転生オリ主なので日本の料理を再現する(実績解除)
「ほう! あれが音に聞こえしラドグリアン湖か! きらきら光って、まるで薔薇の花束だ!」
小高い丘のてっぺん。
立派な葦毛の馬に跨がったギーシュが、感激した声で叫んだ。
ギーシュに続いて丘の頂上についた才人も、その光景に息を呑む。
丘から見下ろすラドグリアン湖は眩しかった。
陽光を受けた湖面はガラスの粉を撒いたみたいに青くまたたき、才人が地球で見たどんな景色より輝いている。
あいにく薔薇の花束には見えなかったけれど、ハルケギニアは魔法の世界だ。青くて光る薔薇だって、そこらに生えてるのかもしれない。
なにしろ、惚れ薬まである世界だ。
精霊との交渉役であるモンモランシーに、恋人との旅行気分ではしゃいでるギーシュ。
こいつらだけじゃどうせサボるから、と嬉々として監視役を申し出たルイズ。
ルイズのお供である才人。
そして特に用もなくついてきたクルトをあわせた総勢五人は、早朝に学院を出発し、ラドグリアン湖を目指していた。
ようやく目的地が見えて気分が高揚してきた才人たちとは対照的に、女性陣はどうにもぴりついた雰囲気である。
ギーシュの隣に馬を止めたモンモランシーは、もう何度目になるかもわからないため息を吐いた。
「ああ、とうとうこんなとこまで来ちゃったのね。イヤだわ。二日も授業をサボっちゃって……こんなの初めてよ。父さまと母さまになんて謝ればいいのかしら」
ルイズもまた才人の横に馬をつけて、
「こちとら今学期に入ってから、何回サボったか数えてないわよ。あーあ、座学の成績だけは落としちゃいけなかったのに。あんたの発情薬のせいで、いい迷惑よ」
「発情じゃなくて惚れ薬! それに元はと言えば、フォン・コルパスが勝手に飲んだのが悪いんでしょ。わたしだけの責任じゃないわ」
矛先を向けられたクルトは、しかしまるで気にする様子もない。彼は才人だけを見つめて微笑む。
「綺麗な湖だな、才人。一緒に見ることができて嬉しいよ。ここまで馬で走りっぱなしだったけど、疲れてないか? ポーション飲むか? 腹減ってないか? っていうか汗かいてるじゃないか。ハンカチ使う?」
「あ、うん、大丈夫だから」
才人は死んだ目で答えた。
あんなに美しかったラドグリアン湖が、すっかり色あせた気分である。
小休止を挟む度に、クルトはこんなふうに世話を焼きたがる。
以前ラ・ロシェールに行ったときも色々と気遣ってくれたし、あの旅ではずいぶん助けられた。
けれどもいまの彼は、ちょっとキモい。
才人は深々とため息を吐いたが、空気の読めないギーシュが陽気に言った。
「うむ、そういえば腹が減ったな。もう昼食には良い時間じゃないかね?」
言われてみれば、たしかにその通りである。
太陽はもう天頂を越えているし、出発を急いだせいで、朝食もかなり早い時間だった。
クルトにしつこく訊かれている間は気にならなかったが、才人は自分がひどく空腹なことに気がついた。
一行は街道の脇に馬を休ませ、昼食を摂ることにした。
湖の見える丘の上に(クルトが持ってきた)シートを広げ、めいめいに腰を降ろす。
「あれ、ギーシュ、昼飯は? お前が持ってくるって約束だっただろ」
まっさきにくつろぎ始めたギーシュに向かって、才人は尋ねた。
昨日の打ち合わせのとき、食事の用意は彼が引き受ける、と決めていたはずである。
ギーシュは悪びれた風もなく答えた。
「クルトに任せた。あのあと、代わってくれると申し出てくれたのだよ」
「ええ……」
才人は思いきり顔をしかめた。
いつものクルトであれば、食事を任せてもなんの問題もない。むしろ、ギーシュよりよほど信頼できる。
