あらすじ:ミネルバはクリスマス・イヴにパオラ一家を自身のマンションに招待する。
現パロのミネルバ×パオラ。背景にミシェイル×クリス。過去作「友達からの…」と同じ世界線。ペガサス三姉妹の母親は作者の創作です。

注:本作はAI(Gemini)を使用しています。ネタ・プロットは自分、自身の文章を学習させた上でAIの考えた文の使用率は全体の22%です。

※pixivとAO3にも投稿済み。

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過去作「友達からの…」第1~9話と同じ年の冬のお話です(第2・5話にコーヒーショップ“ペガサス”のシーンが、最終話にはミネパオの後日談あり) 。未読の方のために簡単な設定説明です。↓

ミネルバ … 大企業マケドニアHDのCEOオズモンドの娘で大学三年生。
パオラ … 下町でコーヒーショップを経営する。21歳。
カチュア … 高校三年生。
エスト … 中学生。

ミネルバとパオラが高校生(それぞれ別の高校)のときに偶然再会して以来、秘密の恋人同士に。



第1話

 

 

もうすぐクリスマス。今年もフォルティニ一家は家族4人で、長女パオラが経営するコーヒーショップ“ペガサス”2Fの居住スペースで家族団欒のひと時を過ごすはずだった。…のだが――

 

「ミネルバお嬢様がイヴにあたしたち一家を招待したい、って?」

ゾーイは彼女の娘であるパオラに訊き返した。彼女は若い頃にミネルバのベビーシッターをしていた。パオラとミネルバが数年前に再会し、それから友達付き合いをしていることは知っていたものの、彼女自身はベビーシッターを終えた後にしていた家政婦も10年前、コーヒーショップ経営のために辞めてからはミネルバとは全く接点がなかった。

母と姉の会話に興味を引かれてカチュアとエストも二人の傍へとやって来る。パオラは母と妹たちを見回して改めて口を開いた。

「ええ。何でも新築分譲マンションをウチの店の近くに購入したとかで、一家でぜひに、ということなのだけれど。」

「マンション!?あたし行ってみたい!」

エストが目を輝かせる。そんな彼女の反応とは裏腹にゾーイは訝し気な顔をした。

「何だってあたしたち家族まで…?友達のあんただけならまだしも…。マンションとお嬢様に釣り合うような服なんてないよ?手土産だって何を持っていけばいいのやら…」

ゾーイの顔が渋くなるがパオラは辛抱強く続けた。

「私も同じことを思ってそう言ったけれど、気楽に、普段着のままで構わないし、手ぶらでいいと。」

カチュアがハラハラしながら二人のやり取りを見守る。エストのようにストレートに思ったことを口には出さないが本音を言えばお呼ばれしたかった。店舗兼住居のこの建物は幼少の頃から暮らしてきて愛着はあるが、はっきり言って古く(もともと中古物件だった)手狭でLDKと二部屋しかなく、一部屋は両親が、もう一部屋は姉妹三人で使っていた。父が数年前に病死してからは母とパオラ、カチュアとエストで相部屋にしている。

「……まあ。お嬢様のお誘いを無碍にすることなんてできやしない。“年季の入った”一張羅と手作りの手土産で乗り切るしかないね。」

ゾーイは長い沈黙の末、ついに結論を出して溜息を吐いたが、カチュアとエストは抱き合って喜んでいた。

 

 

Minerva:今夜会えるのを楽しみにしています。

 

クリスマス・イヴ当日の朝に届いたミネルバからのLINE通知を見てパオラが微笑む。ほとんど毎日のようにLINEのやり取りはしていたものの、ミネルバは夏が終わる頃から何やら忙しそうで、あまり“ペガサス”にも来ず、デートもできていなかった。そのため今夜会えるというだけで四車線の道路をこちら側の歩道から向かい側の歩道までぴょ~んとスキップしてしまいそうなほど、パオラは朝からウキウキとしていた。

だがもちろん、お呼ばれの準備は大変である。フォルティニ家は朝から大忙しでカチュアとエストは今日の分の勉強を、ゾーイとパオラは家事を午前中のうちに終えて、午後から皆で手土産のための料理とお菓子作りに取り掛かった。約束の時間は夕方だが、料理が冷めるまでの時間を考えると、早めに作り終える必要があった。

 

「今日がお店の定休日でよかった。あたしも有給が取れたし…」

ゾーイが料理の下拵えをしながら呟く。姉妹もそれぞれの料理に取り掛かっていた。今年のイブは水曜日。幸いにも“ペガサス”は水日休みだった。学校も冬休み。こんな風に家族皆で何かをするのは久しぶりで、まるで親子料理教室にでも参加しているかのように錯覚する。

