来世は天使級美少女にしてとお願いしたら戦場の天使になった件 作:ケーニヒスチーハー
元はブティックだったと思われる掠奪された店内を手探りに歩き従業員用の裏口まで辿り着いた僕は腰に下げていた銃剣を抜き不意の接近戦に備えて89式小銃の先に着剣した。
「みんなで突撃するならともかく独りぼっちでコレ使う場面って詰んでるよね」
緊張のせいか独り言が漏れる。僕の銃剣道や格闘の成績はあまり良くない。どうしても体格的に下限ギリギリの僕はリーチやウエイトで負けてしまうのだ。
意を決して従業員出入り口の扉を開けて裏通りに出る。
敵影は、なし。
周囲を確認し通りに出ると夏の暑さで蒸れた血の臭いが鼻をつく。
「う…いったいどれだけの人がこんな目に…」
道路に転がる老若男女の身体を見て目に涙が滲む。足から力が抜けそうになるけど頭を振って気合いを入れ直す。とにかく今は離脱して態勢を立て直さないと。
そこでふと防弾チョッキの横に着けていたコンパスなどを入れたポーチがベルクロごと千切れて無くなっていることに気づいた。
探しに戻ろうにもさっきまで自分がいた通りはもう敵でごった返しているはず。仕方がなく勘を頼りに駐屯地までの道を引き返すことにした。
10分後。
「迷った…」
破壊の限りを尽くされたコンクリートジャングルは僕から方向感覚を容易く奪い取り遭難させた。結果から言えば僕はこの時騒動の中心地に向かって歩みを進めていたのだ。
1時間ほど歩き通してやっと、僕は逆走しているのではないかと薄々気づき始めたがその時にはもう遅かった。
「☆○$%〆!」
背後から突然何語かわからない大声が聞こえたかと思うと咄嗟に振り向いた僕の頭に風切り音と共にキツい衝撃が走る。
「うわっ!」
揺れる視界で投擲物の飛んできた方向を見ると中世の歩兵のような胴鎧を付けた男が手にした弓に次の矢をつがえるところだった。
そこでやっと自分が弓矢で撃たれ鉄帽でそれを弾いたのだということが分かった僕は弓兵に向かって89式小銃の銃口を向ける。
「先に撃ってきたのはそっちなんだから!」
これは正当防衛だと自分に言い聞かせて引き金を引く。単発で2発、3発と撃ち出した5.56mm弾は男が身に着けていた鎧を簡単に貫き身体を撃ち抜く。
男は血と叫び声を吐き出しながら仰向けに倒れた。
その声に甲冑が鳴らしながら他の兵士が駆けつけてくる。その数は10や20では効かない。
「やばっ」
感傷に浸る間もなく僕は脇道に駆け込み全力で走った。自動小銃があるとしても1人で大勢相手に戦い続けることなんて不可能だ。
走り、走り、走り。息が切れて転びそうになってようやく僕は落ち着きを取り戻した。
「追手は…無し…ハァ、ハァ、どこまで走って来たんだ僕」
後ろを振り返り敵の姿が無いことに安堵した僕は何か現在地を示す目印になる物が無いかと辺りを見回す。
銀座は古くから栄えた街であるため名前のない細道も多く入り組んでいる。どうやら僕はその中の一筋に入っていたようだ。
「東京駅がこっちだから練馬はこっちかな」
銀座で遊ぶなんて夢のまた夢だった僕に土地勘なんてないけど標識を頼りに駐屯地への帰路を辿る。
どれぐらい歩いただろうか。哨戒か何処かの援護に駆ける敵を物陰や建物の中でやり過ごしあるいは全力で逃げ続けること数十分、僕は歩道に突っ込んで放置されていたバスの車内に隠れ水筒で喉の渇きを誤魔化していた。
「もうひと頑張り。晶気合い入れろ〜」
小休止を切り上げ立ち上がろうとしたその時、敵の声と複数の足音が聞こえてきた。慌てて身を屈め窓から様子を伺う。
「あれは…!」
こちらに近づいてくる隊列はそれまでの敵とは毛色が違った。明らかに日本人と分かる人物が混ざっていたのだ。
「ちゃんと歩いてるでしょ!小突かないでよ」
「ママ…パパ…」
「ぅ…ぅ」
4人の中世兵士が僕より少し年上ぐらいの1人の女性と2人の子供の首に縄を掛け数珠つなぎにして連行していた。兵士たちは下卑た笑みを浮かべながら女性の背中や尻を剣でつつき歩かせている。
「アイツら…」
僕の胸に怒りが迸る。何処に連れて行くかはわからないけれどきっと碌なことにはならない。助けないと。
89式の筒先を触り銃剣がしっかり装着されていることを確かめる。まさか本当にこれを使う事態になるなんてと思うが覚悟を決めるしかない。
「腹括れ僕、僕しか助けられないんだから」
敵が近づいてくるのを身を屈めてじっと待つ。人質に危害を加えられないよう一撃目は奇襲である必要がある。流れ弾の危険があるので銃撃するわけにもいかない。必然的に僕は4対1の格闘戦を強いられる。
身体の震えを無理矢理抑えこみ僕はタイミングを図る。
敵兵たちは車内に隠れている僕には気づかずバスの側を通り過ぎていく。背中を見せている今がチャンスだ!
音を出さないようにバスから出て忍び寄る。敵は4人、人質を挟んで前後に2人づつに別れている。
「せやぁっ!」
真っ直ぐに駆け出し1番手近にいた最後尾の兵士に銃剣を突き立てる。
『ギャァ!?』
背中を深く刺された敵兵は叫び声を上げながらのたうちまわる。敵の背中から銃剣を引き抜いた僕は間髪入れずに2人目の敵の顔に銃床を叩き込んだ。
口と鼻から夥しい血を流して倒れる敵兵に残りの2人はやっと剣をこちらに向けて戦闘する姿勢をとった。
でもこの間合いなら僕に分がある。人質も射線から外れてる。
「みんな伏せて!」
一応の警告を発して僕は89式小銃のセレクターを連射に合わせる。
迷わず引き金を引いた。
タタタタッ!という軽い連発音が辺りに響き敵兵士の鎧に幾つもの穴が空く。
糸が切れた人形のように脱力して倒れる敵兵を尻目に僕は人質になっていた人たちの拘束を外す。
「助けに来ました!立てますか?」
「あ、ありがとう」
首の縄を切り解放された女性は涙を浮かべ嗚咽を漏らす。安堵と今まで受けていた恐怖が一緒くたに押し寄せてきたようだ。
「今はひとまず逃げましょう!頑張ってください!」
「はい…」
銃声に引き寄せられた敵が続々と集まってくる。早くここから離れないと。
『→¥%+*○!』
「もう敵が」
脚の力が抜けてよろよろと足元がおぼつかない女性に手を貸し2人の男の子のうち1人が足を怪我してしまっているようなので抱っこする。
「手榴弾!」
片手で男の子を抱き寄せもう片方の手で発煙手榴弾を投擲する。白い煙が僕たちを敵の視界から隠す。
「走りますよ付いてきてください!」
4人は血に染まる銀座を走る。生き残るために。