ふたりの足跡   作:sayama/

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書きたいことは全部第一話にあたる「告解」に書いたので、もう悔いはない思っていたけど、デンジとレゼの幸せな話を書いていたら止まらなくなってしまいました。


sunny day

 

 

/001

 

 

「……ぅ、ん」

 

 遠くから聞こえた鳥の鳴き声で、レゼは少しだけ目を覚ました。

 体内時計ではまだ明け方。窓越しに外を見て、まだ空が暗いことを確認する。

 

「……ん?」

 

 暖かい何かに包まれている。起きても良かったが、まだここに居たい、ここで眠っていたいと体が言うことを聞かない。

 レゼの体はデンジに抱きかかえられるように、すっぽりとその両腕に収まっていた。

 

「ぁ……デンジ、君」

 

 誰にも聞こえないように、口の中で小さく彼の名を呼ぶ。

 デンジはまだ起きる気配はない。迷ったのは一秒にも満たない時間。レゼはもう少しこの状況を堪能することにした。

 レゼはゆっくりと、デンジの顔に手を伸ばす。目、頬、顎、そして唇をなぞった。

 こそばゆいのか、デンジは少し嫌がるような様子を見せる。

 

(……ふふ、かわいい)

 

 昨晩は、色々なことがあった。告解の悪魔との遭遇。レゼの告解。デンジの赦し。

 泣いたし、叫んだし、恥ずかしいことも、たくさん言った。

 自分のために、デンジを巻き込んだ。その精算をしなければいけなかった。

 しかし、それら全てをデンジに受け入れてもらい、今ここに二人でいる。

 

「…………っあ」

 

 レゼはそのまましばらくデンジを眺めていたが、不意にその顔が歪んだ。

 

「……ないで……ってかないで……」

「……デンジ君?」

 

 デンジは眉間にしわを寄せ、うなされる様に苦しそうな声を出す。

 

「持ってか、ないで……」

 

 持っていかないで。

 何のことかは分からないが、何かを持っていかれたくなくて、うなされている様子だ。

 

「デンジ君、大丈夫だよ。持ってかないよ。私は、ここにいるよ」

 

 苦しそうな彼を助けたくて、レゼはデンジの頭を撫でながら優しく声をかけた。

 彼が辛そうだと、まるで我が身に起きたことのように自分も辛い。

 もういっそのこと起こしてしまおうか、と思った時。

 

「その皿、持ってかないで……まだ食べられる、俺ァまだ食べられるからァ……」

「へ?……っく、ふはは……」

 

 どうやら、夢の中で、まだ食べようとしている料理皿を取り上げられようとしているらしい。

 

(嘘でしょ?昨日、あんなことがあっていうのに……やっぱりこの人、最高に面白い)

 

 昨晩、互いの人生を左右する程の激動の出来事があったにも関わらず、その日見る夢がもうこれか。

 その能天気さに苦笑しながら、レゼはデンジの鼻をつまむ。

 

「んがっ……あ、レゼぇ……おはよぉ」

「おはよう、デンジ君。うなされてたから、起こしちゃったよ」

「あぁ……そう……ありがと……」

 

 デンジはいまだ覚醒には至らず、半目のままレゼを見つめている。

 

「デンジ君?」

「……いま、何時?」

「んー、たぶん、まだ5時前くらいじゃないかな」

「そっか……じゃあ、あれだ。二度寝する……してもいい?」

 

 起きたのなら、やることは山ほどある。

 レゼの逃亡計画は、今までは『デンジだけは助かるように』を前提に作られたものだった。

 しかし昨晩のレゼの告解を経て、その前提は根底から覆っている。

 二人でずっと、一緒に生きていくと決めた。そのためには計画の練り直しが必要だった。

 これからはデンジの意見も聞き、二人で相談すべきだと思った。

 

「う~ん、どうしよっかな」

「あ……たぶんおれ、いま悪魔の攻撃受けてる。二度寝の悪魔。あったかくて、二度寝しないと起きらんねェ」

「二度寝の悪魔って……ふ、ふふふ……そっか、悪魔の仕業じゃしょうがないね。うん。いいよ。じゃあ、私も一緒にもうひと眠りしちゃおうかな」

 

 レゼは依然としてデンジの腕に包まれたままだ。

 

「おやすみぃ……」

「うん。おやすみ」

 

 この温もりをもう少し味わいたいのは、自分も同じだった。

 

 

 

 

 

「教会、消えちゃったね」

 

 二度寝から目が覚めて、時刻は朝の8時頃。

 教会内で軽く朝食を済ませ、近くの川で顔を洗ったりと身支度をして帰ってきたら、昨晩泊まった教会はきれいさっぱり無くなっていた。

 

「あぁ。朝には消すってあン悪魔が言ってたかんなぁ。一応、荷物とかは全部外に出しといたけど」

「ね。う~ん……さすがに椅子の上で寝ると、体がバキバキだぁ」

 

 デンジの隣で屈伸をしながらレゼが言う。スラリと伸びた、健康的でしなやかなレゼの足。

 夜のプールで見たレゼの裸体を思い出し、デンジは思わず目を逸らした。

 

「今日はちゃんとしたお布団があるところで寝たいなぁ」

「じゃあさ!バイキング!朝食バイキングがあるとこ泊まりてェ!」

「キミはお腹いっぱい食べたいだけだろ~」

「俺、今日バイキングで食べ放題の店に行く夢みたんだけどよ~。まだこっちは食ってんのに、すぐに皿を片づけられちまうんだよ。だから全然食えなくて、せっかく食い放題の夢なのに、すげー損した気分だったんだわ」

「あー、あの寝言はそういうことだったんだ」

「え、俺なんか言ってた?」

「『まだ食べられるから、俺の皿を持ってかないで~』って言ってたよ」

「それ俺が夢で言ったセリフだ!」

「アハハ!夢のなかでくらい食べられたら良かったのにね」

 

 身支度も終わり、出発の準備が完了する。

 本当なら下山した後、またすぐに別の街へ移動する予定だったが、レゼはデンジと話し合う時間が欲しかった。

 

「ねえ、デンジ君。今日は山を下りたらそのままこの町に残って、一日ゆっくりしたいと思うんだけど、どう?」

「いんじゃね?でも、泊まるところはどうする?」

「昨日泊まれなかった民泊のおじいちゃんに電話してみて、もし建物が泊まれるようになってたらそこに泊まろうと思う」

 

 昨日、ガス漏れの修理と点検で泊まれなくなった民泊施設。お詫びにともらった5千円は、そのまま今日の宿泊費用に回せばいい。

 

「これからのこととか、デンジ君と相談したいんだ。……朝食バイキングは用意できないけど、キッチンが使えるはずだから、今日の晩ご飯は私が作ってあげる」

「マジで!?楽しみ~!」

 

 レゼの手料理が食べられるというだけで、単純なデンジはもうバイキングのことなど頭にない。

 そんなデンジを微笑ましく思いながら、町のコンビニに併設されている電話ボックスを探しに下山を始める。

 空気が美味しいとか、意外と虫がいないとか、綺麗な色の鳥を見つけたとか。

 そんな他愛もない話をしている内に、気付けば麓にたどり着いていた。

 

「あれ、もう山ァ下りちまったな。昨日登った時はすげェ疲れたけど、下りんのはあっという間だったなァ」

「う、うん。そうだね……」

 

 特に時間は測っていないが、レゼも同様の、いや恐らくデンジ以上にその感覚を覚えていた。

 

(ちょっと待って。え、どうしよう……)

 

 昨日は登るのに1時間かかった山。レゼの体感では、下りは15分程度の感覚だった。

 登山において、いくら登りより下りの方がかかる時間は少ないとはいえ、正常とは言えない。

 

(……楽しい!)

 

 昨日までとは、まるで世界が変わって見える。色づいて見える。

 デンジと出会ってから最初の1週間。カフェで、学校で、夏祭りで過ごしたような、楽しい時間。

 あの時は任務中だったこともあり、楽しい気持ちの中には常に、デンジへの罪悪感や任務を先延ばしにしている焦燥感があった。

 しかし、今はそれがない。全力で、この気持ちと向き合える。

 ルンルンと、気を付けないと鼻唄でも奏でてしまいそうな気分だ。

 

「……レゼ、なんか、ゴキゲンな感じだな」

「えっ!?な、なんでそう思うの?」

「腕、ブンブン振って歩いてたから」

 

 デンジに鋭く指摘され、訓練で身に着けた技術を使ったわけでもないのに、レゼは少し頬が赤らむのを感じた。

 そういえば旅を始めてからの2週間、あまり会話をしなかった分、デンジはレゼのことをよく見ていたと言っていた。

 

「……まあ?ゴキゲンっていうか?普通じゃない?」

「そおかぁ?まあ確かに、山下りてるだけだしな」

 

 つれない態度のデンジに、まるで自分だけが楽しんでいるようで、レゼは少しムッとなる。

 

「仮に、仮にだよ?私がデンジ君とお喋りしながら歩くの楽しー!って思ってたとして、デンジ君は楽しくないの?」

「楽しいでェす!!」

「そうだよね、楽しいよね」

 

 レゼの瞳に本気を感じ、即答するデンジ。若干言わされている感は否めないが、レゼは満足する。

 

「さ、コンビニ探しにレッツゴー!」

 

 腕を上げ、元気いっぱいといった様子でデンジの前を歩くレゼ。

 

「……メチャ糞カワイイ」

 

 デンジはレゼに聞こえないように小さく呟き、置いて行かれないようにその後ろ姿を追いかけた。

 

