アルミナム・ステラ   作:妄想壁の崩壊

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かぐや様5期と推しの子3期が来る、最高ですね。


30.神拾い

 

夏休みが終わり少し経って秋になった。やっと暑苦しい季節が終わり過ごしやすくなってきたのは良いが、秋ってどうしてこうも短いんだろうか。秋にはもっと長く働いて欲しい。

 

それで、涼しい秋がやってきたことで何があるかと言うとだ、そうだね、スポーツの秋、つまりトライアスロン大会だね。

 

よって私は横浜に来ているのである!

 

「みなみちゃん、おひさ!」

 

「ルビーちゃん、今日は一段と元気いっぱいやな」

 

今日は私を応援するためにミヤコさん、お兄ちゃん、商店街の人たち以下応援団に加えてみなみちゃんも来てくれたのだ。

 

「あ、ごめん。うるさかった?」

 

「別に皮肉やないよ?」

 

でもはんなり言われるとそう思っちゃうよ。

 

大会当日、私はトライスーツを着て会場にスタンバイしていた。これからスイム375m、バイク10km、ラン2.5kmの合計13km弱のコースを泳いでこいで駆けることになる。

 

目指すは当然ナンバーワン。表彰台の上でもセンターを狙っていく。

 

「ルビーちゃんいろんな人に好かれとるんやなぁ。こんなぎょうさん応援する人たちがおるなんてびっくり」

 

「ね、自分でもちょっと驚いてる。地元の人たちとよく交流してるからみんな応援しに来てくれるんだよね」

 

なんなら前回よりちょっと人増えてるし。大丈夫? 商店街のお店みんな閉まっちゃってない?

 

「ほんであの鉢巻巻いて大きなカメラ担いでる人は誰?」

 

「あぁ、あれ私のお兄ちゃん。ごめんね、うちの兄シスコンなの」

 

「愉快なお兄さんなんやね」

 

みなみちゃんが視線を送る先には柔道の大会のときと同じく、テレビ局の人が使うようなビデオカメラを担いでいるお兄ちゃんの姿があった。彼、熱が入ると自分のこと客観視できないの。生暖かい目で見守ってあげてね。

 

「それじゃ、うちは応援団の人たちと一緒にゴールで待ってるから。ルビーちゃん、頑張って」

 

「うん、私がゴールテープを切るその瞬間を期待して待っててね!」

 

さてと。友達から託されたこの思い、果たしに行くとしますか!

 

 

 

 

 

ゴール前の直線に入り、私は温存していた体力を全開放する。スイム、バイクと順調に先頭集団に交じりそこそこの順位を維持してた私だけど、最後に全員抜かせてもらおう。

 

足に力を込めて大地を蹴るとぐんぐんと前の人との差が縮まって、やがて追い越した。私に抜かされた子はぎょっとした目で私を見つめている。ここに来て急にペースアップなんて信じられないんだろう。

 

私が追い上げているのに気づいたのか、前の人たちも釣られて速度が上がっていく。でも急に上がったペースについてこれる子は少なく、ほとんどが脱落して元のペースに戻っていく。そんな子を私は後ろから追い抜く。

 

そして一桁順位に入った、ゴールが視界に映る距離まで来たけど、これだけあれば十分追い越せる。このまま一位まで上り詰めてやろう。

 

そう思った次の瞬間、ちょうど私の前を走っていた子が若干ふらつき始めた。

 

この子、大丈夫かな。顔が真っ青で──って、危ない!

 

今まさに前の子を追い抜こうとしたそのとき、その子は足を絡ませ脱力したように体を傾けた。このままだと転んでしまうと思った私はやむなくその子が地面に衝突する前に支えて、すぐにコースの脇に離脱する。

 

「大丈夫ですか!」

 

意識はあるけど、呼吸が荒い。体温が高いし、汗もすごい。もしかして熱中症かも?

