神域の料理人が往く食戟のソーマ   作:あさやん&あさやん

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思ったよりも葉山やえりなの料理に文字数を取られてしまいましたので、カムイの料理の審査は次回となります。

また、【秋の選抜戦】も次回で終了となります。




第三十八皿

 

 

 

 調理時間が終了し、えりな・葉山・カムイの三人が盛りつけに入る。最初の審査は葉山からだった。

 

 

「お待たせいたしました。【石焼き風 ビリヤーニ】でございます」

 

 葉山が運んできたのは、熱々の石鍋で焼いた混ぜご飯風のライスを盛り付けた料理であった。また、傍にはスパイスの香りが漂うスープが添えられている。

 

 

「ふむ、熱した石鍋に味付けしたご飯を乗せて焼く。韓国料理の【石焼ビビンバ】に近いな」

 

「しかし【石焼きビビンバ】は白米を使う。また味付けにはコチュジャンを使うのが特徴だ」

 

「ですがこの料理は白米ではなく、予め味付けした混ぜご飯を使用。それにコチュジャンではなく、添えられているスープをかけて食べるみたいだな」

 

 

「はい。そのままでも美味しく食べられますが、是非ともスープをかけてお召し上がりください」

 

「うむ、そうか。ではそのようにしよう」

 

 葉山に言われた通り、三人は添えられているスープを石鍋にかけると

 

 

ジュワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!

 

 

 高温に熱しられた石鍋がスープを瞬く間に蒸発させる!

 

 その瞬間、スープに溶け込んでいたスパイスの香りとライスが焦げた香ばしさが蒸気で煽られ、心地よい音と共に会場中を満たした!

 

 

「っ、これは、何という演出よ!」

 

「スパイスの香りを伴った蒸気によって、ライスとスープに溶け込んでいた香りが花を開き食欲をそそる!」

 

「さらには熱せられた石鍋がスープの水分を蒸発させる音とご飯が焦げつく音によって、味への期待は否応なしに膨らむ!」

 

 食欲を刺激する香りと音によって審査員だけではなく、観客たちまでもがヨダレを垂らしている。

 これまでの葉山はその鋭敏な嗅覚によって、自身しか生み出せない『香り』を武器にしていた。

 

 しかし今回は『嗅覚』だけに留まらず、『聴覚』にまで訴えかける料理を作り上げたのだ。

 これまでの葉山の料理とは明らかに一線を画す品、その完成度たるや仙左衛門と宗衛が『おにやけ』をするほどである。

 

 

「カムイ、『コレ』はお前の分だ。薙切えりなも食べてみてくれ」

 

「あら奇遇ね、私も二人の分を用意していたのよ。ありがたくいただくわ」

「ん」

 

 審査員と観客たちが夢中になる一方で、葉山はえりなとカムイにも自分の品を手渡す。

 これにより『観客は観客』『審査員は審査員』『選手は選手』という奇妙な場となってしまった。

 

 

「この世全ての食材に、感謝を込めて、『いただきます』」

 

 

 香りと音から味への期待感が最高潮に高まる。それはカムイが礼を尽くすほどの料理であり、五人は葉山の品を一口頬張る。

 

 

 その瞬間、多重構造的な旨味と香りが口の中いっぱいに広がった!!!

 

 

「っ、素晴らしい。スープの香りと『渋味』、そして具材に使った魚介類の旨味が『バスマティライス』の旨味と香りを最大限に引き出している!!!」

 

 『バスマティライス』。インドやパキスタンで栽培されるインディカ米の一種で、細長い形状と独特の香りが特徴の高級米である。

 

 細長く、炊くと粒がふわふわとしており、粘り気が少ないため他の米と比べて食感が軽い。

 インド料理やパキスタン料理で広く使用されており、特にビリヤーニやカレーなどの料理に最適。

 

 また水分を吸収しにくいため、汁気の多い料理との相性が良い。その香りと食感から「香りの女王」とも呼ばれ、世界中で高級米として重宝されている。

 

 

「スープと『バスマティライス』の相性は言うに及ばず! スープの味を吸ったライスが、混ぜられている具材と共にその旨味を爆発させている!!!」

 

「本場インドのカレーは日本とは違いトロみが無い、だからこそ東南アジアの米がよく合う。

 そしてこのスープはまさしく『スープカレー』! 『バスマティライス』の【ビリヤーニ】に、日本で生まれた『スープカレー』を合わせるとは!!!」

 

 『スープカレー』とはその名の通り、通常のとろみのついたルーカレーとは異なるサラサラとしたスープ状のカレーである。

 

