なぜなら俺は、   作:フェイクライター

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 目の前には()を見つめる人がいる。有象無象の中に埋もれてしまっている私を見つけ出してくれる人がいる。

 凄腕のプロデューサー。

 アイドルの魅力を見抜き、磨き上げる育成のプロ。

 彼女はスポットライトだ。

 私という宝石を輝かせるための光源であり、彼女の瞳という光を浴びて初めて私は輝ける。見つけろ。私を見いだせ。

 私はトップアイドルになれる女だ。

 プロデューサーに声をかける。私の声が野次馬にかき消されて、光に届かない。音はいつまでも光に届かない。息が切れ始めて、光が遠のき始める。誰も光に当たることなく、ただ木端のひとつとして落ちていく。

 行くな。

 私を見くびるな。

 息ができない。

 私は月村手毬なんかに絶対に負けない。あんな問題児なんかに私の輝きは絶対に弱くない。

 私は花海咲季なんかに絶対遅れてなんかない。あんな自信過剰な女なんかより上手く走り切れる。

 とどけ。とどけ!

 塵芥、灰の山。邪魔だ邪魔だ! 私の夢の邪魔をするな!

 私のものだ。

 トップアイドルは。

 私のものなんだ。

 

『ナンバーワン……』

 

 声が聞こえた。光の波長のように波紋を広げて私の心に伝わってくる。私の訴えかけが児玉するように何度も何度も聞こえてくる。どろり、と何かが首を舐める。

 

『ナンバーワンになりたいか』

(ええ! 私はトップアイドルになれる女だもの!)

『ならば、指輪を集め……一番になれ』

 

 私の決意を飲み込むように私の視界に両手が映り込む。神秘的にも悍ましくも見えるその手が首に手をかける。

 ぐしゃり。

 ひしゃげた音を当てながら身体は声に導かれていく。

 

 

✖︎

 

 

 口元に寄せていた蛇の身体のような放送用のマイクの電源を切り、放送部の少女が椅子を半回転させた。一仕事を終えたところで小さく息を吐いて、首にかけたヘッドフォンの位置を整えた。

 

「あとは、落とし主が聞いているかですね」

「そうですね。真城(ましろ)先輩、ありがとうございました」

 

 現初星学園放送部 部長の真城(ゆう)は和やかな顔つきで花海(はなみ)咲季(さき)に言う。放送室の隅に置かれた椅子に腰を下ろしていた咲季は立ち上がり、感謝を伝える。

 

「いいですよ。これも放送部の役目らしいですから。ただ、最初の放送から1時間経っても来ないことを考えると、今日はもう帰られたかもしれないですね」

「なら、その指輪どうする? 咲季っちが預かっておく?」

 

 咲季の隣で同じく待っていた紫雲(しうん)清夏(すみか)が首をかしげながら尋ねる。

 

「わたしが持ってるより学園で保管してもらってた方が落とし主も安心よ」

 

 咲季がポケットから取り出した指輪に三人の目線が集まる。紅い仮面の指輪は血の結晶のようだ。

 この指輪の持ち主はどんな人物なのだろうか? 体格がよく野生味あふれる男性か。それともロック系のカッコ良さ全開なアイドルだろうか。

 三人の中で赤への疑問が沸々と湧いてくるなか、コンコンと放送室のドアがノックされて指輪に閉ざされた視野を広げた。

 

「失礼しますッ!」

 

 溌剌とした声がドアを貫通して聞こえてくる。よく通る可愛らしい声に咲季は覚えがあった。

 開かれたドアを見て、

 

佑芽(うめ)!」

「ああああっ! やっぱりここにいた!!」

 

 声をあげると、咲季の言葉を覆い隠すほどの声量を咲季の妹、花海佑芽は放送室に反響させた。パッと晴れやかな笑顔から発せられる声。響めく放送室。足元が揺れ動く。清夏が『声おっき』と呟くが咲季や優には聞こえない。

 

「お姉ちゃ〜〜〜〜〜〜んっ!!」

 

 駆け出した佑芽は咲季へ突撃していく。

 

「ぐえっ……!」

「咲季っち!?」

「花海さん!?」

 