 

 

 

 

 しばらく歩くと、コンビニと併設されている電話ボックスを見つけた。

 

「コンビニには寄ってく?」

「あー、朝飯買おうかな」

「じゃあ私も一緒に買っちゃお」

 

 本当は監視カメラがあるような場所は極力近づかない方が良いのだが、この田舎町ではいつでもこのような店があるわけではない。

 レゼは手早くサンドイッチを選び、デンジが持つカゴに入れる。

 デンジの手持ち現金の方が多かったこともあり、買い物の際はデンジが会計する方が多かった。こういったお金の管理も、これからはしっかり話し合って決めていきたい。

 二人で会計を済ませ店から出ようとしたとき、デンジがレゼに声をかけた。

 

「ちょっとトイレ行ってくるわ」

「うん。じゃあ、私は電話してくるね」

 

 レゼはデンジから買い物袋を受け取る。デンジは雑誌コーナーで少し立ち止まった後、足早にトイレに駆けて行った。

 その後ろ姿を見送り、レゼはいったん店から出て、併設の電話ボックスに入る。

 

「…………」

 

 電話ボックスは、デンジとレゼの出会いの場所であり、思い入れも強い。

 彼と出会った時の自分に教えてあげたい。

 その人が、私に花をプレゼントしてくれて、私の手を取ってあの部屋から連れ出してくれる、運命の人なんだよ、と。

 少しだけ感傷に浸るが、深呼吸一つで気持ちを切り替える。

 カフェのマスターから貰った使いかけのテレホンカードを差し入れて、民泊の管理人に電話をかけた。

 

「あ、もしもし。私、昨日そちらの民泊に泊まらせてもらう予定だった者ですが……」

 

 幸いにも管理人は電話に出て、なおかつガス工事も完了しており今日は宿泊できるとのことだった。

『鍵はポストの内部にセロテープで貼り付けてあるから、何時からでも好きに使っていい』

『翌日はお昼くらいまでに出ていき、鍵と料金はリビングのテーブルに置いていけばいい』

『ゴミは袋にまとめて置いていっていい』

 田舎特有の警戒心の無さからか、かなり緩いルールだったが、今の二人にとって過度な干渉がないのはありがたい。さっそく今日利用したい旨を伝えると、返す返事で了承され、軽く挨拶して電話を切った。

 電話ボックスを出ると、デンジはまだトイレから戻っていないようだったため、監視カメラの死角となる場所で待つことにする。

 

「…………」

 

 空を見上げる。気持ちの良い晴天。腕を上げて、軽く伸びをする。

 この旅を始めてから、こんなにも晴れやかな気持ちでいたことがあっただろうか。

 

「……?」

 

 不意に視線を感じる。上を向いていたからか、道の向こうから近づいてくる二人の男性に気付くのが少し遅れた。

 視線を合わせないように観察する。訓練を積んだ動きではない、年齢は恐らく二十歳前後。地元の若者だろうか。

 

(あー、これは……。めんどくさいなぁ。仕方ない、少し、変えるか)

 

 ニヤニヤと嫌らしい顔で近づいてくる二人組。こんな田舎にレゼのような美人がいること自体、彼らにとっては一大イベントのようなもの。

 声をかけられるのも、トラブルになるのも避けたかった。何より今は、他の男と喋っているところをデンジには見られたくなかった。

 レゼは訓練で得た技術を使い、表情を変え、腕を体の前で組んだ。

 絶対零度の様相。

 男たちは急に周囲の気温が下がったかのような錯覚を覚え、レゼに声をかけることなく、そそくさと逃げる様にコンビニへと入っていく。

 視界の端でそれを確認していると、二人組と入れ替わるようにデンジが出てきた。

 

「レゼ」

「あっ……デンジ君、おかえり~」

「たでーま。待たせてわりぃな」

「いいよいいよ。近くに公園があるみたいだから、そこで食べよう」

 

 レゼは瞬き一つで表情を戻し、笑顔でデンジの手を取って歩き出す。デンジは少し戸惑ったが、すぐにその手を握り返した。

 

「袋、持つよ」

「え?あ……じゃあ、お願いしよっかな」

 

 手を繋いでいない方のデンジの手が差し出される。

 買ったのは二人分のおにぎりとサンドイッチだけ。大して重くはなかったが、レゼはその優しさに甘えることにした。

 

「ありがと」

「おう」

 

 自分を甘やかしてくれるデンジと、その優しさに素直に甘えられる自分。

 

(今日は、良い日になりそう)

 

 レゼは握る手に少しだけ力を込めて、公園に向かった。

 

 

 

 

 

 公園に着き、ちょうど日陰になっているベンチを見つけて腰掛ける。二人並んで朝食を食べながら、レゼはデンジに民泊のことを伝えた。

 

「とりあえず寝床が確保できて良かったな。電話、ありがとな」

「うん。この公園から歩いて15分くらいの場所みたいだから、ご飯食べたらさっそく行ってみよう」

「ああ。……風呂、あるかな。あったら沸かして、たまには湯船に浸かりてェな」

「お風呂……私、お風呂って入ったことないな」

「え?そーなの?」

「あ、もちろんシャワーは浴びてるし体は洗ってるよ。ユブネって、浴槽のことだよね?えっと、お湯に浸かったことがないってこと」

「マジで?お湯浸かると、気持ちーよ。せっかくだから、今日入ってみれば?」

「……じゃあ、ユブネがあったら入ってみよっかな」

 

 ソ連では浴槽自体は一般家庭にも普及しているが、お湯に浸かるという文化はあまりない。

 バーニャと呼ばれる伝統的な蒸し風呂文化もあるが、モルモットには縁遠かった。

 水中だと著しく爆弾の悪魔としての能力が制限されることから、もしかすると本能的に避けているのかもしれない。

 

「のぼせちゃったらどうしよう」

「湯船をバンバン叩いてくれれば……お、俺が助けに行くよ」

「……ちょっと、想像した?」

「ジンメーキュージョってやつだよ!」

「アハハ。鼻の下、伸びてますよぉ」

 

 朝食も食べ終わる頃には、公園に来た1組の親子連れがブランコやシーソーで遊んでいた。

 父と、母と、3歳ほどの可愛い女の子。

 レゼには両親の記憶がない。

 今ここに自身が存在している以上もちろん両親はいたのだろうが、物心がつく頃には既にあの部屋にいたため顔も名前も知らない。

 

(……もし『普通の家』に産まれていたら、公園とか遊園地に行くこともあったのかな)

 

 なんとなく目が離せなくて、二人はその家族連れが遊ぶ様子をぼうっと見ていた。

 少し強い風に思わずレゼが目をつむった時、デンジがぽつりと呟いた。

 

「……俺、公園で遊んだ記憶、ないんだよね」

「え?」

「ガキん頃に母親は死んでるし、クソ親父は俺を殴ったり蹴ったりはしてたけど遊びに連れてってくれたこんなんてなかったからさ。俺にとって公園は『ゴミ箱から誰かの食い残しを探す場所』なんだよな」

「そう、なんだ」

「まあ今はさすがに、ブランコとか滑り台とかやりてェとは思わねーけど」

「そっか。……ねえ、今夜、もう一回ここに来てみない?」

「え?」

「私もね、公園で遊んだことってないんだ。だから、ちょっと遊んでみたい」

 

 処暑の風がもうひと吹き。二人の髪をさらう。

 

「だって、シーソーは一人じゃできないでしょ?だから、私に付き合ってよ」

「いいぜ。学校でも公園でも、レゼと一緒ならならどこでも楽しそうだしな」

 

 種類は違えど、二人は同じ痛みを抱えている。

 

「じゃあ、行こっか」

 

 レゼは再びデンジの手を取り、今日の宿へと歩き出した。

 

 

 

 

 

/002

 

 

 公園から15分ほど歩き、今日の宿となる民泊施設に到着する。

 道に接する以外の3方を耕作放棄地に囲まれ、空き地にぽつんと家が建っているような印象だ。

 建物を一言で表するなら、平屋の古民家、といったところだろうか。

 

「管理人さんが言うには、このポストの中に……あった」

 

 レゼがポストの中を探ると、内部手前にテープで貼り付けられた鍵を見つけた。

 鍵を指でいじりながら、建物に入る前に周囲を軽く探索する。

 監視カメラやトラップがないことを確認し、襲撃された際の逃走ルートを設定する。

 

「レゼェ~早く入ろうぜ~」

「はいはい、今行きますよ」

 

 この旅が始まってから夜を明かすのは安宿や野宿ばかりであり、一軒家丸ごと借りるという状況にデンジは浮かれていた。

 ただ、家の中に入ったデンジは、さらに驚くこととなる。

 

「おォ!すげー綺麗じゃん!」

「ここ、あまり人気がないって聞いてたけど、けっこうイイ感じだね~」

 

 建物内部は、その昔ながらの構造を活かしたまま、リノベーションでもしたかの様に綺麗に整えられていた。

 

「探検しよーぜ、探検!」

「いいね!まずはお風呂チェックだ!」

 

 二人は風呂、トイレ、キッチン、寝室、リビングと、建物内を見て回る。

 冷蔵庫や洗濯機等の白物家電は標準仕様で、テレビやドライヤーも置いてある。驚いたのはカメラ機能付のインターホンが設置されてことだ。最新のカラーではなく白黒映像だが、これがあるだけでも防犯性能はかなり高くなる。

 新築とまでは言えないが全体的に小綺麗にまとめられており、これで1泊5千円は破格だとレゼは思う。

 

