「男のロマンを完成させたぞ!」
ガラクタ弄りが趣味で自称発明家の友人に呼び出されて来てみだけど、彼が普段発明研究所と呼んでいる部屋はもぬけの殻、誰もいなかった。
私が「はて?」という感じでキョロキョロしていると。
突然目の前に人がすっぱりと収まりそうな大きさの箱が現れた。
私が面を食らっていると、
「はっはっはっは!驚いたかな親友よ!」
と声がして、箱の横から友人が出て来た。
「どうだ!これが俺の発明した透明人間マシーンだ!」
と胸を張っている。
どうだというので、その透明人間マシーンをまじまじと見させてもらう。
見てみると意外と単純な作りだった。
高さは約1.8メートル、幅は80センチ、厚みは50センチの大きなダンボール箱の正面にフチの無い液晶モニターが取り付けられている。裏側には縦横等間隔に並べられたカメラ。
このカメラで箱の背景を写し、前面のモニターで表示する事で真正面から見ると箱が存在しないかの様に見えるのだ。
横に入り口がついているのでそこから入るのだろう。
なるほど、単純だけど確かに真正面から見れば透明人間の様に姿を隠せる。全くよく出来ている。あくまで真正面から見ればだが。
ちょっと横にずれて見ると、ダンボール箱の側面が丸見えなのだ。
しかし、この友人の発明品にしては上出来だった。
「良いね。確かに正面から何も知らないで見たら、全く気付かないな。」
彼の発明品という名のガラクタの数々を知る私が珍しく褒めるので友人は嬉しそうにマシーンの説明をし出す。
「横の入り口からこうやって入ると、中に正面のモニターの間に針の穴ほどの穴があいてて、そこについているカメラが写した映像がこのゴーグルで見られるんだ。」
上機嫌で説明している。
「自分は姿を隠しつつ、正面の様子が見られるわけか!なるほど。でもこれ一体何に使うんだ?」
と私は疑問を口にする。
すると友人は私の耳元まで近づくと、急に声を潜めて、
「そりゃあ、透明人間になれるって言ったら、やる事は一つだろ?」
ボソボソと呟く。
だいたい察しはついていたが、
「やる事は一つとは?」
とすっとぼけてさらに聞く。友人も観念して、
「覗きだよ。風呂を覗くんだよ!これこそ男のロマンだろ!」
と多少ヤケになりながら答える。
何を隠そう、かの友人は温泉旅館の若旦那。
その旅館にはオーシャンビューの大きな露天風呂があるのだ。
これまでも友人は何度か風呂を覗いては見つかりを繰り返していた。最近はそう言った話を聞かないので、流石に30歳を過ぎて落ち着いたかなと思っていたら、こんな物を作っていたとは。
「しかし、真正面からならバレないかもしれないけど、横から見られたら一発で見つかってしまうぞ?」
とやんわり友人の無謀な行動を止めようとしたが、
「大丈夫!それについては絶好のポジションを見つけてあるから!バックは海で、柵もしてあるから、横から見られる心配はない!まさに覗き放題の絶景ポイントだ!」
とむしろやる気に火をつけてしまったらしい。
こうなってはもう誰も彼を止められない。
覗きは昼間に決行する事となった。
モニター画面の明かりが夜だと丸見えなので、昼間しか使えないのである。
そして、決行の日。
なんと幸運な事に女子大生のグループがその日は泊まりに来ていた。
友人は喜び勇んで、普段はやりたがらない女風呂の掃除を進んで引き受けると、掃除もそこそこに、さっさと掃除中の看板をしまい、例のポジションに隠してあった透明人間マシーンを取り出し、マシーンの中に入って女子大生達が入浴するのを待った。
しばらくすると女子大生達がワイワイ騒ぎながら風呂に入ってきた。当然の事ながら全裸だ!
まさに極楽だった。
若い女性の入浴をこんな真正面から覗けるなんて俺は最高の幸せ者だと友人は喜んだ。
しかし、そんな幸せも長くは続かない。
ダンボールで作ったそのマシーンの外装は風呂の湯気と海の混じった風にさらされ、徐々にふやけて柔らかくなっていく。
ミシミシっと音をたてながら少しずつ正面の液晶パネルが自重で傾き始める。
ビリビリ、バンッ!
大きな音をたてて液晶パネルが倒れ、中から友人が丸見えになる。
「キャー」
女子大生達は口々に悲鳴を上げながら、友人に向かって桶やら椅子やらを投げつける。そのうちの一つが友人の頭に命中。友人は倒れて、そのまま海にドボンと落ちる。
結局、海に落ちた友人は、足に透明人間マシーンのコードやらが足に絡まったせいもあり、溺れて死にかけるが、たまたま通りかかった漁船の網に引っかかって助けられた。
助かった後も、女子大生へのお詫びや母親である旅館の女将さんからの数時間にわたる叱責など大変だったらしい。
まあ、自業自得である。
「流石に今回の事でお前も懲りただろう?」
と聞くと、
「あー懲りた、懲りた。」
と流石に反省をしている様だと安心していると、
「いやぁ制作費をケチって、マシーンの強度を考えなかったのが敗因だな。プラスチックのダンボールというのがあるらしいし、次はそれで作ってみようと思う。」
と全く懲りていなかった。
流石は自称発明家、死にかけても、失敗してもめげない姿勢は立派である。
「プラスチックの箱だけでは心配だから、木製の枠で補強しようか」
「横から見られても大丈夫な円柱型にしてはどうか?」
などブツブツ独り言を呟きながら思案する友人を横目に、私は友人の次なる発明品を少し楽しみにしているのであった。