けれどもいまの彼は、気味が悪いほど才人に惚れているのだ。
料理におかしなもの(唾とか汗とか、その他あまり想像したくない体液とか)を入れられないか、不安になってしまう。
ギーシュは才人の肩をばしばし叩き、豪快に笑った。
「なに、心配は要らんよ。クルトは器用な男だからな。あの宝探しの冒険でも、シルフィードのために美味そうな鹿の丸焼きを作ってたんだ。ぼくは昨日から、あいつの料理が楽しみでね!」
「そういう心配じゃねえんだよな……」
ギーシュの視線の先を追うと、クルトが馬に積んでいた荷物を広げ、なにやら楽しそうに食事の支度をしているところだった。
パンを切ったり肉を焼いたり、彼は手際よく作業を進めており、妙に美味そうな匂いも漂わせている。
才人はますます空腹を感じながらも、もし、ちらりとでも変な味を感じたら、近くの村に逃げて食べ物を分けてもらおう……、とひそかに決心した。
「照り焼きバーガーじゃねえか」
昼食を手に、才人は呟いた。
「サンドイッチだよ」
とクルトは言うけれど、彼が用意した昼食は……ふんわりしたパンで薄いハンバーグと鮮やかな緑の葉っぱを挟み、ご丁寧に四角い紙で包んだその見た目は……この独特の甘辛い香りは……どう考えても、才人の大好物、照り焼きバーガーである。
才人の隣に座ったルイズも包み紙を覗き込み、首を傾げた。
「あんまり見ない形のサンドイッチだけど、あんたの故郷にも似たような料理があるの?」
「似てるどころか……」
才人はその匂いをひと嗅ぎして、ぎゅるぎゅると腹が鳴り出すのを自覚する。
けれどもかぶりつくのを我慢して、クルトに尋ねた。
「おかしいだろ。なんでお前が照り焼きバーガー作ってんだよ」
クルトは嬉しそうに答える。
「へえ。これ照り焼きバーガーって言うのか。東方風のサンドイッチのつもりだったんだけどな。ほら、こないだの宝探しのとき、タルブのヨシェナヴェを美味そうに食べてただろ? それで才人は東方風の味付けが好きなのかと思って、作ってみたんだ」
まるで用意していたかのような、淀みない説明。
しかしそれは、おかしかった。寄せ鍋も照り焼きバーガーも日本の料理ということは変わらないが、どう考えても別系統の料理である。
才人はますます怪しくなって、隣に座るルイズに囁いた。
「なあルイズ、心を読む魔法ってある?」
「はぁ? ないわよ、そんなもん。心を操って秘密をしゃべらせる魔法薬なら聞いたことあるけど。なんでそんなこと訊くのよ」
「照り焼きバーガー、俺の好物なんだよ。俺の世界の」
ルイズの目つきが変わった。
「あいつ……いったいなんなの? なんでこんな意味わかんないことばっかり知ってるわけ? 虚無だけならまだしも……」
「うまい!!」
振り向くと、ギーシュが照り焼きバーガーにかぶりついていた。
彼は口のまわりを茶色いソースまみれにしながら、
「うむ、あまり食べたことのない味だが……これはいけるな! ヨシェナヴェといい、東方の料理ってのはうまいんだなあ。きみに食事係を頼んで正解だったよ!」
「そんならよかった」
とクルトはあまり興味なさそうにギーシュに頷き、いまだ口をつけずにいる才人に向かって、
「食べないのか?」
と尋ねた。
才人が答えられずにいると、クルトは途端に沈んだ表情になって、
「その……、もし気に入らないようだったら、いいぞ。無理に食べなくて。俺が勝手に作っただけだし。ふつうのパンと干し肉も持ってきたから、そっちに替えようか? 余った分は、ギーシュにでも食わせればいいさ」
「む? もう一個くれるのかね?」
すでにハンバーガーの大半を口に収めているギーシュが才人に手を伸ばした。
「やらねえよ!」
と才人は叫び、ハンバーガーにかぶりつく。