 元々は北海道の郷土料理であるものの、今では単なる郷土料理とは思えないほど全国的に普及している。

 

『小麦粉を使っていないこと』

『具材とは別に出汁を取っていること』

『スパイス重視のスープ状であること』

 

 『スープカレー』の定義というのは特に定まっていないが、強いて挙げるならば、このあたりと言ったところだろう。

 

 本場インドのカレーのようにサラサラしているものの、入念に出汁を取っていることから本場インドのカレーとも異なる。まさしく日本独自のカレーと言える。

 

 

(ふぅ、幸平のヤツめ。いきなり『混ぜご飯をスープカレーでお茶漬けみたいにするのはどうだ?』なんて言い出した時には、何を考えてんだと思ったりもしたが…………おかげで『米』の甘さと香ばしさを最大限押し出すことができた)

 

 

 葉山の料理は、幸平が『食材の声』を感じ取ったことで生まれたものだった。

 

 元々『お茶漬け』の魅力であるサラサラとした味わいは日本人の好物であるが、日本米は柔らかすぎることから『お茶漬け』にするには不向きでもある。

 

 その欠点を克服するべく『バスマティライス』を使用。さらに味が単調になるのを防ぎつつ旨味を掛け合わせるため、『米』と相性の良い海産物の加工食品や発酵食品の味を黒木場と共に調整した。

 

 最後の『起爆剤』となる『スープカレー』はもちろん葉山の出番。優れた嗅覚を存分に駆使して、見事『ビリヤーニ』に合う『スープカレー』を作り上げたのだ。

 

 

 

「意外だわ、一見単純な組み合わせ。実際にあっても不思議じゃなさそうなのに、今まで考えつかなかった。しかもこんなに新しい発見があるだなんて…………!」

 

「この『渋味』、『マジックスパイスウォーター』か」

 

「気づいたか、まぁ当然か。そう、この『スープカレー』はお前の『マジックスパイスウオーター』を応用したものだ。

 おかげでスパイスの香りを下地に、『バスマティライス』の香りと旨味を引き立たせることが出来た」

 

 『マジックスパイスウオーター』は以前カムイがカレーに使った手法で、本来は前面に出てくるフレッシュなスパイスの香りを『下地』として食材に染み込ませることが出来る。

 

 葉山は『バスマティライス』の香りを活かすために『マジックスパイスウオーター』を使うことで、課題である『米』の魅力を余すことなく引き出したのだ。

 

 

 さらに『ビリヤーニ』からの『スープカレー』を使った『ビビンバ』。

 これは幸平が選抜の決勝戦で使った『炊き込みご飯』から『おじや』にした時に近いやり方である。

 

 この演出方法も当然ながら幸平の発案であり、葉山は幸平のアイディアを元にしつつ、自身の嗅覚を頼りにオリジナルの『マジックスパイスウオーター』を作った。

 

 こうして幸平と黒木場の協力により、『旨味の爆発』『渋味による味の強調』『素材同士の一体感』を伴った品になったのである。

 

 

「ごちそうさまでした」

「同じく、御馳走様」

 

「おう。それでどうだったよ、俺の料理は?」

 

「そうね。香りの活かし方、『米』の引き立たせ方、味の構成、食欲を掻き立てる演出。

 どれをとっても一級品と呼べる皿だったわ、これなら一流店でも『看板料理 スペシャリテ』として十分通用するでしょう」

 

「そうか、ありがとよ。で、カムイはどうだ?」

 

 『神の舌』を持つえりなからの最大級の賞賛、もし葉山が自分の店を持っていたら翌日には客が長蛇の列をなすだろう。

 えりなに認められて手ごたえを感じた葉山は、続けてカムイにも感想を求める。

 

 

「この料理、幸平に、協力してもらったのか?」

 

「っ…………ああ。料理の構想や食材選びなんかを手伝ってもらった。あと黒木場にも具材の調理や味付けについて協力してもらったな。

 おまけにお前の十八番である『マジックスパイスウオーター』まで使っちまった。俺を卑怯だと思うか?」

 

 自身にとっての図星をズバリ言い当てられた葉山は、今までの余裕たっぷりな表情を崩してバツが悪そうな顔をする。

 

 またカムイは自身でも味が感じられるほど『食材』の旨味が活性化していたことから、この料理の製作には幸平が関わっていると気づいた。

 

 一応、料理の制作に他人の力を借りてはいけないというルールは無い。だがそれでも自分一人の力で作り上げた味ではないため、葉山としても若干の後ろめたさがあった。

 

 

「フルフル、別に思わない。葉山アキラ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見事な品だった」

 

 

 

 

