ようこそ格闘女王のいる教室へ   作:デュラ様

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 感想・評価・誤字報告いつもありがとうございます。

 南雲包囲網戦は今回で最後になります。

 それと同時にモチベがなくなってきたので、突然で申し訳ないですが年内の更新もこれで最後とさせていただきます。

 このままエタるかもしれませんが、やる気が出たらまた来年から再開するかもしれません。

 気分屋なのでどうなるか分かりませんが、とりあえず今年はお付き合いいただきありがとうございました。

 それでは皆様、よい年末年始をお過ごしください。
 
【挿絵表示】



第45話

 

 

 

 

 

 生徒会室を追い出された俺の足取りは、ひどくおぼつかないものだった。

 

 胸元から消えたバッジの重み。

 

 それがこれほどまでに喪失感を煽るとは思ってもみなかったな。

 

 

 

「……クソッ」

 

 

 

 感情の赴くままに壁を殴りつける。

 

 鈍い痛みが走るが、頭の中の霧は晴れない。

 

 少し前に精神異常をきたしてからずっとこんな調子だ。

 

 本当に散々な状態だが、今は俯いてる場合じゃねえ。

 

 こうなってしまった以上は、一刻も早く生徒会長の座に返り咲く方法を考えなきゃな。

 

 そう思いなおって、霧がかった頭の中で今後の展望を予測していく。

 

 本来なら俺の失脚に伴い、即座に生徒会長選挙が行われるはずだ。

 

 だが今は3月。

 

 卒業や入学、それから進級の準備や最後のサプライズ試験が重なって学校側も生徒会に構ってる暇なんてないだろうな。

 

 

 

「選挙は中止となった。代わりに生徒会内部の推薦により暫定的な会長を決定する」

 

 

 

 桐山の冷徹な語り口調がうっとおしいほど脳裏に響く。

 

 生徒会の人間ではなくなった俺にもわざわざ伝えに来やがった。

 

 嫌がらせか、もしくは哀れみか。

 

 どっちにしろ予想通りに選挙はやらないらしい。

 

 順当に行けば副会長のアイツが繰り上げで生徒会長になるだろうな。

 

 と思っていたが、桐山は自らその座を辞退した。

 

 理由は分からないが、アイツの目は笑っていた。

 

 もっと面白い駒を用意していると言わんばかりに。

 

 そしてその予想も見事に的中だ。

 

 推薦されたのはまさかの一之瀬帆波なんだとさ。

 

 

 

「……あんな見た目だけの女が、俺の後釜だと?」

 

 

 

 おいおい、笑わせるなよ。

 

 清廉潔白を絵に描いたような一之瀬が、この弱肉強食の学校の頂点に立つ?

 

 普通に無理だろ。

 

 いや、それ以前にこれは俺が築き上げた実力至上主義への最大の侮辱だ。

 

 実力なんて一切なく、顔と体だけが売りの女に取って代わられるのか…

 

 そんな事はあってはならない。

 

 そんな事だけは絶対にやらせねえ。

 

 生徒会長じゃなくなってもやれることなんていくらでもある。

 

 結局は実力がすべての学校だからな。

 

 だから俺は自室に戻るなり、ノートパソコンを開いた。

 

 指先が震えるが構うもんか。

 

 怒りとプライドにまみれたどす黒い執着だけが俺を突き動かしていた。

 

 

 

「一之瀬、お前もこっち側の人間だってことを教えてやるよ」

 

 

 

 アイツを生徒会に手引きするときに引っ張り出した秘密がまさかこんな所で役に立つとはな。

 

 運がいいのか悪いのか分からねえが、とりあえず一之瀬は潰してやる。

 

 だから俺は、俺だけが知っているアイツの秘密をネットの匿名掲示板へと叩きつけた。

 

 

 

『新生徒会長・一之瀬帆波の正体。まさか中学時代に万引きをしていた!?しかもその後は引きこもり生活?善人面した女の仮面を剥ぐ』

 

 

 

 投稿ボタンを押す。

 

 一瞬で俺の鬱屈とした感情がデジタルな毒となって拡散されていく。

 

 そうだ、一之瀬。

 

 お前も泥にまみれろ。

 

 無能な人間なんてこの学校には必要ない。

 

 生徒会長なんて夢見てんじゃねえよ。

 

 お前が絶望し、泣き叫ぶ姿を見れば、俺のこの苛立ちも少しは収まるはずだ。

 

 

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 俺の目論見通り、あっという間にネットの掲示板は炎上した。

 

 「一之瀬帆波=犯罪者」というレッテルはアイツの信頼が無駄に厚かった分、反動となって襲いかかったようだ。

 

