『ゼロの使い魔4 誓約の水精霊』にあたる内容です。
一話あたりの文字数が増えてきたので、明日からは一日一話の投稿にしてみます。
また、四章の内容に合わせてタグ(勘違い)を追加しました。
よろしくお願いします。
43.「あんたがドラゴンなら、ギーシュのモグラは韻竜の王さまね」
『原作』通りに始まってしまった、トリステインとアルビオンの戦争。
しかし政治とは無縁という建前を掲げているここ魔法学院では、以前と変わらぬ平和な日常が続いていた。
「すごい! マフラーだ! しかも手作り! 俺、こんなのはじめて!」
例のごとく日当たりの悪いヴェストリの広場に、才人の歓声が響く。
彼はベンチに腰掛け、ふわふわした純白のマフラーを手に持っていた。
「あのね? ほら、あのひこうきでしたっけ? あれに乗るとき、寒そうでしょ?」
才人と並んでベンチに腰掛けたシエスタが、はにかんだように言う。
「そ、そそそそそ、そう、ね……、そ、空の上は、さ、さ、さむかった、わね」
ひきつった声で呟いたのは、ベンチの裏に掘られた穴に潜み、使い魔を監視しているルイズである。
「で、でも、寒いなら、ご主人さまにそう言えばいいじゃない。マフラーくらい買ってあげるわよ。あ、あ、あ、
ルイズは血走った目を才人に釘付けにしたまま続けた。
彼女と並んで穴から才人たちを眺めていた俺は、気のない声で答えた。
「そうだな。セーターは難しそうだけど、マフラーだったらお嬢でもなんとか……いっ、いて、おい、やめろって、ごめんて、俺が悪かったから」
ルイズは容赦なく俺のつま先を踏みまくる。
肩が触れあうくらい狭い穴では逃げることもできず、靴の中まで泥が入って最悪だ。
せっかく穴を掘ってあげたというのに、ひどい仕打ちである。
今からちょうど十分ほど前、どうやってか才人がシエスタに会いに行くことを察知したルイズは、俺を捕まえて使い魔の監視を手伝うよう命じた。
具体的には、ヴェストリの広場のベンチの裏に、穴を掘らせた。
『原作』ではギーシュの
「……ったく、俺はモグラかよ」
ルイズが俺の足を一通り踏み潰して気を落ち着けたところで、俺は呟いた。
視線の先にいる才人とシエスタは、幸せそうに寄り添いあってなにやら話し込んでいる。
これだけ騒いでもこちらに気づく様子がないのは、やはりルイズの命令で唱えた『サイレント』のおかげである。
ルイズは才人たちを一心に見つめて言う。
「いいじゃないの。虚無の担い手に従うモグラよ。光栄に思いなさい」
「俺、モグラよりドラゴンのが好きだなぁ」
ルイズは鼻で笑った。
「あんたがドラゴンなら、ギーシュのモグラは韻竜の王さまね」
「おい、それどういう意味……、いま『虚無』って言った?」
「言ったわね」
ルイズはどうでもよさそうに答えた。
思わずまじまじと見つめるが、彼女は才人しか見ていない。
その横顔からうかがえる感情は、使い魔の不貞に対する怒りだけだ。
「『始祖と姫殿下に祈ってる』、でしたっけ? あんたの言葉、ちゃんと聞こえてたわよ」
そう。
アルビオンが侵攻を仕掛けたあの日、ゼロ戦に乗って飛び立とうとするルイズと才人に向かって、俺は確かにそう叫んだ。
始祖と姫殿下……、すなわち『始祖の祈祷書』と『水のルビー』の組み合わせこそ、虚無の系統に目覚める条件だからだ。
このふたつを持ってルイズが『
だから俺はルイズに怪しまれるのを承知の上で、あんなことを叫んだのだ。
だけど、まさか、こんなふうに隠し立てもせず告げてくるとは思わなかった。
「いまさらすっとぼけないで」
俺の沈黙をどう思ったのか、ルイズは俺の足を軽く蹴った。
「ひこうきのなかで、わたし祈ったわ。たまにはあんたの言うこと聞いてやろうと思って、始祖と姫殿下に祈ったわ。そしたら虚無に目覚めたの」
