ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】   作:1パチより4パチ派

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逆鱗は斬れない

 

 動かない。刀が。加奈子とか言う女が結界から脱出しようとして居た。だから斬り殺そうとしたら加藤がそれを庇った。そこまでは良い。何なら好都合まである。肉を切り裂き、内臓にも刃は届き、背中まで貫通している。だがそこから動かない。いくら押しても、いくら引いても、体の半分ほどまで斬った辺りで俺の持つ刀は1ミリたりとも動く事はなかった。

 

『(何だこれは……! 篠目の力だぞ!? 刃が体を通らない……! いや!?)」

 

 よく見ると武器を持っていなかった左手で刀を握り込んでいる。当然左手からは血が溢れているが、力は全く衰えない。いやそれどころか──!

 

「おい」

 

『!!!』

 

「お前、この人に何しようとした」

 

 俯いていた顔がゆっくりと上がる。

 

「この刀で傷付けようとしたな? 殺そうとしたな?」

 

 背筋が凍る。決して大きくは無い、だが深淵から聞こえるような負の感情を混ぜ込んだその声を聞いただけで体が硬直する。刀を離して下がるべきだ。下がれない。受け入れ難いが──恐怖で動けない!

 

 

 

 

 

「この人に──手を出したな」

 

 

バキャンッ!!!

 

『な──ガハアッ!!!』

 

 奴に使っていた刀を握り砕かれ、右手に残っていたモップの残骸で顔を殴られた。受け身も取れずに後方へ吹き飛ばされる。

 

「……ゴボッ」

 

 

ベチャッ! ボダダダダ……

 

「加藤さん! 加藤さぁん!!!」

 

 信じられない。ランクS相当の刀だぞ!? それを腕力だけで!? あの傷でここまでの力が出せる訳が無い。あの男の種族は間違いなく人間だった筈! 生まれも特出したものでは無い! それがこれか!?

 

『(おのれ魔王め……!!!)』

 

 魔族の王が生み出したダンジョン。あれにより戦争は終わりを告げた。だが一般には知られていない副作用が存在する。それは──。

 

『(ダンジョン内に滞在すればするほど、元の種族とは比べ物にならないほど逸脱した強さを得る!!!)』

 

 探索者が何故強くなるのか。それはダンジョン内に満ちている魔力によって、身体が強制的に変質していくから。それこそ高難易度ダンジョンに潜れば潜るほど、探索者は強くなる。……しかし、それは牛歩の歩みだ。気の遠くなる様な時間、気が狂うレベルの死を受け入れた者のみ、高みに至れる。

 

『(コイツはどれほど戦ったのだ。どれほど潜ったのだ。どれほど死んだのだ!?)』

 

 この世界の強さに置いて、種族差と言うものは間違いなく存在する。人族内でも竜人族は圧倒的に強いし、魔族も今では廃れたが高位魔族と呼ばれて居た者達は他の魔族とは比べ物にならない程の生物としての強さがある。故に過去戦争で活躍した者も、殆どが種族として強い者達だ。人間は数でしか勝てない。だからこそ【篠家】は作られた。それに対抗する為に! ──だが、今目の前に居る男は抗った。篠目と【合成(シンセンス)】し、間違いなく過去も含めて最強となった俺の攻撃を止めてみせた!

 

『(視界が……クソ! あんな単純な攻撃で……!)』

 

 業腹だが、篠目も奴らと共にダンジョンに潜っていた。故にその分の蓄積は今の俺にも入っている。ならば考えられるのは、篠目が仲間になる前。その積み重ねの分だけで奴は立っている。

 

『(通りで他の連中も仕留めきれん訳だ!)』

 

 あの坊主も神父もバジリスクもスライムも。間違いなくこちらが押せているのに致命傷は取れない。恐らくあの気狂いと共にダンジョンに潜り過ぎて元の種族としては規格外の存在になっているのだ。

 

「隙有りぃぃぃぃぃ!!!」

 

『ぬぅ!? うがぼがっ!』

 

「やぁぁぁっと捕まえたわ! さっきからちょこまかちょこまか! 動き早過ぎんのよアホ!」

 

 隙を晒してしまい、スライムに取り込まれる。だがこの程度であれば──!

