中谷秀和の飯テロ生活   作:藍色 紺

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42 おめざ(朝飯)

 雨の音で目が覚めた。カーテンの隙間から入る光は、強すぎも弱すぎもない。布団に入った胴体は心地よい温かさで、はみ出した足は冷やっこい。

 あくびをして、身体に問いかける。

 

 二度寝する?

 いんや、起きられるで。

 今日は休みの日やで。

 いける。起きられる。

 

 ベッドから出て、のそのそと朝のローテーションを始める。お湯を沸かして、メダカに餌をやり、トイレに行った後、顔を洗う。

 

 今日はやけに目覚めがいい。

 

 こんな日は滅多とない。だいたいは昼まで寝ては身体の痛みを引きずるか、休みの日なのにいつもと同じ時間に目が覚めて寝不足に悩まされるか。たぶん気温がちょうどいいんだろう。

 

 よし、こんな日はちゃあんとしたもんでも食いますか。

 

 白いご飯を土鍋で炊く間に、昆布とカツオの出汁を取る。入れる野菜を冷凍庫から発掘する。小松菜とえのきだけだけでは物足りない気がして、乾物入れにあった乾燥ワカメを出汁に放り込む。

 冷凍庫発掘の時に見つけた塩鮭をオーブンにかける。

 分けておいた出汁に塩と砂糖を足して、卵を割り入れる。菜箸で卵をとく音に、思わず頬が緩んだ。

 卵をとく音はおいしさの前触れだ。出汁のにおいがする朝なら特に。

 熱したフライパンに出汁入りの卵液を流し込む音も、ふつふつと膨れる卵に菜箸で穴を開ける音も、大変よろしい。

 焦げ付かぬように注意しながら、味噌汁の煮え具合をチェックし、土鍋の火力を落とす。料理ってのは、マルチタスクで、とにかく注意することが多い。ちょっとした火加減やタイミングで味が大きく変わる。

 

 出汁焼き卵を巻き終わり、味噌を溶き終わった雪平鍋は火からおろす。あとはご飯を蒸らし終わるのを待つだけだ。鮭が焼きあがるまでに、少し時間があった。

 

 実家から送ってきた茶葉を引っ張り出し、緑茶を入れる。冬は重宝するが、熱くなってからはとんと飲まない代物だ。

 

 炊き立てご飯に、だし巻き卵、塩鮭に野菜たっぷり味噌汁を並べ、写真を一枚。

 

 初手は味噌汁。ずずっとすすり、眼鏡が曇る。塩気に唾液が出る。喉を通る温度も熱すぎず、冷たすぎず心地よい。だし巻き卵を一口で放り込み、もりもりの白米を追加する。味噌汁でリセットして、次は鮭――。

 

 おかわりしたい欲を、あたたかい緑茶で落ち着かせる。

 

 なんというか、幸せだ。

 休みの日、何もない。特別な料理でもないし、ただちょっとした手間がかかるだけの料理を食べる。

 規則正しい雨足で包まれた部屋で、自分で自分を満たす。

 

 突然の爆音ロックが聞こえてきた。お隣さんが起きたようだ。

 

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