【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど 作:もろきゅー
翌朝、控えめに扉を叩く音で目が覚めた。
重たい瞼を開き、ぼんやりと天井を見上げる。身体のあちこちに疲労が残っているらしく、寝台から起き上がろうとするだけでも億劫だった。
昨夜は結局、風呂に入って化粧を落としたあと、寝台へ倒れ込むように眠ってしまった。いつもなら少しくらい寝付けないこともあるのに、昨夜は横になってからの記憶がほとんどない。
それだけ疲れていたということだろう。
「アウラ様、起きていらっしゃいますでしょうか?」
扉の向こうから、ミレイユの声が聞こえてきた。
「あ、はい。起きてます。ちょっと待ってください」
慌てて寝台から抜け出し、寝間着のまま扉を開ける。
廊下に立っていたミレイユは、いつものように丁寧に頭を下げてくれた。けれど、その顔を見て、俺はふと違和感を覚えた。
目元には疲れが残り、普段の穏やかな雰囲気も薄れている。昨日の騒ぎで大変だったのは分かっているけれど、それだけではないような気がした。
「おはようございます、アウラ様。朝早くから申し訳ございません」
「いえ、大丈夫です。どうかしましたか?」
「クラウス様が、お呼びでございます。お支度が整いましたら、執務室までお越しいただきたいとのことです」
「クラウス様が?」
「はい。昨夜の件について、お話があるそうです」
なるほど。昨日の襲撃について、詳しい事情を聞きたいのかもしれない。
そう考えれば、呼び出されること自体は不思議ではなかった。リゼットやフィアと直接戦ったのは俺たちだし、クラウスもまだ詳しい話を聞いていないはずだ。
ただ、ミレイユの表情が気になる。
「あの、何かあったんですか?」
「…………」
ミレイユは一瞬だけ言葉に詰まったようだった。何かを言いかけたようにも見えたけれど、すぐに口を閉じ、いつもの落ち着いた表情を取り戻すと、静かに頭を下げる。
「詳しいことは、クラウス様からお聞きいただければと存じます」
「……そうですか。分かりました」
「それでは、執務室へお越しになることをお伝えしてまいります」
そう言って、ミレイユはもう一度頭を下げてから廊下を歩いていった。
その後ろ姿を見送り、俺は扉を閉める。
何だろう。やっぱり、いつもと様子が違う気がする。
もっとも、あれだけの騒ぎがあった翌朝なのだから、普段どおりに振る舞えという方が無理なのかもしれない。使用人たちも全員無事だったとはいえ、屋敷は随分と壊されてしまったのだ。片付けやら何やらで、今日も忙しくなるのだろう。
俺はひとまず考えるのをやめ、身支度を整えることにした。
鏡に映っているのは、見慣れた金髪と緑色の目をした、いつもの俺だ。昨日は長いこと変装したままだったので、こうして元の姿を見ると妙に安心する。
寝癖のついた髪を整え、服を着替えてから部屋を出る。
廊下を歩いていると、窓の向こうから人の声や物を運ぶ音が聞こえてきた。
庭では使用人や兵士たちが片付けを進めているらしく、壊れた門の周囲にも何人もの姿が見える。昨日の戦いで散乱した瓦礫はまだ残っており、庭の一部には深く抉れたような跡もあった。
こうして明るいところで見ると、改めて酷い有様だ。
それでも、今は敵の姿もなく、人々が片付けに取り掛かっている。昨日の騒ぎが嘘のような光景に、少しだけ安心させられた。
そんなことを考えながら本館へ向かい、執務室の前で足を止める。
扉を叩くと、中からクラウスの声が返ってきた。
「アウラです。失礼します」
扉を開けて中へ入ったところで、思わず足が止まった。
クラウスの執務室には、思っていた以上に大勢の人が集まっていたのだ。
机の向こうにはクラウスが座っており、その近くにレオンとラルフの姿がある。さらに、カルスとロイド、それから冒険者ギルド長のフレイまでいた。
そして、もう一人。
部屋の奥に置かれた椅子には、見覚えのない男性が腰を下ろしていた。
年齢は六十を超えているだろうか。短く刈り込まれた白髪に、深い皺の刻まれた顔。身体つきはがっしりとしており、椅子に座っているだけでも、随分と大柄な人物だと分かる。
何より印象的だったのは、その目だ。
こちらへ向けられた眼光は鋭く、何もしていないのに、値踏みされているような気分になる。姿勢にも隙がなく、ただ椅子に腰掛けているだけだというのに、不思議と周囲の空気を引き締めているようだった。