 タックルを受けた咲季は、日常の中で漏らすことはまず無い呻き声を漏らす。耳に馴染まない声なものだから、清夏と優が慌てて安否を確認する。

 しかし、心配は不要。

 咲季は衝撃をいなして佑芽を受け止めていた。ほっ、と安心するふたりは胸を撫で下ろした手を耳に持っていった。

 直後、雷が落ちた。

 

「こっ……こらぁ〜っ! 佑芽! あなたねえ! 不意打ちでタックルするのやめなさいっていつも言ってるじゃない!」

 

 声を張り上げる咲季が佑芽を離す。ブルドーザーを思わせる脅威の突撃者は悲しそうに肩を落とす。

 

「え〜っ、親愛のハグだよ〜っ!」

「受けそこねると怪我するよーなのは、ハグとは言わないの! とくに今回は清夏や真城先輩だって居たんだから、巻き込んで怪我させたらどうするのよ」

「それは……うん、ふたりともごめんなさい!」

 

 佑芽はずきりと胸が痛み、清夏たちに視線を振ると頭を下げた。

 

「いえ。私には特に被害ありませんでしたし」

「アタシもだよー。にしても、咲季っちの妹さん?」

「はい! 花海佑芽っていいます!」

「そっか。アタシは紫雲清夏、よろしくね佑芽っち」

「うん! よろしくね清夏ちゃん! 真城先輩!」

「はい。よろしくお願いします」

 

 挨拶を済ませる三人を見て咲季は佑芽の頭を撫でる。優しい表情の咲季に朗らかな笑みの佑芽。その様はさながら飼い主に愛でられている犬のようだ。

 体格的には佑芽の方が発育は良く、背も高いが、なるほど確かに咲季が姉だと実感できる。

 

「よしよし。佑芽、さっきのはぜぇ〜ったい、他の子にやっちゃだめよ。危ないから」

「うん! お姉ちゃんにしかやりませーんっ!」

「なら、いいわ」

 

 咲季はこれでひと安心と相槌をうつ。

 

「いやよくないわっ! わたしにもやるなあ!」

 

 けれど、自分への被害は拡大したままである。

 咲季がそのことに気づくと、佑芽は水を浴びたばかりの犬のように悄気(しょげ)ると、淋しそうに言い返す。

 

「えぇ〜、じゃあどうすればいいの〜? この溢れる愛情をさぁ〜!」

「正面から来なさい! あなたの全力を受け止めてあげるわ!」

 

 バシッと指をさして相対する咲季に、佑芽は嬉しそうに一歩、また一歩と助走距離を取り始める。

 

「よぉしっ! すぅ……はぁ……じゃあ、遠慮なくいっっくよぉーー!!」

 

 息を整えて、佑芽は走り出した。

 

「お姉ちゃ〜〜〜〜〜〜〜んっ!!」

 

 放送室から聞こえてはいけない声がする。

 その噂が立ち始めたのはこの瞬間からだった。

 

「お姉ちゃん成分補給完了!!」

 

 清夏たちの目がある中で自慢するように蜜月を過ごした佑芽は、疲れなど知らない満面の笑みを顔に宿す。対して咲季は佑芽に生力という生力を根こそぎ吸い取られたように萎れていた。

 

「大丈夫? 結構アイドルが出しちゃいけない声してたけど」

 

 清夏が声をかけると、咲季は『ふふふ』と余裕そうな声を吐き出す。

 

「大丈夫よ。やれやれね……まったく、甘えん坊な妹で困っちゃうわ」

 

 おっとりとした瞳で佑芽を見る。

 

「さっきのを甘えん坊で済ましていいの?」

「妹からの欲求は全て信愛でしょ」

「そうかな……アタシには妹居ないから分からないけど……なんか違う気がする」

「ふふ。清夏も佑芽みたいな世界で一番可愛い妹を持ったら分かるわ」

「咲季っちて、佑芽っちのこと好きなんだね。でも、佑芽っちが一番可愛いなら咲季っち負けちゃうんじゃない?」

「なんで? 世界で一番可愛くてカッコいいのはわたしなのに?」

「あ……うん」

 

 自信に満ち溢れた咲季の顔は、自分のよさも妹のよさも全て当然のものとしてみていて、清夏は気圧されてしまう。

 

「ところで、花海さんは何しにきたんですか」

「お姉ちゃんと一緒に帰ろうと思って、匂いを追ってきました! お姉ちゃんたちこそ、なんで放送室にいるの?」

(大型犬かな?)

