チャンバラヒーロー“ザンテツ” 作:きりきりまい
画面越しにも分かる破壊力。そして振動と破砕音。
粉塵の舞い上がる画面を見つめながら、丈瑠はその目を細めると口元をマフラーに埋めながら腕を組んだ。
午後から始まった、ヒーロー基礎学。その中身は、二人一組の即席チームアップによるヒーローと
シチュエーションは、核兵器を持ち出し屋内へと逃げ込んだ
両者の勝敗条件は、ヒーロー側は制限時間以内に
現在画面の向こうで行われていたのは、緑谷出久&麗日お茶子VS爆豪勝己&飯田天哉による戦闘訓練である。
勝敗の結果は、核兵器を確保したヒーロー側の勝利。だが、試合に勝っても、勝負の結果としては負けてしまっているようなものだったりする。
講評が終わり、次のグループ。
「さて、次の対戦カードに移るとしよう!ヒーロー側は、Bチーム!
オールマイトからの指示を受けて、
その背中を小走りに追いかけるのは、宙に浮かんだ二つのグローブと独りでに動く靴。
「よっろしくー!いやー、席も近くてこうして同じチームになるなんて縁があるね!」
「そうだな……それはそうと、葉隠」
「なにー?」
「いや、透明の個性はそこまで融通の利くものだと思わなくてな。若しくは、特殊素材を使っているのか?」
「え?特にそういうのは使ってないよ?」
「…………なに?」
丈瑠は眉を上げて、隣を歩くであろう少女へと目を向けた。
顔を見ることはできない。一応、声の出所などから位置を把握する事は可能だが、それでも大雑把なものだ。
「使っていない?」
「うん。そもそも、私の透明化って光学系だから自分以外に反映させるのって難しいんだよね。だからほら、グローブと靴は消えてないでしょ?」
「っすー…………つまり、今何も着ていない、と?」
「うん!あ、本気出す時にはグローブと靴も外すから本当に見えないよ!」
「…………」
快活な少女の声に、丈瑠は眉間を揉んだ。
年頃の、それも少女がやる所業ではない。如何に個性で見えないからといって、全裸になるなど最早そういう趣味だと取られてしまっても致し方ないだろう。
「……なあ、葉隠」
「何かな?」
「とりあえず、何かしらの衣類は身に付けるべきだと思うぞ」
「えー?でも、見えないよ?」
「見えなくとも、身体はあるだろう?広範囲の攻撃に巻き込まれれば、生身のままでその攻撃に晒される事になる。最低限、肌を保護できる手段は持つべきだ」
「うーん……まあ、それもそっか」
うん、と葉隠は頷く。
見えないという事は、視覚的に非常に大きなアドバンテージだ。だが、その一方で葉隠透の個性は見えなくなるだけでその場から完全に消失している訳ではない。
丈瑠の指摘通り、周囲を薙ぎ払うような攻撃に巻き込まれれば負傷は免れない。葉隠自身の身体能力もまだまだ発展途上。
オマケに、仮に負傷しても出血しない類の骨折などの場合は、救助すらされない可能性すらあった。
見えなければ大丈夫、と考えていた葉隠は新たな視点を頭の中で吟味しつつ、今度は自分の疑問を吐き出す。
「それじゃあ、山吹君の個性ってどんなの?ほら、個性把握テストの時も使ってなかったよね?」
「俺か?俺は、コレだ」
そう言って、丈瑠は左手の平を上に向ける形で左腕を持ち上げた。
その掌から柄頭が飛び出してくると、右手で柄を掴んで一気に引き抜く。
「この刀。後は、鞘になってる左腕の強度が高い事と身体能力か。前衛は、任せてくれ」
「おおー!カッコイイね!」
「派手さは無いがな。さて、そろそろ作戦を固めるとしよう」
目的のビルへと足を踏み入れ、その三階の辺りで二人は足を止める。
このビルは五階建て。その最上階である五階に核兵器は設置されていた。
「山吹君は、相手の個性って分かる?」
「障子の個性は、あの腕だ。複製腕、だったか。身体部位を幾つも複製できる。異形型でもあるから、パワーもこちらより上だろうし、手数、索敵と出来る事の幅が広い個性だな」
「成程ー……じゃあ、もう片方は?」