どう見ても、ただ者じゃなさそうだ。
思わず背筋を伸ばしたところで、クラウスが声をかけてきた。
「おはよう、アウラ。朝早くからすまんな」
「あ、いえ。おはようございます」
慌てて挨拶を返す。
改めて見れば、クラウスの顔にも疲労が色濃く残っていた。目の下には隈が浮かび、普段より幾分か顔色も悪い。ひょっとすると、昨夜はほとんど眠っていないのかもしれない。
レオンも同様だった。いつもどおり穏やかな表情を浮かべてはいるものの、どこか硬さがあり、疲れているというだけでは説明できない雰囲気を感じる。
一方、ラルフは顔色こそ悪くなかったものの、顔には痛々しい傷痕が残っていた。
ティナの魔法によって負った傷だ。俺の回復魔法で治療したお陰で、傷そのものはすっかり塞がっているけれど、残念ながら傷痕まで消すことはできなかった。
昨夜、ティナがラルフに謝りたいと言っていたことを思い出す。俺も一緒に会いに行くつもりだったけれど、どうやら先にこうして顔を合わせることになってしまった。
もっとも、今はそんな話を切り出せる雰囲気ではなさそうだ。
カルスとロイドは普段と変わらない様子だった。二人とも昨日はあれだけの戦いを経験したはずなのに、背筋を伸ばして静かに控えている。
さすが、騎士といったところだろうか。
「皆様、おはようございます」
改めて頭を下げると、レオンが軽く会釈を返してくれた。
「おはよう、アウラさん。昨夜はよく休めたかい?」
「はい。お陰様で、ぐっすり眠れました」
「それは何より。随分とお疲れのようだったからね」
レオンはそう言って微笑んだものの、その笑顔にもいつものような余裕は感じられなかった。
やはり、まだ何かあるのだろうか。
そんなことを考えていると、クラウスが空いている椅子を示した。
「座ってくれ。今日は昨日の件について、皆で情報を共有したい」
「はい。分かりました」
勧められた席に腰を下ろすと、クラウスはこちらへ向き直った。
「まずは、改めて礼を言う。昨日は本当に助かった。お前のお陰で、リリアを無事に取り戻すことができたと聞いた。それだけでなく、街の各所でも随分と力を尽くしてくれたそうだな」
「いえ、そんな……。私一人の力ではありませんし、皆さんのお役に立てたのでしたら光栄です」
「それでも、お前がいなければ、事態はさらに悪化していただろう。領主として、そしてリリアの父親としても、感謝する」
クラウスはそう言うと、深く頭を下げた。
慌てて俺も頭を下げる。
こうして改めて感謝されると、どうにも落ち着かない。こちらとしては、リリアを助けたかっただけなのだけれど、そのために多くの人たちが力を貸してくれたのも事実だ。
それに、今回の戦いでは俺自身も何度も助けてもらっている。
カルスやロイドがいなければ、フィアを相手にどこまで持ちこたえられたかも分からない。そんな俺が一人で感謝を受け取ってしまうのは、何となく申し訳ない気がした。
そんなことを考えていると、クラウスが顔を上げ、部屋の奥に座っている老人へ目を向けた。
「それから、まだ紹介していなかったな。こちらはザット。ドゥル=ブルムで活動する盾の会を率いている」
盾の会か。
そういえば、サイラスやマルルゥはどうしただろうか。
サイラスはあのあと大通りでも活躍したと聞いているけれど、まだ直接話せていない。マルルゥとも無事に合流できたのだろうか。
「ザットは、かつて騎士団で副団長を務めていてな。ゲオルグが団長を務めていた頃には、その片腕として支えていた人物だ」
「そうだったんですか」
ゲオルグの部下だったのか。
そう言われると、あの鋭い眼光や堂々とした佇まいにも納得がいく。いかにも厳格な騎士といった雰囲気だし、見た目だけなら現役の騎士だと言われても信じてしまいそうだ。
ザットは椅子から立ち上がると、こちらへ向き直った。
「盾の会を預かっております、ザットと申します」
「初めまして。アウラです」
慌てて立ち上がり、頭を下げる。
すると、ザットも深々と腰を折った。
「昨日は、我々の仲間を救っていただいたそうですな。現場にいた者たちから、詳しい話を聞いております」
「いえ、そんな。私だけではなく、皆さんが頑張ってくださったお陰ですから」
「それでも、あなたの助力がなければ、多くの者が命を落としていたでしょう。サイラスからも、あなたには随分と助けられたと聞いております」