 

「オピス! やりなさい!!! 分離!」

 

『もがっ!?』

 

「いい加減止まってもらうよ。──石と成れ」

 

 バジリスクの目が怪しく光る。だが篠目の力を得ている以上、魔眼による石化など効かな──いや! 違う! これは──!

 

「君本人には効かないけど、分離したゲルダちゃんの体なら別の話だよね!」

 

 一気に自分を飲み込んでいたゲルが石になっていき、俺はそのまま石の中に飲み込まれた。

 

◇ ◇ ◇

 

 ゲルダリアとオピスの連携で篠夜を石の中に閉じ込める事に成功したのを見て一息付く。取り敢えず何とかなったか……。

 

「【治癒】ゥゥゥゥゥ!!!」

 

 高木が全速力で走り寄って来ながら回復を飛ばしてくる。あっという間に傷は塞がった。魔力使いすぎじゃないか?

 

「高木ナイス。もうちょいで千切れる所だったわ」

 

「お前マジでバカ過ぎんだろ!!! もう武器の耐久限界って分かってただろうが!!! ここダンジョン内じゃねぇんだぞ!?」

 

「仕方ねぇだろ。加奈子さんやばかったし……」

 

「蘇生持ちなんて誰も居ねぇんだぞ! 捨て身が過ぎるわ!」

 

「あ、加奈子さん。怪我無いです?」

 

「話を聞けぇぇぇぇぇ!!!」

 

 何でコイツこんなに騒いでいるんだろう。俺が致命傷喰らうなんてよくある事なのに。確かにダンジョン内以外でこんなに傷を負ったのは初めてだが……。

 

「すいません。俺の血が……服弁償しますね……」

 

「そ、そ、そ、そんな事どうでもいいでしょぉぉぉぉぉ!?」

 

「おわっ!」

 

 後ろに居た加奈子さんに俺の血が掛かってしまった。それの謝罪をしたら加奈子さんに縋り付かれた。変な心配をかけてしまっただろうか。

 

「生きてますよね? 生きてるんですよね!?」

 

「大丈夫ですよ。高木が治したし」

 

「大丈夫な訳無いだろ。見ろこのバカみたいな出血量。何で立ってんだお前」

 

「気合い」

 

「はえーすっごい! 取り敢えず加奈子さんに謝った方いいぞ」

 

「分かってるわ。血って汚いしな」

 

「「そこじゃねぇよ!(無いですよ!)」」

 

 だがあのままだと加奈子さんが斬られていた。自分でも多分防ぎきれないだろうなと思いながら間に入ったので覚悟はしていた。幸い相手が隙を晒してくれたのでぶっ飛ばす事が出来たので結果オーライだ。

 

「加藤さん。申し訳ありません、私の支援が不足していました」

 

「あ? 何気にしてんだ。あんだけありゃ充分だろ」

 

「しかし……」

 

「ちょっと! 加藤平気!? 死んで無いでしょうね!?」

 

「加藤くん、無茶したらダメだよ。座って? ほら」

 

 鶴岡が何故か神妙な顔で謝ってくる。ゲルダリアとオピスまでやたらと俺の心配してくる。何だコイツら、気持ち悪ぃ。お前らダンジョンで俺が罠踏んで死んだ時よく笑ってただろ。心配するならその時からしろよ。

 

「平気だ平気。ちとふらつくがそんだけだ。大袈裟過ぎ──「大袈裟じゃ無いです!!!」……はい、すいません」

 

 助けたのに怒られた。何故だ。でも怒られたので大人しく座る。これ以上言われたく無い。困った時は取り敢えず謝る。今まで生きて来て覚えた処世術だ。

 