ルイズはようやく才人たちから目を離し、俺をにらみつける。
「たいしたものね。あんた、なんでも知ってるのね。ガンダールヴも、『竜の羽衣』も、虚無の秘密も」
俺は、いまこの瞬間に至るまでなんの言い訳も用意していなかった事実に自分でも少し驚きながら、しかしつとめて平静に言う。
「頼りになるだろ? なんでも相談してくれていいんだぜ?」
足を踏まれた。
「あんたに言うのは、相談のうちに入らないわ。壁に話しかけてるのと一緒。独り言よ」
「かまわんけど……」
「かまいなさいよ」
ルイズは怒ったように言う。
それから小さく笑みを浮かべて、
「あのね、わたし、つい最近まで勘違いしてたのよ」
「なにが」
「わたし、クルトが少しでも関わると、手柄が取られちゃうって思ってた。どんなに立派なことをしても、途中でコールスの息子に助けられてたら、誰も
「どういう理屈だよ」
「どうって、いま説明した通りよ。かんたんでしょ?」
ルイズは得意げに言うが、正直、意味がわからない。
前世の記憶にある『ジャイアニズム』なる思想と極めて近いということだけは、かろうじて理解できたけれど。
「ま、光栄に思っとくよ。
とはいえ、ルイズの相談(本人曰く、独り言)相手に選んでもらえたのはありがたい。
できるだけ『原作』の流れを守りたい俺にとって、ルイズの口から出てくる言葉は最高の情報源だ。
ただ、そうすると気になるのは……、
「……で、お嬢。訊かないのか。どうして俺がこんなこと知ってるのかって」
ルイズは才人たちに視線を戻し、メイドにマフラーを巻かれてよろこぶ使い魔の姿に眉間のしわを深めている。
「訊いたら答えてくれる?」
「……そうだな。実は去年の夏休み、領地の森の奥で謎の老魔法使いと出会ってな……アルバス・ゲド・ガンダルフというんだが……、そのお方に世界の真実を教えてもらったんだ」
ルイズは肘打ちした。
「蹴るわよ」
「肘じゃねえか……」
俺は片手で脇腹を押さえ、穴の壁にもたれて痛みに呻く。
「あんたが適当言ってごまかすなら、こっちだってそのつもりよ」
ルイズはちらりと俺に目をやると、唇の端を意地悪く歪めた。
「ま、無理矢理吐かせるのだけは勘弁してあげるわ。あんたのこれまでの
忠誠って。
「俺としちゃ、友情のつもりだったんだけど」
「……あんたの、厚い、貴族らしい、忠義の心に免じてね」
ルイズは一音一音、はっきり強調して言い直した。
「でも、覚悟してなさい。あんたの本性、絶対に暴いてやるんだから。いつまでもスカしてられると思わないことね」
「そりゃ頼もしいや」
しかめっ
ルイズに暴かれるなら、それはそれで本望だ。
もっとも、ハルケギニアのまともな常識を持っている彼女が『前世』だの『原作知識』だのという胡乱な発想に至るとは思えないけれど。
「それで、どうしたいんだ?」
「どうって、なにがよ」
ヴェストリの広場のベンチでは、才人とシエスタがおんなじひとつのマフラーを首に巻き付けイチャついている。
彼女、このためにわざわざあんな長いマフラーを編んで来たらしい。
純朴そうな見かけによらず、大胆な子である。
『原作』であらかじめ知っていなかったら、吹き出していたかもしれない。
実際、隣で見ているルイズは顔を赤くしたり青くしたり、わなわな震えていたりと大忙しだ。
「虚無の使い道。言いたくないならかまわないけど」
ルイズは片手で胸を押さえ、俺の足を踏みまくり、深呼吸していくらか冷静さを取り戻してから、
「わからないわ。いままでずーっと『ゼロ』ってバカにされてたのに、急にこんな力に目覚めて……。どうしたらいいかなんて、わかるはずないじゃない」
「まあ、そうだろうな」
「役に立たないわね、あんた」
ルイズは才人に射殺すような視線を送りながら呟く。