怪しさは拭えなかったけれど、もう空腹に耐えきれなかったのだ。ギーシュに取られでもしたらたまらない。
そして一口食べた瞬間、才人の視界が滲んだ。懐かしかった。そりゃもちろん、日本で親しんでいたあの味とは違う。大好きだったチェーン店のバーガーと比べて、パンは硬くて雑味があるし、ソースにも奇妙な臭みがある。レタスのように挟まれていた野菜も、しなびて苦みが強かった。けれどもそれは、たしかに『照り焼きバーガー』だったのだ。
才人は夢中になってハンバーガーを口に押し込んだ。紙についたソースまで舐める勢いだった。
口いっぱいに頬張ったパンと肉と野菜をなんとか咀嚼し、飲み込んで、ほう……、と満足の息を吐く。
それからようやく、クルトが満面の笑みを向けているのに気がついた。
才人は途端に恥ずかしくなって、視線をラドグリアン湖に向けた。クルトから差し出されたハンカチをぶっきらぼうに受け取り、ごしごしと顔を拭う。
ごちそうさま、と呟く。
「よかったら、俺の分も食うか?」
「いや、さすがに悪いって」
「いいんだよ。才人に食べてもらえるなら、それが一番嬉しいんだ。俺はこっちのパンにするから」
とクルトは返事も聞かずに袋から出したパンを食べ始めて、才人は仕方なしにもうひとつの包み紙を手に取った。
実際、食べたくはあったのだ。
さっきのは一気に貪ってしまったから、今度はじっくり味わいたい。
才人はハンバーガーをまじまじと見つめて、クルトに問う。
「これ、どうやって作ったんだ? 照り焼きソースに、たぶんマヨネーズも入ってたよな。こっちにもマヨネーズなんてあるの?」
「それは……、あれだよ。まよ……? ってのはよくわからないけど、いろいろ工夫したんだよ。作り方は……」
クルトは得意げに語り始めた。
惚れた相手に話を聞いてもらえるのが、嬉しくてたまらないらしい。その態度が微妙に気持ち悪いが、彼がどうやったのかはとても気になる。
才人はふたつめのハンバーガーにかぶりつきながら、クルトの説明に耳を傾けた。
○クルト・ド・コールス流、東方風サンドイッチ(照り焼きバーガー)の作り方
材料……人数分の丸い白パン、赤身の豚肉、卵、サラダ用の葉物野菜各種、オリーブ油、
これらの食材を、厨房のマルトー親父に頼んで分けてもらう。
マルトー親父は貴族嫌いで有名であるから、相応の金貨を持っていくこと、『我らの剣』のために料理を作るのだと説明することを忘れない(さらにシエスタが間に入ってくれたことで話がスムーズに進んだのだと、クルトは付け足した)。
場所……コルベール先生の研究室。
もらった食材を携え、コルベール先生の研究室を訪ねる。そこなら実験器具を
そして調理開始……よく消毒した実験用のナイフで豚肉を薄切りにする。肉の向きを変えて再度同じように切る。挽肉状になるまで、これを繰り返す。
ボウルに豚肉と卵黄、塩胡椒を入れ、混ぜあわせる。粘り気が出てきたら薄い円盤状に整形し、熱して油を敷いたフライパンに並べる。両面に軽く焼き目をつけたあと、蓋をしてじっくり火を通す。
豚肉に火が通ったら皿に移し、フライパンの油を落とす。空いたフライパンに魚醤とたっぷりの砂糖、ワインを入れ、火にかけて臭みを飛ばす。
様子を見ながらレモンの果汁と胡椒、ニンニクを加えて味を調整する(この工程の間、コルベール先生の研究室がひどい臭いに包まれたが、魚醤の臭み取りは難航し、最終的には『錬金』でなんとかしたらしい。ガソリン精製の経験が活きたとクルトは語ったが、ガソリンと照り焼きソースがいったいどう関係しているのか、才人には見当もつかなかった)。
肉に絡めるソースが完成したら、今度はマヨネーズ。