 

「ルビー! 使え!」

 

柵の向こうから声が聞こえる。振り向くとお兄ちゃんが何かを私に向かって投げたのが見える。飛んでくるものを手に取るとそれは経口補水液が入ったペットボトルだった。

 

すぐに異常に気づくなんて、やるね。お兄ちゃん。

 

「ほら、飲んで」

 

すぐに蓋を開けて飲ませてあげる。それから私は救護班の人が来るまでの少しの間、目の前を通り過ぎゴールするライバルたちを眺めることしかできなかった。

 

……まぁ、そんな風にゴールを目前にしてライバルの介抱を始めてしまったものだから、結果として私は表彰台に乗ることは叶わない順位となってしまったのである。

 

「ごめんみなみちゃん。わざわざ応援に来てくれたのに……」

 

「全然謝らんくてええよ。にしても残念やったなぁ、最後の追い上げ、ほんまに凄かった。あのまま行っとったら1位取れたかもしれへんけど……でも、今日のルビーちゃんは1位取るよりも立派なことしたと思うよ?」

 

みなみちゃんは優しく私を慰めてくれた。そうだね、後悔はない。私にとっては勝利よりも大切なものを取っただけに過ぎないから。

 

「ルビー、今日は惜しかったな。……でも、俺はお前のこと誇りに思うぞ」

 

そして家に帰ったら普段ツンデレのお兄ちゃんが珍しく素直に私を褒めてくれた。

 

「もう、みんなして私に気を使うじゃん。閉会式のあとにもミヤコさんに似たようなこと言われたしさ。何度も言うけど別に気にしてないって」

 

「けど、成果を出さなきゃいけなかったんだろ?」

 

「んー、まぁね。来年新体操するのは無理そうかな」

 

また別の大会で結果を出せば良いかな。春にでも長距離スイミングとかでさ。

 

「それはそれとしてお兄ちゃん、よくあのとき異変に気づけたね」

 

「涼しいからって理由で熱中症に気づかず倒れるケースは稀にあるからな。お前がそうなったときにすぐ対処できるようにしてただけだ。ルビーの抜けてて危なっかしい性格が倒れたやつを救ったわけだな」

 

「それ褒めてるの?」

 

「スポーツやるなら、ちゃんとリスクも知っておけって言ってるんだ」

 

「あいたっ」

 

ぽすん、とお兄ちゃんが分厚い本で私の頭を軽く叩いた。最近お兄ちゃんの本棚に増えた新しい本だ。内容は確かスポーツ医療関連だったと思う。

 

口ではなんやかんや言いながら、私のために医学の勉強もしてくれるなんて、なんて優しい兄上だろうか。でもいきなり専門書を揃えるのはちょっと気負いすぎじゃない? いくら頭が良いとは言え、中学生でそれは……って、私もお兄ちゃんも見た目通りの年齢じゃないんだった。

 

たまにお兄ちゃんにも前世があることを忘れちゃう。まぁこの手の話題は私が幼稚園のときにうやむやにしたっきり一切ないので忘れるのも無理はないけれど。

 

「俺はもう部屋に行くから、寝る前にテレビ消しとけよ」

 

「はいはーい」

 

私もそろそろ寝よっと。

 

リモコンに手を伸ばしテレビを消そうとしたそのときだった。

 

「あ、これ今日の大会じゃん」

 

ニュース番組のなかにある地域のちょっとした出来事を紹介するコーナー。そこに『本日横浜で行われたU15女子トライアスロン大会で──』と見出しが表示され、見覚えのあるコースが映像で映し出されると同時に、私がゴール前で倒れた子を介抱したことについても触れられていた。

 

あー、別に褒められようとしてやってないんだけど、それはそれとして自己肯定感がメキメキ上がっていく音がする!

 

もっと私のことを地上波で褒めてぇ!

 

『娘の恩人にはぜひ会ってお礼を言いたい』

 

「あ、この人もしかしてあの倒れた子の親御さんかな。いえいえー、そんなお礼を言われるよう……な……?」

 

あれ、なんかテロップに市長って書かれてる気がするんだけど気のせいかな。

 

次の瞬間、リビングにミヤコさんが突入してきた。

 

「ルビー、どうにも今日のことで横浜市長が個人的に会ってお礼を言いたいとか言う話が出てて、あとテレビ局からも話を聞きたいとかで──」

 

な、なんか大ごとになってない!?

