中谷秀和の飯テロ生活   作:藍色 紺

18 / 69
18 青い二人(隣の弁当)

 内勤バンザイ。

 動き回る仕事じゃないと眠たくて困るって人もいるが、俺は机でできる勤務が好きだ。

 

 なぜなら、机仕事のときは持ってきた弁当が食べられるから。

 早めに仕事があがれると、夕食が作れる。

 夕食を多めに作ると、お弁当に回せる。

 朝、冷蔵庫で冷やしていた弁当を、保冷剤で冷やしながらクーリング出勤。

 総務の近くにある会社の冷蔵庫にIN。

 

 昼食時間になったら、いそいそとレンジにかける。

 

 外食もコンビニも弁当屋もうまいが、弁当もうまい。

 何しろ好きなもんしか入っていない。

 

 マグカップにインスタント味噌汁を注いで、眼鏡が曇る。

 眼鏡が拭けたら、お待ちかねのランチターイム!

 

「中谷さん、見てください。今日は私もお弁当なんです」

 

 隣の席の若手が話しかけてきた。手に持っているのは、冷凍うどん一玉が入った弁当箱。

 麺はレンチンするとして……。

 

「汁はどうすんのん?」

 

「これです!」

 

 見せられたのは、コーヒーフレッシュの大きいやつ。中に一人前のタレが入っていて、ぷちっとかけるだけで、気軽にいろんな味が楽しめる商品だ。

 

「なるほど」

 

 素麺やうどん、パスタを持ってきたことはあるが、このタイプのタレは思いつかなかった。若いだけあって、柔軟だ。

 

「中谷さんのお昼は何ですか?」

 

 さして食べてないので、弁当をそのまま見せる。

 

「夏野菜のラタトゥイユと鶏ごぼう、卵焼き」

 

「わぁ~、すご~い。いいな、お料理上手で。うちは旦那と一緒に作ったけど、なんだか面倒くさくて。今日は夫婦そろってうどんだねって」

 

 長い髪を片手で押さえ、ずぞぞっとうどんをすするのを見ていると、ちょっとうらやましい。今夜はうどんにするべきか――。

 

「同じうどん弁当でも、つゆの味が一人ずつ変えられるから便利なんですよ。でも、最後の一個をどっちが食べるかで、今朝もケンカしちゃって」

 

 雑談のフリをしたのろけを適当に聞き流し、頭の中では、うどんの具を検討中。

 白髪ねぎ、カイワレ大根、豚肉の冷しゃぶにワカメってのはどうだろう。

 そのためには、スーパーが開いている時間に帰らねばなるまい。

 

 うどんを食べ終えた若手は、保冷バッグから、何やらビニル袋を取り出した。

 

「お弁当のいいとこって、野菜が豊富に取れるところだなって」

 

「え、それ何?」

 

 失礼を通り越して聞いてしまったのは、若手がかぶりついた代物だ。

 

「え? きゅうりですよ」

 

「いやいやいや、きゅうりってことはわかる。それ丸ごときゅうり?」

 

「やだなー」

 

 だよね。きっと浅漬けとか何かだよね。いやしかし、丸ごと?

 

「他に何に見えるんです? まんまきゅうりですよ」

 

「えぇぇ!?」

 

 ボキっと音を立ててかぶりついた。ボリボリ健康的にむさぼっている。

 

「お店のじゃないから、切らなくてもよくて」

 

 どうだろうか。切る切らないは個人の自由だが、旦那はそれでいいのか?

 

「今度はトマトも持ってこようかな。お弁当を持ってくるようになったら、また一緒に食べられますね」

 

 たぶんトマトは、工夫して持ってこないと、満員電車で潰れてしまうのではないだろうか。

 杞憂してしまうが、きっといらぬお世話だろう。

 

 ワイルドさに驚いてしまったが、若手の弁当も、食べたいものを食べたい方法で食べている幸せだ。

 あの若さで結婚し、二人で楽しんでいるのだから、羨ましい。

 

「そのタレ、何味がおすすめ?」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。