 

 清夏と優は怪訝な瞳で佑芽の鼻を見た。

 

「あなた、さっきの放送きいてなかったの」

「放送?」

「この指輪のことよ」

 

 咲季は紅い指輪を佑芽に見せる。清夏たちは耳を塞ぐ用意をしていた。きっと、感情のままに感想を吐き出すだろう。数分だけの––––それでも十分な経験からくる予測だった。

 けれど、ふたりの考えとは裏腹に佑芽は黙ったまま食い入るように指輪を見ていた。

 

「この指輪の持ち主を探してるの」

「…………」

「佑芽?」

 

 ゆらゆらと歩き始めた佑芽は、紅い仮面の指輪を掴もうと手を伸ばす。

 

「佑芽。どうしたの?」

「ナン––––」

「指輪の放送を聞いてきたんだけど。……外もうるさいが、中も賑やかだね」

 

 指輪を嵌めようとした指は闖入者のひと声で動きを止めた。

 咲季にも、佑芽にも聞き覚えがある声だった。

 ドアの前には黒いスーツを着た男性が立っている。どこか影のある威圧感を持った青年は、疑り深い瞳で四人を見ていた。

 

「クオンさん」

「あたしを振った人!!」

「ええ!?」

「誤解を招く言い方は避けた方がいいですよ、花海佑芽さん。それにまだ吟味中なだけです。……にしても」

 

 現れた遠野久光(クオン)は最前会った歌唱対決のときより、少しピリピリとした緊張感を放っていた。咲季を軽くねめる。

 

「それで赤い指輪、というのは」

「……これだけど」

 

 紅い指輪を見せると、クオンの目の色がハッキリと変わる。

 

「本当にある、のか」

 

(そんなに大事なものなのかしら)

 

 クオンの眼はアイドルを推し量るときの物とはまるで違う。大切な子供を保護する親を思わせる優しい色をしていた。

 

(間違いない、吠の指輪……ゴジュウウルフの指輪だ)

 

 その優しげな瞳からは読み取れないほどの情動がクオンの中に渦巻いていた。

 ウルフの指輪が花海咲季の手元にある理由。

 

(考えられるとしたら、この世界で指輪の契約をした存在……)

「……?」

 

 スーツのポケットに仕舞っている機能不全に陥った女王【テガジューン】の指輪を意識しながら、クオンは理屈としておかしい現状を整理し始める。

 

「講堂近くで拾ったという話でしたね。それは本当ですか?」

「ええ。そうだけど」

「見落としがありましたか……見つけてくださりありがとうございます」

 

 クオンは指輪を受け取る前に咲季に問いかける。

 

「ところで最後に確認なのですが」

「なによ」

「その指輪、本当に手放してしまって問題ないんですね?」

「は?」

 

 困惑が咲季の口をついて出る。持ち主が目の前にいるのに返すのを渋る人がどこにいるのか。

 

「貴方のものなんでしょ、持ち主に返すのは当たり前よ。……それとも本当は貴方のものじゃない、とか?」

「いえいえ。この指輪は人を魅了する力を持っていまして。一度手に入れると手放すのを嫌がる人が多いんです。変なことをお聞きしてしまいすみません」

「曰くつきの指輪ってこと?」

「有り体に言えば」

 

 クオンはおもむろに頷いた。

 

「この指輪があれば、花海咲季さんの願いが叶うかもしれませんね」

「あり得ないわね」

 

 フンッ、と不愉快そうに咲季は目尻を吊り上げ鋭利な眼光をクオンに浴びせる。

 

「それに叶うとしても、はいお願いします、なんてしてもらうわけないじゃない! ちっっとも面白くないわ! そういう最後のひと押しは、自分でやれるところまで突き詰めてからよ」

「流石は首席合格者。いい心構えですね」

「当然じゃない。この学園に入学するためにどれだけのことをしてきたと思ってるの」

「さあ……僕には想像もつきません」

 

 実際、クオンには考えもつかなかった。

 アイドルになりたいと思う奴らの性根も、プロデューサーとして好きな相手を支えたいという願いも、もう理解できない。

 クオンは部外者だ。

 客観的事実から言い表せる花海咲季と月村手毬への感想は、研鑽の賜物、となるだろう。花海咲季は元アスリートにも関わらずアイドル専門校に首席合格を果たし、その実力も確かなものだとクオンは自身の眼で確認している。月村手毬は言わずもがな、内部進学組としての圧倒的実力で咲季を踏み躙った。