オリーブ油に卵白、塩、酢を混ぜ合わせ、固まったら香り付けにレモンを絞る。
最後にサラダ用の葉物野菜各種を少しずつ試食し、ソースに最も合う野菜を選別する(今回採用したハシバミ草は苦みが強いけれど香りと食感が良く、魚醤の臭いを誤魔化すのにちょうどよかったのだとか)。
「……で、作業が終わったのは昨日の夜中だったかな。肉とソースはコルベール先生の魔法で凍らせてもらって、『錬金』で加工した保冷鞄に入れて持ってきたんだ。傷んで食中毒になったら怖いし、パンがふやけないように、挟むのは食べる直前にしたかったからな」
なるほど、ずいぶん手間がかかってるんだな……とハンバーガーの最後の一口を咀嚼しながら、才人は思う。
さっきクルトが
クルトの説明はやけに丁寧だったが、しかし肝心なところで才人の疑問に答えていなかった。
才人は『どうやって作ったのか』とレシピの詳細を確かめたかったのではなく、そもそも『どうやってそのレシピを知ったのか』という点を尋ねたかったのである。
包み紙をくしゃりと潰し、指についたソースを舐め、
「なあ、クルト……」
と改めて問いかけようとしたとき、ギーシュがふと気がついたように言った。
「おや、きみたちは食べないのかね?」
見ると、ルイズとモンモランシーは照り焼きバーガーをほとんど食べていなかった。
一応口をつけてはいるようだったが、まるで小鳥がついばむみたいに、端っこをちみちみかじっているだけなのだ。
モンモランシーは眉根を寄せてギーシュに答える。
「貴族の食べ物じゃないわ、これ」
それから、これ見よがしにハンカチで口のまわりを拭う。
どうやら口が汚れるのを気にしてるらしい。
ギーシュは一切気にせずかぶりついていたけれど、そういや学院の食堂でも男子たちは行儀が悪かったな、と才人は思い出す。
食器はがちゃがちゃ鳴らすし、食べこぼしも多い。口から食べカスが飛ぶのはしょっちゅうだ。才人のマナーだって褒められたものではないが、男子生徒の食べ方は才人に輪をかけてひどいものだった。
しかし女の子たちはきちんと
才人はパンのかけらをちぎって口に運んでいるルイズに言う。
「お前、これは口を汚してがぶっといくもんなんだよ。そんな食い方したって、美味くねえよ」
ルイズは困り顔でバーガーとにらめっこしながら、
「ソースはあとで拭けばいいけど、人前でそんな大口開けられないわよ」
「あ、そうだ。お嬢の食器、持ってきてたんだった」
クルトが呟き、鞄からナイフとフォーク、そして丸皿を取り出した。
杖を振って地面から簡素な机を作り、白いテーブルクロスを敷いた上に食器類を並べる。
ルイズは包み紙を外したハンバーガーを皿に置いて、不満そうに言った。
「こんなの用意するくらいなら、初めからふつうのサンドイッチにしときなさいよ」
「仕方ないだろ。才人に喜んで欲しかったんだよ」
ルイズは思いっきり顔をしかめてハンバーガーをナイフで切り分け始める。
才人からするとそのほうがよっぽど下品な食べ方なのだが、トリステイン貴族的にはこれが正解らしい。
「ちょっと、フォン・コルパス! わたしには何もないの?」
「知らん。ギーシュになんとかしてもらえよ」
クルトは振り向きもせず答えた。
才人も最近気づいたのだが、クルトは平民に優しい一方、貴族にはぞんざいな態度を取ることが多い。
ルイズやキュルケ、タバサのようなごく一部の友人を例外として、クルトはときどき、同級生に対してぞっとするほど酷薄になる。
モンモランシーは露骨に『ルイズ以下』の対応を食らって機嫌を損ねたらしい。喜び勇んで食器を作ったギーシュに向かって、
「やり直し。余計な装飾つけないで。使いづらいったらないわ!」