 登校する一之瀬の背中に突き刺さる疑念の視線。

 

 廊下ですれ違うたびに聞こえるひそひそ話。

 

 俺はそれを特等席から眺めていた。

 

 今は最高に気分が良い。

 

 おかげで頭の霧もようやく晴れてきた。

 

 やっぱり俺は他人を蹴落とさないと輝けねえ性分らしい。

 

 まあそんなことは分かっちゃいたけどな。

 

 この調子で俺を嵌めやがった全てをぶち壊してやりたいが、まずは一之瀬を徹底的に壊してやる。

 

 さて、どうやってアイツを退学させるか…

 

 そんな事を考えながら一之瀬の様子を眺めていたが、肝心のアイツは一向に生徒会長を辞退する気配がねえ。

 

 アイツのメンタルじゃすぐに潰れるかと思ったが、意外と粘り強いな。

 

 粘り強いというかあまり堪えてる様子がない。

 

 それどころか、不可解な動きすらあった。

 

 

 

「……何だ、これは」

 

 

 

 数日後、掲示板の空気が一変する。

 

 一之瀬を叩く書き込みが次々と削除され、代わりに俺が過去に一之瀬を脅迫していたかのような断片的な証拠が、絶妙なタイミングで投下され始めていた。

 

 さらに、俺のスマホ端末に一通のメールが届く。

 

 

 

『これ以上はあなたの首を絞めることになりますよ。南雲先輩』

 

 

 

 差出人は不明。

 

 だが本文の最後に「綾小路清隆より」と綴られている。

 

 …綾小路清隆。

 

 この名前を俺は知ってる。

 

 1年Bクラスの、何の変哲もないはずの生徒だ。

 

 いや、体育祭で活躍はしていたな。

 

 それに混合合宿でも俺に生意気な口をきいてた気がする。

 

 だが何故そんな男からメールが?

 

 それ以前に何故俺のメールアドレスをコイツが知ってる?

 

 ……

 

 ……

 

 ……

 

 ……まさかな。

 

 俺はその時嫌な予感がした。

 

 生徒会長の座から失脚する前、何故か頭の中に想起された無表情な男。

 

 それが綾小路清隆の姿と一致していたからだ。

 

 俺を会長の座から引きずり下ろすことになった、混合合宿からの一連の流れ。

 

 そして今、一之瀬を救おうとしているこの手際。

 

 全てはあの男が裏で糸を引いていたからなのか?

 

 …分からねえ。

 

 一番怪しいと思っていたのは坂柳で、綾小路なんてここ数か月は姿すら見ていない。

 

 だからこそ俺の勘が告げている。

 

 姿を見せない奴ほど怪しいと。

 

 俺は放課後、人影のない廊下でコイツを待ち伏せした。

 

 

 

「……何の用ですか、南雲先輩」

 

 

 

 現れた綾小路は、相変わらず感情の読み取れない死んだ魚のような目をしている。

 

 

 

「お前だな。俺の不祥事をリークし、一之瀬を盾に使って俺を追い詰めてるのは」

 

「さあ、何のことか分かりませんね」

 

 

 

 詰め寄る俺に対し、綾小路は眉ひとつ動かさない。

 

 相変わらず舐めた態度で俺を見据えている。 

 

 

 

「とぼけんなよ。わざわざ名前を明かしたメールまで送って来やがって。お前の狙いはなんだ」

 

「ただのお礼です」

 

「は?……お礼だと?」

 

「そうです。先輩の踊り狂う姿には充分に楽しませてもらったので、そのお礼がしたくてメールを送りました」

 

「……そうか……って事はお前が俺を嵌めやがった張本人という事か」

 

「はい」

 

 

 

 ちっ、いやな予感が的中したな。

 

 やっぱり俺が生徒会長の座から引きずり降ろされたのは、ただの偶然じゃなかったようだ。

 

 とことんふざけた野郎だが、コイツは馬鹿だな。

 

 ご丁寧に姿を見せくれるなんて、どうやら俺に弄ばれたいらしい。

 

 

 

「綾小路、お前こんな事してただで済むと思うなよ。ちゃんと覚悟はできてんだろうな」

 

「はい」

 

「へぇ……随分と素直だが、まさか俺に殴られるためにノコノコと姿を現したのか?」

 

「そうじゃないですが、いつ退学になってもいいようにそれなりの覚悟はしてます」

 

「ハッ、そうかよ。じゃあ望み通りにお前は退学にしてやる」

 

「先輩にできるならやってみて下さい。オレはいつでも大丈夫ですから」

 

「お前――!」

 

 

 

 あまりの舐め腐った態度に頭が沸騰する。

 

 

 

「落ち着いてください。オレはお礼を言うについでに警告しに来ただけですから」

 

 

 

 だが胸倉を掴もうとし右手が、コイツの視線だけで止められたような錯覚に陥る。

 

 警告しに来ただと?

