ゴジラフェスでバーニングゴジラが出てきたので書きました。

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 防爆ガラスの向こうで、湾の向こう側が赤黒く蠢いている。

 

 空気が揺らいでいるせいで、まるで世界そのものが溶けているように見えた。計測器のモニターはノイズだらけだったが、マキ=ゴロウ博士はそれを睨みつけ、かすかに眉を動かした。

 博士は言った。

 

「……ゴジラの体表温度の上昇が止まっていない。体表面で八千度、その中心は推定で瞬間的に一億ケルビン級を超えているだろう」

 

 外から見える“体温”と、内部の“炉心温度”は別物だ。体表の有効輻射温度は八千〜一万ケルビン。だが核反応はさらに深部、Zピンチ状フィラメントが瞬間的に一億ケルビン級まで跳ね上がる領域で起きている。

 金属はおろか、原子そのものが安定を保てない温度だ。分子結合は断ち切られ、電子は軌道を離れ、すべてはプラズマ化して拡散するはずだった。常識的に考えれば、ゴジラはとっくに蒸発し、ただの光と放射線の奔流になっていなければおかしい。

 それに放射によるエネルギー損失を考えれば、あの質量が一分も姿を保つことはあり得ない。それでも崩れないということは、何かがエネルギーを内側へ折り返し、外界に漏らさず再循環させているということだ。

 

「それでも形を保っている。常識的には蒸発しているはずなのに、崩れない。オクムラ、なぜだと思う?」

 

 博士に問われたわたしは、ノートのページをめくりながら答えた。

 

「プラズマの自己拘束現象……磁場による閉鎖構造。あの巨体全体が一つの閉じたトーラス場になっている可能性があります」

 

 プラズマとは、気体が極度に熱せられ、原子が壊れて電子と原子核がばらばらになった状態のことだ。

 通常ならそんなものは一瞬で拡散してしまう。電子同士が弾き合い、膨張して、やがて冷えてただの気体に戻る。

 けれど、今わたしたちの目の前にいるゴジラは違った。

 あの巨体は、内側から強烈な電流を生み出し、それが磁場を作り、その磁場がまたプラズマを閉じ込めている――まるで自分で自分を掴んで離さない巨大な炎。

 

「今のゴジラはまさに生きたプラズマ現象、プラズモイド化しつつある生命体……それが博士の仮説でしたね」

 

 普通なら、そんな安定構造は数秒と持たない。だが、ゴジラの内部ではその磁場が自己増殖している。電流と磁場が互いを補い合う“自己拘束”の輪が形成されているのだ。

 定常で数百テスラ、瞬間パルスでkT級に達する超強磁場。実験室スケールを桁外れに超える磁気圧が外皮プラズマを実質的に自重より強く拘束している。

 核融合炉の中のトカマク構造に似ているけれど、スケールが違いすぎる。あれは都市どころか、地球規模のトカマクだ。

 燃えながら崩れない炎。それは果たして生き物と言えるのだろうか。

 

「博士、でも――」

 

 わたしはモニターの輝度を下げながら言った。

 

「そんなことは本来ありえない。全身がプラズモイド化すれば灼熱の一億ケルビンの体温とガンマ線の照射下で、有機体の分子結合は維持できません。DNAも、細胞膜も、何もかも焼き切れているはずです。普通の生物なら、瞬時に蒸発しているはず……」

「ゴジラは“普通の生物”ではないよ、オクムラ」

 

 博士は机の上のペンを転がしながら、疲れたように笑った。

 

「ゴジラの細胞――G細胞は、高次元分子アーキタイプで構成されている。三次元構造のタンパク質ではなく、時空の折り畳みそのものを分子構造として利用している。だから、物理的な意味で“燃える”ことがない。エネルギーを受ければ受けるほど、自己を再配置して安定する」

 

 博士の声は落ち着いていた。理論を語る科学者の声だ。

 けれどその内容は、もはや“生物学”でも“物理学”でもなかった。

 

「キングギドラやメカゴジラ、スペースゴジラにデストロイア……敵怪獣との戦闘で見られた異常なパワーアップ現象、いわゆるウラニウム化だが、あれもこの高次元構造による“局所的なプラズモイド化”だと俺は見ている。体内の核融合炉を制御し、あの膨大な質量の肉体を必要に応じて部分的にプラズマ化して、桁違いのエネルギーを取り出していたんだろう。自分の肉体を燃料に変換し、再びそれを取り戻す……そんな芸当が可能な生物は、宇宙のどこを探してもゴジラだけだ」

 

 わたしはノートにその言葉を書きとめながら、唇を噛んだ。

 

「じゃあ、今の状態は?」

「今の状態、か……」

 

 博士は少し黙り、外の闇を見つめた。防爆ガラスの向こうでは、赤黒い光がゆらめき、海面が煮え立っている。

 博士が口を開いた。

 

