章末恒例(?)、キュルケとの反省会
「クルト? こんなとこでなにしてんのよ」
タバサが姿を消してから、どれだけ経っただろう。
膝を抱えて地面に座り込んでる俺の耳に、呆れた声が降ってきた。
「ほっといてくれ。俺はもうだめだ。モグラ以下のキモい存在なんだ。死んだほうがいいんだ」
俯いたまま答えると、背中に火をつけられた。
「ぅ
俺は地面を転がってなんとか火を消し、この理不尽な暴虐の犯人、キュルケに抗議の声をあげる。
追撃に備えて懐から杖を抜くけれど、キュルケはくすくす笑うばかりで、もう俺を燃やす気はなさそうだった。
「自分で消火できるなら大丈夫ね。あんた、落ち込んでるときは自分から燃えたがるもの」
キュルケが言ってるのは、アンリエッタ誘拐事件の翌朝、俺が彼女に焼き殺されたがっていたときのことだろう。
確かにあのときよりはマシな精神状態だが、友人の調子を
「どうしたの……なんて、訊くまでもないわね。どうせタバサでしょ」
「うるせ」
俺は地面に座り込んだまま、ぶっきらぼうに答えた。
キュルケはますますおかしそうに笑いを零す。
「こっちに来る途中で、タバサとすれ違ったのよ。あんた、あの子になにしたのよ。相当機嫌悪かったわよ」
「べつに……」
「べつに、じゃないでしょ」
キュルケは俺の前にしゃがんで、強引に視線を合わせてくる。
ほのかに甘い香水の香りが鼻腔をくすぐり、俺は体ごと退いて彼女から逃れる。
「あの子があんなに怒ってるとこ、初めて見たわ。いったいなにやらかしたらああなるの? 久しぶりに会えたからって、無理矢理キスでも迫ったの?」
「するかよ、そんなこと」
「そうよねぇ。そんな根性、あんたにあるわけないわよねぇ」
思いっきりバカにされた気がするが、言い返せない。事実である。
「なんで怒らせちゃったのか、俺が教えて欲しいくらいだ。さっきまで、ふつうに話してたのに。て、て、手ぇ、くらい、繋げそうな雰囲気だったのに……」
「手って」
ぷふーっ、と吹き出された。
そりゃキュルケからしたら、異性と手を繋ぐのなんて至極かんたんなことなんだろうけど。
こっちはそれだけで必死なんだ。
ほんとは目が合うだけで心臓が潰れそうになるんだ。
「ごめんってば。あんたまで、そんな怒んないでよ」
キュルケは片手をあげて謝るが、反省の色はまったく見えない。
「タバサとなにがあったのか、詳しく教えなさいよ。あの子の機嫌を直す方法、一緒に考えてあげるから!」
「お前が楽しみたいだけだろ」
俺は一応文句を言ってみるけれど、余さず素直に話してしまう。
任務を終えて帰ってきたタバサとの再会に始まり、リュリュに紹介されたこと、料理を振る舞ったこと、リュリュを泣かせてしまったこと、それから彼女をトリスタニアまで送ったこと、学院に戻ってからの散歩と、タバサと交わした会話の内容まで……。
タバサとの思い出を他の誰かに語るのには、少しばかり抵抗があった。自分の胸の中だけの宝物にしておきたかったのだけれど、キュルケならばかまわない。
それに結局のところ、タバサと仲直りする方策を相談するのに、キュルケ以上に適した相手がいないのも事実だった。
「それは……、バカね。あんた死んだほうがいいわね」
俺の話を聞き終えたキュルケが、しみじみと言う。
「そりゃタバサだって怒るわよ。そのリュリュって子が立派なのは認めるけど、あんた、ふらふらしすぎ。もっとマジメにやんなさい。それにせっかく本命の子といい雰囲気になれたっていうのに、なんで他の女とデートに行った話するワケ? 頭沸いてんの?」
「デートじゃないけど」
「デートよ。男と女がふたりっきりでラドグリアン湖なんか行ったら、デート以外のなにものでもないの。常識よ、常識」
俺としては微妙に納得しかねる……なぜって、俺とモンモランシーはデートなんかしてないのだ……が、キュルケが言うなら、そうなのだろう。
実際モンモランシーはその
だが、それを踏まえても、俺はどうにも腑に落ちない。
「百歩譲って、俺とモンモランシーがデートしたってことにして、だ。それでどうして、タバサが怒るんだよ」
キュルケは、信じられないバカを見る目で俺を見た。
「仕方ないだろ、本気でわかんないんだから。べつに俺たち、つ、付き合ってるワケでもないんだし。そもそも俺、とっくにフラれてるし」