 

 コイツの待ち伏せをして接触したのは俺だぞ。

 

 つまり俺の思考回路すら読んだうえで、意味深なメールだけで接触できるように誘導したという事か…

 

 なんなんだコイツは。

 

 底が見えねえ。

 

 相変わらず表情からは何も読み取れねえ。

 

 今まで戦ってきた2年や、龍園、坂柳とは次元が違う。

 

 下手したら堀北先輩以上かもしれないと思うほどに、コイツの瞳の奥に深い闇を感じる。

 

 

 

「一之瀬は明日、全校生徒の前でスピーチをします。そこで全てが終わりますから大人しくしていてください」

 

「ふざけんな。俺がお前の言う事を素直に聞くと思うか?」

 

「それは知りません。オレはあくまで警告しに来ただけです」

 

「そうかよ。じゃあ無視させてもらうぜ」

 

「別に構いませんが、これ以上一之瀬に危害を加えたら()()()が黙っていませんから……それはやめたほうがいいんじゃないですかね」

 

 

 

 しかも意味深な事ばかり言いやがって…お前以外にもまだ誰かいるのかよ。

 

 圧倒的強者のオーラを放ったかと思ったら、急に冷や汗かいて怯え始めるしまったく意味が分からねえ。

 

 

 

「だから本当にやめた方がいいと思いますよ。人が死ぬのは見たくありませんし、先輩の学園生活はこの後も続くんですから」

 

 

 

 綾小路はそれだけ言い残し、背を向けて去っていく。

 

 警告という割りには俺の事を本気で心配してる風な言葉だけ残してな。

 

 とことんふざけた野郎だが、アイツを追いかけることは叶わなかった。

 

 人が死ぬって事はこれ以上一之瀬に危害を加えたら俺が殺されるってことなんだろうが…

 

 つまり一之瀬の裏には綾小路が怯えるほどヤバイ奴がいるってことか。

 

 とりあえず深入りしない方が身のためだな。

 

 まあいい。ここは俺を嵌めやがった黒幕の正体が分かっただけでも上出来だろ。

 

 綾小路清隆……

 

 今まで完全にノーマークだったが、得体のしれない不気味な男だ。

 

 

 

 

 

 翌日、体育館に集まった全校生徒を前にして一之瀬帆波のスピーチが行われた。

 

 アイツの顔に迷いは一切見当たらない。

 

 自分の炎上騒ぎを感じさせないほどにスッキリとした表情で前を見据えている。

 

 それどころか、掲示板に俺が書き込んだ内容を肯定するように語り始めた。

 

 

 

「私は中学時代に過ちを犯しました。それは事実です」

 

 

 

 透き通った声がマイクを通じて響き渡る。

 

 もちろん生徒たちはざわついているが、それをものともせずに一之瀬は語り続けていく。

 

 

 

「私はその罪を背負ってこの学校に来ました。でも、隠し続けることは正しくないと気づかされました。私は自分の過去を謝罪します。そして……その罪滅ぼしとして、この学校の歪みを正したい」

 

 

 

 アイツの視線が、一般生徒としてクラスに並んでいる俺を捉えたような気がした。

 

 

 

「前会長、南雲雅先輩が進めてきた実力のみを絶対視する改革はここで停止させます。実力とは誰かを踏みにじるための力ではないはずです。私は誰もが手を取り合い、高め合える学校を目指します」

 

 

 

 一之瀬の語りに拍手が起きた。

 

 何故かは分からない。

 

 アイツは自らが犯罪者であると認めたはずなのに、なんで拍手なんてものが起きるのか俺には理解不能だ。

 

 それでもまばらに拍手は起き、それは次第に会場を呑み込んでいく。

 

 最初は小さかった拍手も、一之瀬が自分の過ちを認めるたびに、そして俺が築き上げた生徒会を否定するたびに大きさを増していき。

 

 いつしかそれは体育館を揺らすほどの大きなうねりとなって、アイツを歓迎するようなムードが出来上がる。

 

 スポットライトを浴びる一之瀬は、まるで本物のアイドルのように輝いていた。

 

 その光が強ければ強いほど、俺の影は長く、暗く伸びていく。

 

 まったく意味が分からねえ。

 

 誰もが手を取り合える?

 

 そして高め合える学校?

 

 コイツらは学校のシステムをまだ理解してないのか?

