「あれ? もうあんがない」
餃子作りの真っ最中、ボールに残ったあんは残り三つ分。
対して、残りの餃子の皮は十枚は超えている。
「またか~」
今週末の一番の楽しみである餃子作りがとん挫した。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。
昨日の最高気温が三十度、今日の最低気温が十五度。
五度以上の寒暖差があると体調を崩しやすいというけれど、差がありすぎである。
お風邪など召されていないだろうか。
会社でも、咳をする人や早退する人が増えている。
かくいう俺も、喉の不調に怯え、総合かぜ薬を服用しながら、どうにか休みに突入できた。
狭いオフィスの中、重めの咳をする人に限ってマスクをしないのはなぜだろう。
「お忘れのようなので、どうぞ使ってください」
爽やかな笑顔を浮かべて、安物の使い捨てマスクを献上する。
全ては、週末の餃子のため。
体調が悪いと、うまいもんもうまくいただけない。
そんなことは俺が許しまへんえ。
たかが餃子で何を言っているのかと思われるだろうか。
餃子は一大イベントだ。
買い出しが終わった昼から皮を作って、夕方頃に食べられる。
皮は市販品とそう変わらないのだが、どうしてか作りたくなるのだから仕方ない。
朝から一週間分の洗濯をして、掃除する。
クイックルワイパーのドライとウェットで二度拭き掃除をし、水回りをピカピカにする。
あるべき物があるべきところに収まるだけで、イライラしていた気分がいくらかマシになる。
そこで食料の買い出しだ。
整理整頓された部屋に、俺の好みで選んだ食材が入る。冷蔵庫が充実するだけで、心まで充足されるのだから、お手軽だ。
それでも、思い出してしまう会社での他人とのやり取り。
マスクを差し出すのはやりすぎだっただろうか。
でも、誰かが言わねば、体調不良者がさらに増えてしまう。
その誰かは、俺なのか。
後悔とまではいかないが、些細なひっかかりを覚えてしまう。
そんなとき、小麦粉を計量し、無心で生地をこねる。
五十個に切り分けた生地を、円になるように丁寧に伸ばしていく。
餃子の皮は、他の生地と違って、力いっぱい伸ばすくらいがちょうどいい。
調理台の上に、餃子の皮が重なっていくのを見ていると気持ちがよく、気が付くと些細なひっかかりをどうでもいいと思えてくる。
休みを楽しみたいのは皆同じ。
言わなければ、言わないできっと俺はイラついていたはずだ。
イライラしながら仕事をするよりはマシだ。
言われた人には申し訳ないが、その人も餃子の皮を作る的な何かで機嫌をリセットして欲しい。
皮ができたら、今度はあん作り。
俺の作る餃子は、あんに特徴がある。餃子五十個に対して入る野菜は、キャベツなら半玉、白菜なら四分の一入る。肉は少なめであっさりタイプ。その代わり腹いっぱい食べられる代物だ。
煮てもよし、焼いてもよし。
水餃子も焼き餃子も両方作って味変もする。
ね、一大イベントだろ?
皮もあんもできたら、今度は包む。
あんの形を整えて、空気を抜くように包むのがポイント。
こうすると、パリッと焼いた餃子から、肉汁があふれ出すようになる。
ちょっとしたコツだが、やらないよりやった方が格段にうまい。
餃子五十個を黙々と包む。
自分のペースでコツコツできる作業はいい。
納期も出来栄えも自分基準。自由を満喫する。
これぞ休みの醍醐味よ。
朝から聞いている音楽に合わせて鼻歌を歌う。
そして、はたと気が付く。
「あれ? もうあんがない」
餃子作りの真っ最中、ボールに残ったあんは残り三つ分。
対して、残りの餃子の皮は十枚は超えている。
「またか~」
餃子作りあるあるだ。
あるあるだが、俺の場合、皮は手作りである。
一枚たりともおろそかにしたくない。
「こんなときは、てってれ~」
取り出したのは、市販のジェノベーゼソース。
余った皮を隙間なく並べて、ジェノベーゼソースを塗る。
チーズを乗せ、その上はピザっぽい好きなものを乗せる。
そして、トースターで焼くだけ。
整列させた餃子を焼きながら、偽ピザが焼きあがる。
それをビールと一緒にいただく。
小気味よい乾いた音を立てて、偽ピザを頬張る。
カリカリにやけた生地とチーズ、ジェノベーゼソースの香りがマッチしていてとてもいい。
目の前では、鉄パンで餃子が焼けている最中。
ジュクジュクした音が、パリパリに変わったら、鉄パンの蓋を取る。
眼鏡が曇る。
満ち足りた気分で、餃子を皿に乗せてから写真を一枚。
思い出したように偽ピザの写真と一緒にSNSに投稿する。
ビール、焼き餃子、そして偽ピザに水餃子。
今日食べない分は冷凍して、いつかの飯になる。
まるで計算したかのような完璧な収まり具合。
「セルフ料理で、何パーフェクト気取ってるんだか」
げに、ままならぬのは、人の世と気温である。