「今は、その機構が制御不能に陥った結果だ。従来のような部分的なプラズモイド化ではなく、全身がプラズモイド化しつつあるんだろう。肉体とエネルギーの境界が溶けて、もはや自分の身体を区別できなくなっている」

「では……」

 

 わたしは小さく息を呑んで問うた。

 

「その先、どうなるんですか。ゴジラの全身が完全にプラズモイド化したら……?」

「さあな、地球がどうなるかまではわからん」

 

 博士は短く笑った。その笑いには、諦めとも達観ともつかない響きがあった。

 

「だが、人類文明は間違いなく終わるだろう。あれだけの質量だ、完全にプラズマ化したゴジラのエネルギーは、太陽の表層活動にも匹敵する。そんなものが地表で安定化すれば、この星の表面は一瞬で焼き尽くされる。都市も、海も、空気も、すべて跡形もなく消滅するだろうな……ま、その頃にはそれを観測できる人間はいないだろうが」

 

 博士は乾いた笑いを浮かべ、机の上に肘をついた。

 彼の眼鏡の奥では、炎の反射が細く震えていた。外の光がすべてを赤く染め、博士の顔までもがゆらめく火のように見えた。

 ふと思ったことがあって、わたしはそれを口にした。

 

「……博士も、物好きですね」

「何が?」

 

 博士は視線を外さないまま問い返した。

 

「世界が滅ぶまでゴジラを観測したい、なんて。世界中がもう諦めてるんです。Gフォースも、モナークも、すべてが仕事を放棄した。博士だってもう投げ出しても、誰も責めやしませんよ」

 

 博士は、かすかに笑った。

 

「……まあ、仕事だからな」

 

 その言葉は軽いようでいて、どこか底の抜けた響きを持っていた。

 わたしは少し笑った。

 

「仕事、ですか……こんな世界で?」

「そうさ。守るべき家族もいないし、友人ももういない。俺に残ったのは仕事くらいなもんだ」

 

 博士はそう言って、モニターのスイッチを指先で叩いた。

 ノイズの海の中に、燃え滾るゴジラの輪郭がかすかに浮かび上がる。

 

「……結局俺たち人類は、ゴジラを“理解”できなかった。いや、たぶん最初から理解なんて不可能だったんだ。ゴジラは我々の常識を超えた存在だ。計り知れない謎に満ちている」

 

 博士は笑った。

 しかし、その笑いはどこか壊れかけたガラスのように脆かった。

 

「だから、せめて最後まで見届けたいんだよ。世界が、ゴジラがどんなふうに終わるのかを、科学者としてちゃんと観測したいのさ」

 

 博士の言葉が空気に溶けて、しばらく室内には計測器の微かな電子音だけが響いていた。

 わたしは窓の外を見つめた。赤黒い光が脈動するたび、湾の水面が蒸気となって立ち昇る。かつてここには港があり、街があり、人々の暮らしがあった。今はただ、終末を待つ無人の観測基地だけが残っている。

 

「……なんてな。単なる現実逃避さ。他にやれることもないからな」

 

 その笑いは、いつもの皮肉でも、強がりでもなかった。

 自分で口にした言葉の重さを誤魔化すように、ただ小さく笑っただけだった。

 それより、と今度は博士が訊ねた。

 

「オクムラこそ、逃げないのか?」

 

 彼の声は冗談めいていたが、その奥にはどこか本気の響きがあった。

 わたしはしばらく考えてから、答えた。

 

「逃げませんよ。私は博士の助手ですから」

 

 わたしの答えに、博士は目を細めた。その目は笑っているようでいて、どこか遠くを見ていた。

 防爆ガラスの向こう、燃え盛るゴジラの輪郭が、まるで呼吸する恒星のようにゆらめいていた。

 

「……助手、ね」

 

 博士はぽつりと呟いた。

 

「君は変わってるな」

「博士に言われたくはないです」

 

 博士はわずかに肩を揺らし、息を吐いた。

 

「変わってるのはお互いさまだ」

 

 その言葉で、緊張が一枚だけ薄くはがれた。

 わたしは机の端に置いてあった紙コップを指で転がし、まだ微温い水を一口だけ飲む。舌の上に金属の味がした。空気中の微細なガラス片が、口内でざらりと音を立てる――溶融シリカ霧。ここ数時間、観測室のフィルターを二度交換した。

 博士が言う。

 

「時刻基準を見てくれ」

 

 ルビジウム標準の表示は、GPSの補正が切れてから少しずつずれている。わたしは手帳に差を書き込み、薄い鉛筆の芯を回して尖らせた。

 

「Δt、八分二十六秒。ドリフトは先ほどより速いです」

「重力相当の有効ポテンシャルが変動している……いい、ログに残せ」

 

 記録を取りながら、わたしは防爆ガラス越しにその姿を見た。

 