「っ~~~~~! ふっ、そうか、ありがとよ」

 

 

 葉山が幸平と黒木場に協力してもらったことも、『マジックスパイスウオーター』を使ったことも、カムイは一切咎めなかった。

 

 むしろこの皿を『葉山の料理』として認めてくれた。

 

 葉山も葉山で顔にこそ出さないよう努めてはいたが、心の中ではガッツポーズをしながら跳び上がるほど喜んでいた。

 

 一方で審査員たちも葉山の料理を絶賛、そのクオリティの高さは仙左衛門と宗衛の『おさずけパルス』が会場中に放つほどである。

 

 ただし、観客たちは強制的に衣服をはだけさせられたことから、別の意味で騒然となっていた。

 

 

 

 観客たちは自分の服を着終えて、ようやく落ち着きを取り戻す。

 

 とても学生が作ったとは思えない美食を作り出した葉山の審査が終わり、次は『神の舌』を持つえりなの番。

 

 月明かりに照らされながら運ばれた料理は、見た目は『ただの球体』のようだったのだが、問題はその『香り』だった。

 

 

「なんとかぐわしい香り! 鼻腔をトロけさせ、胸をときめかせるこの『香り』は……………『香り米』か!」

 

「はい、【香り米の鍋巴】でございます。どうぞお召し上がりください」

 

 『香り米(かおりまい)』とは、数ある米の中でも玄米に香りを持つ品種の総称であり、葉山が使った『バスマティライス』もその1つ。

 

 しかし日本の『香り米』は明治中期以降、収量が低いことや香りが鼠の尿のように感じられることがあることを問題視された過去を持つ。

 そのため全国的に普通米の奨励品種によって淘汰されていき、最終的には日本各地で細々とでのみ栽培が続けられるようになった。

 

 今でこそ栽培する米農家も上昇傾向にあるが、それでも普通米に比べて市場に出回る量はまだまだ少ないと言える。

 

 

「やはり【鍋巴】か。ということは」

 

 仙左衛門がえりなの料理の狙いにアタリをつけ、ドーム状に包まれている【鍋巴】をフォークで割った瞬間

 

 

ジュワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!!

 

 

 葉山同様、蒸気と共に巻き起こる香りと音が会場中の食欲を掻き立てる!

 だが葉山の料理の香りは『スパイス』であったが、えりなは『大地の恵み』を感じさせるような素敵な甘さの香りだった。

 

 

「おお! カップに入っている熱々の『餡』にカラカラに乾いた【鍋巴】が触れた瞬間、一気に香りと音が広がった!」

 

「葉山アキラと同じく、食す者の期待と食欲を高める香りと音の演出は見事だ!」

 

 

「っ、なるほどな、どうやらお互い『狙いは同じ』だったってワケか」

 

「ええ、そうみたいね。はい、カムイくんの分。葉山くんもどうぞ」

 

「ん。この世全ての食材に、感謝を込めて、『いただきます』」

「ああ、いただくぜ」

 

 

 審査員に続いて葉山とカムイもえりなの料理を試食する。

 

 おこげのドームを崩すと、最初に閉じ込められた香りが優しく鼻腔をくすぐり、次に崩れた【鍋巴】がカップの中の『あん』に落ちて香ばしい香りと音を響かせる。

 

 まさしく『香りの変奏曲』。もし店でこの品を出せば、これだけで大人気になることは間違いないだろう。

 

 審査員とカムイ&葉山は香りと音を存分に楽しみ、いよいよ味見に入る。『おこげ』を『あん』に浸し、熱々の【鍋巴】をフォークで一口頬張る。

 

 すると見た目からは想像もつかない上品な甘さと胸をときめかせる香り! そしてコクたっぷりの『あん』の旨味が口の中いっぱいに広がった!!!

 

 

「むう! 『米』の香りと焦げた『苦味』、もとい『香ばしさ』は葉山アキラと互角!

 だがオーブンで【鍋巴】を揚げ焼きにしたことで生まれた『油の美味さ』が、米の香ばしさを一層輝かせている!!!」

 

「しかもトロけるような旨味とネットリとしたコクたっぷりの『あん』が【鍋巴】に染み込んだことで、米の美味さが爆発している!」

 

「この『あん』の味は、『スッポン』! 『まる雑炊』で知られるように『スッポン』と『米』の味の相性は抜群!

 『スッポン』由来のゼラチン質と焦げた『米』の香ばしさと甘み! 相性の良いもの同士を組み合わせることで、その味を最大限に高めているのだ!!!」

 

 審査員たちはえりなの料理を絶賛! その完成度たるや、仙左衛門と宗衛は観客たちへ『おさずけ』するほどであった!