「壁に話してるのと一緒なんだろ? 役立つ答えなんか期待するなよ」
「あんた、相変わらずプライドってものがないのね」
ルイズは呆れたように嘆息した。
ようやく才人たちから視線を降ろし、穴の土壁をじぃっと見つめて、俺に言う。
「あのね、勘違いして欲しくないんだけど、わたし別にうれしくないのよ。そりゃ魔法が使えるようになったのはよろこばしいことなんだけど、虚無なんか……、伝説の力なんか、要らないわ。母さまと同じ『風』がよかった」
「だろうな」
俺は素直に頷いた。
それは『原作』に描かれるルイズの心情を読んでいたからであり、幼いころも学院に入ってからも、彼女の愚痴をさんざん聞かされてきたからであった。
俺は知っている。
ルイズの望みは、偉大なメイジになることではない。
もちろんこの年頃の若者らしく名誉や力に憧れることもあるだろうが、根っこの願いは、みんなと同じになること。
ふつうに魔法が使える、ふつうのメイジになることだ。
「あんたって、ほんとイヤなやつよね」
「なんでだよ」
「キモいのよ。ものわかりが良すぎて。ふつうはもっと大騒ぎして、『伝説の力を活かさないなんてとんでもない! 君は偉大になるべきだ! 歴史に名を残す、素晴らしいメイジになれるんだ!』とか言っとくものなのよ」
「なんだよ、そう言って欲しかったのか?」
「壁が余計な口きいてんじゃないわよ」
ルイズは壁を蹴飛ばした。
穴の内側が少し崩れて、足下にひとかたまりの土が落ちる。
ルイズは自分の靴にかかったその土くれを、せっせと俺のほうに蹴り寄せながら、
「でもね、もしこの力がほんものなら……、わたしは、義務を果たしたい。祖国と姫さまに、わたしの虚無を捧げたい。だって、小さいころからずっとそう教わってきたんだもの」
恐怖とも焦りともつかない、どうしようもない衝動が胸の奥からわきあがる。
ルイズ、と俺は小さく呟いて、
「利用されるだけかもしれないぞ」
「姫さまは、そんなことなさらないわ」
「過ぎた力は人を狂わせる。それに姫殿下……いまじゃもう女王陛下だが……といえど、ひとりで国を治めてるわけじゃない。王宮や軍の連中に知られたら、戦争の道具にされる。都合良く使い潰されるに決まってる。誰にも言わない方がいいと、俺は思う」
『原作』では、ルイズは自らに目覚めた力をアンリエッタに伝え、祖国に『虚無』を捧げることを誓ってしまう。
それをきっかけにルイズは女王付きの女官という肩書きを与えられ、トリステインを、そしてハルケギニアを揺るがす事件に関わっていくことになる。
だから『原作』を守るにはルイズの決意を後押ししなきゃならないのに、気がついたら、俺はまるで正反対のことを話していた。
タルブの村は見捨てたっていうのに。
けれども俺はもう、タバサを……大好きな女の子を言い訳にして、誰かが犠牲になるのを見過ごすようなマネはしたくなかったのだ。
「わかってるわよ」
とルイズは言う。
「それでもわたしは、義務を果たしたいの。貴族の、ラ・ヴァリエールの血の義務を……、伝説の力とやらに目覚めた義務を」
「そうか。そうだな。お嬢はそう言うと思ってた」
あまりにもルイズらしいその言葉に、俺は笑う。
ルイズは不機嫌そうに唇を尖らせ、
「なによそれ、生意気。クルトのくせ、に……」
不意に、ルイズが硬直した。
鳶色の瞳がこぼれそうなくらいに大きく目を見開いて、ヴェストリの広場を見つめている。
血走った視線の先を追うと、ベンチに腰掛けたシエスタが、才人にキスを迫っていた。頬を染めた彼女は目をつむって顔を傾け、くちづけされるのを待っている。
才人は才人で顔をまっかにしてシエスタを見つめ、動けない様子。しかしその表情に拒絶する気配はなく、どちらかというと、困惑が勝っているらしい。