「取り敢えず大丈夫そうね! いやー流石いざという時役に立つで有名の私ね! ミニマムゲルダちゃんの経験が生きたわ! わざと弱い自分で相手を取り込む事で耐性持ちに対して間接的に弱点を作る! 我ながら有能過ぎてビビるわ。私が居なかったらどうなっていたか。感謝しなさい!」

 

「作戦を提案したのは僕だけどね」

 

「実行したのは私でしょ!」

 

「石にしたのは僕だけどね」

 

「ムキーーー! アーエバフォーユー!」

 

「ああ言えばこう言うだろ。英語とも言えないし」

 

「どちらにせよ、一先ず小休憩と言ったところでしょうか? 石化の方はどの程度で解けてしまいます?」

 

「僕が意識ある間はずっと石だよ。大丈夫」

 

 現在篠夜もとい篠目は石の中に居る状態だ。ゲルダリアの一部で全身を覆い、それを石化させる。オピスの石化は本人が解くか意識が無くなるまで続く。ちっとやそっとでは破壊も出来ないし、なんなら破壊する為に力を入れようにも身動きが取れない状態ではそれすらも出来ないだろう。

 

「し、篠目さんは大丈夫なんですか?」

 

「アイツ昔ダンジョンの壁の中に転移させられた事あったけど平気だったよな?」

 

「ありましたね。オピスさんの魔眼で探して掘り出してました。懐かしい」

 

「結局3時間くらい掛かったけどピンピンしてたよな?」

 

「水の中でも半日は息止めれるとか言ってなかったかしら?」

 

「もう人じゃ無いですよそれ!」

 

 実際篠目はマトモな生まれでは無かったが。……まぁ関係ない、仲間だし。

 

「それより篠目を元に戻す方法考えねぇと。高木、なんかないか」

 

「そうは言ってもなぁ……。知らねぇ魔法の知らねぇ効果だぞ? 元に戻せるのかも分からねぇし……」

 

「鶴岡、アンタ信者共に知ってる奴居ないか聞いて来なさいよ」

 

「高木さんが知らないレベルなら恐らく無駄かと。それよりだったら魔王様に尋ねた方がマシだと思いますよ」

 

「あーそれ採用。電波ってもう通じるか?」

 

「ちょっと待ってね、試してみる……うん! 石化して気失って【絶伝(メッセージ・デス)】も【人払(アウェイ)】も解けたみたい。通じるよ!」

 

「そうか。じゃあ早速──」

 

 

ズプシュ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ゲボッ」

 

 スマホを弄っていたオピスの胸から氷が生えてくる。いや、背中から貫通している! 

 

「オピス!!!」

 

「ひど、いなぁ……これじゃあかませみたい……じゃん……」

 

 完全に不意を食らったオピスはその場に倒れ込む。即座に氷を抜いて高木に回復させるが、意識は戻らない。オピスの意識が無くなった。それはつまり──!

 

『舐めるなよ……例え対象が見えずとも、魔法で狙い撃ちにするくらい出来る!!!』

 

 石化が解けたゲルを振り払い、篠夜が吠える。発声が出来ない。それだけで魔法の威力はダダ下がりだ。なのにオピスを貫く程の威力。見えない状態で当てる精度。洒落にならん。高木でもやれるか怪しいレベルだ。

 

『オオオオオオオオ!!!』

 

「ちょ! 動くんじゃないわよぉ!」

 

 間髪入れずにこちらに接近してくる篠夜をゲルダリアが再び飲み込む。だがあり得ない。何せ真っ直ぐ突進して来たのだ。どう考えても──。

 

「ダメだゲルダリア! 離れろ!!!」

 

「ッ!? やばっ!」

 

 俺の指示に反応して離れようとしたゲルダリアだったが、一手遅かった。生物の命を奪いかねない強力な冷気がゲルダリアの内側から発生する。ゲルダリアはみるみる凍っていき、完全な氷像になってしまった。

 

「─────」

 

「ゲルダリアさん!」

 

「高木!」

 

「【火球(ファイアボール)】!!!」

 

 即座に解凍を試みる。高木の炎魔法で一部でも解凍できればゲルダリアなら凍っている部分を切り離せる。……だが魔法が命中した場所は一瞬だけ溶けた後、瞬時に再び凍結した。高木が数回試してみるが、結果は変わらない。

 

『無駄だ……そこの坊主は理解出来るだろう? このスライムの状態が……』バキャバキャッ!

