仕事で疲れているはずなのに心に靄がかかってしまって眠れない私が、靄の正体に迫るお話。

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 語り部である「私」は自己肯定感が低いのでしょう。初投稿なので読みにくい文章だとは思いますが読んでいただけると幸いです。


第1話

 ここ数年、季節の変わり目を感じることも少なくなってきた。先週までは半袖で過ごせていたようにも思う。しかし今週はどうだろうか。朝、目が覚めて洗濯物を干しにベランダへ出ると、煙草の煙を吐き出しているかのように息が白い。もうこの国からは四季がなくなってしまったように思う。だんだんと遅くなる日の出を感じながら出勤して、丸一日仕事をする。そしてなんとか仕事を終え、だんだんと早くなる日の入を感じながら帰宅する。帰宅してからも秋の夜長に読書なんてものを楽しむ余裕も無い。文明的生活を送る為に夕飯を作り、皿を洗う。そして入浴を終えたころにはもう就寝時間にななる。明日は今日よりもさらに日の出が遅いのだろう。そんなことを考えながら布団に入り、眼を瞑った。

 しかし、どうしたものか。明日も早いというのに一向に眠気が来ない。なぜだろう。今日の仕事での失敗の事を考えてしまっているのだろうか。確かに失敗してしまった事も少し考えている。しかしどうだろうか。そんなものより、もっとなにか根本的に心に靄がかかったような気分である。

 そういえば、私はあと数カ月で異動することが確実なのである。幸い上司には恵まれ、なんとか辞めずに今日まで働いてこれた。そうだ。異動する事が不安なのだろうか。もちろん不安でないわけではない。ましてや私の仕事の都合上、県外に出されることは確実なのだ。おまけにどの都道府県に異動になるのかはまだ分からない。不安であることは間違いない。しかし今、靄がかかっている原因はそれではない。

 異動するとなると一つ、必然的に起こる事象がある。それは、上司が変わってしまうということだ。今の上司は私にはもったいないぐらいよくできた上司だ。仕事の相談に乗ってくれるのはもちろん、毎日、部下である私に毎日他愛もない雑談をしてくれる。人間的にも尊敬できる理想の上司だ。面倒見が良いという次元を超えている上司である。しかし、上司が変わることがそんなに靄の原因なのだろうか。異動することよりも、上司が変わってしまう事は少し靄の発生源に近づいたように思うが、何となく根本的な部分では無いように思う。

 上司は、私より一回り近く年上なのだ。たった一回りしか変わらないのに背中が見えないぐらい何事もよく出来る人だ。私が上司の年齢になった所で、そこまで仕事が出来る自信はない。仕事が出来ないことが不安なのだろうか。靄の発生源から少し離れてしまったような気がする。

 恐らく靄の原因は上司なのだろう。他になにか上司のことで思い当たる節はないだろうか。そういえば上司は独身である。私と異なりなんでも出来る上司なのになぜか未だに未婚である。日々の雑談に嘘がないとすれば現在のところ、身を固めた相手がいるようにも思えない。少し靄の発生源に近づいた気がする。

 そういえば、上司はどんな異性が好みなのだろうか。少なくとも私のような人間ではないことは確かである。私は恋愛経験はあまり無い。つまり、今まで異性から好意を向けてもらった経験が少ないのである。何か靄の確信に迫りつつあるような気がする。

 上司は割とかわいらしい見た目をしているのである。私が言うのもなんだが、上司はなぜ未婚なのだろうかと思う時がある。何でもテキパキとこなす上司。性格は明るくて、私みたいな人間の話も楽しそうに聞いてくれる優しい性格の上司。もうすぐ、この靄の出所が分かる気がする。

 来年、上司の部下は私でないことは確実だろう。それは仕方のないことだ。でもなぜだろうか。何となく、それは嫌だなと思う。なぜ嫌なのだろうか。恐らく上司は今の私よりも、もっといい部下を持つのだろう。私は上司に迷惑をかけているような出来の悪い人間だ。私が仕事をするのが遅いがために毎日上司を残業に付き合わせてしまっている。きっと上司は来年もっといい部下を持って、もっと充実した人生を送るのだろう。しかし、何となく、嫌なのだ。靄が濃くなっていく。

 なんだか最近、私はふとした時に上司のことを考えている気がする。休日に車を運転している時なんかにも、今、上司が助手席に乗っていたらどんな会話をするのだろうか、料理をしている時も、もし、上司が食べてくれるのならどんな感想を言ってくれるのだろうか、といったことを考えている気がする。なんだか、日々の生活の中でこんなことを思うたびに靄が濃くなっていっていたように思う。

