中谷秀和の飯テロ生活   作:藍色 紺

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28 まるくおさめたい(偽ピザ)

「あれ? もうあんがない」

 

 餃子作りの真っ最中、ボールに残ったあんは残り三つ分。

 対して、残りの餃子の皮は十枚は超えている。

 

「またか~」

 

 今週末の一番の楽しみである餃子作りがとん挫した。

 

 

 皆さまいかがお過ごしでしょうか。

 昨日の最高気温が三十度、今日の最低気温が十五度。

 五度以上の寒暖差があると体調を崩しやすいというけれど、差がありすぎである。

 お風邪など召されていないだろうか。

 

 会社でも、咳をする人や早退する人が増えている。

 かくいう俺も、喉の不調に怯え、総合かぜ薬を服用しながら、どうにか休みに突入できた。

 狭いオフィスの中、重めの咳をする人に限ってマスクをしないのはなぜだろう。

 

「お忘れのようなので、どうぞ使ってください」

 

 爽やかな笑顔を浮かべて、安物の使い捨てマスクを献上する。

 全ては、週末の餃子のため。

 体調が悪いと、うまいもんもうまくいただけない。

 そんなことは俺が許しまへんえ。

 

 たかが餃子で何を言っているのかと思われるだろうか。

 餃子は一大イベントだ。

 

 買い出しが終わった昼から皮を作って、夕方頃に食べられる。

 皮は市販品とそう変わらないのだが、どうしてか作りたくなるのだから仕方ない。

 

 朝から一週間分の洗濯をして、掃除する。

 クイックルワイパーのドライとウェットで二度拭き掃除をし、水回りをピカピカにする。

 あるべき物があるべきところに収まるだけで、イライラしていた気分がいくらかマシになる。

 そこで食料の買い出しだ。

 

 整理整頓された部屋に、俺の好みで選んだ食材が入る。冷蔵庫が充実するだけで、心まで充足されるのだから、お手軽だ。

 

 それでも、思い出してしまう会社での他人とのやり取り。

 マスクを差し出すのはやりすぎだっただろうか。

 でも、誰かが言わねば、体調不良者がさらに増えてしまう。

 その誰かは、俺なのか。

 後悔とまではいかないが、些細なひっかかりを覚えてしまう。

 

 そんなとき、小麦粉を計量し、無心で生地をこねる。

 五十個に切り分けた生地を、円になるように丁寧に伸ばしていく。

 餃子の皮は、他の生地と違って、力いっぱい伸ばすくらいがちょうどいい。

 

 調理台の上に、餃子の皮が重なっていくのを見ていると気持ちがよく、気が付くと些細なひっかかりをどうでもいいと思えてくる。

 休みを楽しみたいのは皆同じ。

 言わなければ、言わないできっと俺はイラついていたはずだ。

 イライラしながら仕事をするよりはマシだ。

 言われた人には申し訳ないが、その人も餃子の皮を作る的な何かで機嫌をリセットして欲しい。

 

 皮ができたら、今度はあん作り。

 俺の作る餃子は、あんに特徴がある。餃子五十個に対して入る野菜は、キャベツなら半玉、白菜なら四分の一入る。肉は少なめであっさりタイプ。その代わり腹いっぱい食べられる代物だ。

 煮てもよし、焼いてもよし。

 水餃子も焼き餃子も両方作って味変もする。

 ね、一大イベントだろ?

 

 皮もあんもできたら、今度は包む。

 あんの形を整えて、空気を抜くように包むのがポイント。

 こうすると、パリッと焼いた餃子から、肉汁があふれ出すようになる。

 ちょっとしたコツだが、やらないよりやった方が格段にうまい。

 

 餃子五十個を黙々と包む。

 自分のペースでコツコツできる作業はいい。

 納期も出来栄えも自分基準。自由を満喫する。

 これぞ休みの醍醐味よ。

 

 朝から聞いている音楽に合わせて鼻歌を歌う。

 そして、はたと気が付く。

 

「あれ? もうあんがない」

 

 餃子作りの真っ最中、ボールに残ったあんは残り三つ分。

 対して、残りの餃子の皮は十枚は超えている。

 

「またか~」

 

 餃子作りあるあるだ。

 あるあるだが、俺の場合、皮は手作りである。

 一枚たりともおろそかにしたくない。

 

「こんなときは、てってれ~」

 

 取り出したのは、市販のジェノベーゼソース。

 余った皮を隙間なく並べて、ジェノベーゼソースを塗る。

 チーズを乗せ、その上はピザっぽい好きなものを乗せる。

 そして、トースターで焼くだけ。

 

 整列させた餃子を焼きながら、偽ピザが焼きあがる。

 それをビールと一緒にいただく。

 

 小気味よい乾いた音を立てて、偽ピザを頬張る。

 カリカリにやけた生地とチーズ、ジェノベーゼソースの香りがマッチしていてとてもいい。

 目の前では、鉄パンで餃子が焼けている最中。

 ジュクジュクした音が、パリパリに変わったら、鉄パンの蓋を取る。

 眼鏡が曇る。

 

 満ち足りた気分で、餃子を皿に乗せてから写真を一枚。

 思い出したように偽ピザの写真と一緒にSNSに投稿する。

 

 ビール、焼き餃子、そして偽ピザに水餃子。

 今日食べない分は冷凍して、いつかの飯になる。

 まるで計算したかのような完璧な収まり具合。

 

「セルフ料理で、何パーフェクト気取ってるんだか」

 

 げに、ままならぬのは、人の世と気温である。

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