 

「コイツ……! 凍結魔法をかけ続けてやがる! それも辺りにある魔力を燃料として! アイツが居る限り、半永久的にゲルダリアは氷のままだ!」

 

『楽でいいぞ? 自身の魔力は使わなくていいからな。最も、習得するには10年掛かったがな』

 

「俺ですらやらねぇ高等技術やってんじゃねぇよクソ……!」

 

 凍ったゲルダリアを内側から砕きながら篠夜が出てくる。ゲルダリアの事だ、乾燥じゃない以上死にはしないだろう。だが少なくとも戦線復帰は無理だ。一気に2人減ってしまった。【絶伝(メッセージ・デス)】と【人払(アウェイ)】が切れたのはブラフか……!

 

『確かに俺はハズレ枠だ。篠目のように規格外の強さは無い。だが、それで腐って鍛錬を投げるほど愚かでも無い』

 

 【収納(バック)】でしまっていたであろう新しい刀を取り出す。先程の刀と同じレベルの武器に見える。恐らくランクSだ。もう一度折れと言われても難しい。さっきのは火事場の馬鹿力だ。

 

『さぁ、覚悟は良いな?』

 

「……うるせぇ」

 

「! 加藤さん、ダメですよ! さっきあんなに斬られたのに! そんなフラフラで!」

 

「傷は治りました。大丈夫です」

 

 長さが半分になってしまったモップの持ち手を握り締める。何があろうと加奈子さんにだけは怪我させられない。そう思い立ち上がろうとすると、俺を制止する手が目の前に現れた。

 

「高木……」

 

「座ってろ馬鹿」

 

「んな事言ってる場合か……! ここで俺まで抜けたら!」

 

「碌な武器持ってねぇ剣士が居ても大して変わらねぇよ」

 

 そう言いながら篠夜に向かっていく高木。自身を守るように【障壁(ウォール)】を複数張る。

 

『坊主。勝てると思っているのか?』

 

「思うもクソもねぇんだよ。お前はライン越えだ」

 

 軽い口調。だがハッキリと怒りを感じる。表情は俺からは見えない。だがいつもの様な顔では無い事は分かった。

 

「ウチの仲間に手ぇ出した上に、親友殺されかけて黙ってられる程──人間出来てねぇんだよぉ!!! 【石杭(ストーンパイル)】!!!」

 

 篠夜の足元から石の杭が複数飛び出る。回避されるが回避した先からも追撃。当たれば奴もタダじゃ済まない以上、奴も回避に専念している。結果的に距離を取ることに成功した。

 

「鶴岡。腹ぁ括れよ」

 

「ええ。勿論です」

 

 鶴岡の顔に呪印が浮かび上がる。仲間になった後、知らない間に勝手に覚えていた【死者怨恨(ネクログラッジ)】。アンデットになる事も出来ず、それでも世界や生者を憎み続ける怨念を実体化させる禁術だ。体に呪印を彫る事で、後付けで覚えれる魔法と言う強力なメリットがあるが、使用者の精神を崩壊させると言う事で本来禁術とされている。

 

「おい鶴岡……!」

 

「加藤さん、ご安心下さい。貴方は下がって」

 

「アホ! 魔力も大して無い状態でそれ使って! タダで済むか! 絶対しっぺ返し喰らうぞ!」

 

「成程。心配、ありがとうございます。ですが私も譲れない物があります」

 