「フラれたって……あんた告白したの!?」
突然、キュルケが飛びついてきた。
ものすごい力で両肩を掴まれ、額がぶつかりそうな勢いで間近に顔を覗き込まれる。
「いつ!? どこで!? どんな言葉で!? 教えなさいよそういうことは! 逐一報告しなさいよ!! あんだけ背中押してやったのに、恩を仇で返すつもり!?」
「してねえよ告白なんか! する前にフラれたんだよ!」
「はぁ!? どういうことよ!」
ますます迫ってくるキュルケをなんとか押しのけ、言い返す。どうしても、恨みがましい口調になる。
「お前が話したんだろ。誘拐事件のあと……」
キュルケはきょとんと首を傾げた。
「だから、あの惚れ薬の効果だよ。『もともと好きだった相手への興味をなくす』ってやつ。タバサには、キュルケから説明してくれたんじゃないのか?」
思い出すのも苦しい、あのラドグリアン湖の夜。
ルイズに代わって惚れ薬を飲んだ俺は、タバサへの関心を失っていた。名前も思い出せないほどだった。俺はタバサの指をへし折り、その後もひどい態度をとり続けた。
誘拐事件が解決したあと、タバサを傷つけた俺の行動は薬によるものだったと伝えるために、キュルケがタバサに一通りの説明をしてくれたはずである。
薬の効果はもちろん、薬のせいで興味を失った『俺のもともと好きだった相手』についても。
キュルケは考え込むように目を細め……、あっ、と細い声をあげる。
それから、こんなことを呟く。
「いっけない、忘れてた」
「は?」
キュルケは苦笑を浮かべて頬を掻き、しかしちっとも悪びれずに、
「そういや、あんたに言ってなかったわね。惚れ薬の効果、タバサには説明してないのよ」
「……おい! んな大事なこと忘れんなよ!! 俺、もう完全にフラれたと思って……! ぜ、ぜんぶ、伝わっちゃってると思って……!!」
タバサの前で繰り返してきた数々の失態と失言を一度に思い出し、俺は、気が狂いそうだ。
だって俺は自分の好意なんかもうとっくにバレてると思っていたから、タバサの前であんなに油断してたのだ。
タバサが俺の好意を理解した上で優しく接してくれてると思って、脈は無いまでも自分を受け入れてもらえたような気がして、(比較的)平静でいられたのだ。
だけど、キュルケが惚れ薬の説明をしていないとなると、話がまったく違ってくる。
タバサは俺の好意を受け入れてくれたわけじゃなかった。
俺はただただ、色ボケたキモい発言を繰り返していただけなのだ。
そりゃタバサだって気持ち悪がって怒るはずだ。『まじめにやれ』とキレて当然だ。
し、死にたい……。
「ちょっと、そんな落ち込まなくてもいいじゃない」
強烈な『死んだほうがいい』の発作に襲われ、頭を抱えて倒れ込んだ俺の頭上で、キュルケの困った声。
「い、いいんだ、俺が悪い……、俺が、キモくて頭悪いのが悪いんだから……お、俺はもう、死ぬ、ここで自分に火をつけて死ぬ……灰はコールスに送ってくれ……そんで畑に……細かく砕いて
「ああもう、あたしが悪かったから、それやめなさいってば」
ぽんぽん、と背中を叩かれる。
その
脳髄を支配していた死にたさの衝動が、わずかに弱まる。
「あたしだって、ほんとはすぐに伝えるつもりだったのよ。でもあんた寝込んじゃうし、タバサがずっと部屋にいるしで、言い出す暇がなかったの。それに、途中から惚れ薬どころじゃなくなっちゃったし」
「……なんかあったのか?」
興味を惹かれた俺が顔をあげると、キュルケは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
とびきりの秘密よ、なんて呟いて、体をかがめて俺の耳元に唇を寄せる。まるで幼い女の子みたいなくすくす笑いと一緒に、吐息まじりの囁きをする。
「ねえクルト、知ってる? あの子、あんたのこと、ルイズの騎士だと思い込んでるの」
「え? なんでもう知ってるんだよ」
「え? どういうこと?」
耳元で、ごくふつうの音量で問い返され、頭の奥がきぃんとする。
俺はしかめっ
「つまり、タバサは俺を『ルイズを守る秘密騎士』だと思ってて……」
「……あんたはホントに、ルイズの