 

「どうするの?」

 

「『名乗る者でもございません、人として当然のことをしたまでです』って言って辞退して良い?」

 

あんまり自分からひけらかすのは私の美学に反するよ。人から褒められるのは嬉しいけどさ。

 

 

 

 

 

そして後日、私が倒れた子を介抱している写真がネットでプチバズした。

 

「見て見てお兄ちゃん、このままだと私の見た目と性格の良さが世間にバレちゃうのも時間の問題かもね!」

 

「でもお前このままだとアイドルじゃなくて商店街ガール兼アスリート女子の方のイメージが世間に定着するけど良いのか?」

 

……。

 

「え?」

 

「『え』じゃないが。お前がメディアに露出してるの、現時点だと商店街のイメージガールと柔道、トライアスロン選手とミュージカル女優と……まぁ、そのくらいか?」

 

「おかしいね、それもうマルチタレントじゃん」

 

「おかしいも何も今のお前は駆け出しのマルチタレントだ」

 

なんてことだ。私はすぐに苺プロの社長の根城、つまりすぐ隣にあるデスクにて直談判した。ミヤコさん、早く私をアイドルにしてよ!?

 

「……別にサボってるわけじゃないのよ。メンバーは募集してるわよ。応募が来ないだけでね。はぁ、うちに腕の良いスカウトがいれば話は別なのだけれど」

 

「うちってスカウトいないんだ、じゃあB小町のときはどうやってメンバー集めてたの?」

 

「思い出してみれば全員、壱護が自分で探して来た子たちだったわね」

 

壱護さんってスカウトマンの才能あったんだ。

 

「というわけで壱護さん、私のために戻ってきてアイドルグループ作ってください」

 

そうと分かれば私は早速釣り堀に凸して、燻っている壱護さんを焚き付けようとした。

 

「何がというわけなんだクソアイドル」

 

だから私がそのクソアイドルとやらになるために必要なことなんだってば。

 

「おーねーがーいーしーまーすー」

 

「断る。だいたいアイがあんな目にあったのに、俺が協力すると思うか? ルビーもアイドルに夢見るのは止めて、もっとマシな道を目指せ。今みたいなタレント路線で良いだろうが」

 

お兄ちゃんみたいなこと言わないでよ。

 

壱護さんは『ミヤコ(あいつ)にミュージカルの伝手があったなんて正直意外だったが……』と、一言呟くとまた釣り糸を水面に垂らした。まぁ、その伝手はミヤコさんじゃなくて師匠ひいては金田一さん経由だからね。

 

「もう一度やり直せるなら、俺はアイをアイドルになんか誘わない」

 

「そんなこと言わないでよ、壱護さんがB小町を作ってくれたからこそ救われた人だっているんだよ?」

 

主に私の前世とか。

 

「……釣れなくなるから今日はもう帰れ」

 

「私がいなくても釣れないくせに」

 

残念、今の私に壱護さんを口説き落とすとは不可能みたいだ。私は大人しく釣果で一杯のバケツを持って釣り堀を去った。

 

「なので私自身がスカウトをやろうと思います。手始めに師匠、私とアイドルやりませんか?」

 

「正気か? ボクもう21だぞ。年の差ありすぎるよね。あと運動苦手だからダンスとか無理だし、そもそも忙しくてそんなことしてる暇なんてないよ」

 

と、ジムにて師匠を誘ってみたがあえなく断られてしまった。うーん、残念。

 

「デビューは高校生になってからでも良いと思うけど? ルビーちゃんにはまだ一皮も二皮もむける余地があると思うし。中学生のうちは学生としての生活を大事にしなよ」

 

師匠はそう言うが、だとしても今から探しておかないと高校生になった時にメンバーが誰もいないということになりかねないよ。

 

それから私は学校の友達やみなみちゃんにもそれとなく聞いてみたけれど、誰も承諾してくれる人はいなかった。

 

みなみちゃん曰く『うちはもうお世話になっとる事務所があるから』とのこと。それから学校の友達には『ルビーとアイドルとか絶対嫌』と言われてしまった。

 

「いや、ルビーのことは好きだよ? それに女子としてアイドルに対する憧れも多少はあるけど……」

 

「ルビーの隣となると話は違うって言うか、それってただの引き立て役にしかならなくない?」

 

『そんなことない』なんて、ママのいたB小町のことを思えば口が裂けても言えなかった。

 

「もう私にはアイちゃんしかいないよ。一緒にアイドルやろう?」

 

「やる! いっしょにおどる?」

 

