十四年前に死んだ相棒の墓参りにやってきた主人公。
冒険者のランクだけでなく、年齢も追い越してしまったことを嘆いていたが……。

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冒険者ランクは追い越せても、年齢は追い越せないって言ったよね?

 相棒が死んでから十四年が経つ。

 前世の慣習に倣って、俺は今年の夏も墓参りにやってきた。

 

 小高い丘の上に、小さな墓石がぽつんと一つある。

 摘んできた花を供え、手を合わせてから語りかけた。

 

「今年で俺もついに三十歳だ。もうすっかりおっさんだよ。体もあちこちガタが来てるし、少し早いけど冒険者は引退かなぁ」

 

 俺は年に一度ここへやって来て、相棒に近況報告をしている。

 それが志半ばで倒れた相棒への手向けであると共に、生き残ってしまった俺の義務だ。

 ここへ来るたびに相棒との思い出が蘇る。

 

 

 

 

 

 

 

 俺と相棒の出会いは十六歳の頃、冒険者になった頃まで遡る。 

 冒険者の(ギルド)ランクは第五位階(フィフス)から始まり第四位階(フォース)で新人卒業、第三位階(サード)でベテラン、第二位階(セカンド)になると在野では頂点扱い、第一位階(ファースト)は英雄クラスで国のお抱えだ。

 

 俺は前世の記憶を持つ転生者で、いわゆるチート能力を持っている。

 チート能力のおかげで、冒険者登録してから僅か半年で第三位階冒険者になれた。

 

 これは当時の最年少かつ最速の記録を更新したのだが、前のタイトルホルダーが相棒だったのだ。

 負けん気の強かった相棒は、自分の記録を破った俺に何かと突っかかってきた。

 

 最初は普通にむかついて喧嘩していたのだが、歳も実力も近いことから嫌々ながらもパーティーを組むことが増える。

 気が付くとお互いに相棒と呼び合うような仲になっていた。

 

 固定パーティーを組んでからも冒険者としての躍進は続く。

 俺はチート能力があるから半分ズルだが、これについてくるのだから相棒の実力は本物だ。

 

 だから俺が先に第二位階冒険者に昇格したとしても、決して相棒が弱いわけじゃない。

 

「冒険者ランクは追い越せても、年齢は追い越せないんだからね」

 

「って言ってもほとんど変わらないじゃん」

 

「うるさいなぁ、半年だけでも私のほうがお姉さんなの!」

 

 

 

 ―――その翌週、この丘で相棒は死んだ。

 

 

 

 村の家畜を食う熊型の魔獣を狩る依頼を二人で受けてやってきたのだが、その熊を巨大な竜が食っていた。

 

 後で聞いた話だが、その竜は隣の山脈を支配する主で、基本的に縄張りを出ないが、稀に餌を求めて遠出するらしい。

 俺たちは運悪くそこに出くわしたのだった。

 

 この世界は紛れもない現実だ。

 ゲームのようにこちらの強さに合わせた敵とだけ遭遇するような、ご都合主義でできていなかった。

 

 さすがに竜が相手では当時の俺と相棒でも勝ち目がない。

 だから村人に危機を知らせて避難するまでの時間稼ぎに専念した。

 

 精霊使いだった相棒が防御に徹して、その間に俺が村人を逃がす。

 俺が村人全員を避難させて丘に戻ったのと、魔力が尽きた相棒が竜の吐息(ブレス)にのまれたのは、ほぼ同時だった。

 

 紅蓮の炎によって丘一面が火の海になる。

 疲れたのか飽きたのかわからないが、その直後に竜はどこかへ飛び去って行った。

 

 相棒の死体は見つかっていない。

 だから俺は焼け野原になった丘に、形だけの空の墓石を作った。

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、年齢は追い越せないんじゃなかったのかよ。十七歳なんてあっという間に追い越したぞ。永遠の十七歳とか、生き様かよ……死んでるけど」

 

 こうやって誰にもわからない、前世のネタでぼやくのも毎年のこと。

 