「……ああ。それにしても。あんたは何だって店を継ぐなんて言い出したんだい?」

オーブンに入れたキャセロールが焼けるのを待ちながら、ゾーイが溜息交じりにパオラを見て言った。

「あんたは親の欲目を差し引いても十分、美しいよ。成績だって悪くなかった。高卒でもいい会社に就職していればきっと、職場の人に見染められて幸せな結婚をして、今日のイヴも新しい家族と過ごしていたかもしれない、ってのに。」

そう。店を継ぐのはパオラ自身が望んだことだった。高校在学中からミネルバと秘密の恋人同士だったパオラには、母が望むような道を選択したくなかった。パオラにとってミネルバがここ“ペガサス”に会いに来る時間と時折のデートが自身の生活の中で一等輝いている至福の時間で、何にも代えがたいものだったから。

パオラが店を継ぐとゾーイは外に働きに出るようになり、今は派遣で様々な仕事をしていた。

「……あの人が生きていてくれたらねぇ。」

ゾーイが呟き、肩を落とす。彼女の言う『あの人』とは数年前に他界した三姉妹の父のことで、彼が生きていれば娘たちを大学に遣ることができて、今よりもよい将来の選択肢を用意してあげられたかもしれなかった。唯一、父の死亡保険金で店舗兼住居のローンが完済できたことがフォルティニ家にとって救いだった。

「ちょっと母さん!イヴに湿っぽい話はよしてよ!」

「そうよ、母さん。姉さんは店を上手く切り盛りしているわ。」

エストがぷんぷんと怒り出し、カチュアもパオラを庇う。ゾーイは俯いたまま黙々と手を動かし続けるパオラを一瞥して椅子から立ち上がり、別の料理に取り掛かった。

 

 

ついに手土産の料理と菓子をすべて作り終えて。

「じゃーん!どお、これ?超掘り出し物だよ!」

「私のはどう?」

二人でディスカウントショップを巡って見つけたピンクのAラインワンピースを着たエストがスカートの裾を少しばかり持ち上げて見せ、同じくネイビーのマーメイドワンピースを着たカチュアが意見を求めたので。

「「二人ともとても可愛い。」」

ゾーイとパオラはそう言って微笑んだ。パオラはと言えば手持ちの衣服の中では最も見栄えのする青緑のパステルカラーのセーターに白のカジュアルパンツ、母に至っては入学式や卒業式でも使ったベージュのコサージュを胸元につけた、就活用のグレーのスーツだった。

「さあ。そろそろ行こうとするかね。」

ゾーイが娘たちに言い、三姉妹は頷いた。

 

 

料理や菓子の入った袋を4人で分担して持ち、事前にパオラにラインで送られてきていた地図を見ながら、歩いて5分程度のところにあるミネルバのマンションへと出発する。外は寒かったが、家族4人で出掛けるのは楽しく、温かい気持ちになる。皆、コートまで新調する予算がなかったため、何年も着ている愛用のものを着ていた。

ほどなくして、4人は目的地の新築分譲マンションに着いた。マンションはこの下町地区でも比較的大通りに近い利便性の高い場所にあった。

「うわ、すっご……」

エストがピカピカの新築マンションに息を呑む。建築中も近くを通るたびに目にしていたものの、いざ目の前にするとその威容に圧倒される。

「本当に入っても大丈夫なの?」

「大丈夫よ。コンシェルジュに言付けてあるとのことだから。さあ、行きましょう。」

カチュアが不安そうに言うのにパオラが答え、先頭に立って中へと入った。

 

 

ミネルバの部屋は最上階の角部屋で、インターホンを押すとすぐにドアが開き、彼女が顔を覗かせた。身体にフィットしたダークレッドのニットワンピースを着て小さな金色(いや、“金色”ではなく本物の金かもしれない)のペンダントトップがついたネックレスに同色のピアスを合わせている。パオラは久しぶりに会うミネルバの姿に見惚れた。洗練された大人の魅力は大輪の花のように華やかで、太陽のように眩しい。

――本当に、何て、ゴージャス……こんなに素敵な人が私の恋人だなんて。

パオラが誇らしい気持ちでいっぱいになる。

「ようこそ。さあ、入って。」

「「「「お邪魔します。」」」」

4人は家の中に入り、室内を見廻して思わず感嘆の声を漏らした。広いLDKのリビングには3つのドアがあり、それぞれの部屋に通じているらしかった。ベランダも十分広い。はっきり言って、4人で住んでいるフォルティニ家よりもミネルバ一人で住むこのマンションの方が断然広かった。