(いつか、こんな家にデンジ君と住めたらいいな)

 

 レゼがデンジとの同居生活を夢想していると、脱衣所からデンジが液体洗剤を持ってきた。

 

「俺、粉じゃない洗剤って初めて見たわ。さっき庭に物干しあったから、洗濯しちゃおうぜ」

「そうだね。じゃあ、お洗濯してる間にこれからの予定を確認しよう」

 

 二人はリビングに荷物を下ろし、中から汚れものを取り出す。

 既にネットにまとめてあった洗い物をレゼが洗濯機に入れるのを確認し、デンジが自身の服を洗濯機に入れようとした時、ふとそのにおいをかぎ、顔をしかめた。

 

「なあレゼ」

「なあに?」

「俺ってさ……香水とか、付けた方がいいかなぁ」

 

 デンジの放った何気ない一言に、レゼはもの凄い勢いでガシッとデンジの腕を取り、抑揚のない声で言う。

 

「それはやめた方がいいと思うよ」

「え」

「香水は、デンジ君にはちょっと似合わないと思うな」

「で、でも、俺、くさくない?」

「くさくないよ。デンジ君からはデンジ君のニオイしかしないから。全然問題ないから。むしろ香水なんて付けたらニオイで追手に見つかっちゃうから。絶対にやめた方がいいよ」

「そ、そっか。レゼがそう言うなら」

「分かってくれて、うれしいよ」

「あ、じゃあさ。定期的に俺がくさくないかレゼが確かめてくれよ。もしくさかったら、俺が傷つかないようにそっと教えてな」

「え、いいの?じゃあ毎日チェックするね?15分に1回くらいでいい?」

「ええ!?そんなに?やっぱ俺ってくさいんじゃ……」

「あ!違う、違うよ!そしたら……朝、昼、晩にチェックしてあげる。それならどうかな」

「お、おォ。じゃあ、それでお願いしようかな」

「ちゃんとチェックするからね?こういうのは適当にやると意味がないから、デンジ君も協力してね?」

「協力?」

「私も真剣にやるから、デンジ君も恥ずかしがったりしないで真剣にってこと」

「おう。俺が頼んでんだもんな。分かったぜ」

「ありがとうデンジ君。本当にありがとう。えっと時間は……いま10時か」

「じゃあ、明日からにでも……」

「何言ってるの?さっそく今日から、むしろ今から今日の朝の分をチェックするよ」

「えー!?」

「本当は朝一の寝起きの香りをもっと楽しみ……ゲフンゲフン、においをチェックしなきゃなのに、もう10時だからね。朝の分をチェックしたら、もうすぐにお昼のチェックの時間だね?」

「れ、レゼ?なんかちょっと変だぜ?」

「全然、変じゃないですよ?じゃあ、朝のチェックはじめまーす」

 

 なんで敬語、とデンジが口をはさむ間もなく、レゼはデンジの懐に潜り込む。

 間髪入れずにその胸元に顔を寄せ、まずは軽く息を吸い込む。

 

「……スゥ……ハァ……」

「……っ」

「……うん。デンジ君のにおいだ」

 

 続けて、今度は深く。体の隅々まで行き渡るように、深く息を吸い込んだ。

 

「スゥー……ハァー……」

「……レゼ、もういい?」

「……うん。やっぱり、デンジ君のにおいだね」

「これ、すげェ恥ずかしいな。結局俺ンにおいはどうだった?」

「デンジ君からは、デンジ君の匂いしかしませんでした!花丸!!」

「俺ァその『デンジ君のニオイ』が臭くねーか心配なんだけど」

「全然クサくないよぉ。とにかく、デンジ君は今のままで大丈夫です!」

「……ま、レゼが良いならそれでいっか」

 

 なぜか上機嫌になったレゼを横目に、デンジは洗濯機のスタートボタンを押した。

 

 

 

 

 

 洗濯機を回している間に、二人はリビングで向かい合って今後のことを話し合うことにした。

 

「デンジ君はさ、これから、何がしたい?」

「これから?」

「うん。これからずっと、二人で生きていくのは大前提として、もっと身近な、小さな目標とか目的とか、叶えたい夢……みたいなのを考えたいと思うんだ」

「夢かァ。美味いモンはたくさん食いてぇなあ」

「アハハ、言うと思ったよ。でも、それはいいね。美味しいものを食べるにまずは一票!とりあえず、こんな感じでざっくりと目標を決めて、あとでそれを深掘りしていこう。別に叶えられない夢でもいいよ。夢を見るのは自由だからね」

「美味いモン食いてぇ。ピザと牛丼がいい。みたいなこと?」

「そうそう。まあ、ピザと牛丼の目標はすぐに達成できそうだけど」

「分かったぜ。えーと、まずは美味いモン食いてェ、ゆっくり風呂に入りてェ、フカフカの布団で眠りてェ、あとはー」

「……あ」

 デンジが言った目標に、特段深い意味はなかった。ただ欲望のままに、快適な生活を欲しただけのことだった。しかし、レゼはすぐに気付いてしまった。それは、自分を選ぶ前に持っていたもの、自分を選んだことで失ってしまったものだと。

「レゼは?何かないの?」

「え?」

 私の目標。私の目的。私の夢。

「えっと……」

 頭が上手く働かない。考えがまとまらない。

「私、私は……」

「……レゼ、お前まァたロクでもねーこと考えてんな」

「え?」

「俺ん言い方が悪かった。俺ん目標は全部『レゼと一緒に』やりてェことだよ。レゼが一緒じゃなきゃ、叶えらんねェ」

「あ、ははは。私、顔に出てた?」

「昨日と同じような顔してた」

「……顔に出るなんて、こりゃ本格的にスパイは廃業だ」

「まあ、ゆっくり考えりゃいーじゃん。時間はいくらでもあんだし。でも、この目標を考えるってのは意外と楽しいかもな。美味いモン食うのも、風呂入んのも、レゼと一緒だって思うと考えてるだけでなんかワクワクしてくるぜ」

「……さりげなく、私と一緒にお風呂に入ろうとしてない?」

「別にいーだろ?叶えられない夢だっていいって、レゼが言ったんだし」

「アハハ、確かに。でも、その夢は割と簡単に叶えられるかもよ?」

「エッ……れ、レゼさん、それって……」

「はいはーい、ではでは、次は私の叶えたい夢の話ー」

「ふ、フロは……」

「私の叶えたい夢の話ー」

「あ、ハイ」

「……私は、普通の暮らしがしてみたいな」

「普通の暮らし?」

「うん。普通の人みたいに、普通に生活する。私が死んだ後『あいつの人生は本当に普通だったな』って言われるくらい」

「レゼが学校で言ってた『日本人として最低限の当たり前のこと』ってやつ?」

「うーん、まあ私は日本人じゃないし、どうせ夢なら最低限よりもうちょい上を目指したいかな」

「そーいやさ、レゼってどこの国の人なの?」

「え?言ってなかったっけ。正確な出自は自分でも分かんないけど、一応ソビエト出身のロシア人ってことになってるよ」

「ソビエト……ロシア……。へぇ、そーなんだ」

「ちょいちょいちょい。デンジ君、いまソビエトとロシアが分からなくてスルーしようとしたでしょ」

「ウッ……」

「……私たち、今さらだけど、まずはお互いのことをもっと知ることから始めたほうがいいかもね。じゃあデンジ君、自己紹介しようか」

「えー!?俺、人に話せるような人生送ってきてねェ」

「それを言ったら私も同じだよ〜」

「……んじゃまあ、ポチタの話からすっかな」

「ポチタ?」

「ポチタってのはさァ……」

 

 デンジが話し始めようとした時、玄関のチャイムが鳴った。来客の予定はなく、反射的に身構える2人。レゼはデンジに動かないようにと手で制し、音を立てずにインターホンのカメラ映像を確認したが、すぐにその緊張を解いた。画面に映っていたのは、昨日会ったこの建物の管理人だった。

 

「管理人さんだったよ。ちょっと出てくるね」

「なんだよ〜ビビらせやがって」

「デンジ君、ビビってたの?」

「ビビってねェよ!」

「いや、どっちよ」

 

 強がるデンジに苦笑しながら、レゼは帽子をかぶり直して玄関に向かう。

 テレビでは定期的にチェックしているが、いまだに自分は公開指名手配されていないようだった。それでもいつ、どういった形で捜査の手が及ぶとも限らないため、なるべく道中で出会う人たちの記憶には残らないほうが良い。

 

「はーい、おまたせしました」

「あぁ、鈴木さん。悪いね、突然来たりして」

 

 鈴木というのはレゼがこの建物を予約した時に名乗った偽名だ。日本国籍だがロシアとのクォーター、という設定にしてある。

 

「いえ、全然大丈夫です。こちらこそ、もう早速使わせてもらってます」

「使ってもらって助かるよ。なんせ全然予約も入らないし、建物は人が使わないとすぐにダメになっちまうから」

「あはは。それで、何かありましたか?」

「あぁ、あんたら、今日のメシのアテはあるのかい?」

「えっと、お昼はまだ考えてないですけど、晩ごはんはここのキッチンを使って何か作ろうと思ってました」

「そうか、じゃあちょうど良かった。これ、ウチの畑で取れた野菜。もし良かったらもらってくれ」

「え、いいんですか?」

「余って腐らしてももったいないし、あんたらみたいな若いモンに食ってもらったほうが野菜も喜ぶから」

「ありがとうございます。晩ごはんに使わせてもらいます」

「じゃあ、明日の昼過ぎにまた来るから。建物の中にあるモンは好きに使っていいからね」

 

