今日も今日とてプレイヤーのために対戦相手をボコしてく。
星の数ほどあるソシャゲの一つである『幻想なファンタジー』をご存知だろうか。
”頭痛のせいで痛い”のような日本語として気持ち悪いゲームタイトルのおかげで、一時期ネットで有名になっていたあのゲームのことだ。
しかし、内容はとても面白いものだった。
キャラクターを育成し、チームを編成して世界を旅する冒険RPGと、タイミングよく画面をタップするリズムゲーを融合させたゲームである。ここまでは一般的なソシャゲに毛が生えた程度であろう。
ただ、一番の目玉要素はやはりキャラクターの育成とチームの編成だろう。
なぜなら、『幻想なファンタジー』はキャラクターが星の数ほどいる。文字通り星の数ほどだ。
つまり、そこらのソシャゲのような数百数千ではなく、数万、数十万ものキャラクターが存在しているのだ。
さらに、ここから各キャラクターの覚醒方針やら派生やら、アイテムによるバフやら、特別メンバーによる特殊効果など、本当にさまざまな方法でキャラクターを戦わせることができる。
つまりソシャゲなどでよく見られる、テンプレのチームセットが蔓延りづらい、ということである。
正解などない、幅広いゲーム自由度が、『幻想なファンタジー』を一躍有名にしたのである。
◇
今日も今日とて闘技場は非常に盛り上がっていた。
客席には溢れ出さんばかりの観客が叫んでおり、賑やかさといえばパチンコ店にも劣らぬ騒がしさである。
『みんなヤッホー! 司会は私、アナウンサーちゃんがお送りするよ!』
騒音で包まれた闘技場を可愛らしい、愛嬌のある声が響く。
瞬間騒いでいた観客達の歓声は爆発的に大きくなる。今までの騒音が前座であったという、魔境となった闘技場の東門が砂煙を立ち込ませながら開門する。
どうやら選手入場らしい。
『さーて、青門からやってくるのは【剣術道場】でお馴染み《プレーヤー:きりがりす》だよ!』
未だ砂塵が舞っている青門からやってくるのは、五人で構成された一つのチームであった。
前方を歩く三人は物々しい鎧に身を包んでおり、その手には無骨だが分厚い刃を備えた斧を携えている。狼の毛皮を装飾として使っている鎧から、北方の戦士達だという事は予想することができる。
そして残りの二人だが、こちらは大陸中央に存在する高明な魔術学院の制服を着用していることから、おそらくやり手の魔術師だということが伺える。年はかなり若く見えるが、一部の魔術師は外見年齢と実際の年齢がかけ離れている者もいるため、見かけで判断するべきではないだろう。
『赤門からやってくるのは【ワンマンアーミー】でお馴染み《プレイヤー:ネコガスキー》だよ!』
いつの間にか開かれていた赤門から現れた人物に、先ほどまで騒がしかった観客がさらに盛り上がりを見せる。
なぜなら、赤門からやってきたのはたった
丈の短いワンピースにサンダルという、とても闘技場に似合わぬ装いの少女。一眼見ただけでは、蝶よ花よと育てられた弱々しい貴族のご令嬢のようだ。
そのワンピースは濡れてしまえば下着まで透けて見えてしまいそうなほど薄いワンピースであり、そんな薄いワンピースだからこそ、少女のか細い体つきが見て取れる。
その華奢な体つきに、陶磁器のようなきめ細かい肌も相俟って、子供が棒切れを振り回しただけでも崩れてしまいそうなガラス細工のように感じる。
そんな彼女の目の前には、百戦錬磨の北の戦士に叡智の結晶たる魔術学院の現役魔術師。
一つの村を消し去ることのできる力を持った相手に、散歩をするかのように西門から歩いてきた彼女は一般的に見れば異常であろう。
通常であれば少女の気が狂っていると思われても仕方のない状況だ。
観客達はある意味気が狂っているとは思っている。そう、ある意味では、だ。
綺麗な少女の登場によって異様な雰囲気に包まれた会場は、少女が一礼をしたことで最高潮に達した。誰もがこれから起こるであろう展開に期待をしていた。……一方的な蹂躙を。
『それでは始めたいと思いまーす! レディ──ーッ! ファィッ!』
ドラのような大きな鐘の音と共に、北の戦士達が先手を取った。
力強く踏み込まれた足によって闘技場の地面を抉りられ、舞い散った土を置いてゆきながら少女に迫る。
対する少女は小さく微笑んだだけであり、特に何かをするようには見えない。
雄叫びを上げながら狼を祀る戦士が斧を振り上げ……そのまま自分の首を吹き飛ばした。
後に続く戦士達もそれぞれが手に持っている獲物で、自身の急所を抉って絶命した。
後方で詠唱をしていた魔術師二人は、急に奇声を上げたかと思うと、地面に膝をつき苦しみ始めた。
闘技場の地面を血の滲む手でかきむしっていた魔術師達だが、次第にその力も弱まっていき、ついには血の池に体を沈め……二度と動くことはなかった。
闘技場に残されたのは、一人の少女だけだった。
ゆっくりと首を傾げ、微笑む少女だけ。
闘技場ではかつてないほどの歓声が上がっているが、彼女はまるで聞こえていないかのように、ただそこに困ったように佇んでいた。
勝利に酔いしれることもせず、どこか懐かしさを感じさせる雰囲気を醸し出す彼女に、思わずアナウンサーちゃんは言葉を詰まらせるが、すぐに試合終了を告げる。
『試合終ー了ー! 勝者はー……《ネコガスキー》!』
終了のサイレンが響き渡る中、彼女は今になって自分が
彼女の名は美琴。
続きません