 相棒が死んだ翌々年の墓参りの時点で、焼き払われた草木は生え変わり元通りになっていた。

 自然の生命力とは凄いものだ。

 墓石がなければ、ここで竜と戦ったことすら幻だったのではないかと錯覚しそう。

 

「今年から新しい弟子を取ったんだが、相棒に負けず劣らずの才能の持ち主なんだ。自立するのも早そうだが、現役としては最後の弟子かもな……それじゃぁ、また来年くるよ」

 

 近況報告を終えた俺は、墓石をひと撫でしてから丘から立ち去ろうとする。

 

 次の瞬間、背後から強烈な気配を感じた。

 反射的に腰に差した剣を抜きながら振り向く。

 墓石の上の空間に亀裂が生じ、そこから何かが現れようとしていた。

 

「竜、だと?」

 

 空間の亀裂から現れたのは、強大な竜だった。

 深紅の翼をはばたかせながら、赤く光る眼で俺を見下ろしてくる。

 

「あれ以来、竜は俺の天敵だ。なんで突然出てきたかは知らないが、叩き斬ってやる」

 

 俺が殺気を飛ばすと、竜は「グルゥ…」と情けない声で鳴いた。

 だがそんなのは関係ない。

 竜は全部、相棒の仇だ。

 

「わー! 待って待って、私よ、私」

 

 そう思って剣を握る手に力を込めた俺だったが、竜の背中から懐かしい声が聞こえた。

 想定外の事態に体が硬直する。

 

「……は?」

 

 それはもう二度と聞けないはずの声。

 竜の背中から一人の少女が飛び降りた。

 

 風にあおられて、癖のない長い銀髪が揺れている。

 整った顔立ちに強い意思を宿した紫紺の瞳。

 その姿はあの時から何一つ変わらない。 

 

「ふむ、つまり悪霊の類か」

 

「だから違うってば! 生きてたの!」

 

 鋭いツッコミと共に、少女が俺の胸元へ勢いよく飛び込んできた。

 これがもし本当に悪霊だったら、致命的な隙を晒したことになる。

 だが俺は動けなかった。

 

「ほら、悪霊だったら冷たいけど、暖かいでしょ?」

 

 少女が俺の背中に手を回し強く抱きしめると、優しいぬくもりが伝わってくる。

 懐かしくて甘い香りがした。

 

「まさか、本当に相棒……リーンなのか?」

 

「そうだよ。ただいま、ハル」

 

「あ、あぁ……」

 

 名前を呼ばれたらもう、駄目だった。

 剣は手から零れ落ち、両腕でリーンを強く抱きしめる。

 

「よしよし、やっぱりハルは私がいないと駄目ねぇ……よし、一旦離れようか。離れよう。離れなさいって」

 

 俺が抱きしめて放さないものだから、いい加減恥ずかしくなったのだろう。

 リーンが腕の中で暴れ出す。

 

 悪いがもう少しだけ付き合ってもらう。

 俺だって相棒に涙を見せるのは恥ずかしいんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃぁ吐息を浴びる直前で、リーンは精霊世界に逃げ込んだというわけか」

 

「そうそう。一か八かの賭けだったけど、なんとか成功したの。でも人間が精霊世界を訪れた例が皆無で、帰れるようになるまで凄い時間がかかっちゃった」

 

 リーンは精霊使いで、様々な精霊を使役して戦うのが得意だ。

 竜の攻撃は苛烈で、次の攻撃は防げないと悟ったリーンは、最後に召喚した風精霊が精霊世界へ帰還する(ゲート)に、便乗して飛び込んだのだという。

 

「普通の人間なら精霊世界の環境に耐えられなくて死んじゃうらしいんだけど、私は強い精霊の加護を持ってたから、皆が守ってくれたの」

 

 最初は体を動かすだけでも激痛が走る程だったが、少しずつ体が精霊世界に馴染み始める。

 余裕がでてきたとろで現世への帰還を試みたが、その手段がなかった。

 

 現世と精霊世界は門を作ることによって行き来できるが、門は現世側は人間が、精霊世界側は精霊しか作れないというルールがあったのだ。

 