 それは、もはやゴジラではなかった。

 いや――ゴジラという名前で呼ぶことすら、不適切に思えた。

 湾の向こう側に立つその巨影は、確かにゴジラの輪郭を保っていた。あの特徴的な背びれ、太い尾、直立した巨体。けれど、その表面は絶えず流動し、まるで液体の炎が凝縮したように蠢いていた。

 赤と橙と白の光が、体表を波のように駆け巡っている。その光は規則的ではなく、脈動するように明滅し、ときおり稲妻のような青白い閃光が背びれの先端から迸った。

 空気が揺らいでいるのではない――ゴジラ自身が揺らいでいるのだ。

 わたしは観測用の暗視フィルターを展開し、赤外線モードで捉え直す。

 

 ゴジラの輪郭は、常に数センチから数十センチの幅で揺らめいている。プラズマの境界が不安定化し、外気との境界で激しく相互作用しているのだ。体表から剥離した超高温のプラズマ片が、重力に逆らって上昇し、やがて大気中で冷却されて微細な粒子となって降り注ぐ。それがまた新たなプラズマ流を生み、渦を巻き、炎の竜巻を形成する。

 

「……あの背びれ、見てください」

 

 ゴジラの背びれは、もはや固形物ではなかった。

 それは巨大なプラズマ・フィラメントの束だった。背中から突き出た無数の光の柱が、まるで生きた稲妻のように大気に伸び、そして再び体内へと還流している。その先端では小さな爆発が断続的に起こり、青白い閃光が夜空を裂いていた。

 博士が口を開いた。

 

「トーラス磁場が外部に漏れ出している。あれは単なる発光現象じゃない。プラズマの磁力線が可視化されているんだ。内部の電流ループが強すぎて、もう体内に収まりきれなくなっている」

 

 わたしは測定器の数値を確認した。

 磁場強度は三百テスラを超えている。実験室スケールを桁外れに超える超強磁場だ。そんなものが地表に存在していること自体、ありえない。

 ゴジラが一歩、足を踏み出した。

 その瞬間、湾の水面が爆発的に蒸発した。海水は一瞬でプラズマ化し、白い閃光の柱が天に向かって噴き上がる。衝撃波が大気を伝わり、観測室の防爆ガラスが低く唸った。

 足跡の周囲では、溶けた岩盤が赤く輝き、ゆっくりと流動している。マグマではない。岩石そのものがプラズマ化して、やがて冷えて再び固まろうとしているのだ。

 

「……あの体内では、何が起きているんでしょう」

 

 画面の中で、ゴジラの胸部が一際明るく輝いた。

 その光は内側から滲み出るように広がり、肋骨の隙間から漏れ出し、やがて全身を包み込んだ。まるで心臓が脈打つように、その光は律動していた。

 体表の温度分布図を見ると、胸部が最も高温で、そこから波紋のように熱が広がっている。中心温度を見れば、太陽の表面温度よりも高い。

 

「……核融合炉が暴走している」

 

 博士が呟いた。

 

「ゴジラの体内では、今この瞬間も制御不能な核融合反応が続いている。表層は一万度級だが、融合は内部のZピンチ様フィラメントで起きている。瞬間的に一億K級まで圧縮・加熱され、そこでD-Tや三重アルファ反応がパルス的に走る。発生した高エネルギー中性子とγ線が外界へ溢れ出す……重元素合成が止まらない。エネルギーは増え続け、プラズマは膨張しようとする。それを磁場が押し戻し、また圧縮する……あれは生きた恒星だ」

 

 ゴジラの背びれから再び閃光が迸った。

 今度は青ではなく、紫がかった白だった。ガンマ線によるフラッシュだ。警告音が鳴り響き、わたしは反射的に遮蔽パネルを展開した。

 防爆ガラスの向こうで、世界の終わりが静かに、そして確実に、その姿を現し始めていた。

 

 わたしたちの最後の役目、それは“バーニングゴジラの観測”。

 

 

 その“一線”を越えたのが果たして何だったのか、それはもはや誰にもわからない。

 

 西暦1954年にゴジラが初めて現れて以来、世界各国はこぞって対ゴジラ兵器を開発し、ゴジラに使用し続けた。

 オキシジェンデストロイヤー、メーサー殺獣光線、ディメンションタイド、アブソリュートゼロ、血液凝固剤、そして核兵器……それらのどれかがゴジラの身体に何らかの“影響”をもたらしたというのがわたしたちモナークの見解だったが、それが果たして何であったのかについては結論は出なかった。

 まあ結論が出たところで、責任のなすりあいになるだけでさほど意味は無かったろう。事態が“こう”なった時点で、わたしたち人類の運命は決まったのだから。

 

 1995年12月、ゴジラは“バーニングゴジラ”と化した。

 