 

 全員どうかしちゃったんじゃないかと思うほどに浅はかだ。

 

 だが、俺は悟った。

 

 どうやらこの学校の馬鹿どもは、堀北先輩や一之瀬が語るような理想論が好きらしい。

 

 そして俺はそんな平和ボケした空間の中で生徒会長に返り咲く必要がある。

 

 結局一之瀬は綺麗ごとしか語らなかった。

 

 具体的な政策は何も示さず、感情に訴えかけるような内容にとどまった中身のないスピーチ。

 

 それを聞き終えた俺は、無言で体育館を後にする。

 

 冷たい春の風が頬を打つ。

 

 だが、不思議と心は静かだった。

 

 

 

「……面白い」

 

 

 

 俺は小さく独白した。

 

 本当に全てを失ったな。

 

 権力も、名声も、プライドも。

 

 だが、Aクラスのリーダーである俺の実力は変わらない。

 

 それに堀北先輩より上の存在を、倒すべき壁も認識した。

 

 

 

「綾小路……次は、俺が挑戦者の側として遊んでやるよ」

 

 

 

 高度育成高等学校に、一之瀬帆波という名の新しい希望が芽吹く。

 

 それは俺が否定し続けた理想の勝利だった。

 

 だがその光が眩しければ眩しいほど、俺のような影も深く刻まれていくもんだ。

 

 綾小路が言ったように、俺にはまだ1年も学園生活が残ってるんだからいくらでも楽しめる。

 

 綾小路に坂柳に龍園に一之瀬。

 

 お前らまとめて地獄に叩き落としてやるから待ってろよ。

 

 

 

「堀北先輩はもうすぐいなくなるし、ちょうど新しいおもちゃが欲しかったところだから悪くないな」

 

 

 

 気持ちのいい春風に打たれながら、俺の独白はいつまでも続く。

 

 

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 一方その頃、オレ――綾小路清隆はさっきからずっとぶつぶつ呟いてる南雲を物陰に隠れながら眺めていた。

 

 もちろんアイツの様子を見るためだ。

 

 全てを失ったアイツの様子を確認したかった。

 

 これも計画の一部だが、愉悦部としての活動でもある。

 

 真面目なオレとしては部活をサボるわけにはいかないからな。

 

 おかげで口角が上がりっぱなしで痛い。

 

 独白がいつまでも続くのは面白過ぎるからやめてくれ。

 

 頼むからこれ以上笑わせないで欲しい。

 

 廊下で対面した時も笑いを堪えるので必死だったんだぞ。

 

 だが、南雲が軽井沢や坂柳以上の逸材だという事も判明した。

 

 これで愉悦部はこの先1年おもちゃに困ることがなくなったわけだ。

 

 偉大なるカモ先輩に感謝感謝。

 

 恐らく南雲の脳内ではオレが黒幕みたいな感じになってると思うが実際は全然違う。

 

 だって実際にオレがやった事と言えば、一之瀬の過去が掲示板に流されたときに火消しをしただけだからな。

 

 それもやりたくてやったわけじゃなくて、春麗がブチギレそうだったから慌ててオレが動いただけだし。

 

 春麗を怒らすのだけは本当にやめて欲しい。

 

 オレと高円寺が協力してやっと抑えつけられるレベルのフィジカルモンスターなんだから、本気で怒らせたら冗談抜きで死人が出る。

 

 なにそれ怖い。

 

 まあそれはいいとして、黒幕に近いのはどちらかというと春麗だろう。

 

 ほとんどの生徒を動かしたのはアイツだし、それ以前に結局はカモ先輩の独壇場による自滅だった。

 

 オレの黒幕ムーブはただの遊びでしかなく、カモ先輩はそれにすら引っかかってしまう悲しきピエロだったわけだ。

 

 やっぱりアイツは最高の勘違い男だな。

 

 おかげでオレは観客として充分楽しめた。

 

 以上で南雲劇場は終幕だが、みんなが楽しんでくれたのであればもっと嬉しい。

 

 これはみんなのために開いたエンターテイメントでもあるのだから、もっと世の中に広めたくもある。

 

 だからオレはもうひと仕事しようか考え中だ。

 

 

 

 ―南雲劇場・演目“人形糸”―

 

 

 プロデューサーは南雲雅

 

 演出・脚本は南雲雅

 

 舞台監督は南雲雅

 

 音響は堀北学と橘茜

 

 照明は副生徒会長の桐山生叶と朝比奈なずな

 

 舞台を彩る脇役は1年生

 

 もちろん主役は南雲雅

 

 

 さあ、南雲雅が見事に踊り狂ってくれた素敵なショーを――

 

 

 

 

 

 

 こっそりSNSにアップしてみようかな。

 

 

 

 

 

 

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