

 そんな考えを見透かしたように男性は言う。

 

「やはりギャオスは親しみがありますよね。肉を食べる肉食動物なんですから。ギャオスは地球の生き物の一種に過ぎない。サメやなんかと同じようなもんですよ。だから美味しいんです。ですが、レギオンはダメですね。後から知ったのですが、あれはシリコンを食べるんでしょう? そんなの美味しいわけがない。

 我々だって肉は食べるけどシリコンは食べませんよね。そう考えるとレギオンが不味いのは当たり前なんです。最初からそれが分かっていれば、レギオンを食べようだなんて思わなかったかもしれません」

 

――レギオンを食べようとしたことを後悔していますか?

 

 私が尋ねると男性は首を横に振った。

 

「いえ。後悔はしていません。だってもしもレギオンが美味しかったら勿体ないでしょう? 口に入れて初めて不味いと分かった。それでよいのです。食べなかったら食べなかったできっと後悔していたと思いますよ。

 ギャオスと違ってもうレギオンを食べる機会もないですし、挑戦してよかったと思っています」

 

――……そうですか。お話頂きありがとうございました。

 

 インタビューを終え、男性に礼を言うと我々は帰路についた。

 帰りの車内、車を運転している後輩が青白い顔をしているのに気が付いて「どうしたんだ?」と声をかける。

 

「あの人、なんか怖くありませんでしたか?」

「まぁ……なんというか、変わった人だったよね」

「……見ました?」

「何を?」

「帰る時に少し扉が開いていて、彼の寝室が見えたんです。壁一面にこう、ソルジャーレギオンの拡大写真がぶわーっと……。大量の目玉がこう、こっちを見てるんですよ。あんな中で寝るなんて、ちょっと……想像できないというか」

 

 その状況を想像して、背筋にひやりとしたものを感じた。

 ソルジャーレギオンを食べる。

 一体何が彼をそこまで駆り立てたのだろうか。

 もう二度と食べる事が出来ない珍味を食べようとした男。彼は確かに実在した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。