 私のこれまでの人生で最後に人を好きになったのはいつだっただろうか。もちろん好きな異性のタイプは決まっている。でもそれは見た目や何となくの雰囲気の話。なんとなく関係を持っていた特定の人間に興味を持って、惹かれることなんて、もう何年も無かったかもしれない。これまで何となくなし崩しでの経験は何度かあった。でも、その相手のことを、私は好きになっていたのだろうか。そもそも、好きになるほど、相手に興味を持っていたのだろうか。もう、目の前が真っ白で覆われている。

 私自身の心の靄の中を探索して、この靄の正体は分かってしまった。私は、何年、下手すると十何年ぶりに、人を好きになってしまったのだ。長らくこの感情を忘れていたせいで長い心の旅をするはめになってしまった。きっと私は、上司のことが好きなのだろう。彼女のことをもっと知りたい、彼女ともっと一緒に過ごしたい、彼女と二人きりの時間を過ごしたい。これはまぎれもなく、好きになったということなのだ。

 ならば、今週末にでも彼女を食事に誘ってみよう。そしてもっと彼女と沢山話をして彼女のことを沢山知っていけば良いのだ。そして――

 そんなことが出来れば、私の心の中にこのような靄が生じたりはしないのだ。恋愛経験どころか人生経験も少ない私には、そんな勇気はない。きっと食事の誘い程度であれば、優しい彼女は応えてくれるだろう。だが、それでも、断られる可能性も大いにあるのだ。それが単に私との食事が嫌なだけかもしれないし、単に予定があるだけかもしれない。仮に食事に付き合ってもらえたとしてもどうするのだ。そうすれば確実に交友が深まるのだろうか。そんなはずは無い。もしかすると多少は今よりも親しくなれるかもしれない。だが、そんな確証なんてどこにもない。

 靄はまだ漂っている。私は彼女にどうなって欲しいのだろうか。今の私は、もちろんは彼女と一緒になりたいと考えている。そうなれば私は幸せを感じるのだろう。だが、彼女はどう感じるだろうか。こんな私と一緒になったところで幸せになるのだろうか。なるわけがない。私は私自身が如何に何も出来なくて何も持っていない人間であることを知っている。彼女にどうなって欲しいのかという問いへの答えは、決まってる。私は彼女に幸せになってほしい。私なんかに、あんなに良くしてくれる彼女なのだ。幸せになって欲しいと思って当たり前である。私と一緒になっても彼女は幸せにはならない。むしろ、私に想いを向けられていること自体が、彼女にとって不幸のほか何物でもないのだ。

 色々考えてゆく内に、靄が少しづつ引いてゆく。高湿度の何かを残して。私は上司のことが好きなのだ。でも、もう上司のことを想ってはいけない。そもそも私には上司を想う資格なんて無いのだ。少なくともこんな人間に想われる上司が不幸である。靄を生み出すこと自体、間違っていたのだ。靄は高湿度のなにかに変わったのだ。靄は消えたが、私の心は真っ暗であった。いつか私の心にも日が昇る時が来るのだろう。それはきっと上司以外の日の光なのだろう。それを待っていればいずれこの湿気も乾く。それか、この湿気の及ばない所まで移動してしまおう。わざわざこの領域に居続ける必要なんてないのだ。私が自らの足で動き出すことで、何か別の日の当たる暖かい領域を見つける事が出来るかも知れない。

 しかし、今現在、湿気が多すぎる。さっきまで靄が出ていたぐらいだ。この領域の飽和水蒸気量はとっくに超えている。水蒸気は液体の水となった。心の中に生じたその水は、気づくと私の眼から流れ出ていた。心の中で、感情の整理がある程度ついたのだろう。とりあえず、今の場所で日の出を待つのか、別の場所への旅を始めるのか、それを決める時間が必要である。私は眼を開け、躰を起こし、台所へ向かった。そして換気扇を付け、煙草に火を付けた。私の呼吸にあわせて煙草の火種の勢いが変わる。私はそれを眺めた。今はこの火種で少しだけ除湿しよう。今夜眠れるだけの除湿をしよう。




 いかがでしたでしょうか。正直あまり中身のあるお話ではありません。このお話を書こうとおもった理由は、今書いている別の物語の筆が進まなくなってしまったことと大人の女性ってなんかいいなと思ったからです。この物語の「私」は自己肯定感が低く、結局「彼女」への想いを伝えようとしないどころか想う事そのものも否定してしまいました。筆者である私自身も自己肯定感が低い人間ですので、好きな異性が出来たとしても「私」のような考えになってしまっているような気がします。ところが私が今執筆している物語の登場人物は少し性格が異なった恋愛観を持った人間です。書いていて少し気持ち悪くなってきてしまい筆が止まってしまいました。なので私によく似た感覚を持った「私」が女性の上司に恋をする短編を書いてみた次第です。
 本当に大変読みにくい作品ではあったと思いますが、読んでくださってありがとうございました。

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