「これこれ」
さっきまで核を失ったスライムのように、フローリングでのびていた。
それが、たった一口で生き返る。
左手にタッパー、右手に大きめスプーン。
スプーンで紫色のアイスをすくって、口へ運ぶ。
曇った眼鏡の奥で目が細まる。口角が上がる。
冷たい。爽やかな甘みにガツンとやられる。
ブルーベリーの渋味とヨーグルトのまろやかさがいい具合に混じっている。
目を閉じる。まぶたが熱を持ってジンジンと痛いのは、たぶん軽い熱中症だからだ。梅雨を狙って入れていた屋外業務のはずが、雨がちっとも降らず、6月中に終わらせねばならぬ身としては、何としてもやらねばらなかった。
身に危険があろうとも、やらねばならず、かといって健康でいなければならぬ。
悲しきかなサラリーマンである。
「レモンがいい仕事してる」
ブルーベリーヨーグルトアイスを作ったのは、金曜の夜こと。
何か作りたいのに、残っている体力は僅かで、作れる物で食べたい物を探して、捨てられた犬のようにスーパーの店内を無駄にうろつく。
ケーキやクッキー類は手がかかる。何より、焼くのも熱い。食べるのも同様だ。
割引シールを手にした店員さんに不信がられていることに気が付いて、頭を切り替える。
逆の発想をしよう。
今俺が作りたいのは手軽にできて、焼かずにすんで、冷やっこいものである。
そういうわけで、生クリームとブルーベリーを買ったわけだ。
アイスは案外手軽に作れる。
生クリームを7分立てにして、任意の何かをぶち込む。
今回なら、ヨーグルトとブルーベリー。
おいしさのために、ブルーベリーはレモンで爽やかさマシマシにしたジャムを作ってから混ぜた。
それらを混ぜて、冷凍庫に入れておけばよろしい。
アイスクリームメーカーがあるのならもっと簡単で、材料を入れて冷やしておけばできる。
俺の夏の定番おやつだ。
タッパーいっぱいにつくったアイスを食べながら、今週分のガチャを回す。毎日毎日ログインボーナスを通勤電車で貯めて、週末にガチャる。出たアイテムやキャラを強化して、遊ぶのが趣味だ。
週末は基本的には人と会わないことにしている。疲れるからだ。
先週からの俺の仕事といえば、屋外でデータを集め、社内に戻って1月からの半年分のデータ分析し、そのデータを耐火書庫に納める。社内に戻れるならマシだと思うだろうが、耐火書庫にエアコンはない。
膨大な書類をファイリングし、段ボール箱に納めて、台車に載せる。箱をしかるべき棚に納める。ただこれだけのことだが、1箱約20kgを上げ下ろし続ければ、ちょっとした筋トレだ。
「紙データなんて時代錯誤だよな」
気を紛らわしたくて、共に業務にあたっている同僚に雑談をふる。
「急ぎでないのに、なんでこんな暑い時期にやるんですか?」
「半年一区切りだからかな」
「急ぎじゃないんだから、涼しくなってからでよくないです?」
余程嫌なのだろう、急ぎでないことを繰り返す。
「6月ならまだ何とか耐えられるだろうと設定したんだろうね」
半年分のデータなのだから、6月が終わってからデータ分析し、早くて7月、普通なら8月が妥当なところ。それが6月になっただけマシなはずだったのだが。
「やり手ってことだな」
「どういうことです?」
「温暖化の方が、我々より上手だってことさ。我々人間がどう対策してくるか読まれて、対応されてる」
俺の言葉に、間が空いた。段ボール箱を棚に納めて、同僚を振り返る。生暖かい笑顔を浮かべて、頷かれた。体感温度が1度下がる。
誰かの悪口や噂話はしない。自慢話はしたくてもできない。限られた話題の中、ちょっとした冗談を入れるようにしている。しているのだが、こう暑くては会話のキャッチボールもうまくいかないものだ。
すっかり冷たくなった手をハーフパンツで拭った。
今日はこのくらいにしておこう。
アイスも自分で作るとタッパー1つ分できる。何日分ものおやつになる。
毎日休まず出社して、寒いギャグで同僚に涼を提供しているのだ。
これくらいアリでしょう。
我、アイスをあいす