 管理人が持ってきた段ボールにはジャガイモ、タマネギ、ニンジン、トマトがそれぞれ2個ずつに、小ぶりなレタスが1個入っていた。2人分にはちょうど良い量だ。

 レゼはリビングに戻り、デンジに段ボールを見せる。

 

「見て見て。お野菜貰っちゃいましたー」

「ラッキー!」

「後で一緒にスーパー行こ。約束通り、今日は私が晩ごはんを手作りしちゃいます」

「たのしみィー!」

 

 デンジが飛び跳ねて喜んでいると、ちょうど洗濯機からピロピロと完了の音が鳴った。

 自己紹介の途中だったが、二人は先に洗濯物を干すことにした。

 デンジが庭に物干し竿とハンガーを準備する間に、レゼが洗濯機から洗い物を取り出す。2人で並んで、何となく無言で洗濯物を干していると、ふと視線を感じたレゼが隣を見れば、落ち着かない様子のデンジと目が合った。

 

「なに?どうしたの?」

「あ、いや……べ、別に」

「待って。デンジ君が何考えてたか、当ててあげようか」

「……じゃあ、当ててもらおうか」

「ズバリ『なんか、レゼと同棲してるみてェだ』……どう?合ってる?合ってるでしょ?」

「うェ!?な、なんで……」

「アハハハ!分かるよぉ、顔に書いてあるもん」

 

 思わず手で顔を隠すデンジを見て、レゼはまた笑った。

 

「本当に書いてあるわけじゃないよ?」

「わァってるよ!コトバのアヤってやつだろ?」

「難しい言葉を知ってるね。偉い偉い。……じゃあ、なんで私が、デンジ君が考えてることが分かったと思う?」

「……顔に書いてあったからだろ」

「ふふ、それもそうだけど……正解はね」

 

 レゼは横から背伸びをして、内緒話をするように手を添えて、デンジの耳元で囁いた。

 

「私も同じこと、考えてたからだよ」

 

 レゼは微笑みながら手に持っていた洗濯物をデンジに渡し、リビングに戻っていく。

 

「私は今日の買い物リスト作ってくるから、後はデンジ君おねがーい」

「……ハァイ」

 

 残されたデンジはご機嫌に揺れるレゼの後ろ髪を眺めながら、俺ン好きな子は今日も世界一可愛い、と改めて思った。

 

 

 

 

 

/003

 

 

 お昼ご飯は保存食の中から賞味期限が近いものを食べることにした。手早く食事を終え、2人は改めて自己紹介を始める。

 

「じゃあ、改めて自己紹介しまァす」

「ハイ、どうぞ!」

「エー、名前はデンジ。年はたぶん16。誕生日は知らねーから、年が変わったら年齢も1個足してる。好きな食いモンはジャム塗ったパン。両親はガキん頃に死んでて、クソ親父の借金をヤクザに返すために木ィ切ったり内臓売ったりデビルハンターやったりしてましたァ」

「…………」

「俺にはポチタっていう親友がいてェ、両親が死んじまった後からずーっと一緒に暮らしてた。見た目は犬みてェだけど、あったかくて、チェンソーに変身できるすげー奴なんだ。2人でメシ食って、2人で抱き合って寝てたからそんときゃあ寂しくも寒くもなかったかな。でもヤクザに騙されて俺もポチタもゾンビの悪魔にブッ殺されて、気付いたらポチタは俺ん心臓になってて俺ァチェンソーのバケモンになれるようになってた」

「…………」

「そん後はマキマさんに拾われて公安のデビルハンターやってたよ。イヤ〜な先輩と、糞みたいな性格んバディと一緒に住んでた。そんなんだから、学校には行ったことねーし、ギムキョーイクも受けてねェ。ゴメーワクをかけるかもしれねーけど、今後ともヨロシク」

 

 Vサインをしながら、自己紹介を終えるデンジに、レゼはなんとも困ったような表情を浮かべた。

 

「デンジ君の心臓を狙ってた時に色々調べたけど、改めて聞くと壮絶な人生だね」

「え、俺んこと調べてたの?」

「そうだよ。でも今ので初めて知ったこともあった。教えてくれてありがとね」

「あいよ。んじゃあ、次はレゼの番!」

「はーい!では2番レゼ、いきます!」

「ハイ、どーぞ!」

「エー、名前も誕生日も両親の顔も分かりません。小さい時からソ連軍で諜報員、いわゆるスパイとして訓練を受けてきました。訓練と同時に人体実験もされていて、その結果、爆弾の悪魔の心臓と融合した爆弾人間やってます」

「…………」

「好きなモノは、たぶん珈琲。苦手なモノは……なんだろ、あまり考えたことないけど、爆発の威力が下がるから水に濡れることは避けてるかな。得意なことは諜報、工作、暗殺と、悪魔化してヒト、モノを問わない大量破壊活動。不得意なことは、強いて言えば悪魔化した後は少しハイになっちゃうから、手加減……火加減?かな」

「…………」

「日本には任務でやってきました。そこでターゲットのデンジ君と出会って、ちょびっと殺し合いのケンカもしたけど、色々あって無事に仲直り。ただいま2人で絶賛逃亡中。レゼは元々今回の任務用のコードネームだったけど、気に入ってるので私のことはこれからもレゼって呼んでネ」

「…………」

「ご迷惑をかけるかもしれないけど、今後ともヨロシク〜」

「……なぁ、レゼ」

「なあに?デンジ君。……まあ、言いたいことはなんとなく分かるけど」

「俺達って」

「ホントに」

「ろくでもねー人生だ!」「ろくでもない人生だ!」

 

 二人して天を仰ぐ。そこに悲壮感はなく、まさに『仕方なくねェけど、仕方ない』といった面持ちだった。

 

「でもね、大事なのはこれからだよ。ろくでもない人生をハッピーにしていくために、2人で夢を叶えていこ」

「おう!」

「題して、田舎のネズミ大作戦!」

「チュー!チュー!」

「まあやることといったら『東京をはじめとした各エリアの都市部にはなるべく近づかない』『田舎でひっそりと暮らしながら、時機をみて海外に逃げる』……辺りかな」

「海外かァ……俺、日本語も怪しいのに、外国の言葉喋れるようになっかな」

「私も教えるし、デンジ君は身体で覚えるタイプだから、行ったら行ったでなんとかコミュニケーションとれると思うよ」

「そーかな」

「そーだよ」

 

 その後は具体的な今後の予定や、お金の管理方法等を決めていく。

 気候の緩やかなこの国で、春先から秋口にかけての山籠りや野宿は可能だが、さすがに冬場は体調管理の面で推奨できない。まずは本州をゆるやかに北上しながら冬を越すために一定期間潜伏する町と拠点を見つけることが第一目標だ。

 問題は金策だった。戦闘能力は申し分ない2人であり、民間のデビルハンターとして悪魔を狩るのが一番稼ぎが良さそうだが、いつ手配書が回るかも分からない状態で表立って働くことには抵抗がある。2人で頭を捻りながら考えたが、詐欺や盗みを除外した方法で、かつ一処に留まらない働き方となると、最終的にはデビルハンターか日雇い労働しか残らなかった。日雇い労働では海外逃亡のための資金まで確保できない可能性が高いことから、レゼの提案で、しばらくは節約しながら悪魔狩りのエージェント、いわゆる民間の悪魔駆除案件の仲介屋を探すことに決まった。

 

「仲介屋って、そんな簡単に見つかんの?」

「んー、どこの国にも民間の仲介屋自体は存在するから、見つかるには見つかると思うけど、マフィア……ヤクザとか暴力団が絡んでると厄介かな。できればそういう組織と関係ない人だと良いけど」

「俺もヤクザは嫌いだね。イイ思い出がねェ」

「アハハ、まあ、好きな人の方が少ないよね」

 

 暗い話題のはずだが、二人は笑いながら、楽しいことのように話し合った。

 

 

 

 

 

 今後の方針も決まり、2人は買い出しに出かけた。コンビニとは逆方向に15分程歩いてスーパーに到着する。レゼが事前に作った買い物リストを基に商品をカゴに入れていく。途中、デンジがお菓子コーナーで動かなくなってしまったので、仕方なく1つだけ好きなお菓子を選んで良いことにした。

 

「節約するって決めたばかりじゃありませんかぁ?」

「今日はトクベツだよ!」

 

 何が特別なのかはさておき、デンジがお菓子を選んでいる間にレゼは残りの買い物を済ませていく。一通りカゴに入れ終わり、さてそろそろデンジを迎えに行くかとカートを押していると、鼻先に慣れた火薬のにおいを感じた。銃火器を所持した刺客かと思い瞬時に周囲を警戒したが、すぐに杞憂だと分かった。においの正体は、レジ横で売られている手持ち花火だった。

 

(花火……)

 

 レゼは手持ち花火を手に取り、花火大会の夜を思い出す。

 あの日の花火は、レゼとデンジの決別を意味するものだった。それが今では、こうして二人で旅をしている。

 しばらく花火を見ていると、お菓子を片手にレゼを追いかけてきたデンジが背中から声をかける。

 

「節約するって決めたばかりじゃーありませんかァ?」

「今日は、トクベツなんでしょ?お菓子買ってあげないよ」

「それはヤダ!花火も買おーぜ!」

 

 レゼは実際は特に買おうとまでは思っていなかったが、何となくあの日の記憶を上書きしたくなって、デンジの持つカゴに花火を落とした。

 