「お嬢様、お久しぶりです。本日はお招きいただきまして、ありがとうございます。これは家族皆で作った手土産です。」

真っ先に我に返ったゾーイが深々と頭を下げ、手土産を差し出すと。

「わざわざありがとう。ゾーイ、堅苦しい挨拶はなしにしましょう。コートを脱いで寛いで。」

ミネルバは手土産を受け取って優しく言い、三姉妹も既に色とりどりの料理が並べられたスライド伸縮ダイニングテーブルに次々と手土産を置き、コートを脱ぐ。脱いだコートをリビングの片隅にあるポールハンガーに掛けると、皆がミネルバを手伝って飲み物を運んだ。その最中、ミネルバとパオラの目がふと合った瞬間。二人にしかわからないように視線だけで微笑み合う。そして。

「未成年の二人にはアップルタイザーを。大人はワインね。」

飲み物が揃ったところでミネルバが席に促すと、8人掛けのテーブルの片側にミネルバとパオラ、反対側にゾーイ、カチュア、エストが座った。

「では、乾杯しましょう。――メリークリスマス!」

ミネルバの声とともに全員がグラスを軽くぶつけ、それぞれの飲み物に口をつけて、素敵なクリスマスディナーが始まった。

暫くは皆で他愛のない話をしながら食事をしていたが。ふとパオラの心に一抹の不安が過った。

――なぜ急にマンションを?

大学生であるミネルバ(実際は父親)が“今”住居を購入する理由が見当たらない。彼女の通う大学は自宅から十分通える距離にあり、自家用車で通っている。しかもこのマンションは単身者向けではなくファミリータイプである。

パオラはいつかのミネルバの言葉を思い起こす……

 

『大学を卒業して父の会社に入ったら……遮二無二仕事をして誰にも…父にも、何も言えないくらいの功績を挙げて……その時は何が何でもあなたとのことを認めてもらうわ。だからお願いパオラ。秘密の関係は辛いでしょうけど…私を信じて待っていて。』

 

哀し気に、苦しそうに、そう話したミネルバの双眸は真剣で、決して耳障りの良い言葉を並べただけとは思えなかった。

――なのに。父の会社に入るどころか、卒業さえしていない今。

そこまで考えてパオラの脳裏に一つの可能性が閃く。

――ゆくゆくは共に家庭を築く、ミネルバに相応しいスペックの男性のために用意した?それとも既にそんな相手が?

「美味しい!こんな美味しいローストビーフ、初めて食べた!」

悶々と思考に耽っていたパオラはエストの無邪気な声にはっと我に返った。

「本当ね、エスト。ミネルバさん、これはどこで……?」

カチュアに問われ、ミネルバは柔らかな笑みを浮かべた。

「ホテルオレルアンのクリスマスオードブルよ。」

「オレルアンの!」

「道理でおいしいわけだわ!」

和やかな空気の中、エストとカチュアは目を輝かせながらミネルバの用意した料理を次々と口に運ぶ。

「皆の手料理も負けないくらい美味しいわよ。ゾーイの味付けも懐かしいわ。」

「ミネルバお嬢様は本当に良い子でしたよ。少しわがままなところもありましたが、それもご愛嬌で。」

ミネルバがフォルティニ家の手料理を褒めると、ゾーイが感慨深く昔の思い出話を始める。

「ゾーイ、もう『お嬢様』はやめて。それと、私のわがままはあなた達のおかげで少しはマシになったのよ。」

ミネルバが言い、ふとその時、パオラが静かなことに気づいた。隣のパオラに目を遣るとすぐに視線に気づき、ミネルバを見返す。だが何故か、いつも目が合った時に自然に浮かぶ微笑みはなく、それどころかどことなくよそよそしさを感じて、ミネルバは不審に思った。

「部屋が寒い?もう少し暖房を強くしましょうか?」

ホスト役としてミネルバがゲストを気遣うが。

「いえ、寒くはありません。大丈夫です。」

パオラが答え、ワインを一口飲んだ。そのとき彼女のグラスを持つ手が僅かに震えたのを、ミネルバは見た。

――寒くないのだとしたら、もしかして。私との恋愛関係を家族の前で秘密にしなければいけないことがパオラのプレッシャーになっている?