シエスタはそんな才人に焦れたのか、彼の頭に手を回し、ぐっと引き寄せ――ルイズが壁に埋まっていた石を引っこ抜いて振りかぶり――、
「イル・アース・デル……!」
間一髪、『錬金』が間に合った。
才人の後頭部めがけて鋭く飛んでいく
そして、
「うわっ! なんだこれ!?」
才人が悲鳴をあげた。
後頭部にいきなり砂の塊を浴びたのだから、当然の反応。
彼にくっついていたシエスタもベンチから立ち上がり、きゃあきゃあ大騒ぎして体の砂を払っている。
「クルト! 余計なことしてんじゃないわよ!」
「いや、むしろ、感謝してほしいくらいなんだが……」
『原作』読んでたときも思ったけど、頭に石投げたら死ぬだろ、最悪。
いくら好きな相手が他の女の子とキスしそうだからって、やりすぎである。
「なにやってんの、お前ら」
穴の
そんな彼の後ろには、マフラーの砂を一生懸命に落としているシエスタの姿。
俺は『サイレント』を解除して、
「モグラごっこ」
「なにそれ?」
「俺はドラゴンがよかったんだけど、ルイズがモグラって言うから」
「はぁ……。貴族って変な遊びするんだな」
「遊びじゃないわよ!」
ルイズは俺を踏み台にして、穴から飛び出した。
その勢いのまま才人に詰め寄り、股間を蹴り上げる。才人は、ぎゃん! と悲鳴をあげて
「お、おま……いきなり、なに、を……」
「こ、こ、こ、こっちのセリフよ! ごごごごご主人さまが悩んでるっていうのに、メ、メ、メイドと遊んで、マフラーなんかもらって、でれでれして……、あまつさえ……き、き、ききき、キス……!」
自分で言って怒りが再燃したのか、ルイズは才人をげしげしと踏んづけ始めた。
「この、犬! バカ犬! どうして! あんたは! こう! 節操! ない! のよ!!」
「落ち着けよ、お嬢。やきもちはみっともないぞ」
「やきもちじゃないわよっ!」
鋭い後ろ蹴りが飛んできて、穴から
「わたしはただ、許せないだけ! 使い魔がご主人さまをほうってどこぞのメイドといちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃ……」
いちゃいちゃと繰り返すたび、ルイズの声が震えた。
相当頭にきているらしい。
「やきもちじゃん」
「違うっつってんでしょ! だいたいクルトのせいよ! あんたが余計な魔法使わなきゃ、一撃で仕留められたのに!」
「命まで仕留めてどうする」
冷ややかに言い返すと、ルイズはうぐぐと唸った。
投石はさすがにやり過ぎたと反省してるのかもしれない。
そんな俺たちを見ていた才人が、よろよろ立ち上がりながら叫んだ。
「あの砂、やっぱクルトだったのか! こないだの告げ口といい、俺とシエスタになんの恨みがあるんだよ!」
「投げたのはルイズだから……俺、むしろ感謝されるべき立場だからな……。ところで君、少し貸してごらん」
俺はルイズの足技に警戒しながら穴を這いだし、マフラーについた砂と涙目で格闘しているシエスタに声をかけた。
戸惑い顔のシエスタからマフラーを受け取り、ルーンを唱えて杖でつつく。
さぁ……、と音を立てて砂が落ち、茶色く汚れていたマフラーがもとの純白色を取り戻した。
「あ、ありがとうございます! ミスタ・コールス……!」
「かまわないよ。たいした呪文じゃないから」
マフラーを抱えて輝くような笑顔を向けてくれるシエスタに、ちくりと胸が痛む。
半分は……、いや十分の一くらいは俺のせいで大事な贈り物が汚れちゃったわけだし、なによりも、俺には彼女に負い目がある。
俺は『原作』の流れを守るため、彼女の故郷がアルビオン軍に焼かれるのを黙って見過ごすことを選んだ。
彼女を見ると、どうしても
傲慢な自己満足に過ぎないと、わかってはいるけれど。
「あんた、相変わらず平民に甘いのね。神聖な魔法をどうでもいいことにばっかり使っちゃうんだから」