「これで全部?」

「うん。お会計して帰ろ」

 

 会計を終え、二人並んで帰路に就く。今日は雲が多く、若干風もあるため比較的過ごしやすい。

 デンジが雲を見ながら歩いていると、どことなく暗い様子で俯いていたレゼが口を開く。

 

「ねえ、デンジ君はさ。マキマのこと、どれくらい知ってる?」

「マキマさん?……あー、ぶっちゃけよくは知らねえな。公安の偉い人で、俺ン上司だった人。あと、俺に人並みの生活をくれた恩人」

「恩人、か。戦ってるところは見たことある?」

「いや、ねーな。基本現場には出てこなかったし……」

「そっか。……もしもの話だけど、マキマが直接デンジ君の前に現れて、公安に帰ろうって言ってきたら、どうする?」

「……まあ、直接会ったら、まずは何も言わずに公安辞めてゴメンナサイって言って、あとはトンズラかますしかねェな」

「謝って、許してくれるかな」

「くれねェだろうけど、しゃーないな」

「……じゃあ、デンジ君を殺そうとしてきたら、デンジ君、マキマと戦える?」

「……マキマさんは、俺に初めて優しくしてくれた人だから、嫌だけど、もしそうなったら戦うだろうな」

「……そう」

「レゼは、マキマさんのこと知ってんの?」

「直接会ったことは無いけど、世界的な有名人だからね。日本のマキマ、極東の魔女。能力は未知数だけど、各国から恐れられている存在」

「えッ!?マキマさんてそんなすげェ人だったんだ」

「うん。たぶん戦っても絶対勝てなさそうだし、もし会ったらすぐにデンジ君を抱えて空飛んで逃げるつもり」

「俺のチェンソーもプロペラみたいにブン回せば空飛べたりしねーかな。そしたら、レゼが疲れたら俺に代わって、俺が疲れたらレゼに代わって、ずーっと空飛んでどこまででも行けんのに」

「ハハッ。応用は大事だからね。今度実験してみようか」

 

 レゼは昼食後に行った自己紹介のなかで、デンジからマキマに対する好意を敏感に感じ取っていた。それが人間としてか異性としてかは測りかねており、デンジが自覚しているかも微妙な線だったが、牽制する意味で敢えてこの話題を振った。デンジからしたら、マキマや公安の同僚は元々憎むべき対象ではなく、むしろ何も言わずにいなくなったことに対する罪悪感の方が強いだろう。いつかこのことが、致命的な何かに繋がらなければ良いと思うが、現状では神のみぞ知るところである。またそういう後先考えないようなデンジだからこそ、あの時、全てを投げ打って自分を選んでくれたのだと思うと、一概にそれを指摘することが正解とも思えなかった。

 

(やっかいな相手を好きになってしまったもんだ)

 

 子供のように手を頭の上でブンブン回してプロペラの真似事をしているデンジを見ながら、レゼは胸中で呟いた。今に始まったことではないし、恐らく今後も似たようなことがあるだろう。諦観の念を抱きながら歩いていたレゼだったが、ふとあることに気付いてその足が止まった。

 

(そういえば、私、デンジ君に、ちゃんと好きって伝えたっけ?)

 

 

 

 

 

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 買い物から帰ってくると、特に何をした訳でもないのに眠気が襲ってくる。この後は夜に少し公園に行き、さっき買った花火をする以外に特段予定はない。

 時刻は14時。レゼが欠伸を噛み殺しながら縁側に座るデンジを見れば、既にうつらうつらと船を漕ぎ始めていた。建物内部を隠すように洗濯物を配置したため、全て隠しきれてはいないだろうが外から丸見えということはない。

 

「デンジ君、眠いの?」

「ねむく、ねー……」

 

 レゼは苦笑しながらタオルケットを手に取り、子供の強がりのように眠気を否定するデンジの隣に腰掛けた。

 

「今日はもうたいした予定ないし、寝ちゃってもいいよ」

「でも、おれ、守んなきゃ。レゼんこと、ちゃんと……」

「……キミはもう、充分に守ってくれてるよ」

 

 レゼはデンジの髪を撫でる。手櫛で梳かせば、思ったより気持ちが良い。デンジも同じようで、もっとやってと言わんばかりに首を揺らした。

 

「疲れたよね。今日はゆっくり、休もうね」

「……うん……」

 

 段々とデンジの体がレゼに傾いてくる。首と鎖骨で抱き留めながらしばらくそのままにしていると、そのうちデンジから規則的な寝息が聞こえてきた。レゼはデンジを起こさないように、そっとその体を横にして、手に持っていたタオルケットを掛けた。

 

「……ありがとう。私を、選んでくれて」

 

 レゼは寝ているデンジの隣に自身の体を滑り込ませた。昨日は正面から抱き合って眠ったが、今は横並びで寝ている。

 無防備なその横顔に、口づけをするように呟いた。

 

「……す、き」

 

 日本の文化を学んでいる時に、この国には『言霊』という独特の考え方があることを知った。言葉の通りに物事が進んだり、良い言葉には良い結果が、悪い言葉には悪い結果がもたらされるという神秘的な考え方だ。

 

「……すき」

 

 レゼはずっと押し殺してきた。自分の気持ち、自分の言葉を吐き出すことなく、いつだって自分の中に押し留めてきた。

 

「すき、だよ」

 

 はっきりと、デンジへの好意を口に出して言う。それだけで、今まで蓋をしてきた感情が、波となって溢れ出てくるようだ。

 

「……好きだよ、デンジ君。今度は、キミが起きているときに、ちゃんと伝えるね」

 

 一度溢れたら、もう止められない。止める必要もない。

 レゼはデンジに寄り添うように、少しだけ目を閉じた。

 

 

 

 

 

「レゼ、レゼ」

「……ぅ……え、でんじくん?」

「レゼ、起きて。ホントはずっとこうしててェけど、こんままだと風邪引いちまうぜ」

「……ぁ、もしかして私、寝ちゃってた?」

 

 段々とレゼの意識が覚醒してくる。デンジの隣で少しだけ目を閉じる予定が、どうやらそのまま寝てしまっていたらしい。レゼがデンジに掛けたタオルケットは、今は自分に掛けられている。

 

「あぁ。起きたらレゼも隣で寝てたから、ビックリしたよ」

「ご、ゴメン。デンジ君が気持ちよさそうに寝てたから、私もちょっとだけ横になって……そのまま寝ちゃったみたい」

「レゼもすげ〜気持ち良さそうに寝てたよ。レゼん寝顔、めちゃ可愛かったァ」

「え〜?ウソだ〜」

「ホントです〜。よだれまで垂らしちゃって、カワイイ〜」

「え!?ウソでしょ!?」

 

 慌てて自分の口元を拭うが、特に涎をこぼした様子はない。やっぱり嘘じゃん、とレゼがデンジを睨もうとすると、デンジの服の肩口に丸く何かを垂らしたようなシミを見つけた。

 

「美女のよだれゲットだぜ」

「うわー!ゴメンゴメン!」

 

 レゼは慌ててタオルケットでポンポンとよだれを拭くが、すぐに取れるものでもない。

 

「取れないよー。ホントにゴメンね?」

「いいよ、そのうち乾くし」

「くっ……一生の不覚だぁ」

 

 モルモットとして地獄のような訓練をしてきたレゼは、今まで人前で無防備に眠るようなことは決してなかった。それが、この有様。我ながら随分とデンジに心を許したものだと、複雑な心境である。

 

「あ……もう4時か。ちょっと早いけど、ご飯、作り始めようかな」

「じゃあ俺は洗濯物取り込んじゃうわ」

「ありがと。でもその前に、Tシャツ着替えてきて」

「俺はホントに気にしてないけど」

「私が気にするの!いいから、着替えてきて!」

 

 デンジが着替えを取りに行くのを見送り、レゼは夕食の準備に取り掛かる。

 レゼは普段からあまり料理はしない。元々軍隊組織に属していたこともあり、料理とは味わうものではなく栄養補給するものという認識が強い。

 

(そういえば……誰かに食べてもらうために料理するのは初めてだな)

 

 初めてのことに少しだけ浮かれながらも、持ち前の器用さで手際よく作業を進めていく。30分ほどで下ごしらえを終え、あとはメイン料理を軽く煮込みながら白米が炊き上がるのを待つだけとなる。

 デンジは洗濯物を片付けて、リビングでニュース番組を見ていた。相変わらず悪魔被害のニュースが多いことをアナウンサーが嘆いている。自分たちの情報がまだ公開されていないことを、デンジなりに情報収集しているのだと分かると、今日のご飯は大盛りにしてあげようとレゼは思った。

 

 

 

 

 

「デンジくーん、ご飯できたよー」

「待ってましたー!」

 

 レゼが声を掛けると、デンジはお預けをくらっていた飼い犬のように料理が並べられたテーブルへと駆け寄ってきた。

 

「うまそう!これ、カレー?」

「これは『ビーフストロガノフ』っていう料理だよ。どっちかっていうと、カレーよりハヤシライスに近いかな」

「へぇ〜。初めて聞く名前だ。食ったことねェ」

「お口に合うといいけど。さ、食べよう」

「おう!いただきまァす!」

 

 食卓にはビーフストロガノフと付け合わせのサラダが並んでいた。スーパーで買った食材と、午前中に管理人からもらった野菜を使っている。

 

「うめえ!レゼ、これマジでうめえよ!」

「ふふふ。良かった。おかわりあるからね」

「おかわりする!……レゼの方、なんか少なくない?」

「あー、私は味見しながらちょこちょこつまんでたから」

 

