ブルーアーカイブ二次創作・仲正イチカ小説です。
解釈違いあったらごめんなさい。

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イチカ、誕生日おめでとう


日常に祝福を

 瓦礫の崩れる音が耳朶を震わせる。

 

 ─ここは、何処だろうか。

 

 ─私は、何をしていたのだろうか。

 

 周りを見渡して状況を確認しようとするが、体が思うように動かせない。

 いや、そもそも全く動かすことが出来ないようだ。瞼すら持ち上がらない。

 

 時々伝わってくる風の音、頬に当たる砂の感触から、ここが屋外であることが推測できる。そしてそれと同時に誰かの息遣いも……。

 

 息、遣い……?

 いや……崩れ落ちる瓦礫、屋外……。

 

 嗚呼、思い出した。

 私は生徒と敵対関係にある。きっかけは何だっただろうか、ゲマトリアの提案に乗ってしまったのだったか、もう今となってはどうでも良い。私は生徒を裏切ったのだ。

 生徒全員と敵対しているわけではない、こんな私にたった一人、イチカだけは私の味方になってくれた。

 だが、多勢に無勢。いくら私が全力で指揮したとしても圧倒的な人数差は埋められない。

 私達はどうにか生き延び、廃墟に逃げ込んだのだが……。

 どうやら攻撃を受け廃墟が崩壊しかけているらしい。

 

 

 ──それでは、イチカは……?

 

“…イ………チ…カ…………”

 

「はい、私はここっすよ」

 

“………イ…チ…………カ……”

 

「ここにいるっす。安心して欲しいっす」

 

“イチ………カ………”

 

「はは、先生、そんな何度も呼ばなくても」

 

「私は、ここにいるっすよ」

 

 

 出せる限りの力を振り絞って何度か声を出す。

 すると、イチカの声が真上から聞こえた。

 地面にしては柔らかいと思ったら膝枕してもらっているようだ。

 

 

“イ…チカ……大丈…夫…?”

 

「……こんなになってもまず生徒の心配っすか」

「私は大丈夫っすよ。……先生が守ってくださったんで」

 

“そっ……か………よかっ…た…”

 

「はは、よかったって。この状況の何が良いんすかね……」

「じきにここまで攻め込まれるっすよ?」

 

“私が……なんと…か……する…よ”

 

「なんとかって……その身体でどうするつもりっすか」

 

 

 やはりイチカから見ても私の身体は少々不味い状態のようだ。

 自覚はしていたが……ここをどうにか生き長らえたとて、もう私は先が長くないのだろう。

 

 

「流石にここが限界っすかねー」

 

「先生。そう言う場合じゃないって私もわかってるっすけど、それでも言わせて欲しいっす」

 

「──先生、あなたのことが好きです。付き合ってください」

 

“……。ごめ……んね……イ…チカ…”

 

“私は…先生……だか…ら………”

 

“その……気持ち…には………応え…られない……かな…”

 

「……はは。こんな状況でも『先生だから』っすか」

「変わらないっすね、先生は」

 

 

 もう私には先生を名乗る資格はないだろう。

 でも、それでも、せめてその一線は越えたくなかったから。

 

 

「あーあ。振られちゃったっす」

 

 

 意識が薄れていく。

 

 

「初恋、だったんすけどねぇ……」

 

 

 身体中の痛みはいつから感じなくなっただろうか。

 

 

「先生、おやすみなさい」

 

 辺りが静寂に包まれる。

 

「私も少ししたらそっちに行くっすから」

 


 

 時計の音が耳朶を震わせる。

 重い(まぶた)をこじ開けると、目に入ってきたのは見慣れたシャーレの天井だった。

 

 先程までの光景は果たして本当に夢だったのだろうか。

 やけに現実味のある夢だった。それこそ、実際に経験したかのようなほど。

 

「おはよーっす、ってあれ?」

 

 では、あの光景が夢だったのならば。今のこの目に映る光景もまた、夢なのではないのか。

 これが本当に現実なのだと断言できるだろうか。

 

「あー、まだ仮眠中だったっすかね」

 

 "夢"を"夢"と認識する方法として体の何処かをつねる、というのが有名だが、あの夢はしっかりと痛覚はあった。……まあ、五感のうち嗅覚(はな)味覚(くち)がバカになっていた気がするが。

 

「……ちょっとくらい、いいっすよね?」

 

 プレナパテスの存在から、並行世界があることは容易に想像ができる。あれはもしかして並行──

 

失礼しま……ってな〜んだ、起きてるじゃないっすか」

"イチカ? あれ、なんでここに?"

