カフェインが足りねぇ……。
わかっている。コーヒー不足だ。
ぼんやりした頭を抱えながら、某有名輸入食材店をうろつく。
コーヒー豆は、新鮮なほどおいしいというが、なかなかお高い。
買うにしても、ちょっと覚悟が必要だ。
気づけば、棚の前で固まっていた。
「復活したのか!」
そこにいたのは、赤と白のギンガムチェックの蓋のジャム。
ボンヌママンのジャムだ。
俺にとってジャムといえばボンヌママン。それ以外の市販品をうまいと思ったことはない。
浮足だって、二つ手に取り、棚が空になる。そして、手が止まった。
これ、他にも欲しい人がいるんじゃね?
何せよ、復活である。
そう、ボンヌママンのジャムは春頃に販売休止になって、以来輸入されていなかった。
いつでも買える。
そうタカをくくっていたから、買い置きはなかった。
気が付けば、輸入食材店にもスーパーにもネットにもなくなっていた。
ヨーグルトを食べるときにも、溜息が出る。
パンをカリっとふわっとトーストしたときにも物足りない。
アイスクリームを作るときにも、アクセントに欠ける。
スムージーにしても――。
いつだって、失ってから、真なる価値に気づく。
食いしん坊ではあるが、他人の幸せを奪う俺ではない。
二つの内、一つを棚に戻し、心の中でエールを送る。
他の人を幸せにしておくれ☆
そんなわけで、ボンヌママンのブルーベリージャム一瓶と、コーヒー豆、クロテッドクリームを買ってきました。
ボンヌママン再販を祝し、熱い、熱いエールを送る!
ブルーベリージャムのおいしい食べ方は何だー?
スコーン!!
赤い、白い、ギンガムチェックのジャムは何だー?
ボンヌママン!
今年、優勝するのは?
スコーン!
ウィー! マム!
もはや、心は燃え滾っている。
冷たいバターをナイフでサイコロ状に切り分ける。
小麦粉へ入れて、手でバターに小麦粉をすり合わせていく。
この時、練ってはいけない。
練らぬために、手を使う。
ホロホロのパン粉みたいになったら、そこに砂糖と卵、牛乳を混ぜたのを入れて、手でかき混ぜる。
型で抜いて、オーブンで焼けばスコーンの出来上がり!
所要時間30~45で作れる。食べたくなったら即作れる。
これぞスコーンの醍醐味。
アフタヌーンティーのイメージがあるが、家庭料理というのが俺の中の位置づけ。
スコーンもいろんな種類がある。
チョコが入っていて、単体でうまいやつ。
ほわほわでホロホロしたのや、カリカリさくさくしたのやら。
たぶん家庭の数だけ正解がある。
焼いている間に、コーヒーをブリッカで淹れて、ジャムとクロテッドクリームを並べる。
その間に、台所はほのかにバターと砂糖が焼けた香りで満ちてくる。
甘い幸せの予感に、コーヒーの香りが混ざり始めると、午後の幸せは約束されたようなものだ。
オーブンに呼ばれて、中を見る。
スコーンの腹がぱっくり割れて、上面が傾いている。
最高である。
あっつあつのスコーンをいそいそと机に持っていく。
火傷に気を付けながら、割れた腹から指を入れて開く。
眼鏡が曇る。
そこに、まずはクロテッドクリームを塗る。
じゅわっと透明になってしたたり落ちる上に、ブルーベリージャムをたんまり乗せる。
スコーンでサンドしたら、ハンバーガーくらいの厚みがある。
そいつを、ばぐっ!!
当然、口からは溶けたクロテッドクリームが流れる。
行儀が悪い。
口の中では、サクサクあつあつのスコーンに冷たいクリームが重なる。
そこにジャムのさわやかさがどぉぉぉん!
一つ全部食べ切って、ようやくコーヒーを一口。
コーヒーを飲むくらいになって、ようやく人間に戻る。
たぶん、スコーンを食べてるときはマナーがなってない。
英国紳士の食べ物のはずだが、綺麗に食べられるわけがない。
二つ目に手を伸ばす。
――あぁ、やっぱりこの味。この食感。
ブルーベリーの味が濃くて、ちゃんと甘い。
カロリーや糖質に配慮するのではなく、ちゃんと果物と砂糖の味がする。
だから、少量でもうまい。
固くもなく、やわらかすぎもしない。
うまぁ――。染みる……。
ん゛ん゛ん(咳払い)
失って初めて気が付く価値というのもあるが、
個人的に、食文化は受け継いでいきたいなーと思っております。
ありがとう。ボンヌママン復活。ずっと大切にするからな。