中谷秀和の飯テロ生活   作:藍色 紺

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47 シャットダウン寸前、海鮮丼で再起動ん(三崎マグロ)

 朝、通勤電車が空いている……。

 理由に気づいた自分を責めた。心なしかエアコンが寒い。

 電車が空いているのは、『夏休み』だからダヨ☆

 

 学生さんがいないだけでなく、教育関係のみなさんの勤務時間が変則な関係だ。

 俺も三十半ば、夏休みを卒業して久しい。決して夏休みに羨望の念を持っているわけではない。

 

 夏休みってことは、今年もアレが近いのか――!!

 

 今年、俺にはまとまった盆休みがない。

 5日程度の休みでさえ、体の芯から社畜エキスを搾り取るには短いとは思いませんか!?

 なのに、それすら、ない!

 

 帰省も海や川も、登山やハイキングも、スカイダイビングやバンジージャンプもない。

 休みがあったとしてもするかどうかわからぬ活動でさえ、もはや羨ましい。触れるもの皆傷つけてしまいそうだ。

 

 うらやま……しぃ……。

 ウラヤ……シ……。

 ぷしゅぅぅうう……。

 

 俺の脳内で何かがショートした。

 白い煙が目の前に立ちのぼる幻覚まで見えた。いや、幻覚であってほしい。

 手はぶらんと膝の上。まぶたは半分閉じ、口元からは乾いた「ふぉ……」という音。

 思考が落ちていく。

 シャットダウンまで、あと5秒――

 

 ――そのとき、黄緑のSNSが鳴った。

 

 「キングオブお刺身 「三崎マグロ」がお買い得!!」の通知が見える。

 

 ピカッ。

 内部起動音が聞こえる。

 

 キィーン――!

 眼鏡レンズが閃光を放った。

 

 「マグロを食べたければ、三崎へ行け!」の三崎マグロが最寄りのスーパーで買えるだと!?

 三崎まぐろきっぷの価格は、 横浜から4100円。行く時間がないのなら、せめて買えばいいんじゃない?

 

 というわけで、帰りに俺のアミューズメントパーク、通知を許す心の友である最寄りのスーパーへ行ってきた。

 

 三崎マグロの柵がDoom!

 おまけにサーモン、ホタテ、甘エビ、イカも買った。

 今夜は海鮮丼である。

 とっても贅沢だが、休みがないのだから、仕方ない。

 だって、このままなら通勤途中に京急で三崎まで行っちゃいそうだし、社会的には断然健康的。うん、仕方ないヨネ。

 

 米を洗って給水し、しばし風呂タイム。

 すぐに米を炊かない理由は、土鍋ご飯にするからだ。

 こんな贅沢な海鮮物を揃えているのだから、当然米も極上にしないと釣り合わない。

 撃てる弾は全部撃つ。

 

 ピッカピカの炊き立てご飯に、三崎マグロをライドオン!

 見た目を気にする余裕もなく、サーモン、ホタテ、甘エビにイカを次々とのせた。

 一息ついて、最後にとろろで完成である。

 散歩中の犬のように鼻息荒く、こたつ机に海鮮丼を運んだ。

 

 三崎マグロと飯を俺なりの黄金バランスで箸ではさむ。

 眼鏡が曇る。

 今日はそのままぱくっといただく。

 

 うまっ!

 何かのスイッチが入ったかのように、無心で食べる。

 

 マグロ、飯、飯

 ホタテ、飯、ツーン……

 イカ、飯、飯

 

 もはや、掻き込むに近く、マナーも何もないがうまい。

 

 

 カロンと空どんぶりに箸をのせる。

 そのままゴロンと横になった。

 

 腹はいっぱいで、刺身をアテにいっぱいやろうと準備していた冷酒は手つかずだ。

 

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