ミネルバがそう解釈し、心の中で改めてある決意を固めた。

そして。皆でそれから暫く食事を楽しんだ後、ミネルバはそっとグラスを置いて、居住まいを正した。ミネルバは一呼吸置き、向かい側に座る三人に向き直る。

「ゾーイ、カチュア、エスト。話したいことがあるの。」

ミネルバの急な改まった態度に、ゾーイは怪訝な顔で、カチュアとエストは不思議そうに彼女を見つめた。

「実は、私とパオラは――恋人同士です。」

静寂が訪れる。テーブルに置かれたグラスの中で、氷がカランと音を立てて溶けた。エストが口に運んでいたフォークを落としそうになり、カチュアは固まっている。ゾーイは、言葉を探すかのようにミネルバとパオラを交互に見つめた。当のパオラ自身も呆気に取られた様子でミネルバを見つめている。

「……ええと。恋人、とは、どういう…」

ゾーイが戸惑いながら尋ねると、ミネルバは真っすぐ彼女の目を見て答えた。

「言葉通りの意味よ、ゾーイ。私たちは互いに愛し合っている。」

「ミネルバ……」

パオラが何か言おうとするが、それ以上言葉が続かない。ミネルバが続ける。

「数年前、私たちが高校生のときに再会して以来、ずっと……」

ゾーイは目を見開いたまま、長い沈黙に沈んだ。カチュアは手を握りしめ、エストは目を見開いて二人を見つめている。

「……そしてこのマンションは、パオラと二人で住むために購入したの。イヴの今日という日、ここにあなた方を招いたのは彼女との交際を認めてもらい、彼女と暮らす住まいを見てもらいたかったから。」

エストとカチュアは再び目を丸くした。

「えっ!パオラ姉さん、ミネルバさんと同棲するの!?」

「わた、私は……」

突然のミネルバのカミングアウトと同棲の提案にパオラの頭が真っ白になるが、ミネルバは構わず続けた。

「パオラが支障なく店を経営していけるようにこのマンションを選びました。私が大学を卒業したら正式に結婚するつもりです。どうか私たちのことを認めて下さい。」

ミネルバが頭を下げると水を打ったように場がシン…となったが、パチ、パチ、と控えめな拍手が起こり、頭を上げると、ゾーイもカチュアもエストも涙ぐみながら二人を見ていた。

――かつて自分が面倒を見ていた、あの誇り高きミネルバお嬢様が、まさか自分の娘を...剰え、娘のために頭まで下げるなんて…彼女の愛は本物だ。

ゾーイが感涙に咽びながら、思う。

「パオラ。あんたが、そんなに愛されているなら…母さんは、何も言えないよ。」

「やったわね、姉さん!ミネルバさん、うちの姉をよろしくお願いします!」

「パオラ姉さん、ミネルバさん!おめでとう!」

矢継ぎ早な祝福の言葉に場の空気が一気に明るくなる。そして…

「ミネルバ……本気、なの?」

まだ夢でも見ているかのような顔で、それでもミネルバのサプライズに泣きそうになりながら、パオラが尋ねる。ミネルバはパオラの手にそっと触れた。

「肝心なあなたの返事がまだだったわね。答えがNOでも私はいつまでも待つつもりだけど…」

「も…もちろん、YESよ!」

ついに留めておけなくなった涙がパオラの頬に伝った。

 

 

生涯忘れることはないであろう、特別で幸せなクリスマスディナーを終えたとき、時刻はそろそろ午後9時になろうとしていた。大勢が長居するのは気が引けたため、ゾーイは控えめに片付けの手伝いを申し出て、彼女のオファーを機に皆が立ち上がった。皆で協力して後片付けに取り掛かり、キッチンとダイニングルームの片付けを終えると。

「さて、それでは私共はそろそろおいとまします。」

ミネルバに向き直ってゾーイが挨拶し、丁寧にお辞儀した。

「お招きいただき、ありがとうございました、ミネルバお嬢様。素敵なイヴの夜でした。」

「こちらこそ。来てくれてありがとう。手作りの料理もとても美味しかったわ。」

「……娘のこと、本当に、ありがとう存じます。」

微笑むミネルバにゾーイはもう一度深く頭を下げた。三姉妹も母に倣ってお辞儀し、ゾーイ含めフォルティニ家の面々皆がコートを羽織り始めたのだが……

「あれ?パオラ姉さんまで何でコート着てるの?」

パオラがコートを羽織るのを見て、エストが不思議そうに言った。

「何で、って…。着なきゃ外は寒いでしょうが。」

「泊まらないの?」

「……え?」

「今日はイヴだよ?ミネルバさんと二人きりで過ごさないの?」

「ちょっと、エスト!」

パオラは顔を赤くしてエストの腕を小突く。

「もう!何言ってるの、急に泊まるなんて失礼でしょ!」

「別に失礼じゃないよ。寧ろ当然だと思うけど。」

エストが笑顔で畳み掛けるとカチュアは笑いを堪え、ゾーイは口元を手で覆って苦笑を隠した。

「パオラ。私は構わないけれど、どうする?」

ミネルバがパオラを見つめて、静かに尋ねる。その瞳には、エストの揶揄いを借りた、真剣な期待の光が宿っていた。パオラは一瞬ミネルバの視線から逃れるように俯いたが、すぐに顔を上げた。