広場の端のベンチに腰掛け、互いに一通りの事情を語った俺たちは、きょとんとした顔で見つめ合い……、やがて、キュルケが吹き出した。
「お前、笑ってやるなよ。タバサだって、し、し、真剣に、か、かんがえ、て……っ」
お腹を抱えてけらけら笑うキュルケを
そうなるともう堪えきれなくて、ふたりして大声で笑い合う。
「……ああ、もうだめ、お腹痛い」
すらりとした体を
「あ、あんた、占い師は廃業なさいな。タバサのほうが、よっぽど上手く言い当ててるじゃないの」
「そ、そう、だな……」
言葉の途中で、俺はまた吹き出した。
笑いすぎて地面にずり落ちかけていた体をベンチの上に戻し、しみじみと呟く。
「さすがタバサだ。俺なんか、とても敵わない」
その言い方がツボにはまったのか、キュルケは俺の肩にもたれてぷるぷる震えた。
右半身に彼女の熱を感じながら、俺は初めて、騎士になってよかった……、と心の底から嬉しく思う。
キュルケと笑い転げてるこの瞬間は、騎士の爵位が保障する貴族の地位より、五百エキューの年金より、遙かに価値があるのだった。
俺はキュルケと体重を預け合ったまま深呼吸して、彼女の漂わせる女らしい甘い香りに胸焼けがして……、ふと、気づく。
唐突に、理解が訪れる。
この夏休みの間、タバサが優しくしてくれた理由。
俺は最初、タバサがなにかと気遣ってくれるのは、彼女が俺に母親を重ねているからだと思っていた。
ルイズを庇って心を狂わせる薬を飲んだ俺に母の姿を投影し、そんな俺の世話を焼くことが、タバサにとってある種の癒やしとなっているのかもしれない、と。
それはそれで正しいのかもしれないが、タバサの優しさには、もうひとつ別の理由があるはずだ。
タバサは、俺の境遇にタバサ自身を見出していたのだ。
もしかしたら、彼女は『虚無の担い手であるルイズを守る秘密騎士』という実力に不相応な役目を与えられた俺に同情しているんじゃないか。
だからルイズを庇って傷を負った俺の身を案じ、一緒にトリスタニアに出かけたときには、密談の方法やメイジの見抜き方を丁寧に教えてくれたんじゃないか。
タバサの優しさは、きっと、ずっとひとりで戦ってきたタバサ自身が欲していた種類の優しさなのだ。
怪我したときは誰かに心配して欲しかったし、治るまで世話をして欲しかった。ロクな説明もなしに危険な任務に放り込まれたときは、誰かに教え導いて欲しかった。
理不尽に家族を奪われ
彼女の抱いていた傷が、孤独な願いが優しさとしてあらわれた結果が、あの不可解な行動だったのだ。
「ねえ、ねえ、クルト。騎士の受勲祝いに、もうひとつだけ教えてあげる」
キュルケが俺の肩をひっぱり、ほとんど耳に唇をくっつけるようにして囁いた。
「んー……でも、どうしようかな。やっぱり黙っとこうかしら」
「なんだよ、ここまで来て」
俺は背筋のぞわぞわする感覚に肩をすくめ、キュルケを押しのけようとする。
けれどもキュルケの腕使いは巧みで、柔らかな体は、唇は、俺にぴったりくっついて離れない。
「だって、言ったらクルト怒るもの」
「怒んないよ、いまさら」
「ほんと?」
「ほんと」
「ほんとのほんとね?」
「うん、ほんとのほんとのほんとだよ」
付き合いたての恋人同士みたいな、頭の悪い会話。
幼いころ、彼女の魅力に振り回されていた時期を思い出す。
キュルケは俺の耳に吹き込むようにしてくすりと笑い、実に楽しそうに言った。
「あのね、タバサってば、あんたがルイズに惚れてるって思い込んでるの。そんで、あんたとルイズの仲を応援するんだーって、がんばってるのよ」
数秒の間、俺はキュルケの言葉の意味を考えた。
そうして、俺の鈍い頭がじわじわと理解を深めていくにつれて、俺のなかには、どうにも処理しがたい、ある不思議な感情が生まれてくるのだった。
「……クルト? 笑ってるの?」
意外そうなキュルケの声。
ルイズとの関係を色ボケた思考で詮索するのは、俺の神経を逆撫でするもっとも簡単な方法だ。
キュルケの場合、その辺をよく理解した上で平気で話題に上げてくるのだが、俺は(我ながら律儀なことに)毎回不機嫌になってしまう。
けれどもいまの俺はちっとも苛立ちを感じておらず、むしろ心底から愉快な……、陽気な歌なんか口ずさみたくなるような気持ちでいっぱいになっていた。
