眼鏡にマスク姿で、スーパーをうろつく。
決して怪しい人ではない、油断すると鼻がムズムズ。
くしゃみを連発する気の毒な人になってしまう。
インフルエンザの波を乗り越え、年末年始の業務をどうにか回した。
だが、その先に待っていたのは、風邪だった。
喉が痛く、鼻水が出て、高い熱が四日も続いた。
ようやく出社したら、枯れた声しか出せずに、同僚がそっとマスクを押えて、後退る。
そんな目に遭った先、花粉の季節がやってきた。
アレルギーの薬で頭はよく動かず、とりあえず食指が向く物を籠に放り込む。
うぅぅ。なんかうまいもんが食べたい。
できれば、滋養に良さそうなもんがいい。
何も決まらないまま野菜コーナー、鮮魚コーナーを通り過ぎる。
危険な兆候だ。
鮮魚コーナーの隅で、ふと目に留まった。
塩蔵わかめ
あぁ、これだ。
瞬で、献立が決まった。
わかめご飯にしよう。
給食でよく出て来たアレである。
白いご飯にみじん切りになったわかめとごまが混ざっている。地味に好きなやつだ。
塩蔵わかめを前に迷ってしまう。
右は瀬戸内の我が地元産。
左は三陸産である。
なぜ迷うか。
産地によってわかめには特徴がある。
温暖な瀬戸内のわかめは、やや薄めでやわらかい。風味がよい。
寒い三陸のわかめは、肉厚で歯ごたえがよく、風味がよい。
どちらも捨てがたい。
そのときの気分で使い分けるのがよいのだろうが、おひとり様な俺にとって、塩蔵わかめは、ひとたび買うと長い間減らぬ相棒となる。よって使い分けは不可だ。
身体が弱っているのもあって、地元産を選んだ。
アパートのドアの前で、全身をはたく。
玄関に入り、服を全部脱いで洗濯機へ。シャワーをしてから人心地つく。
「さて、やりますか」
お米を洗って、みりんに日本酒を足してご飯を炊く。
少し迷ったが、お米は二合にした。食べきれなかったら、おにぎりにして弁当にすればいい。
その間に、塩蔵わかめを水で戻す。
しわしわのくちゃくちゃになっているわかめだが、水で戻す量が問題である。
こいつは、とんでもなく増える。
いつもなら、握りこぶし程度の大きさだが、今回はわかめを楽しみたい。
思い切って、掌サイズのわかめを水でざっくり洗う。
その後、水で戻す。
二回くらい水を変えると塩のえぐみが取れる。
でもなぁ。わかめご飯って、ちょっとしょっぱいのがうまいよな。
悩む。
きっとこの塩も、地元産だ。
俺の身体によいだろう。
しばし悩み、多めに塩抜きをする。
我が家の塩は、地元産だってのを忘れていた。
頭が働いていない証拠だ。
増えに増えたわかめを、これでもかと刻む。
炊きあがったご飯に、わかめとごまを放り込み、混ぜる。
これだけだ。
シンプルである。
どんぶり鉢に、わかめごはんをよそい、机に着く。
まずは一口。
どんぶりを近づけると、眼鏡が曇った。
磯の香に、口の中によだれが溜まる。
我慢がならない。
行儀が悪いと知りつつも、わかめご飯を掻き込む。
ほっとする。
炊き立てでも、わかめを混ぜ込んだ分、温度が下がっている。
暑すぎもなく、冷たくもなく、暖かい。
塩味に食欲がそそられ、シャキシャキとした食感が嬉しい。
いいぞいいぞ。ごまもよきよき。
あっという間に、一杯目を食べ終わる。
躊躇なく、二杯目。
ふと思いついて、釜揚げしらすをわしづかみで乗せた。
しょっぱさに釣られて、どんどん進む。
肉とはまた違う満足感。
こういうのが根底で俺を支えてくれている。そんな気がする。
気が付けば、炊いたわかめご飯は空になっていた。
また、明日から、頑張ろう。