「何を……」

 

「我々がギアススクロールで契約してまでも、貴方に居て欲しいと求めた事。どうか忘れなき様」

 

 鶴岡の足元からゆっくりと様々な見た目の腕が闇と共に現れる。魔王すら足止め出来る程の力を持つ怨念を当たり前の様に受け入れる鶴岡は高木の隣に立った。

 

「申し訳ありませんが、少々乱暴になる事をお許し下さい」

 

『腹を括った程度で対抗出来ると?』

 

「ああ、貴方では無く篠目さんに言ったのです。勘違いさせてしまいましたか? 自惚れは程々にした方が宜しいかと」

 

『ほざけ!』

 

「いえ、ほざきますとも。──貴方の様な相手になら、幾らでも!!!」

 

◇ ◇ ◇

 

「!!! エネロマ!」

 

「【念話】! ゴランド! クロム! セーリス! 今すぐに来て!!!】」

 

「ちょっ! ダメだって!」

 

「うぐっ!」

 

 エネロマに追加で鎖が伸ばされてがんじがらめにされるが、既に【念話】は届いた。今日私達が裁判所に行くのを彼らは知っている。駆けつけてくれるだろう。

 

「あっちゃー。マジか。篠夜、しくじった? 【人払】も切れてるし……残り時間は長く無いね」

 

「ならばこれを解いて下さい! 貴女も残り時間はありません!」

 

「この状態で私の心配する辺り、流石は勇者様だねぇ」

 

「勇者志望です! 成れたつもりはありません……!」

 

「あー眩しい。眩し過ぎて焼け死にそう! 真っ直ぐなのもいい事よね。でも誰もが真っ直ぐになれる訳でも無いってのが、この世の真理な訳だけど」

 

「仲間と連絡を取りました。すぐにここに駆けつけてきます! どうか降参を! 今こうして私達を抑えていますが、私の仲間達全員は無理な筈です!」

 

「ええ、そうね。でもそんな言葉で止まるんだったら、こんな大それた事しないでしょ?」

 

「それは……!」

 

「彼の【完璧】は彼の死によって完成する。じゃあその【完璧】とは? それは愛する妹の唯一となり、そのまま終わる事……分かる? これは愛による行動なのよ。あまり無粋な事したらダメよ?」

 

「矛盾しています! 篠目様を大切にしていると言うのなら、何故心中しようとするのですか! 理屈が通りません!」

 

「貴女……ぶっ壊れた人間に理屈を問うても仕方ないって事、分からない?」

 

「壊れた……?」

 

「彼はね、ずっと妹さん唯一の理解者だと思っていた。だからこそ家を掌握して、連れ戻そうとしたの。もう大丈夫だからって。でも妹さんはとっくの昔に、自分の居場所を見つけていた。よりにもよってカスとクズとバカしか居ないような探索者チームをね。必死こいて強くなって、妹の為にと頑張ったのにこれって酷くない? そんなんされたら、引っ付いた虫踏み潰すくらいはするでしょう?」

 

「為……!? 何処が為になると言うのですか! 篠目様は物では無いのですよ!? 自身の思い通りにならなかったから共に死ぬなど……!」

 

「だからぁ、壊れた人間にそんなの言った所で意味無いでしょう?」

 

「それだけ分かっていながら、貴女は何故力を貸すのですか!」

 

「そんな壊れた人間に味方する奴が居てもいいじゃない? 1人で狂ってそのまんまは……可哀想だし」

 

 そう言う彼女は寂しそうな顔をしながらも、己が身を削って私達を足止めし続ける。彼女は悪徳弁護士として名を馳せている。だがあくまでそれは彼女の一側面。自身を危険に晒してでも、誰かの為に動く事が出来る。それだけ見れば素晴らしい事だ。内容が決して認められない物で無ければ!

