中谷秀和の飯テロ生活   作:藍色 紺

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27 涼しくなりて暖を乞う(ビーフシチュー)

 秋っていいね。涼しいね~。

 

 これが夏ならば、スーパーに来るだけで熱中症の疑いが出てくる。

 命の危険なく、買い出しに来られる。何て幸せなことだろう。

 

 家を出たときには肌寒かった半袖Tシャツだが、スーパーまで歩く間にちょうどよくなっている。

 これだよ。こんくらいがちょうどいい。

 

 浴びるように水分を飲まなくてもよくなったからか、食欲も戻ってきた。果物コーナーで生唾を飲み、振り切るように肉コーナーまでカートを進める。

 

「黒毛和牛、半額だと!?」

 

 信じられずに、二度見する。

 お値打ち品ではない。正規の商品が半額だ。

 

 つやつやとした赤身に白いサシが網目状に入っている。

 素人の俺が見てもわかる。

 こいつは、いい肉だ。

 

 夢をみているのか? それとも、何かのドッキリか?

 疑ってしまうほどのチャンスだ。

 

 恐る恐る黒毛和牛のパックを手に取る。

 

「スネ肉か」

 

 よくよく見れば、半額なのはスネ肉だけである。

 スネ肉は、筋が多くて硬いから、料理が限られてくる。よって需要が偏っているのだろう。

 

 ならば、夢ではない……、か?

 

 衝撃を受けた頭が、ようやく働き始める。

 

 絶好のチャンス、逃がしてたまるか。

 

 さて、何を作ろう。

 黒毛和牛コーナーで立ち止まって、肉のパック片手に頭をひねる。

 

 煮込み料理っていうのは確定している。

 ビーフカレーに、ビーフシチュー、ポトフ、赤ワイン煮、大根と煮るのもいいし、それなら、味噌煮も捨てがたい。

 

 全部食べたい。

 それならば、旬の材料をかけあわせるのはどうだろうか。

 さっき通った野菜コーナーを思い浮かべる。

 

 じゃがいもだな!

 

 じゃがいもの旬は春と秋の二回。

 カレーでもいい気がするが、今回ばかりは秋を堪能したい。夏でもカレーは食べられるが、ビーフシチューは厳しい。

 

 ビーフシチューなら、野菜はサラダにして、ご飯かパンだが。

 チラッとスタンダードカシオの文字盤を見た。

 

 今、一時だから、のんびり帰って二時。そこから四~五時間で、七時か。いけるな。

 

 スネ肉のビーフシチューを煮込むのに時間がかかるのなら、パンも作ってしまおう。

 パンは四~五時間かかるから、ちょうどいい。

 

 料理にこんなに時間がかけられるなんて、休日ならではだ。

 しかも、煮込んでいる間は、ゲームができる。

 

 

 

 

 拳くらいある牛スネ肉の塊を切りながら、鼻歌が出る。

 どのくらいの大きさがいいかな~。

 やっぱり、口に入れたときに、でかってなるくらいは維持したいよね。

 食べたいように肉の大きさ決められるって、いいよね。

 店で食べたら、もうちょっと肉の量欲しいとか、小さいとか思ってしまうが、家なら肉肉しいビーフシチューにできてしまう。

 

 男の一人暮らし。

 台所で、ニヤニヤしながら肉を切る。

 考えるだけで怪しさ満点だが、楽しいのだから仕方ない。

 

 ザルには、玉ねぎの薄切り、そしてぶなしめじにマッシュルーム。ボウルには皮をむいたじゃがいもがスタンバっている。

 

 

 ビーフシチューを作るのは、難しくない。

 ほぼカレーと同じで、玉ねぎを炒めたら、牛肉、きのこの順で加えては炒める。トマト缶をまるっと一缶、デミグラスソースも一缶入れる。ブーケガルニを一包投入。

 とにかく全部入れるだけ。

 そこに赤ワインを好きなだけ入れる。水は入れない。

 

 赤ワインの瓶を、鍋の上で逆さにする。

 こぽっこぽっ

 空気と入れ替わる赤ワインを見るのも楽しい。

 

 赤ワインのアルコール分をしっかり抜けるまで煮たら、大変優秀な魔法瓶保温容器に入れて待つだけだ。

 

 残ったワインを飲みながら、食パンをこねる。

 あとは待つばかり。

 

 待つばかりなのだが、待ちきれずに台所を右往左往してしまう。

 食パンが焼ければ、型から出さないまま写真をパシャリ。

 型から出して、またSNSに投稿する。

 

 もういいか?

 

 食パンの焼けるかぐわしい香りに包まれながら、鍋の蓋を開ける。

 眼鏡が曇る。

 芳醇で濃厚な牛肉独特の香りが広がり、パンの焼ける香りと混ざった。

 

 いい具合だ。

 パスタ皿にビーフシチューをよそう。

 

 もう一切れ、肉入れる?

 そんなことしたら、残りに肉が少なくなってしまうのでは?

 そんなこと考えなくてよろしい。

 今宵は、肉肉しいのですから!

 黒毛和牛なのですから!

 

 焼きたて食パンを手で千切り、ビーフシチューを拭う。

 食パンの耳はクロワッサンのようにカリッとした軽い層がかさなり、白い部分はもちもちのふわふわ。そこにビーフシチュ―の濃厚なうま味が混ざる。

 

 木のスプーンでビーフシチューをすくう。

 ほろほろと牛肉がほぐれ、牛肉にしか出せない甘みを帯びた肉汁が広がる。

 

「和牛――」

 

 普段は高価で手が出せないが、黒毛和牛のおいしさよ。

 何といっても脂身があまくて濃厚。

 スネ肉ならではのコリっとした軟骨部分を噛めば、さらにうま味が出てくる。柔らかい赤身との対比が嬉しい。

 

 ほくほくのじゃがいもも、ふわふわの食パンも、何もかもが口を鼻腔を喜ばせる。

 あっという間に平らげ、二敗目のビーフシチュー、二枚目の食パンをおかわりする。

 

「う~ん、満足」

 

 フローリングにあおむけに寝転がり、腹をさする。

 台所の鍋の中には、まだたくさんのビーフシチュー、そして食パンは六枚はゆうにあるだろう。

 明日も、明後日もこいつを食べるわけだ。

 

 つまり、連休中の食事には困らない。

 そういうことにしておこう。

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