ひとつの写真が目に入った。
実家の埃っぽい押し入れの段ボールにしまわれていた写真。薄紫色の髪をした女性が、口元を手で覆い隠すように笑っている。
既視感、あるいは未視感かもしれないが、ひどくその印象がこびりついていて、ひっそりとその写真を懐にしまった。求心力というものは確かにある。それだけがそうさせたと言うつもりも、さらさらないが。
この女性が誰なのか、なぜ写真がここにあるのか気になることは山ほどある。
どう調べようと思案しながら押入れを出たとき、誰かの視線が注がれていることに気が付いた。よりにもよって一番会いたくなかった、祖父である。週末に祖父が来ると言われていたのを今、思い出した。具体的な理由やエピソードがあるわけではないが、この人には全てを見透かされている気がしていてなんとなく嫌だった。
「懐かしいものを」
祖父はぽつりと呟いた。
見られた。考えればただ言葉のままなのだが、写真を勝手に持ち出したことの罪悪感と祖父に見つかった焦りから簡単なことにも気付けないでいた。居心地の悪い時間がしばらく続いた。なにか良い言い訳を思いつく前に祖父が口を開いた。
有村麻央。写真の中の人。半世紀くらい前に活躍したアイドル。
格好よくて、可愛いアイドル。有村麻央のプロデューサーを祖父はしていたらしい。
格好よくて、可愛い。世間の持つイメージ、というより世間に持たせたイメージとは違う部分に惹かれたのだ。けれど欲張りだから隠したくなったと祖父は語った。祖父に対して抱いていた印象が崩れたというか、当たり前な話この人も人間なのだ。けれど同時に、この人は過去に生きているのかもしれない。今が唯一の交点であるかもしれないとふと思う。
「この人はどうなったの」
この写真に引き込まれたのは、アイドルの持つカリスマを感じたからというだけではない。この笑顔がより内側の、個人的な部分に向けられている気がした。尤も、そう錯覚させるのが上手いのがアイドルなのかもしれないが。
「どうって、そこに」
祖父の指さす先に顔を向けたが祖母がいるだけだ。そういえば髪の色が同じ。歳を経て髪を染めたに違いないと疑問を持ったことすらなかった。喋り方だって世代特有のものだと思っていた。目の前にいるアイドルだった人と自分、ここには一切の隔たりなんてない。
祖母に写真の面影は感じるものの、ずいぶん時間が経ったのだ。トップスターだったと言われてもにわかに信じられない。けれど祖父がそういう冗談を言わない人であることも知っている。
「2人でいるなんて珍しいね」
「俺の好きなアイドルの話をしていました」
「それは…ボクも興味があるな」
そう言うと祖母は口を手で覆って、笑った。