中谷秀和の飯テロ生活   作:藍色 紺

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63 ミラノ種目違い(ホットショコラスキー)

 バレンタイン。笑止。

 三十路を満喫中の俺にとって、バレンタインデーはドキドキデーではない。

 会社でも、女性社員から男性社員へ、なんて日はとうに終わった。

 義理も本命も、コンプラの前では沈黙する。

 

 だから、俺は、台所でチョコを割っている。

 コンビニでもスーパーでも、行く先々にうまいチョコと出くわす。その度に、何を作ろうか悩んでしまう。

 手軽に生チョコ。ガトーショコラも捨てがたい。切ったらチョコソースがとろけるフォンダンショコラ、チョコテリーヌと、ラインナップは豊富にある。

 でもさ。

 どうせなら、買えないもんがいいよな。

 

 チョコを手で割ったら、酒の棚を吟味する。

 酒好きのグルメが通る道を、俺も一通り通ってきている。ウィスキー、ブランデー、スピリッツにカクテルに使うシロップもそこそこ揃っている。それこそ、バーテンさんが使うメジャーカップなんかもある。

 

 

 そんなわけで、ホットショコラスキーなわけだ。

 

 ホットショコラスキ―の作り方はいたって簡単。

 ホットチョコレートを作り、そこにウィスキーを混ぜるだけ。

 今回は、配合を楽しむ。

 大人だから。

 

 温度が高いから、モルトの主張が強いのは次回に回す。

 まずは、ベーシックで好みのところからいこう。

 スコッチのブレンド12年もの。

 カカオは70%の、ほどよく苦くて甘いのを選ぶ。

 

 ステンレスのメジャーカップ小をすちゃっと手で恰好よく取り、牛乳を2杯。

 雪平で温める。

 そこへチョコレートを15g、約半分を先に投入して溶かす。

 溶けたら残り半分を入れて、もう一度加熱する。

 再加熱で濃厚さが増す。泡が立ち、艶が出る。

 見た目がいい。

 思わず、スコッチのボトルのラベルを手直ししてから、負けない写真をパシャっと撮る。

 湯気まで映り込んで、完璧である。

 

 

 ウィスキーをメジャーカップの小さい方で流し入れれば完成。

 大人なので、アルコール分は飛ばさずに飲む。

 

 いそいそとこたつに入る。

 スマホをサイレントにして、部屋の灯りを間接照明だけにして落とす。

 ベッドに背中を預け、リラックスするとなお美味い。

 大人のチラックスタイムだ。

 

 はたと思い出して、SNSを立ち上げた。

 暗い部屋で、俺の顔が光る。

 

 #手作りチョコをつけて投稿したタイムラインが、スクロールに合わせて飛び込んでくる。

 リボンが舞い、ラッピングが光り、チョコペンが躍る。

 俺の投稿は、湯飲みと、メジャーカップとスコッチである。

 

「競技が違うな」

 

 湯飲みが無骨だ。

 せめてマグカップにすればよかったか。

 

 まぁ、それもいいだろう。

 何しろ、現場でしか飲めない代物だ。

 

 湯飲みに匙をつっこみ、混ぜる。

 温められたスコッチの芳香が、これから味わう甘味を予感させて、期待が膨らむ。

 これがホットショコラスキーの醍醐味だ。

 

 鼻に近づけ、眼鏡を曇らせる。

 この湯気だって、スコッチだ。

 これは様式美であり、温かさを実感して幸せになれる儀式である。

 

 がっつかず、大人の余裕を持って一口目を頂く。

 我慢している分、期待感というエッセンスが加わる。

 

 先に鼻に抜けるウィスキーの香り、遅れてやってくるショコラの濃厚さと甘味。

 最後に苦みが降りていき、鼻からウィスキーの香りが抜ける。

 

 へへへ。

 これが俺のバレンタインデーだ。

 皆の#手作りチョコとはだいぶ違うが、それもよかろう。

 

 もう少しウィスキーを足そうかしらん。

 

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