ザットはそこで顔を上げ、厳しい表情を僅かに緩めた。
「何にせよ、我々にとっては命の恩人です。本当に、ありがとうございました」
「こちらこそ、皆さんには助けていただきましたから」
そう答えると、ザットはもう一度頷き、椅子へ腰を下ろした。
最初は随分と怖そうな人だと思ったけれど、話してみると礼儀正しい人のようだ。相手の立場に関係なく、きちんと感謝を伝えられるところにも好感が持てる。
今度はフレイが口を開いた。
「レオンから聞いたけど、あんたも広場の辺りで随分と働いてくれたそうじゃないか。あたしは全然気が付かなかったけどね」
「まあ、一応……」
「それにしても、おかしいねえ。あんな騒ぎの中で、あんたを見落とすとは思えないんだけど」
「ああ、それはアウラさんが変装をされていたからでしょう」
レオンが何気なく口を挟んだ。
「……変装?」
フレイが怪訝そうに眉を寄せる。
「い、いや、それは別に大した話じゃなくてですね!」
「ちょっと待ちな。変装って、どういうことだい?」
こちらの言葉を聞き流し、フレイがじっと俺を見つめてきた。
「そういや、昨日は栗色の髪をした女が、随分と大胆な鎧を着て戦ってたって話があったね。髑髏の剣を持ってたとか、死体どもを一気に止めたとか……」
「…………」
フレイは俺の顔を見ながら、何かを確かめるように目を細めている。
「……もしかして、あんたかい?」
「え、ええと……」
どうしよう。ここは誤魔化した方がいいんだろうか。
けれど、髪の色と化粧は変えていたものの、フレイには以前ハイレグアーマーと魔剣まで見られているし、さすがに言い逃れは難しそうだった。
「……はい。まあ、そうです」
「何だ、そうだったのかい! 道理で、どこかで見たような鎧だと思ったんだよ」
フレイは納得したように頷いた。
どうやら、それ以上は追及してこないらしい。
よかった。できれば、ハイレグアーマーについての話はこれで終わりにしてほしい。
昨夜だって、鏡で自分の姿を見て散々恥ずかしい思いをしたばかりなのだ。朝からあの格好について蒸し返されるなんて、勘弁してほしかった。
「さて、アウラ」
クラウスが声をかけてきた。
「お前からも詳しい事情を聞きたいところだが、その前に、我々が現在把握している被害状況について話しておこうか」
その言葉に、部屋の空気が引き締まった。
クラウスは机の上に広げられた書類へ目を落とし、何枚かを確認してから話を続けた。
「昨夜から各所で被害の確認を進めているが、まだ全容は判明していない。特に街の中心部では建物の損壊が激しく、瓦礫の撤去も追いついていない状況だ。行方の分からない者も多く、今も各所で捜索が続けられている」
そう言って、クラウスはフレイへ視線を向けた。
「まず、冒険者ギルドの状況から頼む」
「ああ、分かったよ」
フレイは椅子に座り直し、組んでいた腕を解いた。
「正直、こっちは酷い有様だね。ギルドの建物は半分ほど崩れちまってるし、中も瓦礫だらけさ。無事な場所もあるにはあるけど、今までどおり使うのは難しいだろうね」
冒険者ギルドが半壊したという話は昨日のうちに聞いていたけれど、こうしてフレイの口から詳しい状況を聞かされると、改めて被害の大きさを実感させられる。
「幸い、書類なんかはある程度持ち出せたけど、瓦礫の下になってるものもある。全部を確認するには、もう少し時間がかかりそうだよ」
「冒険者たちの被害はどうですか?」
レオンが尋ねると、フレイの表情が険しくなった。
「そっちも少なくない。死んだ奴もいるし、重傷を負った連中も大勢いる。まだ所在の確認が取れてない奴もいるから、正確な人数は何とも言えないね」
そう言って、フレイは大きく息を吐いた。
普段の豪快な様子からは想像しにくいほど、その声には疲労が滲んでいた。昨日の騒動が収まってからも、ギルドの状況を確認したり、負傷した冒険者たちの対応に追われたりしていたのだろう。
「ただ、助かった奴も多いよ。昨日、ギルドの周辺で怪我人を治して回ってた女の子がいたらしくてね。その子のお陰で、随分と命拾いした奴がいるそうだ」
それは、シエルのことだろう。
あいつは俺と別れたあと、街の負傷者を治療して回っていたはずだ。ギルドの周辺にも立ち寄っていたらしいけれど、こうして改めて話を聞くと、随分と頑張ってくれたようだ。