ルイズがとげとげしい声で言った。
「責任取ってるだけだ。それと、君、手を出してもらっていいかい?」
「手、ですか? かまいませんけれども……」
シエスタは素直に手を差し出した。
マフラーをきれいにしたおかげか、それとも俺が才人の友人だからか、貴族の男にそう命じられたら抱いて当然の恐怖や警戒はまるで感じられない。
俺はさっきと同じルーンを呟き、メイド服の袖口に杖をあてる。メイド服が淡い魔力の光を帯び、その裾からさらさらと砂が流れ落ちる。
シエスタは一瞬ぎょっとしたように身をすくめたけれど、すぐにその効果に気がついたらしい。
紺色の布地をちょいちょいと引っ張り、その場でくるりと一回転した。長いスカートがふわりと舞う。
「わぁ、すごい! 服がこんなに軽く……! この魔法があったら、お洗濯いらずじゃないですか!」
「いやいや。俺は砂と埃と、ついでに湿気を落としただけだよ。君たちがいつもしてくれる洗濯には、まったく及ばない。とはいえ、厨房にも出入りする君が砂まみれのままじゃ困るだろうからね」
シエスタはにっこり笑って、ありがとうございます! と深々と頭を下げた。
それから才人にマフラーを渡し、ついでにその手をぎゅっと握って、
「それでは、そろそろお夕飯の支度がありますので……。サイトさん、今日のデザート、わたしが担当させてもらってるんです。桃のムースを選んでくださいね?」
「あ、うん。わかった。楽しみにしてるよ。マフラーもありがとう」
才人がでれでれしているので、ルイズの肩が、またぴくりと震えた。
「えへへ。いろいろ落ち着いたら、ひこうきに乗せてくださいね? お風呂も、また一緒に入りたいな……それじゃっ」
シエスタは最後に特大の爆弾を落とし、厨房へと走って行った。
意図してか天然か……、まあ、わざとだろうな。
ルイズを牽制してるに違いない。
現に、ルイズは怒りのあまり小刻みに震えている。
しかし当の才人は女の子たちの空中戦に気づいた様子もなく、のんきに俺に話しかける。
「なあクルト、俺にもあれやってくれよ。シエスタにやってた、砂落とすやつ。パーカーがじゃりじゃりすんだよな」
「んー、まあ、いいけど……、無駄になるだろうなぁ」
「へ? なんで?」
きょとんと首を傾げた才人の肩を、ルイズの手が掴んだ。
その小さな手には血管が浮かび、みしみしと骨の軋む音さえ聞こえてきそうな迫力がある。
「おん? ルイズ? どうしたんだよ」
「お、お、おふ、おふろ……ですって……? 一緒に? あのメイドと?
「あ……」
才人はようやく、己の危機に気づいたらしい。
彼の顔から、さーっと血の気が引いていく。
「た、たす、たすけてっ、クルトっ! たすけ……」
懇願は最後まで続かなかった。
ルイズの拳が、彼の意識を一瞬で刈り取ったからだ。
「ねえクルト。サイトに例の魔法をかけてあげて? これからお部屋で、ゆーっくり、お話しないといけないから。このまま連れて帰ったら、床が汚れちゃうわ」
「……かしこまりました。ルイズ・フランソワーズお嬢さま」
才人は白目を剥きながらもマフラーを大事そうに抱えていて、それがまたルイズの神経に障るらしい。彼女は小さな体に怒りのオーラを充溢させて、才人を寮塔へ引きずって行く。
いくら綺麗にしてやっても、あれじゃすぐ砂まみれになりそうだ。
俺は仕方なしに『レビテーション』を唱え、ルイズの部屋まで才人を運んでやることにした。
……しかし、あれだけ怒っていても感情にまかせてマフラーを取り上げたり爆破したりしないあたり、ルイズ、実は立派なんじゃないかと思う。
怒りっぽくてプライドばっかり高いけど、性根は優しいところがあるんだよなあ……、なんて考えてしまうのは、さすがに幼なじみ贔屓がすぎるだろうか?