「確か、轟、だったか。直接聞いていないが、予想は付く。テストの時に氷を扱っていた」
「氷かぁ。早速、私の天敵みたいな相手ばっかりだね」
「ああ………」
「どうかした?」
「いや、轟の個性は恐らく氷だけじゃない。根拠としては、大規模な氷を一瞬で消していた点だ」
「そっか。個性で発生させたものって、そう簡単に消せない、よね?」
「タイプに因るだろうが、少なくとも轟の場合は氷を発生させるというもので、出し入れするものには見えなかった。勿論、予想の域は出ていない。もっと別モノの個性かもしれないからな」
「いやいや、それでも予想立てられるだけ凄いじゃん!山吹君ってインテリ系だったの?」
「頭が良い、かは分からないが常々考える癖をつけるようにはしている」
個性で出来ることが少ない。個性の伸ばしようも体を鍛える程度しかない。
であるのなら、後伸ばせるのは頭脳と技術。
「とりあえず、作戦を決めるとしよう」
@
「――――俺が知っている情報は、この位だ。山吹の強みは、やはり近接戦で発揮されるもの、だと思う」
「そうか」
訓練場所であるビルの前で、轟焦凍はある程度の情報を拾っていた。
油断はない。だが、その一方で接近戦主体の相手に負ける気がしないのもまた事実。
そのまま無言の時間が続き、不意に耳に付けられた通信機がノイズを発する。
『時間だよ、Bチームの二人とも!攻略を開始してくれ!』
オールマイトの合図と共に、障子は複数の耳をその触手の先に複製する。
だが、
「下がってろ。巻き込まれるぞ」
「巻き込まれる?」
首を傾げる障子に対して、轟はビルへと足を進める。
瞬間、五階建てのビルが一瞬で凍り付いていた。
「ッ!これは……」
「……避けられたか」
呆気にとられる障子。そして、そんな彼を無視して轟は一人ビルの中へと足を踏み入れていく。
後を追おうかとも考えた障子だったが、轟の攻撃範囲を目撃してしまった以上のその足がそれ以上進む事は無かった。
怖気づいたという訳ではなく、無造作に足を踏み入れればそのまま巻き込まれて結果仲間である轟の足を引っ張ってしまうと考えての事。
代わりに、複製した耳を増やして音を拾う姿勢を整える。
一方、凍結されたビルの中に居た丈瑠と葉隠はというと、
「うひゃー!間一髪だったね!」
「あまり暴れるなよ。落としてしまうぞ」
天井へと突き刺した刀を掴んで空中に退避し、片手に葉隠を抱え上げた丈瑠は無表情に部屋の出入り口へと視線を送る。
予想はしていたが、実際に目の当たりするとその規模の凄まじさに驚きを覚えるというもの。
その第二波が来ない事を確認して、丈瑠は刀の柄を掴む右手を動かして刀を抜いて凍り付いた床へと着地した。
「それにしても、山吹君。アレってどうやったの?」
「アレ?」
「ほら、刀刺して空中に浮いてたの」
「ああ、アレか。アレはてこの原理を利用したものだ。といっても、今はそれよりも作戦開始だ。頼むぞ、葉隠」
「そだね、りょーかい!行ってくるねー!」
抱えられていた腕から飛び降りて、葉隠は部屋を飛び出していく。
グローブと靴が無ければ分からない少女の行く先を見送って、丈瑠は改めて部屋の出入り口へと目を向ける。
「――――お前だけか」
通路の奥。暗がりから現れる轟。
左半身を氷で覆い尽くし、その左目は怪しい赤い光を放っていた。
「さあ、どうだろうな。俺一人かもしれないし、葉隠が何処かしらに潜んでいるかもしれないぞ?」
「潜んでいたとしても、関係ねえ。そのまま氷漬けになるだけだ」
「……」
反論はない。ビル一棟を容易く氷漬けにする規模の個性なのだから、移動系や氷漬けから無理矢理脱出できるパワー系の個性でもなければ逃げ出す事などほぼ不可能。
ちょっとした精神的な揺さぶり程度の言葉だったのだが、全く揺れない轟に内心で丈瑠は苦笑い。
「お前に勝ち目はねぇ」
「それは、やってみなければわからないだろう?」
「……そうかよ」
瞬間、丈瑠の視界に青い氷河が出現した。