 ゴジラの体表に“赤い発光”が見えはじめたとき、最初は観測機器の誤作動だと思われた。だがやがてそれは明滅し、周期を持ち、まるで何かを告げるように脈動を始めた。

 世界中の研究機関がそのデータを共有したが、誰も解析できなかった。電磁波、熱、放射線、すべてが通常のスケールを超えていた。

 赤熱に燃え滾る巨体、その体表温度は数千度。半径10キロ圏内の大気は数百度にまで加熱され、街を歩いただけでアスファルトや高層ビルが融け落ちてゆく灼熱地獄と化した。

 制御不能に膨張する熱線放射は高度電離で伝搬条件が崩れ、地上通信は遮断・衛星は散乱・吸収でリンク劣化を起こした。人工衛星の回線は過熱した電離層に反射され、電磁パルスが世界規模の停電を引き起こす。

 都市の灯は次々に消え、暗闇の中でただ一つ、ゴジラが放つ灼熱の光だけが脈打っていた。

 

 だが、本当の悪夢はそこからだった。

 

 灼熱そのものは、まだ"理解できる災害"だった。わたしたちは熱について知っている。距離に応じて減衰し、遮蔽すれば防げる。逃げる時間もある。

 けれど、バーニングゴジラが振りまく『放射線』は違った。

 

 1996年一月、香港を通過したゴジラの後、最初の異変が報告された。

 ゴジラが去った後の街で、人々が倒れ始めたのだ。熱傷ではない。建物の中に避難していた者たちまでもが、次々と症状を訴えた。激しい嘔吐、下痢、脱力感。皮膚には紫斑が浮かび、毛髪が束になって抜け落ちた。

 

 わたしが現地から送られてきた線量計のデータを見たとき、最初は機器の故障だと思った。針が振り切れている。こんな数値、ありえない。

 マキ博士は、そのデータを一目見て言った。

 

「中性子線だ」

 

 ゴジラの進路から半径二十キロ圏内、建物の中であろうと地下であろうと、致死量をはるかに超える中性子線が照射されていた。コンクリートの壁も、鉛の遮蔽も、意味はなかった。

 わたしは震える手で計算用紙に数字を書き込んだ。

 透過係数、減衰率、線量分布……どう計算しても、答えは同じだった。

 香港の死者は、最終的に四百万人を超えた。

 その数字を聞いたとき、わたしは何も感じなかった。四百万という数字が、もはや実感を伴わなかった。

 モナークの緊急会議で、博士が分析結果を報告した。わたしはその隣で、データをスクリーンに映し出す操作をしていた。

 

「バーニングゴジラの体内で制御不能な核融合反応が起きている。その過程で膨大な量の中性子が放出されているんだ。しかも従来の熱中性子ではなく、高速中性子だ。エネルギーが高すぎて、あらゆる物質を突き抜ける」

 

 スクリーンには、わたしが作成した香港の放射線分布図が映し出されていた。

 ゴジラが歩いた跡に沿って、鮮やかな赤い帯が伸びている。これは死の地図だ。四百万人の命が消えた場所を示す図だ。

 

「問題は、この放射線が持続しているということだ」

 

 博士は地図上の一点を指した。

 

「ゴジラが去ってから七十二時間が経過しているが、線量はほとんど減衰していない。通常の核爆発なら、中性子は瞬時に拡散して終わる。だが今回は違う。中性子パルスは瞬時だが、広域放射化でγ線が長時間持続している。Na-24, Mn-56, Co-60等の生成が主因だ。ゴジラの体内から放出された中性子が、周囲の物質を放射化している。つまり……」

 

 博士は言葉を切った。

 わたしは、その先を知っていた。何度も計算し、何度も確認した結論を。

 

「ゴジラが通過した場所すべてが、永続的な放射性物質で汚染される。半減期は数年から数十年。もはや人が住める土地ではなくなる」

 

 室内に重い沈黙が落ちた。やがて誰かが言った。

 

「では……ゴジラが世界中を歩き回れば……?」

「地球全体が、死の星になる」

 

 博士の答えは簡潔だった。

 わたしは俯いて、ノートに日付を書き込んだ。ただそれだけのことが、ひどく重要に思えた。この日を記録しておかなければ。誰かが、いつか、これを読むかもしれない。

 ――いや、誰も読まないだろう。わたしたちは全員死ぬのだから。

 

 二月、ゴジラは上海に上陸した。

 わたしは衛星データの解析を担当していた。熱画像、放射線分布、大気の電離状態……すべてを記録し、グラフに起こし、レポートにまとめた。数字だけを見ていれば、それが人の死だと考えずに済んだ。

 でも、ある日、博士がこう言った。

 

「オクムラ、この数字の意味がわかるか?」

 

 わたしは答えた。

 

「中性子線量、毎時一万シーベルト。致死量の二千倍です」

 

「そうじゃない」

 

 博士は首を振った。

 

