中谷秀和の飯テロ生活   作:藍色 紺

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45 クールに決めたい午後三時(アイスクリーム)

「これこれ」

 

 さっきまで核を失ったスライムのように、フローリングでのびていた。

 それが、たった一口で生き返る。

 

 左手にタッパー、右手に大きめスプーン。

 スプーンで紫色のアイスをすくって、口へ運ぶ。

 

 曇った眼鏡の奥で目が細まる。口角が上がる。

 冷たい。爽やかな甘みにガツンとやられる。

 ブルーベリーの渋味とヨーグルトのまろやかさがいい具合に混じっている。

 

 目を閉じる。まぶたが熱を持ってジンジンと痛いのは、たぶん軽い熱中症だからだ。梅雨を狙って入れていた屋外業務のはずが、雨がちっとも降らず、6月中に終わらせねばならぬ身としては、何としてもやらねばらなかった。

 身に危険があろうとも、やらねばならず、かといって健康でいなければならぬ。

 悲しきかなサラリーマンである。

 

「レモンがいい仕事してる」

 

 ブルーベリーヨーグルトアイスを作ったのは、金曜の夜こと。

 何か作りたいのに、残っている体力は僅かで、作れる物で食べたい物を探して、捨てられた犬のようにスーパーの店内を無駄にうろつく。

 ケーキやクッキー類は手がかかる。何より、焼くのも熱い。食べるのも同様だ。

 

 割引シールを手にした店員さんに不信がられていることに気が付いて、頭を切り替える。

 逆の発想をしよう。

 今俺が作りたいのは手軽にできて、焼かずにすんで、冷やっこいものである。

 

 そういうわけで、生クリームとブルーベリーを買ったわけだ。

 

 アイスは案外手軽に作れる。

 生クリームを7分立てにして、任意の何かをぶち込む。

 今回なら、ヨーグルトとブルーベリー。

 おいしさのために、ブルーベリーはレモンで爽やかさマシマシにしたジャムを作ってから混ぜた。

 それらを混ぜて、冷凍庫に入れておけばよろしい。

 アイスクリームメーカーがあるのならもっと簡単で、材料を入れて冷やしておけばできる。

 

 俺の夏の定番おやつだ。

 

 タッパーいっぱいにつくったアイスを食べながら、今週分のガチャを回す。毎日毎日ログインボーナスを通勤電車で貯めて、週末にガチャる。出たアイテムやキャラを強化して、遊ぶのが趣味だ。

 週末は基本的には人と会わないことにしている。疲れるからだ。

 

 

 先週からの俺の仕事といえば、屋外でデータを集め、社内に戻って1月からの半年分のデータ分析し、そのデータを耐火書庫に納める。社内に戻れるならマシだと思うだろうが、耐火書庫にエアコンはない。

 膨大な書類をファイリングし、段ボール箱に納めて、台車に載せる。箱をしかるべき棚に納める。ただこれだけのことだが、1箱約20kgを上げ下ろし続ければ、ちょっとした筋トレだ。

 

「紙データなんて時代錯誤だよな」

 

 気を紛らわしたくて、共に業務にあたっている同僚に雑談をふる。

 

「急ぎでないのに、なんでこんな暑い時期にやるんですか?」

 

「半年一区切りだからかな」

 

「急ぎじゃないんだから、涼しくなってからでよくないです?」

 

 余程嫌なのだろう、急ぎでないことを繰り返す。

 

「6月ならまだ何とか耐えられるだろうと設定したんだろうね」

 

 半年分のデータなのだから、6月が終わってからデータ分析し、早くて7月、普通なら8月が妥当なところ。それが6月になっただけマシなはずだったのだが。

 

「やり手ってことだな」

 

「どういうことです?」

 

「温暖化の方が、我々より上手だってことさ。我々人間がどう対策してくるか読まれて、対応されてる」

 

 俺の言葉に、間が空いた。段ボール箱を棚に納めて、同僚を振り返る。生暖かい笑顔を浮かべて、頷かれた。体感温度が1度下がる。

 

 誰かの悪口や噂話はしない。自慢話はしたくてもできない。限られた話題の中、ちょっとした冗談を入れるようにしている。しているのだが、こう暑くては会話のキャッチボールもうまくいかないものだ。

 

 

 すっかり冷たくなった手をハーフパンツで拭った。

 今日はこのくらいにしておこう。

 

 アイスも自分で作るとタッパー1つ分できる。何日分ものおやつになる。

 

 毎日休まず出社して、寒いギャグで同僚に涼を提供しているのだ。

 これくらいアリでしょう。

 

 我、アイスをあいす

 

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