中谷秀和の飯テロ生活   作:藍色 紺

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51 煮るなり焼くなり(餃子)

 プシュっ!

 

 買ってきたばかりのビール缶のプルタブを開けた。

 お気に入りの黒いラベルに星マークがついたビールの味わいに満足する。いろんなメーカーのいろんなビールにチャレンジするが、今のところこれに戻ってくる。こういうのが好きってやつなんだろう。

 缶のままビールをもう一口飲んで、餃子包み作業に戻った。

 

 

 夕食は、餃子です!

 あぁ、休みっていいな。である。

 餃子を大量に作る時間的余裕があるし、ニンニクを入れることもできる。

 ハラスメントは数あれど、スメハラはなかなか我慢ならぬハラスメントの一つだ。見かけなら見ないようにできるが、匂わないようにすることはできないし、被害者は不特定多数。休日にぴったりだ。

 

 餃子を作るのは2パターンある。

 1つめが、皮から作るやつで、2つめが市販品の皮に自家製のアンを包むやつ。

 餃子の皮作りは、難しそうに見えて、案外簡単。混ぜて、切って、伸ばすだけ。伸ばすときに、向こう側が透けるくらいうっすうすにすれば、焼き餃子にいいし、むっちりにすれば水餃子にいい。ただ難点なのが、数作ると疲れる。

 

 なんてったって、俺は餃子を一度に200個作る。皮作りよりも数の方が優先順位が高い。200個作るとなると、皮も200枚。アンを包むのも200個。これが大変なので、皮を作るには覚悟がいる。

 

「餃子200個!?」

 

 餃子の話をしたときの後輩の反応がこれ。

 

「え、何の話?」

 

「ちょっと聞いてくださいよ。中谷さんの餃子の数」

 

「何なに? また何か作る系?」

 

「作る系っすよ。中谷さん餃子作るとき何個作ると思います?」

 

「え~、餃子面倒くさい。スーパーのでいいよ」

 

「ですよね~。で、中谷さんは何個作るわけ?」

 

 みんなの視線がこっちに集まる。眼鏡をくいっと上げる。

 

「200個ですけど、何か?」

 

「200個!?」

 

 ここらで、よその部署まで声が届き始めるわけだ。

 

「ギョザパでもするんすか?」

「私呼ばれてないんだけど」

「変わったのも入れようよ、キムチとか」

「劇辛のでロシアン餃子とか」

「なら甘いのも」

 

 話が膨らんでいき、部長の咳払いで解散する。そうですか。餃子200個ってそんなに異常ですか。

 

 一般家庭では、餃子は一度に何個くらい作るんだろうか。某餃子チェーン店では、一人前は6個。Google先生によれば成人男性が一度に食べる数は5~10個。

 えぇぇ、少なくない?

 みんな、そんな量で満足するのん?

 俺は30個は食う。

 何なら、翌日も同じ量食べるから、一度に60個は焼く。するてっと、200個の餃子は、3回分とちょっとしかない。このくらいないと寂しい。手間をかけた甲斐がない。

 

 餃子は好きだ。

 でも、アンを包むのがいまいち好きになれない。

 だから、一度に済ませたい。

 落としどころが200個なわけだ。

 

 

 朝から、キャベツと白菜をさっと煮て、ぎゅうぎゅう絞り、フードプロセッサ―でみじん切りにする。そこに、豚肉もフードプロセッサーで自家製ひき肉にする。キャベツ一玉と白菜は半玉に豚肉は700gしか入れない。ショウガやニンニク、ネギ、片栗粉、醤油、ごま油、塩、コショウを入れてさらにフードプロセッサーにかける。これでアンのできあがり。簡単である。

 

 夏はエアコンのきいた部屋で、冬はこたつで、一週間分の配信を見ながら、ビールを呑みつつ、ちまちま包む。

 包む。

 包む。ツツム。

 ……、――――、俺は何と戦ってるんだろう。

 たまにそんな気持ちにもなるが、机の上を見れば、餃子がずらっと、大名行列のごとく並んでいる。進んでいないわけではないのだ。

 ゲームでいえば、HPゲージの見えているボス戦である。

 ちまちまとした攻撃で、なかなか削れないゲージも、見えているからこそ諦めないでいられる。餃子も一緒。

 やればやるほど餃子は増え、確実にうまいもんが食べられる。この堅実性に癒されるほどには、虚無的な日常を送っている。

 餃子200個を並べた絵面も達成感がある。

 

 鼻歌を歌いながら、まずは水餃子。

 大きめの鍋に水を沸かして、ショウガのかけらと日本酒、鶏がらスープの素と醤油少々を入れておく。そこへ、包み終わった餃子をトプンと入れて茹でるだけだ。

 簡単なので、腹が減って仕方ないのに、作る元気がない平日に最高だ。冷凍庫から直接入れてもいいし、何なら白米が炊けてなくてもこれだけで十分腹いっぱいになる。栄養の三色が同時に食べられて、胃腸に優しい。最高でしょ。

 どうしようもなく落ち込んでいるときも、家に帰れば餃子がある。なら、家には希望があるわけだ。餃子とは希望である。ならば、あればあるほどいいわけで、200個に膨れ上がる。

 

 水餃子の脇で、フライパンで焼き餃子を作る。

 綺麗に並べて、焼き目をつけたら熱湯をカップに半分回し入れて、蓋をする。耳をつけたけりゃ、熱湯の代わりに水溶き片栗粉。

 ちょいちょい揺すってやりながら、音を聞く。

 ジュージューから、小さなパチパチに音が変わったら、焼き上がり!

 

 

 炊き立てご飯、水餃子、焼き餃子、ビールが並んだ食卓を囲む。

 

 水餃子のスープを啜ると、眼鏡が曇る。

 ショウガが効いて、胃の形に温かさがしみる。

 水餃子にかぶりつけば、じゅわっとあふれる肉汁。それをスープと飲む。とぅるんとぅるんの皮がたまらん。

 

 焼き餃子を白米に載せると、酢醤油と餃子の汁や油で飯がてかる。

 それをはぐはぐとかきこむ。

 肉にしょっぱさ、すっぱさ、米の甘さ、油が混じるわけだ。

 たまんないでしょ!

 幸せ以外の何ものでもない。

 うまいものを、たらふく食う。

 腹いっぱいになれば、ゴロンと横になる。

 腹を撫で、昼からふわふわしている意識を手放す。

 大丈夫、このまま寝ても、明日は休み。

 ふわっ、ふわぁぁ……。

 

 目を閉じると、視界に餃子が並んでいる。

 まだ、戦いは終わっていない。

 

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