 誰も知らない事実から来る虚無感を相手に対する礼儀とふたりの現実で包み込む。

 

「意外ですね、もっとオラついた感じのあぶなーい人が持ってそうなイメージだった」

「思ったより上品な感じですよね」

 

 咲季とクオンが対峙するそばで清夏と優がひっそりと話し合う。どちらかというと身につけているスーツのように黒色、もしくは紺が似合いそうな印象だ。

 けれど、ネクタイや靴は赤色を使っている。

 似合わないわけではないが、赤だけ明かりが強すぎる。

 

「まあ確かに。最初は危ない印象かもね」

「え? クオンさんのことじゃないですよ」

「そうかな? 僕も実際は危ない男かもしれないよ」

 

 妖しく笑うクオンは整った容姿なのが災いして、本当に危険な艶めかしさがある。プロデューサーという裏方の仕事ではなく、アイドルのような表の仕事でも十分通じそうなほどだ。その上、逸話を語るピュアな部分もある。

 不思議な人物。

 咲季の眼から見ても、清夏の眼から見ても、どことなく浮いている。赤色の仕業かもしれなかった。

 

「もしかしてクオンさんって、意外に呪いとか御伽話とか信じるタイプなんですか?」

「いえ。信じませんよ。神も女王も糞食らえですから」

「おおっと……結構口悪い……」

「僕には似合いませんでしたね。失礼しました」

 

 クオンは改めて咲季から赤い指輪を受け取る。

 ウルフの指輪を握りしめて、自身の手の中にある実感を確かめる。何度手を開いても、ウルフの指輪は手元にある。

 

(なんだ……なんでこうもあっさり戻ってきている?)

 

 あっさりとこの手に戻ってきたことにクオンは違和感を覚える。

 破滅の王子【テガナグール】がクオンを襲い、ウルフの指輪を奪ったのだと推察していた。指輪を奪われたのはプロデューサー科の入学式が行われた体育館周り。対して、咲季が指輪を見つけた場所は講堂。

 体育館と講堂の間には学園の敷地内を横たわるように流れる河川があり、風で転がっていきました、などという偶然は起こりようがない。

 何者か――十中八九【テガナグール】だが――が、咲季の前に指輪をよこしたに違いない。

 

(にも関わらず、闘いにもならない? こんな馬鹿げたことがあるか?)

 

 クオンの現状への疑問は膨れ上がるばかりだ。

 

「花海さん、ありがとうございます。本当に助かりました」

「いいですよ。当然のことをしたまでだもの」

 

 けれど、疑問については独りでゆっくりと考えよう。

 わざわざ他人(ひと)の眼がある中でいつまでも呆然としているわけにはいかない。

 クオンと咲季含め、五人は放送室の戸締り等を行う。部屋を出て、優がドアを鍵をかける。ガチャリと施錠音がすると、優は一仕事終えた達成感に包まれる。

 

「私は鍵を返しに職員室に向かいますので、ここで失礼しますね」

 

 優は咲季たちとは別方向に足を進め始めた。

 その背中を少し見送ったあと、清夏がクオンに話しかける。

 

「クオっちはさ、ひとりだけ?」

「そうですが……クオっち、とはなんですか」

「クオンだからクオっち。クオンっちだと言いづらいし、親しみを込めて」

「やめてください。変な誤解を生みます」

「いいじゃん。そんなに歳も離れてないんだしさー」

 

 クオンは馴れ合いが好きではない。必要のないものとして切り捨てて良いものだと断じている。アイドル科とプロデューサー科という関係の建前、そして清夏の声が頼るような声でなければ睨みつけていただろう。

 

「貴方、友達は?」

 

 清夏の追求を引き継いだ咲季が訊ねると、神妙な面持ちのクオンに清夏と咲季は息を呑む。

 

「アイドルの皆様にプロデューサー科の生徒として一言申し上げます。常日頃からアイドルであることは心がけてください。誰にどう見られているか、分かりませんから」

「えっ!? こわっ!! どういうこと!?」

「咲季さん。貴方は私に、よく調べている、と仰っていましたが……どうやっていたと思いますか?」

 

