風呂から出て、キンキンに冷えたビールをぐびっとやる。
あぁ、幸せ。
汗が引くまでの僅かな時間、コタツ布団を取っ払ったコタツ机を前に、背をベッドフレームに預けて、贅沢な時間を堪能する。
つまみは、空豆。
俺は、空豆が好きだ。
春の間にしか出ぬのも潔くて良いし、味も匂いもいい。
塩なぞ入れずに茹でる。
空豆は、幼い頃に祖母が庭で育てていた。
春になったら、あれよあれよという間に大人の背丈ほどの大きさになる。モンシロチョウが飛び交い、うららかな春を楽しんでいれば、サヤが直立する。
祖母が竹でできたザルを手に持って庭に出て、ぐっすら空豆のサヤを取ってくるから、俺は、こたつ布団のなくなったこたつの天板に新聞紙を敷き詰める。
祖母の手伝いをして、サヤから空豆を取り出すのだ。
厳めしい顔の祖母に問われるままに学校の話をしている間に、茹でた空豆が出され、家族の誰よりも先に採れたてを二人で味わった。
あれが、一番うまかった。
そんな思い出補正もあるのか、兎に角、春に空豆を見つけたら、出始めでも何でも買ってしまう。
一袋買っても、サヤから出したら、ほんの一握りしかない。
「さてと、作りますかね」
今日は、空豆のポタージュを作るつもりだ。
ビールを飲みながら、ちまちまと剝いた空豆。
サヤの中の空豆は、まだ皮を被っていて、それを剥かねば実が出ない。
パッケージ詐欺である。
このギャップを押して余る旨さがあるのが憎いところだ。
玉ねぎをみじん切りにして、透明になるまで炒める。
フードプロセッサーに空豆、炒めた玉ねぎ、牛乳を投入し、滑らかになるまで回す。
最後に、それを雪平鍋に戻して、コンソメと一緒に煮れば出来上がり。
盛り付けのときに、コショウをきかせる。
ね。簡単でしょ?
面倒くさいのは、最初の空豆のところだけ。一杯のポタージュを作るために、俺はスーパーで空豆を二袋は買う。
うん……。面倒なことこの上ない。
ちなみに、このポタージュは温かくても冷たくてもうまい。
冷えるのが待てず、お椀についだのを、台所で立ったままいただく。
曇った眼鏡のまま、唇を焼き、二口目は息を吹きかける。
濃厚な空豆の香り、舌に広がるざらつき。
胃も心も満たされて、口角が上がる。
面倒でもいいじゃないか。
ちまちま皮を剥いて、うまいもんが飲める。
難しいことは何もない。
通知が鳴った。
あれ? まだSNSに投稿してないのにな?
首を傾げながらスマホを見てみたら、同僚の宇野君からだった。
開くと、続けてシュポポポポンっと画像が届く。
串に刺さったホルモンに続いて、宇野君と女性が顔を寄せ合った2ショット。
しかも、宇野君はビールジョッキ、女性はホルモンの串を持っている。
あぁぁん⁉
二人の出会いをセッティングしたのは、俺である。
お互い気になってそうな二人を、同じチームにしたのは俺である。
だが、この画像はいらない。
悔し紛れに、空豆とポタージュの画像を送った。
うははははっ!
喰らえっ!
うははははっ!
喰らえっ!
俺にだって春は来てる。