と怒鳴りつけた。
それから嫌みったらしい口調で、ルイズに言う。
「残念だったわね、フォン・コルパスにお世話してもらえて」
「はぁ? どういう意味よ?」
「惚れ薬にもいろいろあるけどね、わたしが作ったのは、ガリアのダランベール卿のレシピを参考にした特別製だったのよ」
才人の興味は、たちまちモンモランシーに移った。
惚れ薬のレシピなんて言われてもわからないが、『特別』というのは、なにやら面白そうな響きである。
「ダランベール卿の考案した惚れ薬を飲むとね、その人が本来好きだった人が、まったく、どうでもよくなるの」
「どうでもよくなる?」
と才人は繰り返した。
貴族の会話に割り込んできた才人にイヤそうな顔をしながらも、モンモランーは説明を続ける。
「ふつうの惚れ薬だったら、飲んでから初めて見た相手を好きになるだけだわ。その人が本来好きだった相手への気持ちは、実は変わらないの。ただ、自然な恋心よりも薬による恋心のほうがずっと強烈で抑えが効かないから、元々の気持ちが隠れちゃうだけ」
ふむふむ、と才人は頷く。
「でもわたしの作った惚れ薬は違うわ。本来好きだった相手への気持ちを消しちゃうの。元々の気持ちが強ければ強いほど、その反動も大きくなるわ。場合によっては、名前も思い出せなくなることだってあるらしいわ」
まあ、そこまで真剣な恋をしてる人間なんて、そうそういないらしいけどね……とモンモランシーはギーシュから新たなナイフを受け取りながら、付け足した。
ギーシュは続いてフォークを……今度は薔薇の飾りがついてない、シンプルで機能的なデザインだ……差し出し、首を傾げる。
「好きだった反動で、名前を忘れるのかい? 嫌いになるワケではないのかね?」
才人はふと、地球で聞いた格言を思い出した。
「『好きの反対は無関心』ってやつか」
「へえ、あんた上手いこと言うじゃない。平民のくせに」
モンモランシーは感心と軽蔑を同時に顔に浮かべた。器用な娘である。
「うっせ。そんでモンモン、どうしてそのナントカ卿の特別製にしたんだよ。ふつうの惚れ薬より大変だったんじゃねえの?」
「だって元々、ギーシュに飲ませるつもりだったのよ? このバカ、惚れ薬飲ませたってあっちにふらふら、こっちにふらふらしかねないじゃないの。こっちのほうが良い薬だって思っただけよ」
本来好きだった相手がどうでもよくなる……ということは、女好きのギーシュがあの薬を飲んでいたら、女性全般への興味を失っていたのだろうか。
ギーシュは自分が惚れ薬を飲んだ姿を想像したのか、青ざめた。
「きみ……そんな恐ろしい薬をぼくに飲ませようとしていたのかい?」
「あんたが浮気性なのが悪いのよ。身代わりになったフォン・コルパスに、せいぜい感謝しなさいよね」
素直なギーシュはクルトを拝み始めた。
モンモランシーは虫の死骸でも見るような視線をギーシュに送る。
「それで結局、なにが残念なのよ?」
ここまで黙々とハンバーガーを食べていたルイズが言った。
皿の上ではパンと具材がばらばらになり、茶色いソースとマヨネーズにまみれている。ちょっと具合が悪くなりそうな光景だったが、この場の誰も指摘していないあたり、ハルケギニア的にはこれが正しい食べ方なのだろう。
モンモランシーは意地悪に笑って、
「だってあなた、惚れ薬飲んだフォン・コルパスに、相変わらずお世話してもらってるじゃない」
「それがどうしたのよ」
ルイズはきょとんと首を傾げた。
モンモランシーは苛立ったように言う。
「わからないの? この男、あなたのことがちっとも好きじゃなかったってことなのよ。ほんの少しでも恋愛感情があったら、あなたのために特別な用意なんかするはずないもの」