「……では、お言葉に甘えて……」

蚊の鳴くような声でそう答える。

「ワォ!お姉ちゃん、ミネルバさんと素敵なイヴを!帰ったらお話、聞かせて!」

エストが歓声を上げて姉に抱きつき、パオラは恥ずかしさで更に顔を赤くした。

「パオラ。あたしは明日も有給取ったから、お店のことは気にせずゆっくりしておいで。」

ゾーイは娘に優しく微笑んで言い、ミネルバに向き直り軽く頭を下げた。

「それでは、おやすみなさいませ。」

「おやすみなさい。」

「おやすみなさーい!」

こうして、名残惜しいが和やかな雰囲気の中、就寝の挨拶をしてフォルティニ家の三人はミネルバ宅を後にした。

玄関のドアが閉まり、静寂が訪れる。広々とした最上階の角部屋には今、ミネルバとパオラだけが残された。パオラはまだ夢でも見ているような気分だったが、ふいに現実を思い出し不安になる。

「……その。ミネルバ。オズモンドさんは、このこと……?」

――このマンションを実際に購入したのは彼女の父だろうが、彼は自分の娘が誰と住もうとしているのか知っているのだろうか?

「もちろん父はあなたのことを認めてくれたわ。その上でマンションを買ってくれたの。」

「……」

到底信じられなかった。下町のコーヒーショップのオーナーでしかない自分をマケドニアHDのCEOが娘の交際相手として認めてくれたなんて。パオラの懐疑を感じ取ったのか、ミネルバが口を開いた。

「……クリスを覚えている?」

「ええ。」

「兄の交際相手であるクリスも、父に認められるためにこの夏、私たち家族のバカンスで正に“家族として”過ごした。その彼の勇気を見て、私も決意できたのよ。」

「えっ!?」

パオラは驚きのあまり言葉を失った。

――何という勇気!自分だったら幾らミネルバがいてくれるとは言っても、そんな社会的身分の違う人たちの中に単身跳び込むことなんてできなかったわ。

「父はバカンスをともに過ごす中で、勇敢で誠実なクリスは兄のパートナーに相応しいと判断して交際を認めた。だから私も思い切って父にあなたのことを話したのよ。」

ミネルバは眩しそうにパオラを見つめた。

「世界で一番素敵な女性だ、って。」

――ああ!ミネルバ、あなたは……!

ミネルバの言葉はパオラの魂を揺るがし、彼女の深い赤褐色の瞳に見つめられて、胸の奥から熱いものが湧き上がるのを感じる。

「それで、あなたに渡したいものがあるの。」

ミネルバはそう言ってリビングの壁際にあるチェストに歩いて行き、ちょうど写真立ての陰になって見えなかった処から何かを手に取り、戻ってきた。

「それは……?」

ミネルバの手には、小さな紺色のベルベットの箱が握られていた。パオラが不思議そうに見つめる中で、ミネルバはパオラの手を取り、彼女の掌の上にその箱をそっと乗せた。

「開けてみて。」

パオラは箱の蓋を持ち上げた。中には真新しいカードキーが収められていた。

「この家のカードキーよ。」

「ミ、ミネルバ………あ…」

パオラは驚きと感動で目を見開いた。ミネルバはパオラの手を両手で包み込み、彼女の手に箱ごと握らせると、そのままパオラを抱き寄せた。ミネルバの温もりと荘厳な香りにくらくらする。

「いつでも、ここに越して来て。あなたが来てくれれば、私もあなたのいる場所に帰れる。」

パオラは一度に色んなことが起こりすぎて少しの間、放心していたが。

「……ええ。近いうちに。…もしかしたら、明日かも。」

我に返るとミネルバの肩に軽く凭れ、呟いた。彼女の上質なニットの質感が頬に快い。そして。この上ない幸福感に包まれながら。ふと可笑しさが込み上げてきて。パオラは肩を震わせながらくすくすと笑い、涙を零した。

「メリークリスマス、私の愛しい人。」

そんなパオラの耳元でミネルバが優しく囁いた。

 

 

-fin.-

 

 


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