 合点がいった咲季は両腕で身体を抱えて突き放すように言う。

 

「変態」

 

 物分かりがいい子は好きだ。

 新縁(さらえ)も他のプロデューサー科の生徒も影ながらプロデュース候補の生徒たちを見つめている。この学園内でしていることなら全て把握されていると考えたほうがいいだろう。

 

「失礼な。プロデュースの一環です」

「変態ってなに!? どんなことしてるの!?」

 

 清夏は顔を赤くしながら身を引き始める。

 

「なので、アイドルを目指すならこの学園でも外でも常々意識をしていてください。その努力は身を結びますから」

 

 自分で言っていてあまりにも白々しい言葉だ。風が吹けば崩壊しそうなほどのやわなもの。なんの力も無い意味のない言葉を投げかけている自分にイライラする。

 その言葉で満足されそうな空間にいることも憎々しい。

 それにしても、とクオンは意識を切り替えるように目線を咲季たちから移す。同時に眼を動かしたのは咲季だった。

 いつもならどんちゃん騒ぎをして話をかき乱しそうな人物が黙ったままなのが、ふたりの意識を向かわせる。

 

「どうしたの、佑芽」

「えっ。なんでもないよ! それよりも、なんか外が楽しそうだよ!」

 

 佑芽は首を振って、廊下の窓から外を覗き込む。

 けれど、ふたりは気づいていた。佑芽が見ていたのはクオンが握っていたウルフの指輪。

 

「……ん? なんだろう。なんか変だよ」

 

 彼女の口から溢されたのは誤魔化しなどではなく、純粋な疑念。重いトーンの声が床に落ちると、外の騒ぎ声が物騒な慄きに変わっていく。

 騒ぎは大きくなり、1秒ごとに恐怖が鮮明になる。

 

「え、なに」

「なにかしら」

 

 清夏と咲季も窓辺に寄って外を見る。

 続けてクオンも騒ぎ方の毛色が変わったのを感じ取った。耳に馴染むほど聞き慣れてしまった声。

 人々の悲鳴、悲嘆。

 外には女子生徒の集団がいた。

 中心にいるのは犬束(いぬづか)静紅(しずく)であるが、彼女は腰を抜かして倒れ込んでいた。誰かに押し倒されたらしく、地面にぶつけて怪我をした左肩を右手で押さえている。

 彼女の先にいるのは、おそらくアイドル科の生徒。

 清夏は見覚えがあった。クラスメイトの子で友達になっている相手だった。四谷(よつや)リリと言っていた。

 頭を抱える女子生徒はよろよろと力なく歩き、犬束の前まで来ると、ガッ!と身体を空に向けて叫びを上げた。軋むような断末魔の声に皆が恐怖している。

 叫びの声が呼んだのは恐怖だけではない。

 どろりと、四谷の足元から広がるのは泥のように粘性を帯びた炎だった。炎は赤く燃えさかると、ライオン火の輪潜りのような紋章を四谷の背後に描き出す。

 

 

––––ジェネレイティブ

 

 

(ファイヤキャンドル……?)

 

 クオンは炎に包まれた少女にある男の姿を重ねる。炎を手懐ける様と、その男が愛用するのと同じ燭台を模した長い柄のランスを手にした姿が存在を意識させた。炎が全身にまとわりつき始めた少女は狂ったような笑顔のまま、身の丈に合わないランスを怒号とともに横薙ぎ一閃で振りきる。

 

「こっちに来るよ!?」

 

 炎の斬撃が咲季たちに迫る。

 逃げ出そうとする前に、校舎を襲った炎による爆裂に巻き込まれ黒煙に包まれる。背中が熱風にさらされ、神経が焼き切れる感覚。

 咲季は爆風に押されて吹き飛ばされる佑芽に手を伸ばす。

 

「佑芽ッ!!」

 

 けれど、咲季の手は佑芽に届かない。

 

「佑芽ぇぇ!」

 

 視界が全て黒に包まれる直前、宙にパッくりと裂けた傷口が生まれる。その裂け目の中の毒々しい空間に咲季たちは飲み込まれていった。

皆さんの興味について聞きたいです

  • 学マスもゴジュウジャーも知ってる
  • 学園アイドルマスターだけやってる
  • ゴジュウジャーだけ見てる
  • どちらも知らない
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