才人は息を呑んだ。
クルトは結局、ルイズが好きなのか……ずっと以前から抱いていた疑問に、思いがけず答えが出たのである。
そりゃ彼の態度を見ればタバサが好きなのは明白だが、それでも彼は、ルイズといちばん親しい男子生徒だ。昔から家同士の付き合いがある、いわゆる幼馴染みというやつだ。
こんなに(顔だけは)可愛いルイズと一緒にいて、うっかり惚れない男がいるだろうか――いや、ない。いるはずがない、と才人は思う。
クルトがタバサを好いている様子なのも、才人の疑念を
タバサもルイズも、言ってみれば『子どもっぽい』体型である。才人のまわりの女の子を『大きい/ふつう/小さい』に分類したら、ふたりは同じグループに入るだろう。『小さい』の下に『とても小さい』を作ったとしても結果は同じだ。
クルトがタバサを好きだというなら、当然、ルイズも守備範囲に入ってくるということで……と、また空転を始めた才人の思考にはお構いなしに、ルイズは心底から不思議そうに言った。
「そうね。それで……なにが残念なの?」
「あなた……悔しくないの? フォン・コルパスに、あんだけ一緒にいた男の子に、女として見られてなくて」
それでようやく、ルイズはモンモランシーの意図を察したようだった。
鳶色の瞳が細められ、かたちの整った唇が不機嫌にひん曲がる。
「んなわけないでしょ。むしろ安心したわよ」
安堵のあまり、才人の手からソースに濡れた包み紙が落っこちた。
クルトが嬉しそうに包み紙を回収し、新たなハンカチを差し出す一方、モンモランシーは納得いかない表情を浮かべる。
「そのわりには、こいつを治すためにずいぶんがんばるじゃないの。授業もサボって、わざわざラドグリアン湖までついて来て。一昨日なんか、そのたいそうな指輪まで売っぱらいそうになってたし」
モンモランシーがさしているのは、ルイズの指に光る大粒のルビーのついた指輪。
一昨日、クルトを治すのに必要な秘薬の値段を聞いたとき、ルイズは泣きそうな顔でこの指輪に手をかけていたのだ。
大事な『姫さま』から受け取った宝物であり、虚無に目覚める鍵となった『水のルビー』を。
「それだけこいつが大事なんでしょ? それとも、彼に使い魔を取られたくなくて必死だったのかしら?」
ルイズはしかめっ面で答えた。
「どっちでもないわよ。ただ、使い魔にこんなのが
「ふん、どうだか」
モンモランシーは負け惜しみのように鼻を鳴らす。
彼女の隣にいたギーシュがとぼけた様子で、
「たしかに、クルトがぼくのヴェルダンデに惚れてたら、彼を治すのに必死だったかもなあ」
「ギーシュ、あんたどっちの味方なのよ! 『愛の奉仕者』なんでしょ!? どんなときでも、あんたはわたしの味方しなきゃダメでしょーが!」
射殺すような視線を向けられたギーシュはアハハと笑って、ラドグリアン湖を指差した。
「そんなことより、見てごらん恋人よ! なんとも美しい湖じゃないかね! あんなに青くて、きらきらして……まるで薔薇の花束だ!」
モンモランシーはギーシュをどつきまわした。
完全にやつあたりである。
「誤魔化すんじゃないわよ! だいたいねえ、青くて光る薔薇なんてどこにあるのよ!? そのなんでもかんでも薔薇に喩える癖、治しなさいって言ってるでしょ!」
モンモンのキツい性格もギーシュのアホも、きっとどんな薬があっても治らないんだろうなあと才人は思い……、このハルケギニアにも青くて光る薔薇が存在しないことを、ほんのちょっぴり残念に思った。
惚れ薬のもうひとつの効果については完全に独自設定。
ご都合主義的設定だけど、惚れ薬なんてもともとご都合主義の塊みたいなものだからいいかなって……。