中谷秀和の飯テロ生活   作:藍色 紺

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67 逆襲の春(空豆のポタージュ)

 風呂から出て、キンキンに冷えたビールをぐびっとやる。

 

 あぁ、幸せ。

 

 汗が引くまでの僅かな時間、コタツ布団を取っ払ったコタツ机を前に、背をベッドフレームに預けて、贅沢な時間を堪能する。

 

 つまみは、空豆。

 俺は、空豆が好きだ。

 春の間にしか出ぬのも潔くて良いし、味も匂いもいい。

 塩なぞ入れずに茹でる。

 

 空豆は、幼い頃に祖母が庭で育てていた。

 春になったら、あれよあれよという間に大人の背丈ほどの大きさになる。モンシロチョウが飛び交い、うららかな春を楽しんでいれば、サヤが直立する。

 祖母が竹でできたザルを手に持って庭に出て、ぐっすら空豆のサヤを取ってくるから、俺は、こたつ布団のなくなったこたつの天板に新聞紙を敷き詰める。

 祖母の手伝いをして、サヤから空豆を取り出すのだ。

 厳めしい顔の祖母に問われるままに学校の話をしている間に、茹でた空豆が出され、家族の誰よりも先に採れたてを二人で味わった。

 

 あれが、一番うまかった。

 

 

 そんな思い出補正もあるのか、兎に角、春に空豆を見つけたら、出始めでも何でも買ってしまう。

 一袋買っても、サヤから出したら、ほんの一握りしかない。

 

「さてと、作りますかね」

 

 今日は、空豆のポタージュを作るつもりだ。

 

 ビールを飲みながら、ちまちまと剝いた空豆。

 サヤの中の空豆は、まだ皮を被っていて、それを剥かねば実が出ない。

 パッケージ詐欺である。

 

 このギャップを押して余る旨さがあるのが憎いところだ。

 

 玉ねぎをみじん切りにして、透明になるまで炒める。

 フードプロセッサーに空豆、炒めた玉ねぎ、牛乳を投入し、滑らかになるまで回す。

 最後に、それを雪平鍋に戻して、コンソメと一緒に煮れば出来上がり。

 盛り付けのときに、コショウをきかせる。

 

 ね。簡単でしょ?

 面倒くさいのは、最初の空豆のところだけ。一杯のポタージュを作るために、俺はスーパーで空豆を二袋は買う。

 うん……。面倒なことこの上ない。

 

 ちなみに、このポタージュは温かくても冷たくてもうまい。

 

 冷えるのが待てず、お椀についだのを、台所で立ったままいただく。

 曇った眼鏡のまま、唇を焼き、二口目は息を吹きかける。

 

 濃厚な空豆の香り、舌に広がるざらつき。

 胃も心も満たされて、口角が上がる。

 

 

 面倒でもいいじゃないか。

 ちまちま皮を剥いて、うまいもんが飲める。

 難しいことは何もない。

 

 通知が鳴った。

 

 あれ? まだSNSに投稿してないのにな?

 

 首を傾げながらスマホを見てみたら、同僚の宇野君からだった。

 開くと、続けてシュポポポポンっと画像が届く。

 

 串に刺さったホルモンに続いて、宇野君と女性が顔を寄せ合った2ショット。

 しかも、宇野君はビールジョッキ、女性はホルモンの串を持っている。

 

 あぁぁん⁉

 

 二人の出会いをセッティングしたのは、俺である。

 お互い気になってそうな二人を、同じチームにしたのは俺である。

 だが、この画像はいらない。

 

 悔し紛れに、空豆とポタージュの画像を送った。

 

 うははははっ!

 喰らえっ!

 

 うははははっ!

 喰らえっ!

 

 俺にだって春は来てる。

 

 

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