中谷秀和の飯テロ生活   作:藍色 紺

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57 ママンの帰還(ブルーベリージャムにスコーンを添えて)

 カフェインが足りねぇ……。

 

 わかっている。コーヒー不足だ。

 ぼんやりした頭を抱えながら、某有名輸入食材店をうろつく。

 

 コーヒー豆は、新鮮なほどおいしいというが、なかなかお高い。

 買うにしても、ちょっと覚悟が必要だ。

 

 気づけば、棚の前で固まっていた。

 

「復活したのか!」

 

 そこにいたのは、赤と白のギンガムチェックの蓋のジャム。

 ボンヌママンのジャムだ。

 俺にとってジャムといえばボンヌママン。それ以外の市販品をうまいと思ったことはない。

 

 浮足だって、二つ手に取り、棚が空になる。そして、手が止まった。

 

 これ、他にも欲しい人がいるんじゃね?

 

 何せよ、復活である。

 

 そう、ボンヌママンのジャムは春頃に販売休止になって、以来輸入されていなかった。

 

 いつでも買える。

 そうタカをくくっていたから、買い置きはなかった。

 気が付けば、輸入食材店にもスーパーにもネットにもなくなっていた。

 

 ヨーグルトを食べるときにも、溜息が出る。

 パンをカリっとふわっとトーストしたときにも物足りない。

 アイスクリームを作るときにも、アクセントに欠ける。

 スムージーにしても――。

 

 いつだって、失ってから、真なる価値に気づく。

 

 食いしん坊ではあるが、他人の幸せを奪う俺ではない。

 二つの内、一つを棚に戻し、心の中でエールを送る。

 

 他の人を幸せにしておくれ☆

 

 

 そんなわけで、ボンヌママンのブルーベリージャム一瓶と、コーヒー豆、クロテッドクリームを買ってきました。

 

 ボンヌママン再販を祝し、熱い、熱いエールを送る!

 ブルーベリージャムのおいしい食べ方は何だー?

 スコーン!!

 

 赤い、白い、ギンガムチェックのジャムは何だー?

 ボンヌママン!

 

 今年、優勝するのは?

 スコーン!

 

 ウィー! マム!

 

 もはや、心は燃え滾っている。

 冷たいバターをナイフでサイコロ状に切り分ける。

 小麦粉へ入れて、手でバターに小麦粉をすり合わせていく。

 この時、練ってはいけない。

 練らぬために、手を使う。

 

 ホロホロのパン粉みたいになったら、そこに砂糖と卵、牛乳を混ぜたのを入れて、手でかき混ぜる。

 

 型で抜いて、オーブンで焼けばスコーンの出来上がり!

 

 所要時間30~45で作れる。食べたくなったら即作れる。

 これぞスコーンの醍醐味。

 アフタヌーンティーのイメージがあるが、家庭料理というのが俺の中の位置づけ。

 

 スコーンもいろんな種類がある。

 チョコが入っていて、単体でうまいやつ。

 ほわほわでホロホロしたのや、カリカリさくさくしたのやら。

 たぶん家庭の数だけ正解がある。

 

 焼いている間に、コーヒーをブリッカで淹れて、ジャムとクロテッドクリームを並べる。

 その間に、台所はほのかにバターと砂糖が焼けた香りで満ちてくる。

 甘い幸せの予感に、コーヒーの香りが混ざり始めると、午後の幸せは約束されたようなものだ。

 

 オーブンに呼ばれて、中を見る。

 スコーンの腹がぱっくり割れて、上面が傾いている。

 最高である。

 

 あっつあつのスコーンをいそいそと机に持っていく。

 火傷に気を付けながら、割れた腹から指を入れて開く。

 眼鏡が曇る。

 そこに、まずはクロテッドクリームを塗る。

 じゅわっと透明になってしたたり落ちる上に、ブルーベリージャムをたんまり乗せる。

 スコーンでサンドしたら、ハンバーガーくらいの厚みがある。

 

 そいつを、ばぐっ!!

 当然、口からは溶けたクロテッドクリームが流れる。

 行儀が悪い。

 

 口の中では、サクサクあつあつのスコーンに冷たいクリームが重なる。

 そこにジャムのさわやかさがどぉぉぉん!

 

 一つ全部食べ切って、ようやくコーヒーを一口。

 コーヒーを飲むくらいになって、ようやく人間に戻る。

 たぶん、スコーンを食べてるときはマナーがなってない。

 英国紳士の食べ物のはずだが、綺麗に食べられるわけがない。

 

 二つ目に手を伸ばす。

 ――あぁ、やっぱりこの味。この食感。

 ブルーベリーの味が濃くて、ちゃんと甘い。

 カロリーや糖質に配慮するのではなく、ちゃんと果物と砂糖の味がする。

 だから、少量でもうまい。

 固くもなく、やわらかすぎもしない。

 うまぁ――。染みる……。

 

 ん゛ん゛ん(咳払い)

 失って初めて気が付く価値というのもあるが、

 個人的に、食文化は受け継いでいきたいなーと思っております。

 

 ありがとう。ボンヌママン復活。ずっと大切にするからな。

 

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