「上海の人口は二千万人だ。そのうち避難できたのは五百万人。残りの一千五百万人は……」

 

 博士は言葉を切った。

 わたしは何も言えなかった。

 一千五百万。

 その数字を、人として実感することは不可能だった。けれど博士は、それを人として見ようとしていた。一千五百万の顔を、名前を、人生を。

 わたしはただ、「はい」とだけ答えた。

 

 三月、ソウル。

 四月、台北。

 五月、マニラ。

 

 わたしは毎日、死者数の集計を行った。それが仕事だった。

 数字は増え続けた。百万、五百万、一千万……やがて億を超えた。

 

 ある夜、モナークの本部で、わたしは廊下で泣いている同僚を見た。

 声をかけるべきか迷った。でも結局、何も言わずに通り過ぎた。

 慰めの言葉など、もう誰も持っていなかった。

 

 六月、国連で「人類生存圏確保計画」が可決された。

 わたしたちも会議に参加した。各国の代表が、撤退計画について議論していた。ゴジラの進路を予測し、その範囲外に逃げる――。

 博士は最後まで黙っていたが、会議が終わる直前にこう言った。

 

「無駄だ。ゴジラの行動に法則性はない」

 

 誰も反論しなかった。

 みんな、わかっていたのだ。これは希望ではなく、ただの延命措置だと。

 

 七月、バーニングゴジラはサンフランシスコに上陸した。

 予測は完全に外れた。

 

 わたしは衛星から送られてくる映像を見ていた。

 西海岸が、炎に包まれていた。赤い光が都市を飲み込み、やがて暗闇だけが残った。

 

 スクリーンの前で、アメリカ人の研究員が泣いていた。

 彼の家族は、サンフランシスコにいた。

 わたしは何も言えなかった。ただ、データの記録を続けた。それが仕事だから。

 

 北米大陸の死者は、三ヶ月で一億人を超えた。

 八月、モナークの本部機能が停止した。

 職員の大半が出勤しなくなった。逃げた者、家族を探しに行った者、あるいは単に諦めた者。

 博士とわたしは、ほとんど無人になった研究室で、まだ観測を続けていた。

 博士が訊ねた。

 

「逃げなくていいのか、オクムラ」

「逃げてどうするんですか」

 

 わたしは答えた。

 

「どこに逃げても、同じです」

 

 博士は何も言わなかった。

 ただ、コーヒーを淹れてくれた。もう何ヶ月も前に賞味期限が切れたインスタントコーヒーを。

 

 九月、ロンドン。

 十月、パリ。

 十一月、ベルリン。

 もう、詳細なレポートを作る意味はなかった。

 それでもわたしは記録を続けた。ノートに、日付と都市名と、推定死者数を書き込んだ。世界が終わっていく。わたしはそれを記録している。これは科学者の仕事だろうか。それとも、ただの現実逃避だろうか。

 悩んだが、答えは出なかった。

 

 十二月、世界人口は四十億に減少した。

 

 通信網はほぼ途絶えた。各国からのレポートも届かなくなった。

 わたしたちは、孤立した観測基地で、ただ衛星データだけを頼りに状況を推測した。

 

 街には死体が山積みになっているはずだった。

 誰もそれを片付ける者はいない。

 わたしは、それを想像しないようにした。

 ただ、数字だけを見た。

 

 そして1997年三月。

 ゴジラは、ふたたび日本へと向かった。

 

 博士とわたしは、東京湾岸の研究施設に移動した。

 もう誰も止めなかった。政府も、軍も、もう機能していなかった。

 施設に着いたとき、博士が訊ねた。

 

「本当に、ここに残るのか?」

 

 わたしは答えた。

 

「最後まで観測します。それが、わたしたちの仕事ですから」

 

 博士は小さく笑った。

 

「……そうだな」

 

 そして今、わたしたちは防爆ガラスの向こうに、燃え滾るゴジラを見ている。

 世界が終わろうとしている今、わたしたちはただ静かに、記録を取り続けている。

 

 世界終焉の渚にて、わたしたち人類はただバーニングゴジラを遠くから見守ること。これが、人類最後の科学者の仕事だった。

 

 

 ついに、その時が来た。

 午前三時十七分、赤外線温度計の警告音が鳴り響いた。モニターの数値を見て、わたしは声が出なくなった。

 九千度。九千二百。九千五百――

 

「博士」

 

 やっと声を絞り出した。

 

「体表温度が……止まりません」

「心拍パターンは?」

 

 博士の声は低かった。別のモニターに目を走らせる。

 ゴジラの体内から放出される電磁パルス――わたしたちが"心拍"と呼んでいたそれは、今まで一分間に十二回、機械のように正確に刻まれていたはずが、今は激しく乱れている。

 

「十回……いえ、十五……八回……バラバラです」

 

