中谷秀和の飯テロ生活   作:藍色 紺

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30 熱き星たちよ(秋鮭のシチュー)

 土曜日は、お魚の日!

 休みの度に通っているスーパーは、月ごとに曜日セールがある。

 サラリーマンにとって、生魚は難易度が高い食材だ。

 買ってから消費するまでの時間が短いから、仕事のある曜日にはまたがりたくない。

 土曜日がお魚の日の今月は、神である。

 

「秋鮭何にするかね?」

 

 きのこたっぷりホイル焼きなら、バター風味にするか味噌でちゃんちゃん焼き風にするか。フライにしてがっつりいただくもよし、炊き込みご飯なら、できあがった鍋を開けてふっくら炊けた鮭と米を混ぜるときは最高にアガる。うむ。秋っぽくてよいね。

 

 秋?

 最近ようやく寒くなってきて、布団も冬用を用意したし、ようやく仕事でジャケットを羽織るときにしかめ面せずに済む。

 この涼しさを味わえるメニューにしよう。

 

 豆乳鍋は? 熱すぎる。

 なら、クリームパスタは? パスタはしばらくいいか。

 ってことは、鮭グラタンも同じか。

 

 うーむ。

 胃はすっかりホワイトソースを求めている。

 野菜が取れて、さらに熱すぎないもんで……。

 

 そうだ!

 鮭のシチューにしよう!

 

 メニューが決まったら、さっそく下ごしらえだ。

 今日は、ぼやぼやしていられない。

 18時の開幕までに下ごしらえを終えて、モニターのある居室で応援せねばならない。

 

 ツヤツヤの秋鮭に塩を振り、5分放置。

 その間に、大根を角切りにして下茹でする。白菜も切る。

 汁が出た秋鮭に、大根を煮た熱湯をかけて、霜降りにして、バターでソテーしておく。

 さらに、骨と皮を取って鮭の処理はいったん終わり。

 ここで、できるだけ身をほぐさないでおきたい。

 塩と熱湯は、生臭さを取るための下準備だ。

 海辺生まれなのに、魚の生臭さが苦手なので、生臭さ処理は徹底する。

 

 ここまでくれば、後は気楽で、大根、白菜、きのこはあるのをたっぷり入れて、煮る。

 煮立つ間に、冷凍していたベシャメルソースを探す。

 

「ないねー」

 

 冷凍庫には、作り置きのコロッケやらパスタやら、ネギにきのこ類がわんさか入っている。管理はしていても魔窟。

 

 ちなみにベシャメルソースってのは、ホワイトソースみたいなやつだ。前回、ラザニアの時に作って冷凍したんだけど……。

 

「あぁ、次からベシャメルソースは冷凍やめようかな」

 

 何せ、ベシャメルソースは、小麦粉、牛乳、コンソメを鍋に入れてまぜまぜしておけばできる。楽チンなのに、さらに楽を求めた結果、冷凍庫が魔窟化している。

 

「缶で買ってもいいんだけど、缶は重いからな。缶の日は週一だし」

 

 ビールで缶は手一杯である。ビールを減らすことはできない。

 

「あったあった」

 

 鼻歌を歌いながら、ぐつぐつ煮立っているシチューにレンチンしたベシャメルソースを入れる。

 眼鏡が曇る。

 

「さて、ここで代打の切り札、秋鮭選手の登場です!」

 

 脳内で、青い球場が歓声で沸く。

 

「かっとばせー! 秋鮭!」

 

 野菜がごろごろ入った白いシチューに、紅色の秋鮭を投入する。

 なるべく大きな身でおいておいたのを、おたまで好きな大きさにほぐす。

 この瞬間が、たまらない。

 

 最後に、隠し味の味噌をほんの少しだけ入れる。

 

「さて、準備は整った!」

 

 時間を見れば、17時55分。

 炊き立てご飯に、秋鮭のシチューをスマホでパシャリ。

 

 勝って欲しい。だが、贔屓にしているチームが優勝したのは、いつだったか。

 二十六年の間、期待しては泣いてきた。

 その分、期待しすぎないようにする自覚がある。

 

 ふーふー、はふはふ。

 大根に鮭のうま味がおいかけてくる。ベジャメルソースの豊かさが包み込んで――。

 

 待ったかいあった。

 

 肌寒くなったこの時期まで、応援させてくれることに感謝して。

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