「今は動ける冒険者を集めて、瓦礫の撤去や生存者の捜索を手伝わせてる。もちろん、怪我をした連中は休ませてるけどね」
「ギルドの運営については、どうだ?」
「さすがに、いつもどおりとはいかないだろうさ。けど、こんな時だからこそ、冒険者の手が必要になる。使える場所を探して、当面はそこで仕事を続けるつもりだよ」
フレイはそう言って、肩をすくめた。
「建物が壊れたくらいで、ギルドまで潰れるわけにはいかないからね」
その口調には、いつものフレイらしい力強さが戻っていた。
ギルド長というのも、大変な仕事なのだろう。
普段は豪快で、どこか気楽そうに見えるフレイだけれど、今は大勢の冒険者のことを考えなければならない立場なのだ。仲間を失った悲しみがないはずもないのに、こうして今後のことまで考えている。
「必要な場所や物資があれば、遠慮なく申し出ろ。こちらでも、できる限り協力する」
クラウスがそう伝えると、フレイは片手を上げた。
「ああ、助かるよ。落ち着いたら、こっちでも必要なものをまとめておくさ」
続いて、クラウスはザットへ目を向けた。
「盾の会の状況はどうだ?」
「我々も、決して軽い被害では済んでおりません」
ザットは背筋を伸ばしたまま、低い声で答えた。
「本部の前では、竜種やクアドラギガスと思われる巨人の死体が操られ、激しい戦闘となりました。その際に周辺の建物が損傷し、本部自体も一部が破壊されております」
「クアドラギガス?」
聞き慣れない名前に、思わず聞き返してしまった。
「四本の腕を持ち、目も鼻もない、異様な姿をした巨人です」
「あぁ、それなら私も戦いました。すごく素早く動く巨人ですよね?」
「ええ、その特徴が古い探索記録に残されているクアドラギガスと一致しております。ただ、ダンジョン深層での遭遇例自体が非常に少なく、詳しい生態までは分かっておりません」
「そんな魔物だったんですか……」
確かに、あの巨人は普通じゃなかった。あれだけの巨体で、こちらの攻撃を次々に避けていたのだから。
「竜についても、炎のブレスを吐いていたことから火竜種と思われます。ただ、死体の損傷が激しく、詳しい種類までは判別できておりません」
ザットは一度言葉を切り、険しい表情で続けた。
「本来ならば、どちらもダンジョンの外で遭遇するような魔物ではありません。それが死体となって、街中を暴れ回っていたのですからな」
盾の会の本部前では、確かに随分と派手な戦闘になっていた。
巨人もドラゴンも、普通の建物よりよほど大きな身体をしていたのだ。あんなものが暴れ回っていたのだから、周囲が無事で済むはずもない。
ましてや、相手は既に死んでいる魔物だ。普通の生き物なら致命傷になるような攻撃を受けても動き続けるし、痛みを感じて怯むこともない。
そんな連中を相手に戦っていたのだから、盾の会の人たちも相当な苦労をしたことだろう。
「会員にも死者が数名出ており、負傷者も少なくありません。現在は各隊の被害を確認しながら、動ける者を救助活動へ回しておりますが、以前と同じような警備体制を維持するのは難しいでしょう」
「……そうか」
「ただし、活動そのものを止めるつもりはございません。幸い、戦える者はまだ残っております。街の守りを放棄するわけにはまいりませんからな」
ザットは淡々と答えた。
その口調には迷いがなく、既に今後の対応を考えていることが窺える。
ただ、部下たちの被害について語るとき、その厳しい顔が一層険しくなったようにも見えた。
元騎士団の副団長という経歴を持つ人物だ。きっと、これまでにも多くの戦いを経験してきたのだろう。それでも、自分の仲間が傷ついたり、命を落としたりすることに慣れるなんて、そう簡単にできるものではないはずだ。
「それに、こちらも負傷者の多くが救われております。現場にいた者たちの話では、突然現れた栗色の髪の少女が、次々に怪我人を治していったそうです」
シエルだな。
盾の会の本部でも活躍していたようだ。
「その少女は、恐らくシャロンさんですね。こちらでも報告を受けています」
レオンが口を開いた。
「シャロンか……。回復魔法を使えるとは驚いたが、随分と大勢の者を救ってくれたようだな」
クラウスがそう言うと、レオンも頷いた。
「ええ。街の各所で負傷者を治療して回っていたそうです。正確な人数は分かりませんが、相当な数の人々が助けられたと聞いています」
