中谷秀和の飯テロ生活   作:藍色 紺

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61 ないものねだり(スパイスカレー)

 今日何食べようかな。

 そんな余裕があるのが羨ましい。

 

 俺は、猛烈にスパイスカレーが食べたい。

 目を閉じると、油でスパイスが弾く音がする。鼻腔にただようカルダモンとクローブの匂い。

 たまらん!

 

 正月休み中、必ずお節やらご馳走に飽きるときがくる。そんなときに食べるカレーが、うまい。

 お財布にも優しく、温まり、腹もふくれる。

 しかも、三食いける。言うことなしだ。

 

 ――あるはずだった。

 

 なのに、食べられなかった。

 俺の、スパイスカレー……。

 

 カレーのスパイスセットには、こだわりがある。

 香辛料を全部揃えて、調合し、一週間寝かせる。そんな究極のやつも、やったことがある。

 

 香辛料メーカーが出しているスパイスセットも、端から試した。

 そして、the 中谷 Bestを見つけたのだ。

 もう、あのセットなしでは、理想のスパイスカレーは作れない。

 

 なのに、なかったのだ。

 我が家にスパイスセットがない!

 

 買ったはずだ。

 年末の買い出しを思い出す。

 レジの列が、食品棚の半ばまで達するような混雑の中、カレーコーナーにたどり着いた。目当てのスパイスセットを目の前にし、躊躇する。

 

 あった……よな?

 買ったとして、もしあればダブルことになる。

 調味料は新鮮な方がいい。ダブルのは避けたい。

 

 だが、もしなかったら?

 なくても、耐えられるだろうか。

 

 なんで、あのとき、耐えられるなんて思っちゃったかなぁ?

 耐えられないYo!

 

 寝ても覚めても、我慢できず、三が日の間に開いているスーパーを検索した。

 年末年始、スーパーも休もう。みんなで休めば怖くない。働き方改革だぞ! なんて言ったはずだが、今は休みが恨めしい。

 いつもの店は、五日までお休み。

 開いているスーパーをしらみつぶしに行った。正月休みでたるんだ肉体に喝を入れるのだ。そして、スパイスセットを見つけた暁には、たらふく食うのだ!

 しかし、どこにもなかった。

 

 スパイスコーナーで、茫然とする俺。

 スパイスからカレーを作ろうって人は、案外少ないのね……。

 需要と供給のマッチ具合を発見しながら、それでも諦め切れない。

 スパイスを調合しようにも、

 the 中谷 Bestが舌に再現される。

 

 三十路、もう己のことはわかっている。

 ここで、妥協して違うカレーを作っても、我慢できずに、近いうちに目当てのカレーを作るハメになる。

 普通のカレーも大好きだけど、今はスパイスカレー舌が譲れない。

 

 生憎、会社は五日から始まった。

 スーパーに行くのはまだ先である。

 なのに、通勤中、カレー専門店の前を通らねばならない。

 もう香りが暴力!

 朝はいいけど、帰りがキツイ。

 空腹を抱え、ゾンビのように歩きながら、最も欲する食い物がある。

 つらい。

 食べたい。

 作りたい。

 

 なのに、まだスパイスセットは買えてない。

 三連休。三連休が遠い。

 

 




スパイスカレー回はこちら
https://syosetu.org/novel/392862/16.html
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