 評価も明らかに葉山以上であり、観客たちも『流石はえりな様!』と衣服を回収しながら口を揃えている。

 

 またその事実は、料理を食べている葉山本人が誰よりも実感していた。

 

 

(あの時水戸さんが持ってきてくれた菓子の中にあった『お煎餅』、アレのおかげで「焦げた米の香ばしさ」を前面に出すことを思いついた……………でも、まさか葉山くんも同じ考えだったとはね)

 

 水戸が差し入れに持ってきた『煎餅』を見て、えりなは『米』を焦がすことで生まれる『香ばしさ』を武器にすることを閃いた。

 しかし『おこげ』は日本や中国などがメジャーであり、エスニック料理を得意とする葉山が『おこげ』を使って米の魅力を引き立たせるとは思っていなかったのだ。

 

 

「だが、この料理の秘密はそれだけではない。この濃厚な『あん』に微かに含まれている爽やかな『酸味』のあるコク!

 この酸味が【鍋巴】と『あん』のしつこさを打ち消しつつ、かつ洋風に近づけさせており、和風・中華のいずれにも属さないオリジナリティを出しているのだ!」

 

「この酸味は………『アレルノン』か!」

 

「はい。出来たばかりの新鮮な『アレルノン』を滋賀県から取り寄せました。

 その『アレルノン』を水切りして『乳清』を減らすことで、甘酸っぱさを抑えつつコクのみを強調したのです」

 

「なるほど。出来立ての『アレルノン』を水切りしたからこそ、『熟成された米のコク』が加わることで、味わいに一体感が出たというわけか」

 

 

 『アレルノン』。滋賀県高島市で作られた植物性ヨーグルトで、無農薬の米と伝統的な乳酸菌を使用して作られる。

 通常のヨーグルトとは違ってアレルゲン27品目や添加物を使用しないため、シンプルな原材料と安全性から健康食として親しまれている。

 

 原材料は『米』ながらも風味はレモンやゆずに近く、なめらかな食感が特徴。

 

 乳酸菌の酸味と米由来のやさしい甘みがバランスよく引き立て合い、一般的なヨーグルトには無い素朴な味わいが楽しめる発酵食品なのだ。

 

 

「くっ! 『香り米』の甘さと香りが、これほど『スッポン』に合うとはな。それにこの『スッポン』は…………!」

 

「ええ、選抜戦でアナタが敗った緋沙子に教わったのよ。【鍋巴】で蓋をすることで『具材』と『米』の一体感を高める手法は、水戸さんに協力してもらったわ。

 【鍋巴】は言ってみれば、『あん』という具の味を『米』に染み込ませた【丼】のようなものだもの」

 

「っ、なるほどな、従者の仇を主が討つってわけか。やってくれるじゃねえか」

 

「ふふ♪ そうね。悪いけれど、少しばかり意趣返しをさせてもらったわ」

 

 新戸の『薬膳』と水戸の『丼』、それらを『神の舌』によって最高レベルまで高めたえりなの料理はまさに『スペシャリテ』と呼ぶに相応しい品であった。

 

 また『スッポン』を使うことで、自分の従者である新戸の雪辱を晴らすばかりか、予選で葉山がやったように『パイ包み』『乳酸菌の酸味』という技法を用いることで自分の料理を昇華させる。

 

 葉山を意識したこの料理は、まさに一石三鳥の料理とも言えるだろう。

 

 

「そ、それで…………どうだった、カムイくん。私の料理、美味しかった?///////////」

 

 葉山への意趣返しをイタズラが成功した子どもみたいに喜ぶえりなだったが、カムイに料理の感想を尋ねると途端に顔を赤らめてしまう。

 

 恋愛感情の有無は別として、自身が意識している異性へ面と向かって接するのには未だに慣れないのだろう。

 

 

「ん、美味かった」

 

「っ、ホ、ホント!? 私………いいえ、『私たち』が作った料理の味、ちゃんと感じた?///////////」

 

「ん、ちゃんと感じた。見事だ、えりな」

 

「っ~~~~~~~~!//////////////」グッ!