 実際は味見といってもスプーン2、3匙程度のことであり、空腹具合に影響を及ぼす程ではない。ただ、生まれて初めて他人のために作った手料理を、どうせなら少しでも多くデンジに食べてほしいという気持ちから、自身の分を小盛りにしただけであった。

 

「好きな料理ランキング1位。記録更新した」

「大袈裟だなぁ」

「だってホントのことだし……おかわり!」

「ハイハイ。野菜も食べてね」

 

 レゼは呆れ口調で軽く流すが、その口元はしっかり緩んでおり、嬉しさを隠せていなかった。ホテルや旅館だとさすがにキッチンまでは設備が整っていないため、今回のように料理を振る舞うことはできない。民泊施設やウィークリーマンションのようなものもたまにはアリだなと思った。

 

 

 

 

 

「ごちそーさま!」

「いっぱい食べたねぇ」

 

 デンジは結局2回おかわりし、レゼの作ったビーフストロガノフを完食した。余ったら明日の朝食にしようと思い気持ち多めに作ってあったが、デンジが食べ尽くしたため余ることはなかった。

 料理はレゼがしたからと、洗い物はデンジがやることになった。レゼはリビングに座ってぼんやりとテレビを見ている。悪魔被害のニュースが流れたかと思えば、可愛い犬猫特集が始まったりする。この国は平和で、ことあるごとに祖国との文化の違いを感じていた。

 洗い物をしていたデンジが、レゼに話しかける。

 

「レゼ―。コレ終わったら、公園行くか?」

「あ……そうだね。デンジ君、ご飯食べたばっかだけど大丈夫?」

「全然ヨユー。最強に元気になったぜ」

「なんじゃそりゃ」

 

 洗い物を終え、食後の運動がてらゆっくりと公園に向かうことにした。

 レゼは先ほどスーパーで買った花火を、デンジがライターとろうそくを庭に落ちていたバケツに入れて持っている。

 拳一つ分ほどの距離感。デンジの左手の甲と、レゼの右手の甲が、時折触れる。その度にデンジは何かが許されたような気がして、嬉しい気持ちともどかしい気持ちで心が落ち着かない。

 朝食を食べた公園に着く。昼間は曇りだったが、今は雲間が晴れて月明かりが公園全体を照らしていた。

 

「……ちょっと遊具で遊んじゃう?」

「いいね。夜の公園は大人のモンだ」

「キミはまだ子供だろ〜?」

 

 ブランコにのって、シーソーにのって。ジャングルジムではデンジの体が抜けなくなって。滑り台ではレゼのお尻がひっかかって「これ知ってる!デカケツだ!」と笑いながら言うデンジに、レゼは容赦なく肩パンをお見舞いしてやった。

 

「公園で遊ぶって、こんな感じなんだな。もうコツ掴んだ。公園のプロだ」

「そんなプロはありませんよー」

「公園のプロは……公園で花火とかしちゃうぜ」

 

 そう言いながら、デンジはろうそくを地面に突き刺して火を点け、水を汲んだバケツを用意した。

 デンジがてきぱきと準備を進める様子を、レゼは焼き付ける様に眺めていた。

 

「はい、コレ」

「あ、うん。ありがとう」

 

 デンジが手持ち花火を渡してくる。二人でしゃがんでその先端を燃やしていると、しばらくしてシャーっと音を立てながらカラフルな光が舞った。

 

「うおっ!意外と勢いあんな」

「アハハ!すごいすごい!」

 

 火薬の特有のにおい。

 レゼの頭を強制的にボムの記憶がよぎるが、目の前のデンジの顔を見ていると、それすらもどうでもよくなってくる。

 まるであの花火大会の日をやり直すかのように、二人は火花を散らして遊んだ。

 デンジが両手に持った花火を振り回す。光が線を描くのがとても綺麗で、レゼも同じように虚空に絵を書いた。

 元々そこまで本数もない安い花火。15分もすると、ほぼ全ての花火を使い終える。

 

「もうコレしか残ってねーや」

「……線香花火だ」

「線香花火?」

「さっきみたいに派手に燃えたりしないしカラフルでもないんだけど、ゆっくり、パチパチって優しく燃えて、最後に火が落ちて消えちゃう花火のことだよ」

「ふーん、なんか寂しい感じだな」

「最後まで火が残ってた人が勝ちっていう勝負をしたりするみたい。……やってみる?」

「いいぜ。じゃあ、勝負だ。負けたらどうすんの?」

「負けた方は、恥ずかしい秘密を一つ打ち明ける……ってのはどう?」

「レゼの恥ずかしい秘密知りてェ!」

 

 二人でろうそくの火を囲うようにしゃがみ込み、線香花火を手に取る。

 線香花火は初めてやるが、レゼは知識として火種を長く残す持ち方を知っており、普段から落ち着きのないデンジに負けるとは思っていなかった。

 

「よーし、じゃあ、せーので火、つけるぜ」

「いつでもいいよ」

「じゃあ、せーの!」

 

 二人で、一つのろうそくに線香花火を近づける。

 ほぼ同時に点火し、やがてパチパチと火花が散り始めた。

 二人とも無言で、花火に集中する。

 揺らすと火が落ちてしまうため、レゼは手首を固定し、どこか弱々しく弾ける火花を見ていた。

 デンジも本能的に揺らすのが良くないと感じているようで、プルプルと震えながらもギュッと線香花火を握りしめている。

 もうそろそろ1分が過ぎようとする時、レゼの花火がひときわ大きく弾けた。

 

「……キレイ」

 

 レゼはその光を前に、無意識に言葉が溢れた。

 終わる直前の最後の輝き。自身の爆発とは違い、誰も傷つけない、優しく、美しく、そして儚い光。

 もうそろそろ終わりが近い。意外と粘るデンジの様子を見ようとしてレゼが顔を上げると、驚いたような表情でデンジが自分を見ていた。

 目が合い、視線が絡みつく。

 

「……キレイ」

「え?……あっ!」

 

 同じ言葉。しかし、キレイだと感じた対象は異なっていた。

 真正面から賛美の言葉を浴びせられ、動揺したレゼの線香花火から、火球がポトリと落ちていく。

 

「あ〜、落ちちゃった」

「ヤッター!俺の勝ちィ」

「……デンジ君、ズルだ。ズルした」

「エェ!?ズル、してねーよ?」

「妨害工作した。私の顔見て、その、キレイって……」

「あ……あァ〜。それは、その、えっとォ」

「何が、そんなにキレイだったの?」

「……レゼんこと見たら、その、レゼん目ん中に線香花火のパチパチが映ってて、そんで、あー、アレだ、そのー、花火がァ」

「なに。はっきり言って」

「……レゼの目がすんげェキレイだったからァ!なんか思わずキレイって言っちゃいましたァ!」

 

 もうどうにでもなれといった様子で、デンジは空に向かって叫んだ。

 デンジは嘘が苦手で、駆け引きなどできない。だからこそ、その想いに偽りはなく、真に心からの言葉であることが伝わってくる。

 

「……まあ、素直に白状したから許してあげましょう」

 

 今、自分の頬は赤らんでいるだろうか。レゼは自分でも分からなかった。

 

「えーっと。じゃあ、罰ゲームの恥ずかしい話をするね」

「イエーイ!」

「楽しそうだねぇ……」

 

 さて、なんの話をしようかとレゼは思案する。負けると思っていなかったため、話す内容を考えていなかった。

 初任務で予期せぬタイミングでピンを抜いてしまい、ビックリ大爆発をかましてしまった話をしようか。それとも、話し相手が欲しくて独房のような部屋の壁のコケに名前をつけて育てていた話をしようか。

 浮かぶエピソードはどれも血生臭いものが多く、話すと空気が重くなってしまいそうだ。

 いっそのこと架空のエピソードでごまかそうかと一瞬思ったが、デンジ相手にそんなことをする必要はないとすぐに止めた。

 

(あ……そうだ、この話をしよう)

 

 デンジ相手に、とっておきの話があった。いつかしようと思っていたが、なかなかするタイミングがなかった、レゼの恥ずかしい秘密の話だ。

 

「デンジ君、東京で、夜に学校に忍び込んだこと覚えてる?」

「モチロン」

「……教室でデンジ君に、学校に通っていないことについて、なんかダメじゃない?って言ったことも覚えてる?」

「ダメ?」

「うん。なんかダメじゃない?って。それはおかしいよって言ったの」

「覚えてる、けど、その後のプールが楽しすぎて、言われたことは今まで忘れてた」

「アハハ。確かに、プールは最高に楽しかったね」

 

 レゼは遊び終えた花火の残骸を入れたバケツの淵をなぞりながら、デンジの目を見ずに言った。

 

「ホントはね、私も学校、いったことなかったんだ」

「え?そーなの?」

「うん。物心がつく頃にはあの部屋……スパイの養成施設みたいなところに居て、1日中何かの訓練をしてた。最初は何の訓練か分からなかったけど、少し時間が経ったら分かっちゃった。自分がしていることは、人を騙す訓練、人を陥れる訓練、人を、殺すための訓練をしてるんだって」

「ふ、ぅん」

「だからね、あの夜、教室でデンジ君に偉そうに学校にいってないのはおかしいよって言ったけど。実は私も、学校にいったことなかったのでした!以上、私の恥ずかしい秘密の話!」

 

 レゼはすっきりした表情でデンジに言う。ずっとノドに突っかかっていた魚の骨が取れたような気分だった。

 