「我々の者も、その少女がいなければ助からなかったでしょう」
ザットは深く頷いた。
「ぜひとも、直接礼を申し上げたいものです」
「しかし、シャロンは教会の聖職者なのか……?」
クラウスが不思議そうに首を傾げた。
俺は思わず視線を逸らした。
シエルのことを話してしまってもいいのかもしれないけれど、本人がいないところで勝手に事情を説明するのも気が引ける。
そもそも、シエルは教会に自分のことを知られたくないと言っていたのだ。
既に回復魔法を使えることは大勢の人に見られてしまったようだけれど、それと正体が知られることは別の話だ。だからといって、俺が勝手に事情を話すわけにはいかないだろう。
「昨日、シャロンさんは後ですべてお話しすると言っていましたので、追って説明があるかと思います」
レオンが答えた。
「今は聖療教会で負傷者の治療を続けているはずです。護衛につけた騎士もまだ戻ってきていませんので、彼女も帰ってきていないのでしょう。現在は交代の騎士を向かわせています」
「そうか。ならば、後で話を聞くことにしよう」
クラウスは頷いた。
どうやら、レオンもシエルから何か話があると聞いているらしい。
後ですべて話す、か。
あいつのことだから、きっと自分の正体についても説明するつもりなのだろう。
俺に秘密を守ってほしいと頼んできたくらいだから、教会から逃げてきた事情を話すことには抵抗があるはずだ。それでも、自分から話すと決めたのなら、俺が勝手に口を挟むべきではない。
ただ、昨日の騒ぎで随分と魔力を使っているだろうし、まだ教会で治療を続けているのなら、無理をしていないかは心配だった。
帰ってきたら、話を聞いてみよう。
「ほかにも、各所から被害の報告が届いている」
クラウスが書類を机に置いた。
「街の被害については、まだ全容が見えていない。亡くなった者の数も確定しておらず、残念ながら、これからさらに増える可能性もある」
その言葉に、誰もすぐには口を開かなかった。
フレイも腕を組んだまま黙り込み、ザットは厳しい表情でクラウスを見つめている。レオンも手元の書類へ視線を落とし、ラルフは俯いたまま、膝の上で両手を握り締めていた。
昨日の戦いが終わったことで、俺はどこか安心していたのかもしれない。
リリアは無事に戻ってきたし、ティナやカイトとも再会できた。俺自身も、どうにか生きて帰ってくることができたのだ。
けれど、こうして被害の報告を聞いていると、今回の騒動が決してそれだけでは終わらないことを思い知らされる。
街のあちこちでは建物が壊れ、多くの人が怪我をし、命を落とした人までいる。住む場所を失った人もいれば、家族や仲間を失った人だっているはずだ。
俺たちはどうにか生きて帰ってこられたけれど、そうじゃなかった人たちも大勢いる。
そして、戦いが終わった今も、行方の分からない人たちの捜索や、負傷者の救助が続けられているのだ。
改めてそれを実感すると、胸の奥が重たくなった。
目の前にいる人たちが疲れ切っているのも当然だろう。
クラウスは街全体を守る領主で、フレイは冒険者ギルドの長。そしてザットは、盾の会を率いる人物だ。
自分たちの仲間が傷つき、街がこれほどの被害を受けたあとでも、こうして集まり、これから何をするべきかを考えている。
昨日の俺は、リリアを助けることや、自分たちが生き残ることだけで精一杯だった。
それに比べれば、この人たちはずっと多くのものを背負っているのだろう。
「……だからこそ、今回の襲撃について、できる限り詳しい情報を集めておきたい」
しばらくの沈黙のあと、クラウスが口を開いた。
その声に、俺も顔を上げる。
「街を襲った連中が何者なのか、何を目的としていたのか。今のところ、分からないことが多すぎる。だが、連中が再び現れないとも限らん以上、少しでも情報を集めておく必要がある」
クラウスはそう言って、俺へ視線を向けた。
「アウラ、お前は今回の襲撃者たちと、直接顔を合わせていると聞いている。彼らについて、分かる範囲で話してもらいたい」
「はい。もちろんです」
俺は頷き、姿勢を正した。
思い返せば、昨日だけでも随分と色々なことがあった。
今回のような襲撃がまた起きるかもしれないのなら、知っていることはできる限り伝えておくべきだろう。
俺は昨日の出来事を頭の中で整理しながら、ゆっくりと口を開いた。