中谷秀和の飯テロ生活   作:藍色 紺

17 / 69
17 ふかふか(肉まん)

 あぁ、やっと、終わった。

 

 春の人事異動が終わった後、今年の展示会運営員が決まった。

 俺である。

 

 ビックサイト、幕張メッセ、パシフィコ横浜、ポートメッセなごや、インテックス大阪、マリンメッセ福岡などで行われる大規模な展示会は、企業が商品やサービスを紹介して、顧客開拓・プロモーション・ブランディング・情報発信などなどをする大きなイベントだ。

 

 社の内外、広範囲にわたって、ペコペコ頭を下げて調整に調整を重ね、出張してきたが、その苦労ももう終わり。

 終わりなんて言ったら、叱られるか。

 

 動員数やら反響やら、これから分析が待っている。

 が、

 今日くらいは、言っていいよね。

 俺が俺を許す。

 

 終わったぁぁぁぁ!!

 

 台車で三段重ねの段ボールを、社用車に運びながら、心の中でガッツポーズを決める。

 

 今宵、俺には迷いはない。

 パシフィコ横浜で、荷物とさよならし、横浜中華街までタクる。

 タクシーアプリで呼べばすぐ、ライドオン。

 迷わず華正樓へ入店したら、肉まんを二つ買う。

 

 横浜で肉まんといえば、俺イチは華正樓。

 直径十一㎝、高さ七㎝という巨大さであって、さらに味もいい。お値段もなかなかよろしい。

 肉まんと侮ることなかれ。一個喰えば、成人男性も満足のボリュームがある。

 

 え? なんで二個買ったか?

 いいでしょ。今日くらい許して。

 お昼だって食べてないのよ。二食分食べさせて。

 

 

 

 

 というわけで、家に帰ってきました!

 あれれ~、おっかしいぞ。仕事終わりが、金曜じゃなくて、日曜だね。

 明日も仕事☆

 

 血の涙を拭い、肉まんを蒸す。

 一人暮らしの男の部屋に、蒸し器はない。俺の部屋にもない。

 だから、即席の代用品を用意する。

 

 まず、一番大きな鍋に中皿を入れる。

 そこに、皿の上に金属製のザルを置く。

 水を注いで、沸騰するのをしばし待つ。

 

 蒸し時間は二十分。大変な手間だ。

 マグカップに水を入れてレンジというのも楽だが、華正樓の肉まんだけは手間を譲れない。

 

 展示会がいかに大変だろうと、会社員としては当たり前のことだ。褒められたりはしない。

 だが、俺は俺を褒めていい。

 当たり前を、ちゃんとこなした俺を褒めるために、俺の大切な儀式をちゃんと行う。

 

 スマホのタイマーが鳴り、台所へ行くと、鍋がシュンシュンと水蒸気を上げていた。

 中には、投入前の二倍ほどにふっくら膨らんだ肉まん。

 

 蓋を開けた。

 眼鏡が曇る。

 

 トングで皿に入れ、ビールを持って部屋に戻る。

 仕事の成果を写真に収める。

 

 ちゃんと発酵した生地は、ふわふわで、持っている指が真っ赤だ。

 ふーふー息を吹きかけるのも、もどかしく、かぶりつく。

 肉汁がじゅわぁっと溢れた。顎をつたってジャージに垂れる。

 醤油ベースの肉汁が染みた皮だけでもうまい。

 

 いや、まだだ。

 分厚い皮に包まれているが、肉もハンバーグかのごとき存在で、ごろんと入っている。

 思い切ってかぶりつくと、豚肉のうま味!

 シャキシャキのタケノコ!

 玉ねぎが甘い。

 

 ぎっしりつまった肉餡に、ふわふわの皮は、まさに食事にふさわしい。

 一気に平らげ、最後にビールを飲む。

 

 プシュっ! ゴキュっゴキュっ!

 ぷはぁ!!

 

「あ~、幸せ」

 

“肉まんうまし“

 

 忘れていることにやっと気づいてSNSへ投稿。

 おつかれさま。俺。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。