「……じゃあ、レゼはすげェ頑張ったんだな」

「え?」

「俺はレゼと同じクンレンはしてねーから、同じかどうかはわかんねェけどさ。俺も学校いかずに木こりやったり悪魔ぶっ殺したりして、その日食うパン代を稼ぐために頑張ってたんだ。間違ってたかもしれねェけど、それでも頑張ってたんだ」

「……うん」

「俺ァ最近知ったんだけどよ、上手く結果がでなくても、頑張ったことを褒められると、そんだけでまた頑張ろうって気持ちになんだ。だからきっと、レゼも頑張ってたんだ。きっと、すげェ頑張ってた」

「……そっか。私、頑張ってたんだ。あの頃はそれすら分からなかったな」

 

 レゼはブランコを囲うように設置された手すりを触った。少し錆び付いていて、ざらざらした感触。

 

「何の訓練をしているのか理解する前は、訳も分からず、ただその日を生きるために目の前の課題をクリアして。何の訓練をしているのか理解した後は、自分がしていることが人に褒められるような事じゃないって、分かっちゃったから。……ねえ、デンジ君」

「うん?」

「私、これから叶えたい夢は『普通の暮らしをしてみたい』しか出てこなかったけど、今ならもっと具体的に言えるよ」

 

 手すりに沿って、レゼは歩く。

 

「私ね。たぶん、誰かに褒めてもらいたかった。頑張ったねって、お疲れ様って、そう言って欲しかった」

 

 ゆっくりと、一歩ずつ。

 

「あと、悲しい時とか疲れてる時に、大丈夫?って心配されたかった。そして抱き締めて、頭を撫でながら、辛かったね、もう大丈夫だよって慰めてほしかった」

 

 ブランコが、静かに風に揺られている。

 

「それとね、お家に帰ってきたらただいまって言って、おかえりって言われたかった。あなたはここに帰ってきてもいいんだよって言われたかった」

 

 溢れ出す、レゼの小さな夢。

 

「最後に……やっぱり私、学校に通ってみたいな。デンジ君と、同じ学校、同じクラスで、できれば席も隣がいいな。あのカフェでしたみたいに、一緒に勉強したい」

 

 囲いを一周し、レゼはデンジの元へ戻ってきた。

 いきなりこんな話を聞かされて、ちょっと困らせちゃったかなと、レゼは少し心配になる。

 ザッと、砂を踏む音。顔を上げると、目の前にはデンジがいる。互いの息づかいが感じられる距離。

 

「レゼ……頑張ったな。お疲れ様」

「あ……」

「レゼが悲しい時、疲れてる時。ソバにいてやれなくてゴメン。辛かったよな。でも、もう大丈夫だぜ」

 

 そう言って、デンジはレゼを抱き締めて、梳くように頭を撫でる。

 

「デンジ、くん」

 

 レゼを抱き寄せ、頭を撫でるデンジの手は、少し震えていた。

 デンジは幼い頃から人に嫌われ、疎まれて育ったため、他者との触れ合いに飢えていたが、同時に恐怖していた。だから軽口を叩き合うことはあっても、身体的な距離感は無意識に一定のものを保とうとする。臭くねェかな、汚くねェかな、俺なんかに触られてイヤじゃねェかなと。

 そんなデンジが自らの意思でレゼに触れたのは、デンジにとってはとてつもない勇気がいることであり、大きな一歩であった。

 

「……っ」

 

 抱き締められるままだったレゼは、ゆっくりとデンジの背中に腕を回す。

 

「レゼん夢、俺で良ければ、全部叶えてやるよ」

「うん」

「俺がレゼにおかえりって言うよ。学校も一緒に行こうぜ。クラスと席は……まあ、なんとかなんだろ」

「うん」

「えーっと、あとは、あとはァ」

「……アハハ。デンジ君はやっぱり、応用ができてないなぁ」

「エェ?」

「抱き締めて、頭を撫でて……その次は?」

「次?応用?」

「……その次は、コレだよ」

 

 レゼは、デンジの首に手を添えて少し下を向かせた。

 

「んっ」

 

 月明かりに照らされた二人の影が重なる。

 3回目のキス。本当はあの日、あの海でしたくて、でも出来なかったキス。今度は血の味はしない。たぶんこれが、幸せの味。

 

「っハァ……レゼ……レゼ!」

「……デンジく、あっ、ん……!」

 

 一度口を離した二人だが、互いに蕩けた目が合えばまた自然と引き寄せられる。

 4回目のキスはデンジからだった。

 先程の唇を合わせるだけのキスではない。今度は互いを貪るような、全て知りたいとばかりに舌を絡める激しいものだった。デンジは、まるで口ん中で会話してるようだと思った。

 5分か、10分か、はたまたそれ以上の時間が経ったのかも分からないまま、二人はキスを終えた。呼吸は荒く、顔も上気している。

 

「……応用、できてた?おれ、間違ってなかった?」

「間違って、なかったよ。大正解、120点」

「……なんかゴメン、俺、止まんなくて」

「なんで謝るの?元々私からしたし、それに、その……嬉しかったよ」

「ホント?……じゃあ、もう謝んねェ。俺も、嬉しかった」

「ハハッ……ね、デンジ君。私とのキス、どうだった?」

「めちゃくちゃ最高にクソ気持ち良かった」

「……フフン」

「レゼは?」

「え?わ、私?」

「教えて。レゼはどうだった?」

「……じゃあ、言うけど、何言っても引かない?受け止めてくれる?」

「おう、モチロン」

 

 深呼吸を一回。レゼは顔を上げる。デンジの紅潮した顔。目が合う。デンジの瞳に、自分が映っている。しまりのない、蕩けた顔。こんな顔をしていたのかと恥ずかしくなって、顔を見られないように抱きついた。もう一度だけ深呼吸して、少し背伸び。その耳元にささやく。

 

「……すき、好き、大好き。デンジ君が好き、デンジ君がいい、デンジ君だけでいい、デンジ君がほしい、デンジ君しかいらない、他は何もいらない。ねえデンジ君も言って、私のこと好きって言って、私の名前を呼んで、大好きって言って。私のこと絶対に離さないで。くっついてないとこがないくらいに、強く抱きしめて。おねがい、私を」

 

 (レゼ)でいさせて。

 

「……ズッ」

「デンジ君?……え!?デンジ君、泣いてる?」

「だってェ、おれ、こん旅がはじまって初めて、レゼに好きって言ってもらえたから……しかも、何回も好きって言ってもらえたからァ」

「……ごめんね。不安に、させちゃってたよね」

 

 今度はちゃんと、目を見て言う。

 

「私は、デンジ君のことが、好きです。私の恋人に、なってくれませんか?」

「なる、なる!俺もレゼんこと好き。チョー大好き。ずっと一緒にいたい。レゼの恋人になりたい。レゼに恋人になってほしい」

「……うれしい。じゃあ、私たち両想いだ。今から、デンジ君は私のカレシで、私はデンジ君のカノジョだね」

「うん、うん。俺、カノジョできたの初めて!」

 

 デンジは満面の笑みで、レゼをもう一度抱き締めた。嬉しさのあまり、強く、荒々しい抱き方だった。だからレゼも負けないように、同じくらい強い力でデンジを抱き締める。まるで一つの生き物になったかのような、そんな甘い錯覚を覚える。

 

「俺、頑張るから」

「……デンジ君は、そのままでいいの。そのままが、いいの」

「そうなん?じゃあ、頑張んねェ」

「アハハ!それはちょっと違うかも」

「えェ?じゃあ~、ちょっとだけ頑張る」

「……うん。そうやって、ずっと一緒に、生きていこうね」

「おう。ずっと一緒にいような」

 

 見つめ合うレゼの瞳は少し涙ぐみ、期待に揺れている。

 この約束だけは絶対に守り通したいと、レゼに、自分に誓うように、デンジはありったけの想いを込めて、触れるだけのキスをした。

 

「か、帰ろうか」

「うん。……手、繋いでもいい?」

「レゼだったら、いつでも大歓迎」

「ふふ。ありがと」

 

 来た道を並んで歩く。二人だが、影は一つ。

 まるで祝福するかのように、月明かりが恋人たちを照らしていた。

 

 

 

 

 

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 帰り道は無言だった。嬉しさと恥ずかしさが混ざり合い、会話はなかった。

 それでも、強く握ったり、お返しに指先でくすぐったりと、繋いだ手からは互いを想う気持ちが溢れるようだった。

 余韻を楽しむ様にゆっくりと歩いていたが、やがて宿に戻ってきた。

 

「レゼ、いっかい手、離していい?」

「え、イヤだけど」

「俺もイヤだけどォ!どーしてもやりてェことがあんだ」

「んー。じゃあちょっとだけね」

 

 デンジが手を離し、扉を開けて、先に玄関に入る。

 くるりと振り返り、照れくさそうにレゼに言う。

 

「おかえり、レゼ」

「…………」

 

 レゼは言葉を失い、呆然と立ち尽くしていた。

 先ほど公園で伝えたレゼの夢。おかえりと、ただいま。

 

「……ただいま。デンジ君、ただいまっ!」

 

 玄関先で待つデンジに、レゼは勢いよく抱き着いた。

 してやったり、と得意げな笑みを浮かべるデンジに対し、してやられた、とレゼも負けじと笑顔で返す。

 

「最高のカレシがいて、私は幸せ者ですよ」

「最高のカノジョんためなら、なんだってできるぜ」

 