 わたしの声が上ずった。手帳にメモを取ろうとしたが、鉛筆を持つ手が震えて字にならない。

 

「磁場強度は?」

「三百五十テスラ……いえ、下がってます。三百、二百八十……!」

「……来たか」

 

 博士が椅子から立ち上がった。防爆ガラスに近づき、その巨体を見上げた。

 

「磁場が臨界点を割った。もう、自分を保持できない」

 

 わたしも立ち上がり、博士の隣に立った。ガラスの向こうで、ゴジラが立っている。

 いや――立っているのではない。揺らいでいる。

 一番上の背びれの輪郭が――滲んだ。

 それは霧のように、煙のように、でもそのどちらでもない何かとして、背びれの先端から立ち昇り始めた。

 

「博士……あれ……」

「プラズマだ。固体が直接、プラズマに相転移している」

 

 次の背びれも、その次も、順番に輪郭を失ってゆく。背中から尾へ、まるでドミノ倒しのように崩壊が伝播してゆく。

 でも"崩壊"という言葉は正しくない。

 それは落ちていない。上昇しているのだ。体表から離れたプラズマの塊は、重力に逆らって空中に浮かび、そこで――丸くなった。

 小さな火の玉。直径十メートルほどの球体が、ゴジラの周囲に次々と生まれてゆく。

 

「プラズモイド……」

 

 博士が呟いた。

 

「自己完結した磁場構造を持つプラズマの塊。ゴジラの身体が、独立した単位に分離している」

 

 わたしは震える手で手帳を開き、時刻を書き込んだ。3:19。でも文字が震えて読めない。

 ゴジラの右腕が――融け落ちた。

 いや、融けたのではない。肩の関節部分から、皮膚が波打つように剥がれ始めた。その下から現れたのは、赤く輝く何かだった。筋肉ではない。骨でもない。それは流動する光だった。

 

「博士……あれは……」

 

 言葉が続かなかった。

 腕全体が、形を保ったまま光の柱になった。そして、まるで幻のように胴体から離れてゆく。宙に浮いた腕は、ゆっくりと――変形した。

 細長い円柱が、太く短くなり、楕円になり、そして球になった。質量が、目の前で再配置されている。

 

「固体の構造を失っても、質量は消えない」

 

 博士が言った。

 

「プラズマは拡散しようとする。でも磁場がそれを押し戻す。そして、最も安定した形――球形に収束する」

 

 左腕も離れた。両脚も。尾も。ゴジラの巨体が、部分ごとにバラバラになってゆく。

 でも無秩序な破壊とは違っていた。まるで精密機械によって分解されるように、整然と、段階的に進行していた。

 わたしは呟いた。

 

「まるで……意図があるみたいです」

「その通りだ」

 

 博士が答えた。

 

「これは崩壊じゃない。変態だ。昆虫が蛹から成虫になるように、ゴジラは新しい形態へ移行している」

 

 頭部だけが、最後まで形を保っていた。

 あの巨大な頭部が――こちらを向いた。

 わたしは息を呑んだ。

 眼窩の奥に、まだ眼球の形が残っている。そこから光が漏れている。でもその奥に、確かに何かがあった。

 意識。

 ゴジラは、自分に何が起きているか理解している――そう感じた。

 次の瞬間、頭部が弾けた。

 閃光。

 わたしは目を閉じたが、遅かった。網膜が焼けるような痛み。視界が真っ白になった。

 同時に衝撃波。建物全体が揺れ、わたしは床に膝をついた。耳が詰まったような感覚。いや、鼓膜が――

 目を開けると、世界が赤い膜を通して見えた。涙が止まらない。でも涙は熱くて、触ると血が混じっていた。

 防爆ガラスに、蜘蛛の巣のようなヒビが入っていた。

 

「オクムラ! そこから離れろ!」

 

 博士の声が遠くに聞こえた。

 わたしは立ち上がろうとした。その瞬間――

 ガラスが爆発した。

 無数の破片が飛び散る。わたしは腕で顔を覆った。でも間に合わない。何かが頬に当たった。温かいものが流れる。

 そして――熱風。

 口を開けた瞬間、灼熱の空気が喉を通った。肺が焼ける。咳が止まらない。床に倒れ込んだ。這いつくばって、机の下に潜り込んだ。

 

「博士……!」

 

 博士は壁際に倒れていた。でも動いている。まだ意識がある。

 わたしは目を細めて、窓の外を見た。涙と血で視界がぼやけている。でも――見えた。

 

 そこに、ゴジラはいなかった。

 

 代わりに、巨大な球体が浮かんでいた。直径――わからない。大きすぎて。視界の半分以上を占めている。

 球体の表面は生きていた。波紋が走り、渦が生まれ、稲妻のような光の筋が走る。まるで巨大な心臓が脈打っているようだった。

 周囲は、もはや夜ではなかった。球体から放たれる光で、真昼のように明るかった。いや、真昏よりも明るかった。影が消えていた。

 机の下から這い出て、線量計に手を伸ばした。

 針が右端に張り付いている。ガイガーカウンターは、もはや個別のカウントを諦めたように、連続した金切り声を上げ続けている。

 

