ミーンミンミンミンミーージジっ
「蝉鳴いてますね」
ネットで打ち合わせ中の同僚にも聞こえたらしい。そういうあちらからは時々赤ちゃんの泣き声と上の子の声が聞こえてくる。
俺より年下なのに、しっかり家庭持ち。素晴らしい。
接続を切って、背もたれに隠していたタオルで汗をぬぐう。エアコンは常時ON、カーテンを引いていても、まだ暑い。日本列島真っ赤っかだ。
うだるような暑さの中、リチウム電池なら破裂しているところ、俺は仕事までしている。脳みそパーン!なことをしでかしても、自分一人が犠牲者ならいいだろう。
酷暑なら、夏にしか楽しめぬものを作ればいい。
「徹底的に熱くなろうぜ!」
エアコンはOFF、カーテンは全開、窓を開けて蝉の鳴き声こんにちは!
台所への扉を開けるころには、部屋に冷気は消えていた。
いざ! 取り出したるはかき氷機!
先日、台所のメタルラック奥から発掘されたばかりのほやほやだ。
居室のこたつの上にかき氷機をセットして、冷やしておいた
シャッ シャッ シャッ
なかなかいい音がするじゃないか。
期待して
……。
なぜこのかき氷機が封印されていたのか思い出して、がっくりきた。
こいつはプラスチックに大きなバネが仕込まれているタイプ。上から氷を押さえる力が足りないから空回りして削れない。
力をかけながらバーを回すと、手ごたえがあった。
ジャっ ジャっ
薄く削れた氷を視認してから、本腰を入れて削り始めるが、これがなかなか骨が折れる。
もう半分はできたろ?
楽しみに見てみるが、まだ三分の一にも満たない。いろんな疲労が押し寄せる。
ぐでっと座り込んで、首にかけたタオルで顔をぬぐう。
できたかき氷より、汗かいた量の方が多いのは、なぁぜなぁぜ。
トホホと立ち上がって、かき氷機ごと冷凍庫に押し込む。しばし休戦だ。
手動がいけないのか? それともやはり圧力?
プライベート用パソコンで家庭用かき氷機について調べると、手動でも見事にかき氷が作れるのを見つけてしまった。いわゆるかき氷屋さんの横にあるバーをくるくる回すタイプのかき氷機のミニサイズのやつは、上からねじで氷を押さえるからスムーズに氷が削れる。
くっ! 俺はなぜこのタイプを買わなかったのか!
悔やまれるが、今ある武器で戦いたい。許された休日は本日のみである。
ちらっと冷蔵庫の中身を確認して、再戦に挑む。
短期決戦と行こうじゃないか!
今度は上から体重をかけるようにして、瞬発力をフル稼働しながら削る。押さえている左手が沈んでいき、順調なのがわかる。
よし! もうちょっとだ!
そのとき、眼鏡に汗が落ちた。
「っはぁ~……」
眼鏡を外し、Tシャツの裾で磨くと、肩の力が抜ける。
眼鏡をかけ直して、
これで終わる俺じゃない。
目指すかき氷があって、そこへ向かっているのだから、諦められない。
ポタポタ水滴を落とすかき氷機を脇におしやって、台所に
冷蔵庫から援軍をごぞごぞ取り出す。
バニラアイスをもりっ
生クリームをほわっ
コーヒーゼリーをどしゃっ
チョコソースをたらっ
仕上げにコーヒーソースをさらさら~
一番のこだわりは、手作りコーヒーソースである。
作り方はいたって簡単。インスタントコーヒーの粉大さじ一に砂糖を一・五倍、そいつを砂糖と同量の水で溶いて、雪平鍋で加熱するだけ。作っておくだけで、牛乳に入れればコーヒー牛乳になる優れもの。
これをカルーアミルクにするのもいい。
とっても豪華なコーヒーかき氷をもってこたつ机に戻る。写真撮影して投稿。
大きな木の匙であぐりと食べる。冷てぇー。は~。これだよ。これ。
二口目は生クリームと。うん、これは、安定のうまさ。
お次はバニラアイスと。……。うまくないはずがなく、もう一口。
口の中が冷たくなって、ゼリーへ。
あ~。贅沢。
キーンときた額に顔をしかめながら、それすら楽しい。
仕事なんか頭を痛めても解決せぬが、氷の痛さは自然に消えてくれる。
しっかり水気を拭きとったかき氷機は、箱に封印して、メタルラックの最奥へ。
きっと数年後、また忘れたころに出してくるだろう。