「なんでって、今日の当番生徒だからっすよ?」

 

 飛び起きて予定を確認すると確かにそこにはイチカの名前があった。

 

"あー……ごめんね。ちょっと寝ぼけてたみたい"

「そっすか~、分かってると思うっすけどソファじゃなくて仮眠室で寝た方がいいっすよ」

「顔色めっちゃ悪いっす」

「ここ一週間の平均睡眠時間、何時間なんすか?」

"ええと……ちょっと確認するから待ってね"

 

 急いでシッテムの箱を起動──はなぜか既にしていたので、半眼でこちらを見ているプラナに小声で尋ねると『回答。この一週間の平均睡眠時間は2時間15分です』とのことらしい。

 

"えーと。……5時間くらい、だよ?"

 

「先生、嘘は良くないっす。それは何が原因なんですか。連邦生徒会に陳情書出した方がいいやつですか。少なくとも正義実現委員のみんなは署名に参加してくれると思いますけど」

 

 私の返事を聞いた瞬間目が開き物凄い剣幕で詰めてくるイチカ。なぜか一瞬で嘘がバレている。

 

"い、イチカ待ってストップ! 別にこれは連邦生徒会が悪いわけじゃないよ、私がやりたいことをやってただけだから"

「……そうっすか。」

「そう言う時の先生は頑固だってのはよく知ってるんでこれ以上言わないっすけど……」

「ん〜……ま、コーヒー淹れてくるっすね」

 

 イチカはまだ何か言いたそうな顔をしていたが話を切り上げて給湯室へ行ってしまった。

 ……確かに最近睡眠時間の確保が疎かになっていたけれど、生徒(イチカ)に気取られてしまうほどとは。気を付けないといけないのは自覚しているが、つい生徒のためと思うと可処分時間をギリギリまで割いてしまう──『先生、睡眠時間は可処分時間ではありません』

 

 点いたままだったシッテムの箱からプラナが訂正を入れてきた。

 

『最近の睡眠時間の短さは度を越しています。このままだといずれ体調を崩してしまいますよ、先生』

"い、いや……分かってはいるんだけどね……"

『先ほど嘘をついたのも、イチカさんに心配をかけないようにするためですよね。……即座に見抜かれてしまっていましたが』

 

 ジト目で此方を見遣りながらプラナは言葉を重ねる。

 

『先生。睡眠不足は業務効率の低下に直結します』

『そして、先生の負担を少しでも減らすために当番制度は存在しています。今日はイチカさんに業務を任せて、少なくとも午前の間は仮眠を取った方が良いのではないでしょうか』

『いちごみるく……』

"……でも他校の生徒には見せられない機密文書もあるからイチカに任せることは難しいんじゃないかな"

『むにゃ……』

『では先に書類を分類しておいて、機密文書以外の業務をイチカさんにやっておいてもらうのはどうですか』

『んにゅ……はっ!?』

"そうなると仮眠しているときの責任問題が……"

『あっ、おはようございます! 先生!』

『もしかしてもう業務開始の時間を過ぎてますか……?』

 

 先ほどまで寝ていたアロナが起きてきた。

 ──まずい……このままだと2対1で押し負ける……。

 

『アロナ先輩……おはようございます。そして業務は、このわからず屋の先生を説得しないと始めることができません』

『せ、先生? 今度は何をしたんですか?』

"え!? いや何もしてないよ!?"

"何もしてないからさ、ほら! 早く準備しないとイチカが戻ってきちゃう!"

『わわっ! 急いで今日の業務資料をまとめてきますね!』

 

 凄い勢いでアロナが画面外へ消えていった。

 そしてアロナを急かしてこの場を有耶無耶(うやむや)にすることが出来たけれど、プラナが先ほどよりも気持ち細くなった半目でジッと此方を見つめている。心做(こころな)しかプラナの背後にオーラが見えるような……怖い。

 

『業務終了時に再開しますので、覚えておいてください』

"はい……"

 

 プラナも画面外に消えたと同時に給湯室からイチカが帰ってきた。

 

「コーヒー淹れてきたっすよ」

「今日は何するんすか?」

"連邦生徒会からの委託資料と、各学園からの報告書確認。物資援助の手続きとかもあるかも"

「相変わらず色々あるっすね~」

 