「線量……読めません……」

 

 声がかすれていた。

 

「十万シーベルトは超えている」

 

 博士が言った。その声も弱々しかった。

 

「致死量の二万倍だ」

 

 わたしは博士を見た。博士の鼻から、血が流れていた。目の下に紫色の痣。唇が切れている。

 

「俺たちは、もう死んでいる、オクムラ。細胞核が破壊されている。DNAはバラバラだ。ただ、脳が機能を停止するまでに、数分の猶予がある」

 

 数分。

 わたしは自分の手を見た。指先に紫色の斑点ができている。爪の下が黒ずんでいる。口の中に血の味がする。舌で歯茎を触ると、ぶよぶよしていた。

 

「数分……」

 

 わたしは呟いた。

 手帳を拾い上げた。ページが血で汚れている。わたしの血か、それとも――

 

「記録を……残さないと……」

「無駄だ」

 

 博士が言った。

 

「この建物も、記録も、すべて消える。何も残らない」

「それでも……」

 

 わたしは震える手でペンを握った。

 

「それでも、書きます」

 

 博士は何も言わなかった。ただ、小さく笑った。

 わたしは手帳に書き込んだ。

 

「3:21 ゴジラ球状形態へ移行 直径推定――」

 

 数字が書けない。指が震える。

 深呼吸しようとして、激しく咳き込んだ。何かが喉から込み上げてくる。血の塊だった。手帳に血が垂れた。

 でも、書き続けた。

 

「――700m 表面活性 周囲物質の取り込み開始」

 

 球体が、脈動した。まるで心臓の拍動のように、全体が膨らみ、縮んだ。

 そして膨らむたびに、大きくなっていた。

 

「大きく……なってます……」

「ああ」

 

 博士が答えた。

 

「質量を取り込んでいる。周囲のあらゆる物質を、自分の一部にしている」

 

 球体の表面から、光の糸が伸びていた。何十本も。それは稲妻のように枝分かれしながら、地面に、海に、大気に触れている。

 光の糸が海面に触れると――海が爆発した。

 いや、爆発ではない。海水が一瞬で気化して、白い柱になった。でもその蒸気は空に昇らず、光球に吸い込まれていった。

 岸壁のコンクリートも同じだ。赤く光り、溶けて、やがて光の糸に吸収されてゆく。

 

「このままでは……」

 

 わたしは計算しようとした。でも頭が働かない。数字が浮かんでこない。

 

「博士……どこまで……」

「膨張速度から計算すれば、三十分で関東平野。一時間で日本列島。六時間で――地球全体だ」

 

 六時間。わたしは時計を見た。3:23。朝の九時には、地球が消える。

 

「逃げ場は……」

「ない」

 

 博士が答えた。

 

「どこにもない」

 

 その言葉を聞いて、わたしは妙に落ち着いた。そうか。もう、何も選択肢はないのだ。

 ならば――

 

「博士」

 

 わたしは訊ねた。

 

「これは……何なんですか。ゴジラは、何になったんですか」

「新しい生命だ」

 

 博士が答えた。

 

「物質の身体を持つ生命は、重力に縛られ、時間に支配され、エントロピーに抗えない。でもあれは違う。プラズマと磁場だけで存在する。もはや細胞も、代謝も、何も必要としない」

「それは……生き物と言えるんですか」

「さあな」

 

 博士が苦笑した。

 

「俺たちの定義では測れない。でも、あれは確かに"存在"している。自己を維持し、成長し、環境と相互作用している。それを生命と呼ばずして、何と呼ぶ?」

 

 球体が、さらに膨張した。もう東京湾全体を覆っている。いや、湾を越えて――

 視界の端まで、すべてが光だった。

 地平線が消えた。空と地面の境界が消えた。

 世界が、光に飲み込まれてゆく。

 観測室の床が熱くなってきた。足の裏が痛い。

 机の金属部分が、赤く変色し始めた。

 もう時間がない。

 

「博士」

 

 わたしは言った。

 言わなければならないことが、たくさんあった気がする。でも、言葉が出てこない。

 

「わたし……」

「わかってるよ、オクムラ」

 

 博士が言った。

 

「俺もだ」

 

 博士は壁に背中を預けたまま、わたしを見て微笑んだ。血だらけの顔で。紫色の痣だらけの顔で。

 でも、その目は――輝いていた。

 

「最後まで、よくやってくれた」

 

 その言葉を聞いて、わたしの目から涙が溢れた。

 痛かった。涙腺が破壊されているのに、それでも涙が出た。

 

「博士こそ……」

 

