朝、通勤電車が空いている……。
理由に気づいた自分を責めた。心なしかエアコンが寒い。
電車が空いているのは、『夏休み』だからダヨ☆
学生さんがいないだけでなく、教育関係のみなさんの勤務時間が変則な関係だ。
俺も三十半ば、夏休みを卒業して久しい。決して夏休みに羨望の念を持っているわけではない。
夏休みってことは、今年もアレが近いのか――!!
今年、俺にはまとまった盆休みがない。
5日程度の休みでさえ、体の芯から社畜エキスを搾り取るには短いとは思いませんか!?
なのに、それすら、ない!
帰省も海や川も、登山やハイキングも、スカイダイビングやバンジージャンプもない。
休みがあったとしてもするかどうかわからぬ活動でさえ、もはや羨ましい。触れるもの皆傷つけてしまいそうだ。
うらやま……しぃ……。
ウラヤ……シ……。
ぷしゅぅぅうう……。
俺の脳内で何かがショートした。
白い煙が目の前に立ちのぼる幻覚まで見えた。いや、幻覚であってほしい。
手はぶらんと膝の上。まぶたは半分閉じ、口元からは乾いた「ふぉ……」という音。
思考が落ちていく。
シャットダウンまで、あと5秒――
――そのとき、黄緑のSNSが鳴った。
「キングオブお刺身 「三崎マグロ」がお買い得!!」の通知が見える。
ピカッ。
内部起動音が聞こえる。
キィーン――!
眼鏡レンズが閃光を放った。
「マグロを食べたければ、三崎へ行け!」の三崎マグロが最寄りのスーパーで買えるだと!?
三崎まぐろきっぷの価格は、 横浜から4100円。行く時間がないのなら、せめて買えばいいんじゃない?
というわけで、帰りに俺のアミューズメントパーク、通知を許す心の友である最寄りのスーパーへ行ってきた。
三崎マグロの柵がDoom!
おまけにサーモン、ホタテ、甘エビ、イカも買った。
今夜は海鮮丼である。
とっても贅沢だが、休みがないのだから、仕方ない。
だって、このままなら通勤途中に京急で三崎まで行っちゃいそうだし、社会的には断然健康的。うん、仕方ないヨネ。
米を洗って給水し、しばし風呂タイム。
すぐに米を炊かない理由は、土鍋ご飯にするからだ。
こんな贅沢な海鮮物を揃えているのだから、当然米も極上にしないと釣り合わない。
撃てる弾は全部撃つ。
ピッカピカの炊き立てご飯に、三崎マグロをライドオン!
見た目を気にする余裕もなく、サーモン、ホタテ、甘エビにイカを次々とのせた。
一息ついて、最後にとろろで完成である。
散歩中の犬のように鼻息荒く、こたつ机に海鮮丼を運んだ。
三崎マグロと飯を俺なりの黄金バランスで箸ではさむ。
眼鏡が曇る。
今日はそのままぱくっといただく。
うまっ!
何かのスイッチが入ったかのように、無心で食べる。
マグロ、飯、飯
ホタテ、飯、ツーン……
イカ、飯、飯
もはや、掻き込むに近く、マナーも何もないがうまい。
カロンと空どんぶりに箸をのせる。
そのままゴロンと横になった。
腹はいっぱいで、刺身をアテにいっぱいやろうと準備していた冷酒は手つかずだ。