挫折して心が挫けそうな私は施設に来てアイちゃんから癒しを貰った。子供は体温が高くて胸に抱くとほんのり温かい。

 

うーん、アイちゃんがあと10年早く生まれてたら、一緒にアイドルできたんだけどな。

 

「それじゃあ私はもう行くから、またねアイちゃん、院長さん」

 

「ばいばいるびー!」

 

「ルビーちゃん、またいらしてね」

 

そうして私は子どもたちが卒業して少し寂しくなった施設をあとにした。みんな里親が見つかって施設を出たらしい。元気にしてると良いな。

 

「はぁ」

 

上手くいかない現状に自然とため息が出る。

 

私にとってアイドルっていうのはやっぱり仲間がいてこそだ。歌もダンスも複数メンバーだからこそソロでは出せない迫力というものがある。それに私も、ころも師匠みたいな頼れる仲間が欲しい。

 

ころも師匠と言えば、年明けに卒業ライブが行われるらしい。私は知り合い枠でチケットを貰うことができたので、チケットの取り合いに阿鼻叫喚の様相を醸し出しているネット民たちを高みから見下ろしている。

 

それと、卒業ライブに際しファン一同が結束してちょっとした催しをすることになった。こばち師匠から上に話を通してもらって、公式公認の祭りである『ころも師匠を笑わせるための計画(オペレーションホワイト)』が近々始動する予定だ。きっと成功させてみせる。

 

……それはともかく、今は自分のことだ。あーあ、どこかに見た目が良くて歌とダンスが良くて事務所フリーの良い感じの人材が転がったりしないだろうか。

 

そうだ。ここからならいつも朝に参拝している神社が近いし、帰りに良い出会いがあるようお祈りして帰ろう。

 

「カァ」

 

そう思った私が神社へと続く路地に入ると、空からカラスの鳴き声が聞こえた。見上げれば見覚えのある一本足の黒いカラスがいる。

 

「あ、ツクヨミ二世じゃん。久しぶりだね、元気してた?」

 

「カァ!」

 

「え、ちょ、ちょっと引っ張らないでよ……!」

 

何やら慌てた様子のツクヨミ二世はその足で私の服を引っ張ってくる。まるで私をどこかへと連れて行こうとしているみたいだ。

 

行く先はどうやら神社と同じ方向なので、特に抵抗せず連れて行かれることにする。そして路地を抜けた先、いつもの神社が見えてきた。

 

「カァ! カァ!」

 

「もう分かったって。それで、ここに何がある……の……」

 

鳥居の向こう、境内のど真ん中に何やらおかしなものが見えたので思わず目をこする。

 

おかしいな、今地面にうつ伏せで倒れてる幼女がいた気がする。

 

目を開けてもう一度確認すると、それはやっぱり存在していた。すぐ近くまで寄って指先でツンツンと突くと『うぅ』と幼女がうめき声を上げる。目の前のこれは現実らしい。

 

……きゅ、救急車呼ばなきゃ!

 

私は懐からスマホを取り出し急いで119に連絡しようとしたら、足元の幼女が私の足にすがりついて来た。

 

「そう言うの良いから、それよりも捧げ物を寄越して……」

 

幼女が顔を上げると、どうにも見覚えがある。行き倒れていた幼女の正体は春に出会ったオカルティックな厨二病幼女であった。

 

「え、あ、あなたこの前の私の秘密をいろいろ知ってそうな謎の幼女じゃん!? なんでこんなところで倒れてるの!?」

 

「良いから捧げ物を……」

 

さ、捧げ物? 何を言ってるのこの子は。

 

私が要領を掴めずにオロオロとしていると、不意に幼女の腹から『ぐー』と獣が鳴くような鈍い音が鳴った。

 

「食べ物ください……」

 

「いや空腹で倒れてただけかい!」

 

「出来れば葡萄か筍か桃で……」

 

「しかも注文が多い!」

 

それにチョイスも謎だし。ぶどうと桃は分かるけどタケノコ? なんで?

 

「はぁ、ファミレスで良い?」

 

「良くない……」

 

無視して幼女を抱きかかえ、私は仕方なく近くのファミレスへと向かった。丁度良い、この幼女には聞きたいことがあったんだ。食事の対価に洗いざらい吐いてもらうことにしようか。

 

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