中谷秀和の飯テロ生活   作:藍色 紺

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70 肉は正義。(スペアリブ)

 ベッドで、ふとSNSを起動した。

 前の投稿が6月7日。

 今日が、7月12日。実に1か月ぶりの起動だ。

 

 まともに飯を作れなくなって、もうそんなに経つのか。

 ぼんやりした頭に、モヤモヤが溜まる。

 

 会社は1.3倍と業績を伸ばしているのに、部署のメンバー補充はないままだ。

 新入社員ってどこにいるの?

 絶滅危惧種かな?

 レッドリスト入り?

 おかげで俺の残業時間も右肩上がり。

 

 料理をする余裕もなくなり、しまいには風邪をひいた。

 不調を押して勤務し、土日は寝込む。

 悪循環である。

 

 何とも情けない気持ちになって、ガバっとベッドから起き上がった。

 

「うまいの作ろう!」

 

 顔を洗って、いざスーパーへ向かう。

 外へ出た瞬間、日差しに灰になるかと思った。

 

 知らん内に、世の中は真夏か。

 

 

 

 

 背負ったリュックを下ろし、保冷用氷の下から骨付き肉を発掘する。

 

「よかった。痛んでないな」

 

 何より今日の主役はスペアリブである。

 こいつがなければ、料理のリスタートは切れない。

 

 漬け液を作るための特大ジップロックを探す。

 スペアリブには、いろんな流派が存在する。

 俺でいえば、酒粕に梅味噌にんにくで漬けた和風なのもあれば、ママレード赤ワイン醤油のジャンクなのもある。

 要は、バラ肉のジューシーさに負けずに、うま味を倍増させる味が好みだ。

 

 他にも世の中には、炭酸や玉ねぎで煮込むとか、圧力鍋を使う方法もあるらしい。

 ぜひとも、各々の好みを追及していただきたい。

 

 で、今回はママレードでやる。

 理由は、楽に作れてうまいから。

 

 タッパーの奥に隠れていたジップロックを引っ張り出す。

 にんにくをすりおろし、ママレードを一瓶まるごと突っ込む。赤ワインをママレードの瓶に計量してIN。おまけに醤油も瓶計量でIN。

 それにスペアリブの肉を突っ込んで、骨に気を付けながらもみもみ。

 それで冷蔵庫に入れてしまう。

 あとは待つだけ。

 

 ベッドのシーツやまくらカバー、タオルケットをまとめて洗濯機に入れる。

 窓を全開にして掃除機をかける。

 風呂に入るついでに、水場の掃除をする。

 不思議なもんだ。

 うまいスペアリブが待っているってだけで、こんだけ動ける。

 

 

 ベッドにもたれかかり、気が付くと、夜だった。

 知らない間に寝てたらしい。

 

 まぁ、いくら寝ても俺にはスペアリブがあるし。

 

 スペアリブをオーブンに並べるのもニヤけてしまう。

 お供はピタパンなんかもいいが、今日はがっつり白米である。

 まだ本調子でない内は、やっぱり米でないと。

 

 焼き上がったスペアリブを大皿に盛り、片手にビールで居室に移る。

 ビールを開けるのももどかしく、骨つき肉にかぶりつく。

 

「あちっ」

 

 眼鏡が曇る。肉汁が溢れ、顎をつたってフローリングに落ちた。

 

 ふーふーと息をふきかけ、今度はゆっくり齧る。

 

 肉汁と一緒にママレードの甘さが口中に広がる。僅かな苦さ。

 赤ワインのコクを、にんにくと肉汁が力づくでさらっていく。

 

 がつがつと肉に喰らいつき、息継ぎのようにビールを煽る。

 

 べたべたになった顎を手の甲でぬぐう。

 

「うまい」

 

 すぐに二本目、三本目と続けざまに喰らう。

 血流に酒が乗り、酒に混じった肉に、ようやく体が目を醒ます。

 

「ぷはっ」

 

 ビールの缶を開けたら、今度は炊き立てご飯だ。

 肉を齧り、飯を掻き込む。

 醤油と肉が飯を誘う。

 

 腹が満ちたら、骨に薄くついた皮を歯で剥ぐ。

 これも家の飯ならではだ。

 他所じゃ体裁が悪くてできたもんじゃない。

 

 皿に、皮すらなくなった骨を戻す。

 乾いた音に腹をさすった。

 

 このもう食えるとこは何もないってのがいい。

 

「ごっそさん」

 

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