 コーヒーを受け取り、業務内容を伝えながらイチカに書類を渡した後、ついでにコーヒーを飲んだ。

 丁度良い温度で苦みと酸味のバランスが取れた美味しいコーヒーで、ちょっと目が覚めた。

 

"あ、コーヒー美味しい。ありがとね、イチカ"

「いえいえ、好みに合ったみたいでよかったっす!」

「紅茶も淹れられるっすけど、午後もコーヒーの方がいいっすかね?」

"イチカの淹れてくれる紅茶、飲みたいな"

「先輩ほど上手くはないっすけど……それならお昼休みに淹れるっすね」

"ありがとう! じゃ、今日の業務を開始しようか"

『……はい』『今日も頑張りましょう!』

「了解っす!」

 

 §

 

 プラナからの追及を誤魔化したはいいけど、睡眠時間が足りていないのは事実な訳で……。

 イチカの淹れてくれたコーヒーをもってしても、少し気を抜けばすぐさま意識が飛ぶような状態に陥っていた。

 

「先生、このシャーレ予算案のここの部分って……って先生?」

"っ!? あ、ごめん。えっと……どこの部分?"

「先生、やっぱり一回仮眠とった方がいいんじゃないんすか? 見ていて危なっかしいっすよ?」

"い、いや、私は大丈夫だから"

「本当っすか? とても大丈夫そうには思えないんすけど……」

 

 実際問題、大丈夫か大丈夫でないかと問われたら大丈夫ではない。

 けれど、ここ(キヴォトス)に赴任した直後やエデン条約の頃に比べたらまだ遥かに余裕があるし、自分なりの危険水準は達していない。

 だから、大丈夫……なはず。

 

「──そうっすね、じゃ、今から30分間何も話しかけないので」

「大丈夫なら、いいっすよね?」

"え"

"だ……大丈夫だよ!"

「本当っすかね~……?」

 

 そう言ったきり、イチカは何も話してくれなくなった。

 執務室内に紙とペンの擦れる音や呼吸音、空調の作動音のみが満ちている。

 

 ──静寂が逆に他の思考の余地を生んで、かなり良くない状況になっている……ッ!

 書類の内容に集中しなければ……ええと、ゲヘナの犯罪率は先週も横ばいで、給食部の保有している食材も足りている、救急医学部の医薬品・医療器具も不足なし。備考、万魔殿が風紀委員会に嫌がらせをしていた。

 ……まあ、いつも通り、かなぁ。今度風紀委員会に差し入れしに行った方がいいかな……?

 

 次、トリニティ……総合学園。ええっと……こちらも……犯罪率は……横ばいで……。

 

 

 

「あ、やっぱり寝ちゃったっすね」

 

 

 

 §

 

 時を刻む音が耳朶を震わせる。

 

 ──私は一体何をしていたんだっけ……?

 

 体を動かそうにも全く動く気配がない。それに加えて体、特に頭を支えている感触が地面のような硬さではなく、もっと別の何かだ。例えばそう、執務室のソファのような……。

 

「あれ、起きちゃったっすか」

"んぇ……い、イチカ?"

「──っ!」

「先生、あんまりその寝起き姿は生徒の前で晒さないほうがいいっすよ」

 

 イチカの声が真上から聞こえた。ああそうか、私は執務室で書類作業をしていたのか。そしてどうやら寝落ちした後ソファに運んでくれた上、膝枕をしてくれているみたいだ。

 

「とにかく、このまま休んでいてください、先生」

 

 そう言いながらイチカは私の頭を撫でる。

 再び意識が薄れていく。

 

「こうやって“終えた”こともあったっすね〜……」

 

 微睡(まどろ)みの奥深くへと。

 

「先生。私は貴方がどんな立場に至っても」

「ずっと、先生の味方ですから」

 

 深く、深く。

 

「だから今は少しだけ、おやすみなさい」




お読みいただきありがとうございました。


これ本当は、「Trip Trap Train」のイベントでイチカに、特にイベントロビータップ時ボイスの

「はい、私はここっすよ」


「はは、先生、そんな何度も呼ばなくても。私はここで常時待機してるっすよ」


の二つにかなり脳を焼かれて、衝動で書き始めた物なんです。
それはいいものの日々の生活に忙殺され、全く内容が書けないまま。
イチカの誕生日に投稿しようと思っても11月11日は一年に一回しかないわけで。
いつの間にか書き始めてからこんなに時が過ぎてしまいました。
時の流れって怖いですね。

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