 

 カムイの率直な感想にえりなは顔を真っ赤にさせながらも、後ろを向いて新戸と水戸へガッツポーズを見せる。

 この料理は自分だけではなく二人と一緒に作った皿、だからこそえりなも『私』ではなく『私たち』と言い直した。

 

 そんな三人で苦心した料理が世界最高峰の料理人に認められたという事実は、えりなにとって自分の皿が認められるよりも嬉しいことなのだろう。

 

 カムイの感想とえりなのリアクションを見て、新戸も水戸も大喜び。新戸にいたっては涙を拭っているほどに感極まっていた。

 

 

(やったわ! ついにやった! カムイくんのサポート無しに彼から『美味しい』という言葉を引き出せた♪ ふふん、ざまぁみなさい幸平くん。私の勝ちよ♪)

 

 

 無論カムイから『美味しい』と言われたえりなも、表には出さないようにしていたが、内心では大はしゃぎしていた。

 そして観客席にいた幸平とたまたま目が合ったことで、忘れずドヤ顔をする。

 

 えりなの顔から何が言いたいのか理解した幸平は分かりやすいぐらいに悔しがり、それを見たえりなは更に上機嫌となった。

 

 

 

 えりなと葉山の料理の試食が終わり、ここまではえりな有利の展開。この二人だけの勝負なら間違いなく、えりなの勝ちで終わるだろう。

 

 しかし、このままでは終わらないことを会場にいる全員………特に選手たちは理解していた。

 

 

『で、では最後の審査となります。カ、カムイ選手、サーブをどうぞ!』

 

 司会者に促されてカムイが料理を運んでいく。カムイの長い銀髪が夜空の光を反射し、カムイの神秘性をより際立たせている。

 

 ただ料理を運んでいるだけだと言うのに隙の無い佇まい。月明かりの下を歩くその姿は、月の女神すら魅了するほどの雰囲気を漂わせていた。

 

 えりなも葉山も自身の全てを出し尽くし、『満点』と呼べる皿を出した自負がある。

 観客たちもそう思っているだろう、だが同時にこうも思っている。

 

 

 『カムイはその「満点」すらも超えてくる!』と。

 

 

「これは…………っ!」

「炊き込みご飯、か? しかし湯気が立っていないな………っ!」

「前二人と比べると何の演出も無し、か…………っ!」

 

 会場中の視線がカムイの料理に集まる中で出てきたのは、サラダボウルに盛られた『混ぜご飯』だった。

 

 しかもえりなと葉山は『香り』と『音』によって、食す前から客の食欲と期待を掻き立てる演出をしていたのに対し、カムイは普通に料理を運んだだけ。

 

 あまりにも普通過ぎる光景に審査員や観客だけではなく、えりなと葉山までも拍子抜けをしてしまう。

 

 だがそれも一瞬のこと、カムイの皿から漂ってくる不思議な『存在感』に引き込まれてしまった!!!

 

 

「っ、ど、どういうことだ!? 見た目はただの【炊き込みご飯】なのに、目が離せねえほど『食欲』が出てくる…………!」

 

「葉山くんもなの!? 私も………いいえ、審査員も含めて会場の全員が、カムイくんの料理に釘付けになっているわ!」

 

 えりなと葉山は世にも奇妙な感覚に陥っていた。ただの【炊き込みご飯】、興味をそそられそうな音はおろか香りさえ無い。

 

 ≪食いたい!!!≫

 

 それなのに何故か目を離せないばかりか、異常なまでの食欲が前面に出てきて抑えられないのだ!!!

 

 

「この感覚、まるであの時みたい………そう、カムイくんの『肉料理』を見た時と同じ、『食欲』を剥き出しされて他の何も考えられなくなる感覚…………!」

 

「あんな何の変哲もない料理に、それだけの『旨味』が内包しているってことかよ…………!」

 

 

「不思議な感覚だ、特に興味がそそられるような要素は何も無いというのに!」

 

「香りや音と言った『嗅覚』や『聴覚』ではなく、まるで全身の細胞がこの料理を求めているかのように目が離せない!」

 

 もはや目の前の料理が人知や人間の理解を超えた『ナニカ』にしか見えなくなっており、一刻も早く『味』について知りたい気持ちでいっぱいになった。

 

 

 口では説明がつかない事態に会場が得体のしれない空気に包まれる。そんな中、仙左衛門がカムイへ料理について尋ねた。

 

「カムイよ、この料理は………いったい、『何』なのだ?」

 

 見た目に反して奇々怪々な現象を引き起こすカムイの料理。

 

 仙左衛門も何をどう聞けばいいのか分からないため、逆に質問がシンプルになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の、『フルコース』の【サラダ】、のようなもの」

 

 

 

 カムイの口からもたらされた驚愕の一言に、会場の空気が一転して息を呑んだ!!!

 

 

 






カムイはともかく、葉山とえりなの料理はホントーーーーーーに悩まされました。

特にえりなは原作でも料理を作っている描写が少ないので、どんな料理にするか最後の最後まで難産でした。

それでは皆さん、次回で♪
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