「じゃぁ私自身が精霊になるしかないよね、ってことで、何年もかけて体の半分以上を精霊化させたの」

 

「見た目が変わってないのはそのせいか?」

 

「うん。ハルは年相応に老けたわねぇ。ここの門から現世を観察できたから、ハルが毎年来てたのも知ってた」

 

「それで俺だとすぐにわかったのか」

 

「その恰好だとまだ冒険者を続けてるんでしょう? さすがに第一位階にはなれてないと思うけど」

 

「いや、二十歳の頃になったぞ。リーンの仇……だと思ってた竜を叩き斬った時にな。これも最年少記録だ」

 

「うっそ、あの竜倒したんだ。復讐しようと思って眷属化したサラマンダーを連れて来たけど、出番はなかったね」

 

 リーンが門を開いた時に乗っていた竜、サラマンダーに視線を送る。

 サラマンダーは墓石の横で寝そべってのんびりしていた。

 

「ふーん。私の仇、取ってくれたんだ」

 

「依頼で隣の山脈に行く用事があったから、ついでだ」

 

 ニヤニヤしながらリーンが上目遣いで見てくるので、咄嗟に誤魔化してしまう。

 本当は仇討ちのためだけに赴き、三日三晩戦い続けた死闘だったが絶対に言いたくない。

 

「それにしても、本当に生きていたんだな」

 

「ふふん。冒険者ランクは追い越せても、年齢は追い越せないって言ったよね?」

 

 リーンが薄い胸を張って言い放つ。

 かつて散々聞いていた負け惜しみの言葉を、また聞くことになるとは。

 感傷に浸るとまた目から汗が出そうになるので、俺は冗談を言って誤魔化した。

 

「つまりそんな見た目でも、中身はおっさんの俺よりおば……」

 

「だまらっしゃい! 私は永遠の十七歳なの! いや待って。十七歳と偽って冒険者登録をし直して、第一位階になればハルの記録を破れる?」

 

「自分で偽ってとか言ってるし」

 

「だから黙りなさいってば~」

 

「お師匠様! 何やら凄い気配を感じましたがご無事ですか!?」

 

 丘の麓側から、青髪ツインテールの少女が走ってやってきた。

 リーンの外見年齢より年下で小柄だが、胸部パーツだけはリーンを圧倒している。

 

 現在の俺の弟子、サラサだ。

 詳しい説明は省くが、俺のチート能力は自他問わず才能を引き延ばすことに特化していた。

 なので国からの要請もあり、有望な若者の指導役を引き受けている。

 

「ああ、サラサ。こいつは……」

 

「誰ですか! その女は!」

 

 俺の頬を引っ張るリーンを引きはがしながら説明しようとしたのだが……。

 サラサは一瞬表情が消えたかと思うと、次の瞬間には凄い剣幕で怒っていた。

 

 しまった、サラサは()()()()()()()()()()んだった。

 サラサは上位貴族の娘で、年の離れた兄がいたのだが戦争で死別している。

 その兄と俺は似ているらしく、サラサには良く懐かれていた。

 

「早く私のお師匠様から離れなさい!」

 

 リーンを威嚇しながら魔術の詠唱まで始めてしまう。

 

「ちょ、やめ」

 

「その詠唱は精霊魔術だね。どれどれ、君の師匠の相棒として稽古をつけてあげようじゃないか」

 

 何故かノリノリでサラサの相手をしようとするリーン。

 制止も虚しく、小高い丘の上を派手な魔術が飛び交う羽目になった。

 

「おい、お前のご主人様だろ? なんとかしろよ」

 

 俺は匍匐前進で無用の長物となった墓石の側まで避難すると、近くで寝そべっているサラマンダーを睨みつける。

 だがサラマンダーは、「グルゥ…(無茶言うなよ…)」みたいな感じの、情けない声で鳴くだけだった。

 

 

 

 こうして十四年前に死んだと思っていた相棒が帰ってきた。

 昔は二人っきりのパーティーだったが、新たに一人と一匹が加わり、冒険者として更に名を上げるのだが、それはまた別の物語だ。


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