 

「どっちにしろ、貴女の仲間が来る前に篠夜が彼らを仕留めれば終わりの話よ。その後は自決だろうし。見届けられないのは残念だけど……良いんじゃない? 大好きな妹さんと一緒に逝けるなら」

 

「くっ……!」

 

 勇者姫だの何だの持て囃されても、私は結局何も出来ない。何と言う無様だろうか、情けない。情けなさ過ぎる。目の前の彼女すら止める事が出来ないなんて──!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

べキャキャキャキャァァァ!!!

 

「うぶふぅぅぅぅぅ!?!?!?」

 

「──え?」

 

 リリンスが埋まった。背後から飛んできた赤い弾丸の様な何かに踏み付けられて、コンクリートの地面に顔面から埋まった。体に巻き付いていた鎖は消え、体が自由になる。赤い弾丸は見向きもせず、裁判所の方へ向かって行った。

 

「あの方は──!」

 

◇ ◇ ◇

 

 高木と鶴岡。どちらも後衛である以上、篠目を取り込んだ篠夜に真っ向から戦えば間違いなく不利だ。そんな事は高木達も分かっている。故にどちらかが前を張らないといけない。

 

 

ギィン! ガキン! ギリリリッ!

 

「おいおいおい! どうしたお兄たま! 坊主1人に苦戦してんじゃねぇか!」

 

『【火球】!!!』

 

「【水潰】!」

 

 そこで高木は自身に【障壁】を貼り続け、それを盾として篠夜を止めている。例え破っても次から次へと増えていく【障壁】は、篠夜の刀を防ぎ続けている。合わせて放たれる魔法に対しても即座に反応して相殺。それが出来るのも──。

 

『ッ! 邪魔だぁ!』

 

「邪魔ですか? 邪魔でしょうね。その手は邪魔だと言われてきた者達の手。名も無き彼らは私に力を貸してくれる……有難い話です」

 

『禁術を使っている分際で!』

 

「ハハハ! 貴方とて大差無い! 自分の家族を糧にし、利用する貴方と! 怨念達を自身の力として利用する私! 変わらない。平等だ。平等に無価値だ! だが私は無価値だからこそ、私を使い潰せる! どれだけ精神が汚染されようと、譲れない芯が私にはある! それさえ残れば、他は幾らでもくれてやりますとも! 私の望む世界に、彼は必要なのだから!!!」

 

 自身を蝕む怨念に全く怯まず、篠夜に【死者怨恨】を使い続ける。動きを奪い、詠唱を止め、攻撃を防ぐ。これがあるから高木1人でも食い止める事が出来ている。……だが、それはいつまでもは続かない。アイツらの魔力が尽きたら、そこで終わりだ。

 

『そこだっ!』

 

「ッ! クソがっ!」

 

 当然篠夜もやられてばかりじゃない。篠目の身体能力を得た以上、張り巡らされた【障壁】の間を縫って刀を通すくらい出来る。なので──。

 

バチィィィッッッ!!!

 

『貴様ァァァ!』

 

「うるせぇバーカ」

 

 そこをカバーする為に、篠夜に投石する。投げた石は篠夜の刀を握る手にぶち当たり、結果軌道がズレて高木の【障壁】に阻まれた。血が抜け過ぎて立つのは厳しいが、この程度の距離なら当てるくらいは出来る。幸い投げやすい瓦礫は篠夜が量産してくれた。いくらでも投げ放題だ。

 

「加藤さん! 無理したら……」

 

「加奈子さん下がって。また狙われたら庇い切れるか分かりません」

 

「下がると言っても、もう隠れる場所なんて……」

 

 加奈子さんの言うとおり、既に辺りは戦闘の余波でボロボロだ。最早身を隠せる様な場所すら無い。……隠れた所で建物ごと巻き込まれる可能性を考えれば、下手に隠れない方がマシまである。

 

「なら俺から離れないでください。何とかするんで」

 

「……」ギュッ…

 

「……足手纏いだなんて思ってませんよ」

 

「え……?」

 

