中谷秀和の飯テロ生活   作:藍色 紺

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12 とろとろ(漬け丼)

 自然と目が覚めた。

 アラームも鳴っていなければ、暑すぎるわけでもない。

 身体を起こすと、スッキリしていて、前日のきしむような場所はなかった。

 

 時計を見れば、十一時二十三分。

 

 夕べ、あの状態で飯を喰らい、そのまま寝たらしい。

 だいぶマズかった疲労は、軽減されている。

 

 やっぱ、好きなもんを食うってすげぇ。

 

 社会人たるもの、自己管理はマスト。であるならば、俺の場合、休みの日にすることは一つ。

 ちょっと早いが、今日の買い出しに行こう。

 

 

 

 

 興奮さめやらず、帰宅。

 ハイカットシューズの紐を解くのももどかしい。

 

 マグロの柵が半額だったー!!

 

 休みの日よ?

 しかも、昼間よ?

 好奇心で見切り品コーナーを覗いたのがよかった!

 残り二つの内、一つをゲットできたのは僥倖である。

 

 なかなかいい刺身だが、半額の見切り品……。このまま食べるより……。

 漬け丼にしよう!

 

 閃いたら、居ても立っても居られない。

 雪平鍋に醤油、みりん、日本酒を入れて火にかける。

 アルコールがとんだら、氷を入れたボウルに雪平鍋ごと突っ込んだ。

 

 出刃でマグロをダイスカットし、冷えた雪平鍋に漬けていく。

 タッパーに入れるのが面倒くさい。どうせ、洗うのだから問題なかろう。

 

 できたら、ご飯をセットして、急いでハイカットシューズに足を突っ込んだ。

 

 頑張った分、このままで終わるわけにはいくまい。

 マグロが漬かるまで、指を咥えて待つ俺ではない。

 

 向かうは数駅となりの家電量販店である。

 この家電量販店は、侮りがたい。酒コーナーが充実している。

 電化製品を買いに来る人物が、お酒にも通じていて、珍しい物が適正価格で売られていれば、買うというリサーチがされているのだろう。

 あとは、口コミが広がれば自然とよいサイクルが生まれる。

 

 電車にちなんだ店の曲を口ずさみながら、酒コーナーに入る。

 

 やっぱり日本酒かな。

 夏の日本酒といえば、生酒だろう。

 純米原酒辛口であれば、今飲みたいのにドンピシャだが。

 

 涼し気なボトルはあれど、どうもピンとこない。

 

 くぅ! ここまで来て、手ぶらで帰るのは嫌だ。

 どうにか挽回すべく、セカンドプランを立てる。

 

 店内を一周して、なかった場合はIPAビールにしよう。

 俺の理想の漬け丼には合わないが、ご機嫌になれるのは間違いない。

 

 あれこれ悩みながら、コーナーを回り込むと、焼酎コーナーだった。

 

 “希少な「初垂れ」入荷!”

 

 初垂れ(ハナタレ)

 

 荒々しい習字のようなフォントにフラれた読み仮名に、説明が続く。

“芋焼酎の蒸留の初期にしか出ない初垂れ。豊かな香りとうまみが凝縮されている逸品。惜しみなく商品化! 数量限定!”

 

 ぬぅおぉ!

 これじゃない? マグロの漬けにあうのはこれじゃない?

 

 500mlで約二千円

 量にすれば割高。だが、チャンスは掴むもの!

 

 

 今日の夕食は、マグロの漬け丼でっす!どぉぉん!!

 

 脳内で、米な曲の再生が始まる。

 はりきりすぎて、疲れがぶり返し始めているが、テンションだけはどんどん上がる。

 

 冷蔵庫から出した雪平鍋の中を覗く。

 うまいこと漬かったマグロを見て、にんまり笑顔になってしまう。

 米が炊きあがった電子音。

 味噌汁でさえ作ってある。

 

 山芋は、半分はすりおろし、残り半分は千切りに。

 こいつを混ぜれば、トロトロとシャキシャキの両方が楽しめるってわけだ。

 

 もう、待てる気がしない。

 あとはこいつを丼にするだけ!

 Do you wanna eat?

 いやいや、今は牛丼でもいくら丼でもない。マグロどぉんよ!

 

 炊き立てのご飯をどんぶりによそい、トロロを全部かける!

 さらに、漬けをどぱぁぁ!

 真っ白なトロロの上を黒い漬け液がつたい、白米へしみ込んでいく。

 マグロのうま味ごと……である。

 

 漬け丼、味噌汁、冷凍庫から取り出した芋焼酎の瓶とグラスをのせてモニター前の定位置へ座った。

 写真をパチリと撮影して、SNSへ投稿する。

 

 

 |急(せ)いた気持ちを抑えるように、先に味噌汁をすする。

 眼鏡が曇る。

 どんぶりを手で持てば、喉がごくりと鳴った。

 

 いただきまぁす!!

 

 まずはマグロ。

 トロロでつるんと口の中で滑る。

 噛んだ時のマグロ特有の食感。

 醤油とあいまったうま味。

 鼻に抜けるわさびの香りが爽やかだ。

 

 息をついて、とろろとご飯をかきこむ。

 ズズっ ―― ウマイ。

 とろろの冷たさとご飯の温かさがちょうどいい。

 シャク シャク シャク

 千切りした山芋の歯ごたえとのバランス

 追ってくるわさび醤油の味。

 

 プハッ!

 

 あまりのうまさに、息をつめるように食ってしまった。

 

 いかんいかん!

 もっとゆっくり味わいたい。

 

 手酌で芋焼酎を注ぐ。

 透明なグラスに、500mlの青くて細いボトルから液体が、とろぉっと出てきた。

 

 なんじゃこりゃ?

 

 液体を注いだつもりが、みぞれ状態のそれに驚く。

 

 興味津々で一口含めば、とろりとしたみぞれが溶ける。

 濃厚な芋の香りが、高アルコールに乗って脳を直撃する。

 

 生魚に対抗できる酒は日本酒だけだと思っていた俺を許して欲しい。

 焼酎もうまぁぁぁい!!

 

 アルコールが胃を刺激する。

 もっと食いたい!

 

 ふふふん♪

 マグロの漬け丼に味噌汁が付いているなら、これはもうマグロの漬け丼定食では?

 ショクショク!!

 

 あっという間に漬け丼を平らげ、味噌汁を飲むころになってようやく落ち着いた。

 俺にとって、作って食べるのは一大エンターテインメントである。

 

 焼酎を飲みながら、いい気持ちになってSNSを起動する。

 

「中谷! 今日の飯もうまそうだな!」

 

「飯テロのミディアム(中)バレー(谷)!!」

 

 おススメの酒やうまい漬け方なんかが続く。

 

「お、ゴマ油をいれるのもウマそ」

 

 こうして、うまいもんの旅は続く。

 

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