 それ以上、言葉にならなかった。

 光球が、観測室に迫ってきた。壁が赤熱し始めた。塗料が焦げる匂い。いや、匂いではない。鼻の粘膜が焼ける感覚だ。

 天井から、火花が落ちてきた。配線が溶けている。すべてが光になってゆく。

 もう、痛みは感じなかった。

 ただ、まぶしかった。

 わたしは最後の力を振り絞って、ノートに書いた。

 

「さようなら 地球」

 

 さようなら、地球。

 さようなら、人類。

 さようなら、わたしたち。

 

 終末の火に包まれ、すべてが光に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――クムラ! オクムラ!」

 

 誰かが肩を揺さぶっている。

 

「起きろ、オクムラ!」

 

 わたしは目を開けた。

 視界がぼやけている。目の前に博士の顔。血まみれではない。紫色の痣もない。ただ心配そうな表情で、わたしを覗き込んでいる。

 

「……博士……?」

 

 声が出た。喉は焼けていない。

 

「……よかった、意識が戻ったか」

 

 博士がほっとしたように息を吐いた。

 わたしは身体を起こそうとして――机に突っ伏していたことに気づいた。ここは観測室だ。でも、防爆ガラスは割れていない。床も壁も、何も壊れていない。計測器のモニターが、規則正しく数値を表示している。

 

「わたし……」

 

 混乱した頭で周囲を見回す。

 

「何が……」

「突然倒れたんだ。十五分前だ」

 

 博士が言った。

 

「ガイガーカウンターの警告音が鳴って、君が急に『熱い』と叫んで、そのまま机に崩れ落ちた。線量計を見たら、瞬間的にスパイクがあった。太陽フレアの影響だろう」

 

 博士は線量計を示した。針は正常値を指している。

 

「電磁パルスだ。浴びたショックで、一時的に意識を失ったんだろうな」

 

 わたしは自分の手を見た。紫色の斑点はない。爪も正常だ。口の中に血の味もしない。

 

「夢……?」

「夢を見てたのか?」

 

 博士に訊ねられ、わたしは思い出そうとした。

 ……何か、恐ろしいものを見た気がする。でも、輪郭がぼやけている。

 光。熱。世界が溶けて――

 

「……覚えてません」

 

 嘘をついた。

 いや、本当に覚えていないのかもしれない。すでに霧のように消えかけている。

 

「そうか」

 

 博士は頷いて、椅子に座り直した。

 

「まあ、疲れてるんだろう。三日連続の観測だ。少し休んだ方がいい」

「いえ、大丈夫です」

 

 わたしは立ち上がった。少しふらついたが、すぐに平衡を取り戻した。

 防爆ガラスの向こうを見た。ゴジラがいた。

 でも――赤く燃えていない。

 湾の向こう側に、巨大な影が立っている。月明かりを背に受けた、黒いシルエット。動かない。ただ、そこに佇んでいる。

 わたしは訊ねた。

 

「バーニングゴジラは……」

「バーニングゴジラ?」

 

 博士が怪訝な顔をした。

 

「何を言ってるんだ、オクムラ。ゴジラは通常状態だ。体表温度は三十度程度。ほぼ外気温と変わらない」

 

 モニターを見る。

 体表温度:28℃

 体内放射線量:通常レベル

 磁場強度:0.05テスラ(地磁気程度)

 すべて、正常だった。

 

「そう……ですね……」

 

 わたしは椅子に座った。

 夢だったのだ。あの灼熱も、プラズマ化してゆくゴジラも、世界の終わりも、すべて。

 

「オクムラ、本当に大丈夫か? 顔色が悪いぞ」

「大丈夫です」

 

 気遣わしげな博士にわたしは答えたが、手が震えていた。なぜだろう。夢だとわかっているのに。

 ふと、机の上に視線が落ちた。わたしの手帳がある。開いたページに、文字が書かれている。わたしの筆跡で。

 

「3:21」

 

 ……いや、わたしは時計を見た。

 午前3:23。

 

「……博士」

 

 わたしは訊ねた。声が震えている。

 

「今、何時ですか」

「3時だが。どうかしたか?」

 

 わたしは手帳を閉じた。手が震える。

 

「いえ……何でも」

 

 防爆ガラスの向こうで、ゴジラの背びれが一瞬、赤く光った気がした。

 瞬きをすると、何もない。ただの黒いシルエットが、静かに立っているだけ。

 博士が立ち上がって、わたしの肩に手を置いた。

 

「オクムラ、やっぱり休め。俺が観測を続ける。君は仮眠室で横になりなさい」

「……はい」

 

 わたしは立ち上がった。

 観測室を出る前に、もう一度だけ振り返った。

 ゴジラは、動かなかった。

 でも――

 

 その輪郭が、ほんの少しだけ、揺らいで見えた。




まあ、たまにはこういうのもいいでしょう。

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