 視界の隅で加奈子さんが手を強く握り締めていたのが見えた。篠夜から視線を外せない為、表情は分からないが想像は付く。

 

「巻き込んだの俺らなんで。謝らないといけないっすね」

 

「加藤さん……」

 

 別に俺が怪我する分には問題ない。死にかけたって死ななきゃ安い。高木達仲間も死ななければ何とでもなる。自身が傷付こうと仲間が傷付こうと慣れている。何故なら俺達はずっとそうやって来たから。普通の人からしたら狂ってると言われる様な時間を過ごして来た。でも加奈子さんは違う。この人は普通の人だ。優しい人だ。俺に手を差し伸べてくれた人だ。この人が傷付くのは……死んでも見たくない。

 

「怪我したら大変ですから。守らせて下さい」

 

「ッ! ……はい」

 

「いつも助けて貰ってますから……ね」

 

「──そんな事、無いですよ」

 

 少しだけ声の硬さが無くなった。伝えたい事は伝わっただろうか。

 

『【光砲(ライトカノン)】!!!』

 

「クソッ! 捌ききれねぇ! 加藤! 逃げろ!」

 

 怨念の手に引きづられながらも詠唱した篠夜の周りに光の門が現れ、そこから眩い光が一斉に放たれ、周囲を手当たり次第破壊していく。高木が半数以上を【障壁】で防ぐが、抜けた一部がこちらに飛んできた。

 

「(回避──ダメだ、早過ぎる。避けれるが加奈子さん達を担ぐには時間が無い!)」

 

 加奈子さん達が当たればタダでは済まないだろう。回避の択は消えた。武器は無い。瓦礫は投げた所で消し飛んで終わりだ。──肉で耐えるしか無い。

 

「(耐えれるか? 急所だけは避けて──)」

 

 そう考えてる時、背後から凄まじい勢いで何かが迫っているのを感じる。反応する前に俺のすぐ横を風を切るように飛んできたそれは──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の愛剣。神聖剣エヴァルテインだった。

 

 

 

 

「──!!!」

 

 剣を取る。鞘を抜き、力が入らない体に喝を入れて振り抜く。

 

「【極光剣】!!!」

 

 絞り出した魔力を剣に乗せ、向かって来ていた魔法に叩き付ける。魔力同士がぶつかり合って掻き消える。

 

「何やってんだお前らはよぉ」

 

 聞き覚えがあり過ぎる声。呆れ半分怒り半分と言った所か。声の持ち主が近づいて来て俺の頭に液体をぶっかけてくる。クソ不味い味のポーションを受け入れながらも、俺は笑いが抑えられなかった。

 

「タイミング良過ぎだろ、お前」

 

「オピスからLINE来たと思ったら途中送信で終わってたんだよ。いつもスタンプ送ってくんのにそれも無かったからな。おかしいと思った」

 

「だからってフル装備で俺のも持ってくるとか戦闘脳にも程があるわ」

 

「あぁ? 事実訳分かんねぇ事やってんじゃねぇか。ありゃ何だ、篠目じゃねぇだろ。裁判してんじゃねぇのかよお前ら」

 

「色々あったんだよ」

 

「どんな色々だアホ」

 

 乱暴な口調は正確な照準でマナポーションを投擲する。消耗した高木と鶴岡に命中し、2人の魔力を回復させる。

 

「ハハッ! おいおい! 反撃フラグが立ったなこれはよぉ!」

 

「助かります。そろそろ尽きかけでした」

 

「何も分からねぇが取り敢えず、アレをボコれば良いんだな? 加藤、アタシが合わせる。好きにやれ」

 

「……ホント、お前は良い女だよ──セラフィナァ!!!」

 

「ほぉ? 何処が良いか言ってみろよ」

 

「面ァ!!!」

 

「ハッ! 上等ォ!」

 

 俺はセラフィナと共に篠夜に向かう。ここからは──俺らのターンだ。

 

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