バレンタイン。笑止。
三十路を満喫中の俺にとって、バレンタインデーはドキドキデーではない。
会社でも、女性社員から男性社員へ、なんて日はとうに終わった。
義理も本命も、コンプラの前では沈黙する。
だから、俺は、台所でチョコを割っている。
コンビニでもスーパーでも、行く先々にうまいチョコと出くわす。その度に、何を作ろうか悩んでしまう。
手軽に生チョコ。ガトーショコラも捨てがたい。切ったらチョコソースがとろけるフォンダンショコラ、チョコテリーヌと、ラインナップは豊富にある。
でもさ。
どうせなら、買えないもんがいいよな。
チョコを手で割ったら、酒の棚を吟味する。
酒好きのグルメが通る道を、俺も一通り通ってきている。ウィスキー、ブランデー、スピリッツにカクテルに使うシロップもそこそこ揃っている。それこそ、バーテンさんが使うメジャーカップなんかもある。
そんなわけで、ホットショコラスキーなわけだ。
ホットショコラスキ―の作り方はいたって簡単。
ホットチョコレートを作り、そこにウィスキーを混ぜるだけ。
今回は、配合を楽しむ。
大人だから。
温度が高いから、モルトの主張が強いのは次回に回す。
まずは、ベーシックで好みのところからいこう。
スコッチのブレンド12年もの。
カカオは70%の、ほどよく苦くて甘いのを選ぶ。
ステンレスのメジャーカップ小をすちゃっと手で恰好よく取り、牛乳を2杯。
雪平で温める。
そこへチョコレートを15g、約半分を先に投入して溶かす。
溶けたら残り半分を入れて、もう一度加熱する。
再加熱で濃厚さが増す。泡が立ち、艶が出る。
見た目がいい。
思わず、スコッチのボトルのラベルを手直ししてから、負けない写真をパシャっと撮る。
湯気まで映り込んで、完璧である。
ウィスキーをメジャーカップの小さい方で流し入れれば完成。
大人なので、アルコール分は飛ばさずに飲む。
いそいそとこたつに入る。
スマホをサイレントにして、部屋の灯りを間接照明だけにして落とす。
ベッドに背中を預け、リラックスするとなお美味い。
大人のチラックスタイムだ。
はたと思い出して、SNSを立ち上げた。
暗い部屋で、俺の顔が光る。
#手作りチョコをつけて投稿したタイムラインが、スクロールに合わせて飛び込んでくる。
リボンが舞い、ラッピングが光り、チョコペンが躍る。
俺の投稿は、湯飲みと、メジャーカップとスコッチである。
「競技が違うな」
湯飲みが無骨だ。
せめてマグカップにすればよかったか。
まぁ、それもいいだろう。
何しろ、現場でしか飲めない代物だ。
湯飲みに匙をつっこみ、混ぜる。
温められたスコッチの芳香が、これから味わう甘味を予感させて、期待が膨らむ。
これがホットショコラスキーの醍醐味だ。
鼻に近づけ、眼鏡を曇らせる。
この湯気だって、スコッチだ。
これは様式美であり、温かさを実感して幸せになれる儀式である。
がっつかず、大人の余裕を持って一口目を頂く。
我慢している分、期待感というエッセンスが加わる。
先に鼻に抜けるウィスキーの香り、遅れてやってくるショコラの濃厚さと甘味。
最後に苦みが降りていき、鼻からウィスキーの香りが抜ける。
へへへ。
これが俺のバレンタインデーだ。
皆の#手作りチョコとはだいぶ違うが、それもよかろう。
もう少しウィスキーを足そうかしらん。