「呆れた。やっぱりタバサは特別扱いなのね?」
キュルケが、少し拗ねたように言う。
「そうだけど、それだけじゃないよ。そんな誤解をされるくらいには、俺にも悪いところがあった。っていうか、悪いところしかなかったな」
「なぁに、いまさら気づいたの?」
「そうだな、いまさらだ。まあ、俺も大人になったってことで」
俺は穏やかに答えながら、実に自然な思考で、この誤解は放っておこうと決意する。
いままでタバサが無防備な姿を見せてくれたのは……俺の前で眠ったり、
タバサは、俺の前でなにをしたって間違いなんて起こりえない、と……、俺を安全な男だと思い込んでいた。
俺を報復の小道具に選んだモンモランシーと同じように。
タバサの前でこぼした好意がことごとく
異性としてまるで意識されてないことは悲しくもあるが、この関係だってそう悪くないんじゃないかと俺は思う。
なぜって、いまのタバサに必要なのは、自分を好いてくるキモい同級生じゃない。信じられる友達だ。安全な相手だ。帰ってくる場所、休める場所だ。
もし、万が一、タバサの苦難が取り除かれたあとも俺が生きることを許されていたなら、初恋を……、なんてバカげた望みを抱く自分がいるのは否定できないが、それを叶えるのはいまじゃない。
俺はタバサにとっての安全な場所になることができた。
たとえそれが誤解に基づく、
タバサの心を少しでも安らげることができていたなら、なにより価値ある成果じゃないか。
「ねえ、行ってきなさいよ、あの子のとこに。そんで進展があったら報告ね」
キュルケが俺の肩をつっついた。
俺がタバサに会いたくてたまらなくなっていることを、彼女は鋭く見抜いたらしい。
「せっかくだから、一緒に行かない?」
タバサへの抑えがたい情熱と『安全な男』のままでいたい願望を折衷させた、腑抜けた提案。
キュルケは呆れをあらわに苦笑いして、首を振る。
「あたしも会いたくなっちゃったけど、今夜は譲ったげる。だってこれから、ジャンに会いにいくところだもの」
「ジャン?」
間抜けに問い返した俺に向かって、キュルケはなんでもないことのように言った。
「そうよ。ジャンってば奥手だから、こっちも装備を固めていかないとね。ねえクルト、気づいたかしら? 今日の香水、ロマリアから取り寄せた特注品なのよ」
「うん、なんか、いつもと違うなって思ってた。良い匂いだよ」
「でしょ? 下着だって、わざわざトリスタニアまで行って仕立ててきたの。奮発したんだから」
見てみる? なんてキュルケはスカートの裾を持ち上げる。
「うわぁ、すご、隠せてないじゃん、それもう
「ええ、そうよ」
俺はぽかんと大口を開けて、キュルケを見つめる。
だけどキュルケがスカートをひらひらさせるのでまた視線が吸い寄せられて……、はい、おしまい、と手を下ろしたキュルケに笑われた。
「続きはタバサに頼みなさいな」
「だっ、だ、誰が、頼むかっ、誰がっ」
強く抗議するけれど、俺の鈍い頭はこんなときだけ無駄な性能を発揮して、タバサが
顔が燃えそうに熱い。鼻の奥がつんとしてきた。
咄嗟にハンカチを出して鼻に押し当てると、キュルケは手を叩いてけらけら笑った。
「あたしの『運命の相手』、ミスタ・コルベールなんでしょ?」
「な、んで、知ってんだよ……」
「あんたを見てたら、だいたいわかるわ。あたしがあのひとと話してたら、しょっちゅう死にそうな顔するんだもの」
キュルケの答えは簡潔で、説得力があった。
そこまで露骨な反応をしたつもりはないが、キュルケからしたら、俺の内心なんて手に取るようにわかったのだろう。
「だからって、おかしいだろ。だってお前まだ……」
まだ、コルベール先生に救われてない。
『原作』でキュルケが先生に惚れたのは、『白炎』のメンヌヴィルに殺されかけたところを救われたからだ。
その瞬間が来るまでは、キュルケは先生を『火の使い手のくせに戦いを避ける臆病者』と思い込み、軽蔑さえしていたのだ。
「あのね、あたしは『微熱』のキュルケよ? 運命の出会いなんて予告されて、大人しく待ってると思う?」
思わない。
こいつが大人しく運命を受け入れる姿なんか、俺はまったく想像できない。
「あたしだって、最初は信じられなかったわ。あんなコッパゲがあたしの運命だなんて……ひどい侮辱だと思ったわ」
