「ギャオスの煮つけ」の誕生と発展(完結) 作:ギャオスの煮付け
8月10日「ひるワイド!」
先ほどのニュースについての詳細が入って来たのでお知らせします。
本日未明、N県M村でキャンプをしていた大学生数名が何者かに襲われ、死亡する事件が発生しました。
警察によりますと被害者は付近のキャンプ場でキャンプをしていたとみられ、昼頃になっても放置されたままのテントを発見した管理人が不審に思い警察に通報。その後警察が付近の山中を捜索した結果、学生数名が死亡している所を発見したとのことです。
警察によりますと遺体は激しく損傷しており、遺体の状態から見てギャオスによる犯行の可能性が高いとして現在捜索活動が進められています。
現場となったM村では五年前にも同様の事件が起こっており、周辺住民の間には動揺が広がっています。
(VTRに切り替わる)
本日未明、肝試しをしていた若者8名がギャオスと思われる生物に襲われ死亡するという事件が発生した。
N県M村――。
風光明媚な山村で一体何が起きたのか――。
私達は「ひるワイド!」のスタッフは早速現地へ急行した。
ヘリから空撮した南明日香村の映像が映る。
「こちら、現場となったM村上空です。上空からは……警察でしょうか? 辺りを捜索している捜査員の姿が見えます。あっ、自衛隊と思わしき隊員の姿もあります! 現場は山の奥地にあり、捜索は難航しそうです」
現場となった場所はM村の外れにある「社の沢」と呼ばれる沢で、現在は「禁足地」とされ一般の立ち入りが禁止されている場所だ。
若者たちは周囲に張り巡らされたフェンスを乗り越えて中に進入したとみられている。
「怖いですよ……。まさかあの中に入るなんて」
警察に通報したキャンプ場の管理人は語る。
「あそこは禁足地って言って、絶対に入ってはいけない場所って言われているんです。ほら、五年前にこれと似たような事件があったでしょう? あの影響で……。だからキャンプ場を利用するお客さんにも最初に説明して入らないようしてもらっていたんですけど……。まさか肝試しだなんてねぇ。
五年前、うちのお客さんも二人被害に遭ってるんですよ。山の中で遺体で見つかって……。それでしばらく経営が苦しい時期があったんですけどね、最近ようやく持ち直したと思った矢先にこれです。
五年も経ったらギャオスの事なんて忘れちゃうんですかねぇ。被害に遭った子達も、ここで起きた事件の事は知らないようでしたし」
五年前、M村では今回と同様ギャオスによる食害事件が発生した。
村人27人、キャンプ場の利用客2人、計29名の被害を出した大事件だ。
それから五年――当時の記憶は人々の中から消えつつあるのだと管理人の男性は語る。
「あの事件の後、村から出て行った人も多くて……。親類が亡くなったり親しい人が亡くなったりして耐えられなくなったんでしょうね。今残っているのは守部の人達と、ここで商売をしている私らみたいな人間くらいですよ。若い人達は結構出て行っちゃってね。土地や家を手放せない人らが残ってるという感じです。まぁ、村の半分も亡くなってはね……。気持ちは分かります。私も迷いましたから。
でもこのまま村が無くなってしまうのも忍びなくてね。家族を説得して村に残る事にしたんですけども……。最近は変な人達が集まるようになっちゃったし、こんな事件が起きて、もう潮時かな。正直、廃業も考えています」
『ギャオス肉反対! ギャオスを守れ!』
画面には拡声器で叫ぶ活動家の映像が流れている。
これは「ギャオス肉反対運動」を掲げる環境団体「●●●●●」の映像だ。
男性によると、近年M村では●●●●●の姿をよく見かけるようになったという。
「ああいう事件があったからか、M村の人達はギャオス肉に忌避感があって。ギャオス肉が流行り始めても誰も食べようとはしなかったんですよ。まぁ、当たり前ですよね。身近な所であんなことが起きたら……。ギャオスのギャの字も見たくないって言うんで、うちのキャンプ場にもギャオス肉持ち込み禁止にしたり、村民の間でもギャオスの話題は出来るだけ避けるようにしていたんです。
社の沢が封鎖されたのもその頃だったかな。それまでは自由に立ち入る事が出来たんですけど、周辺一帯にフェンスを付けて、守部家の人しか入れないようにしたんです。
確かきっかけは雑誌だったかな。ギャオス肉に反対する村の取材に来た記者を、守部の刀自様が追い返したんです。それを面白おかしく記事にしたものがインターネットで広まって、野次馬というか……嫌がらせみたいなことをする人達が出て来て。それで沢に入れないようにフェンスを設置することにしたんだとか。
嫌がらせの内容ですか? 村の中でわざとギャオス肉を食べたり、家に落書きをしたり、守部の家に肉を投げ込むような人達まで……まぁ、幼稚な嫌がらせですよ。
それで仕方なく、フェンスに加えて村の出入り口に検問所を作って持ち物検査をするようになったんです。
それが外から見たら過激思想の村みたいに映ったみたいで、ああいう環境団体の人達が押しかけて聖地のように扱うようになったんですよ。正直迷惑だし、困っています」
M村には住民の退去に伴い数多くの空き家が発生しており、環境団体はそこを拠点に活動しているらしい。
今や元からいた住民よりも環境団体の職員の方が多い有様だ。
「乗っ取りじゃないですけど、困りますよね。増々変なイメージがついちゃうし。不謹慎ですけどこの事件をきっかけに出て行ってもらえると助かるのですが……」
我々は村を拠点にしているという●●●●●に取材を申し込んだ。
●●●●●の代表F氏は事件についてこう語る。
「驚きました。まさかまたこの村にギャオスが出るなんて」
――事件についてはどう思われますか?