 ニヤリと笑いあう二人。浮かれているのは自覚しているが、止めようとは思わない。

 その後、二人は順番にシャワーを浴びた。本当は湯を張りゆっくり風呂に入る予定だったが、デンジもレゼも、そんなことより早く相手に触れ合いたい気持ちが強く、軽く汚れを流すだけにした。

 あとは寝るだけの状態になると、二人はピッタリと体をくっつけたまま、テーブルにお菓子を広げて、テレビで動物バラエティ番組を見ていた。動物の可愛い瞬間、マヌケな瞬間をランキング形式で流しており、声を出して笑い合った。

 デンジは不思議に思っていた。同じシャンプーとボディソープを使っているはずなのに、なぜかレゼからは自分とは違う、甘い匂いがした。またレゼの肌は瑞々しさと柔らかさが入り混じり、触れる全てが柔らかくて気持ちが良い。

 一方レゼも、デンジの腕や首筋、喉仏にドキドキが止まらない。覇気のない目も、ぼやっと開かれた口元も、全てが愛おしく感じる。関係性が変わるとこうも感じ方が違うのかと、顔には出さないまでも、内心では驚いていた。

 やがて動物バラエティ番組が終わり、ニュースが流れ始める。昼間見た内容と大して変わりない情報を流し見しながら、自然と無言になる。レゼが器用にニュース番組とデンジの横顔を見ていると、くぁ、とデンジから欠伸が漏れた。

 

「眠くなっちゃった?そろそろ寝ますか〜?」

「あぁ……眠いけど、寝たくねェ」

「どうして?」

「今が最高に楽しくて嬉しいから、もっと味わいてェ。それに、寝て、起きたら、こんなに幸せなのが実は夢だったって、醒めんのが怖ェ」

「……夢じゃないよ。それにもし夢だったとしても、また私がデンジ君に好きって伝えて、現実にするよ」

「うん、そんときゃ俺も……レゼにチョー好きって伝える」

「……今も、伝えてほしいな」

「レゼ……すき」

「私も、だいすき」

 

 抱き合い、軽くキスをする。

 デンジは一瞬、今夜、次のステップまでいってしまうのかと期待したが、自分に釣られたのか、いつの間にか眠気でトロンとし始めたレゼの顔を見て、一気に性欲は治まった。ここ2週間のレゼの心境や、昨日の悪魔との戦闘を思えば、疲れていて当然だ。

 

「うし、今日はもう寝よう」

「うん……おふとん入るまで、手、つないでいい?」

「……ん」

 

 寝室までの僅か数歩の距離を、手を繋いで2人で歩く。寝室の押入から布団一式を出す際に手を離すと、レゼは、あっ、と小さな悲鳴をあげる。そんな一つ一つの仕草が可愛くて、デンジはたまらない気持ちになった。

 

「おふとんは、一つでいいよ」

「え?でも……」

「一つでいいよ。一緒に寝ようよ」

「オウ……じゃあ、そうする」

 

 電気を消して、一組だけ敷いた布団に、二人で一緒に入った。デンジとレゼは互いに向き合う形で、横向きになって寝転んでいる。

 月明かりがカーテン越しにうっすらと室内を照らす。少しすると暗闇に目が慣れ、顔の輪郭が分かるようになった。

 

「なあ、ちょっと変なこと聞くけどさ。レゼって……今も、演技、してたりする?」

「え?」

「あー、ほら。今日コンビニで、野郎二人が近づいてきた時、レゼの雰囲気が変わってたから」

 

 朝のコンビニ。デンジはトイレから戻る時、ナンパ目的の男二人を、近づけすらさせなかったレゼを見ていた。

 

「ん~、今は、演技をしてるってことはないかな。ただ、その時その時で使い分けてるだけだと思う」

「使い分けてる?」

「何て説明しようかな……。例えばだけど、デンジ君、今朝寄ったコンビニで、トイレに行くって言いながら雑誌コーナーでエッチな本をチラチラ見てたでしょ?」

「え!?バレてた!?」

「うん、バッチリ。……え?むしろ隠そうとしてたの?隠す気がなさすぎて清々しいくらいだったけど」

「……ゴメン」

「まあそれはいいとして。エッチな本をチラチラ見てたけど、手には取らなかったよね。それは、どうして?」

「……なんか、レゼが嫌かなって思って」

「うん、それと一緒かな」

「え?」

「もし私がいなければ、デンジ君はエッチな本をもっとまじまじと見ていたかもしれないし、手に取ってそのまま買っていたかもしれない。でも、私が嫌かもって思ってそうしなかった。『エッチな本が見たい』っていうデンジ君の本心とは違う行動をしてるよね。これは、演技をしてるって思う?」

「う~ん……演技をしてる、とは思わねーな」

「私もそんな感じだよ。ナンパなんてされるのは嫌だったから、確かにあの時は『誰にも声をかけられない自分』を演じたけど、デンジ君といる時は、別に自分を作り変えている訳ではないし、感情に蓋をしている訳でもなくて、一緒にいるデンジ君のことを考えて、自然とこういう感じになってる。……それに、どんな私でも、デンジ君は受け入れてくれるって信じてるから。……答えになってるかな?」

 

 デンジは段々と頭と体が熱くなってきた。レゼが『エッチな本』と連呼している事の方に集中してしまい、話が頭に入ってこない。

 

「えーっと、つまり……俺、エロ本見ても良かったってこと?」

「っく、アハハハハッ!なんで話がソッチにいっちゃうの!?デンジ君、私が『エッチな本』って言いまくったから、それしか聞いてなかったんでしょ!」

「ぅ……だ、だってェ」

「はーあ……全くキミってば……ねえ、デンジ君はさ」

 

 レゼは下から覗き込むように、デンジに尋ねる。

 

「エッチな本が読みたいの?それとも……エッチなことを、してみたいの?」

 

 死ぬほど可愛い上目遣い。この悪戯な顔で見つめられると、デンジはレゼのことしか考えられなくなる。

 

「俺は……俺は……エッチな本も見たいし、エッチなこともしてみたいでェす!!」

「ちょ、アッハハハハ!!ひ~、大声で、欲望に、正直すぎ……わ、笑いすぎてい、息、できないっ……!!」

「笑いたきゃ笑えばいいっ!そうだよ!俺は、キスとか、胸揉んだりとか……そういう……エッチなことがしてェんだ!」

 

 開き直って自らの欲望を声高に宣言するデンジに、レゼは笑いすぎて過呼吸気味にすらなっていた。

 

「や、ヤバ……お腹痛いっ……ほっぺたっ、つりそうっ……」

 

 レゼの人生において『笑いすぎる』ことなんて初めてだった。横隔膜が痛んで、上手く呼吸できない。

 そういえば、拷問の一種にくすぐり続けるなんてのがあったなと、痛むお腹をさすりながらレゼは思った。

 そしてデンジ再び下から覗き込むように、デンジに言う。

 

「……じゃあさ、デンジ君。拠点を見つけよう。拠点、隠れ家……いや、家だね。家がいい。私、家が欲しいな。私たちの家、居場所、帰る場所。ずっとそこに居続けることはできないかもしれないけど、居られるだけそこに居よう。そして、私たちのお家ができたら……」

 

 レゼは軽く、一呼吸。

 

「そこで、デンジ君と私は、エッチなことをしましょう」

 

 花が咲くように。雲間から月明かりがさすように。はにかむ様にレゼは笑って、デンジに言った。

 

「えっ、えェ!?い、いいの?俺、俺で、レゼ、いいの?」

「何を今さら。だって私たち、今日から恋人になったんだよ?デンジ君は、私とエッチなこと、したくないの?」

「したァい!!めっちゃしたいです!!」

「じゃあ、まずはお家を探そう。そしたら、デンジ君のしたいこと、全部しようよ」

「ぜ、全部?全部って、なにしてもいいってこと?」

 

 気恥ずかしさからレゼが布団で顔を半分隠す。

 

 「全部は全部。何でもいいよ。……っていうか、してみたいこと、そんなにたくさんあるの?」

 

 何を想像したのか、羞恥に揺れるレゼをよそに、デンジは勢いよく布団から起き上がった。

 

「レゼ起きろっ!作戦会議しよう!家、どんなンがいいか、今から考えようぜ!!」

「え~、今から考えるの?もう今日は寝ようよ~」

「そんなこと言われて、寝れねーって!」

 

 既に目が血走っているデンジを見て、しょうがないなあとレゼも布団から起き上がる。

 チェックアウトは明日の昼頃。多少の寝坊は問題なし。ならば。

 

「じゃあ、今日は夜更かし、しちゃいますか~」

 

 好きな人との、初めての夜更かし。

 想像すると胸がわくわくして、これは確かに寝られないかもしれない。

 

「よぉし!待ってろよレゼ!家、すぐに見つけてやっからよォ!」

「アハハ!あんまり待たせると、気が変わっちゃうかもしれないよ?」

 

 これはウソだ。本当はもう、私が待てない。

 彼が好きで、大好きで。早く一つになって、彼を繋ぎとめたい。

 戦いの最後、彼のチェーンで巻かれた時のように。絶対に、離れないように。

 

(……ねえ、デンジ君。私の夢もね、デンジ君が一緒じゃないと叶えられものばっかりなんだ。だから、ずっと、ずーっと、一緒にいようね)

 

 この世界のどこにも居場所がなくても、彼の腕の中だけはレゼの指定席。

 先にリビングに向かったデンジがレゼを呼ぶ。彼の待つ、明るい光の指す方へ、レゼは歩き出した。

 

 




次話は、デンジとレゼが念願のお家を見つける話です。
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