キュルケはすらりと長い脚を組み、せつなげに息を吐いた。
「でも、なんていうのかしらね。あのひとを見てると、なんだかおかしくなっちゃうの。あたしの好みには
俺は呆然とキュルケの言葉を受け止めながらも……、しかし、ある種の納得を得る。
キュルケがコルベール先生に惚れたきっかけは、たしかに劇的なものだ。
軽蔑していた相手に命を救われ、恋に落ちるなんて、ベタと言ってもいいくらいだ。
だけど恋や情熱というものがそんなに単純な仕組みではないことを、俺は知っている。
俺は『原作』と『タバサの冒険』を思い出した直後、タバサに魂を奪われた。一目惚れのような経験だった。
そうしてその後もタバサに会うたびに、見つめるたびに、言葉を交わすたびに、俺はタバサに惚れていた。
あの使い魔召喚の儀式の場でタバサと出会わなかったとしても、俺は彼女に恋していただろう。
キュルケにとってのコルベール先生も、俺にとってのタバサと似たような存在だったんじゃないか。
『原作』では劇的に恋に落ちたけれど、そんな出会いがなくたって、もうしばらく一緒にいれば……『戦いから逃げる臆病者』という思い込みをなくして、しっかりと先生を見つめていれば、キュルケは、恋をしていたんじゃないか。
そんな不確定要素だらけの妄想を、しかし、俺はすでに確信していた。
なにせ『ゼロの使い魔』はキュルケがコルベール先生に惚れて以降も続いていたはずで、少なくともその物語が続く間(彼女が他の男に惚れるような意外な展開がなければ)彼女はずっと先生に恋していたはず。
そうして俺は、もうひとつ知っている。
キュルケは気まぐれ屋で、恋多き女の子だ。すぐに興味の対象が移ろい、昔からいろんな男をとっかえひっかえしてきた浮気性だ。どんなに激しい情熱を抱いた相手だったとしても、気に入らないところを見つけたら、早々に切り捨ててしまうだろう。
そうだ。このキュルケが、
キュルケの恋が『原作』の終わりまで続いたというのなら……つまり、キュルケが真実、コルベール先生に恋をする運命にあるのなら、出会いは運命的じゃなくてもいいのだ。
「……なんだよ、それ。そういうことは、早く言えって」
俺は半ば笑い、半ば泣いてるような声で呟く。
キュルケの意外な恋の告白は、俺にとって、まさに
コルベール先生を死なせないことと、キュルケの運命の出会いを損なわないこと……どうすればこのふたつを両立できるのかと、俺はずっと悩んでいた。
けれどもキュルケがすでに恋しているとなれば、話がまるで違ってくる。取れる手段が、いくらでも出てくる。
「なーんでそんな嬉しそうなのよ。このあたしが、本気で恋したって言ってんのよ。ちょっとは嫉妬しなさいよ。ほんと、つまんない男ね」
キュルケがなぜか不満そうに唇を尖らせ、肩を掴んで揺さぶってくる。
俺は無抵抗に体を揺らされながら、タバサに会いに行こう、と思う。
こんな時間に女の子の部屋を訪ねるなんて、『安全な男でいよう』という決意を
だいたい俺は、ほんとうは、女の子に夢中になってる場合じゃないのだ。
もうじき戦争が始まって、あまりにもたくさんの人が死ぬ。ルイズと才人は敗軍の捨て駒にされるかもしれない。
仮にルイズたちを戦争で失わずにすんだとしても、今度はきっと、タバサの身に苦難が起きる。おそらくは虚無の担い手であるガリア王ジョゼフとミョズニトニルンに加えて、エルフと戦う可能性だってあるのだ。
未来に備えるためにも、俺は少しでも多く、一秒でも長く、強くなるための努力をすべきだ。
もっとまじめにやらなきゃいけない。
ふらふらしてる場合じゃないのだ。
けれども……、たったいまキュルケが教えてくれたみたいに、未来が思いがけず良い方向に転ぶこともある。
世界には、悲劇ばかりが起きるわけじゃない。
だから、今日くらい、許されるはず。
タバサが絡むと俺はずっと浮かれていて、『今日くらい』なんて控えめな表現じゃ収まらないほどふらふらしているけれど、きっと大丈夫。
「だって……タバサも言ってたもんな。まだ夏休みなんだから」
そんなことを呟いてみたら、タバサも休みも関係ないでしょ、とキュルケが俺の耳を噛む。
クルト視点の話はここまで。
あとはタバサの話がふたつあって、この章はおしまいです。