「恐ろしいですよ。ですがきっと天罰が下ったのだと思います」
――天罰ですか?
「社の沢は神聖な聖地なんです。だから禁足地として守られている。そこを荒らしたのですから罰が当たって当然なんですよ。可哀想ですが、自業自得です。五年前、京都を襲った変異体が
我々はギャオスが神から遣わされた尊きものであると考えています。その変異体……あの美しき御姿はまさに神からの御使いに違いありません。その御使いが降り立った神跡を土足で踏み荒らすなど言語道断。
しかも聞く所によると彼らはギャオスの肉を持ち込んでいたと言うではありませんか。
ああ、嘆かわしい。本当におぞましいことです。
ギャオスの肉を食べるなど、罰当たりも良いところ。しかもギャオスの肉が食べられるようになってから、年々ギャオスはその個体数を減らしています。恐ろしいことです。
ギャオスを殺し、滅亡に追いやるだなんて神の御意思に反する事だと思いませんか?
ギャオスは神から遣わされた神鳥。大切に保護されるべきなんです」
――……ギャオスは人を食べるんですよ?
「勿論分かっています。しかし、それも自然の摂理。食物連鎖の一部であると考えればごく自然なことだと思いませんか? ギャオスが人を食べると言うならば、それは増えすぎた人類に対する神の御意思なのです」
――村の方々からは●●●●●の活動が迷惑だと言う意見もありますが……。
「我々は正当な手続きを経て活動しています。この村の空き家率をご存知ですか? 40%を超えているんですよ。都市部への人口流出が止まらない今、我々の活動を通してM村に貢献できればと考えています。具体的には、ジビエと自家製野菜を使用した非ギャオス肉料理をメインとしたレストランの運営、ギャオスを守りたいと考える皆様のための宿泊施設の運営などを通し、M村の振興に寄与していければと思っております。
今回はこのような事件が起こってしまい大変残念に思っておりますが、ギャオスと適切な距離を保ち、共存していく未来をここM村から作っていけると信じています」
(VTRが終わり画面がスタジオに切り替わる)
「え~、なんだか大変な事になっておりますけれども……。今回起こった事件をパネルにまとめたのでこちらをご覧下さい」
司会の男性がパネルに貼られたシールを捲って行く。
「O府からキャンプをするためにM村を訪れていた若者8名がギャオスと思われる生物に襲われ、死亡する事件が起こったと。どうやら彼らは『肝試し』と称して『社の沢』と呼ばれる立ち入り禁止の区域に侵入し、そこで被害に遭ったようなんですね」
「この社の沢と言うのはどんな場所なんですか?」
「調べたところによると、M村には『柳星張伝説』と言う物があり、その『柳星張』という物を祀った祠のような物が『社の沢』にあると……そういうことらしいんです。五年前に起こったギャオスの襲撃事件以降なにかと話題になりましたからね。それから数年後にフェンスによって封鎖され、この場所を管理する守部家の人以外は立ち入れないようになっていたようなんですね」
「そこに今回若者たちは立ち入ったと」
「ええ、そうなんです。どうやらこの『社の沢』でギャオスと遭遇し、被害に遭ってしまったそうなんです」
「怖いですね~」
「ん? 新しい情報? あっ、どうやら新しい情報が入ったようです。えーっと……えっ!? ギャオスの画像がある? ええと、なになに。どうやら若者たちはビデオカメラを回していたらしく、その映像にギャオスと思われる生き物の姿が映っていたと。……画像出せますか?」
画面に「ギャオス」と思われる生き物の画像が映る。
画像が粗く良く見えないが、山の中にたたずむ人の服のような物をまとった赤い生物が映っている。
「……何ですかこれは」
「ギャオス……なのでしょうか。ちょっと良く分かりませんね」
「服のようなものを纏っているようにも見えますが」
「なんだかタコのような見た目をしていますね。……タコ人間?」
暗闇の中にぼんやりと浮かび上がる赤い物体。
ぐにゃりと伸びる赤い触手のような物を見たレポーターは首を傾げた。
「ギャオス……なんでしょうか。我々が知っているギャオスとはちょっと異なるような、そんな印象を受けます」
「よくUMAの特集番組で見る様な……そんな画像に見えますね」
「タコ人間」
「タコ人間ですよ、これは」
タコ人間。
レポーターが放った強烈な一言は画像と共に瞬く間に拡散され、「M村にタコ人間現る!?」の一文と共に夕刊の一面を飾った。
(感想返信についてのお知らせ)
沢山の感想ありがとうございます! いつも楽しく拝見しております。
感想への返信なのですが、返信をする上でどうしてもネタバレを避けられなくなってきたので一度個別の返信を停止して、完結後に頂いた感想に対するお返事コーナーのような物を作らせて頂こうと思っております。
感想自体はとても楽しく拝見しておりますので、決して無視している訳ではないことをご理解いただけますと幸いです。(とても励みになっております。感想大歓迎です)
話が進むにつれてどうしてもネタバレを示唆するような返信になってしまいそうなので……。
何卒宜しくお願い致します!