ベッドで、ふとSNSを起動した。
前の投稿が6月7日。
今日が、7月12日。実に1か月ぶりの起動だ。
まともに飯を作れなくなって、もうそんなに経つのか。
ぼんやりした頭に、モヤモヤが溜まる。
会社は1.3倍と業績を伸ばしているのに、部署のメンバー補充はないままだ。
新入社員ってどこにいるの?
絶滅危惧種かな?
レッドリスト入り?
おかげで俺の残業時間も右肩上がり。
料理をする余裕もなくなり、しまいには風邪をひいた。
不調を押して勤務し、土日は寝込む。
悪循環である。
何とも情けない気持ちになって、ガバっとベッドから起き上がった。
「うまいの作ろう!」
顔を洗って、いざスーパーへ向かう。
外へ出た瞬間、日差しに灰になるかと思った。
知らん内に、世の中は真夏か。
背負ったリュックを下ろし、保冷用氷の下から骨付き肉を発掘する。
「よかった。痛んでないな」
何より今日の主役はスペアリブである。
こいつがなければ、料理のリスタートは切れない。
漬け液を作るための特大ジップロックを探す。
スペアリブには、いろんな流派が存在する。
俺でいえば、酒粕に梅味噌にんにくで漬けた和風なのもあれば、ママレード赤ワイン醤油のジャンクなのもある。
要は、バラ肉のジューシーさに負けずに、うま味を倍増させる味が好みだ。
他にも世の中には、炭酸や玉ねぎで煮込むとか、圧力鍋を使う方法もあるらしい。
ぜひとも、各々の好みを追及していただきたい。
で、今回はママレードでやる。
理由は、楽に作れてうまいから。
タッパーの奥に隠れていたジップロックを引っ張り出す。
にんにくをすりおろし、ママレードを一瓶まるごと突っ込む。赤ワインをママレードの瓶に計量してIN。おまけに醤油も瓶計量でIN。
それにスペアリブの肉を突っ込んで、骨に気を付けながらもみもみ。
それで冷蔵庫に入れてしまう。
あとは待つだけ。
ベッドのシーツやまくらカバー、タオルケットをまとめて洗濯機に入れる。
窓を全開にして掃除機をかける。
風呂に入るついでに、水場の掃除をする。
不思議なもんだ。
うまいスペアリブが待っているってだけで、こんだけ動ける。
ベッドにもたれかかり、気が付くと、夜だった。
知らない間に寝てたらしい。
まぁ、いくら寝ても俺にはスペアリブがあるし。
スペアリブをオーブンに並べるのもニヤけてしまう。
お供はピタパンなんかもいいが、今日はがっつり白米である。
まだ本調子でない内は、やっぱり米でないと。
焼き上がったスペアリブを大皿に盛り、片手にビールで居室に移る。
ビールを開けるのももどかしく、骨つき肉にかぶりつく。
「あちっ」
眼鏡が曇る。肉汁が溢れ、顎をつたってフローリングに落ちた。
ふーふーと息をふきかけ、今度はゆっくり齧る。
肉汁と一緒にママレードの甘さが口中に広がる。僅かな苦さ。
赤ワインのコクを、にんにくと肉汁が力づくでさらっていく。
がつがつと肉に喰らいつき、息継ぎのようにビールを煽る。
べたべたになった顎を手の甲でぬぐう。
「うまい」
すぐに二本目、三本目と続けざまに喰らう。
血流に酒が乗り、酒に混じった肉に、ようやく体が目を醒ます。
「ぷはっ」
ビールの缶を開けたら、今度は炊き立てご飯だ。
肉を齧り、飯を掻き込む。
醤油と肉が飯を誘う。
腹が満ちたら、骨に薄くついた皮を歯で剥ぐ。
これも家の飯ならではだ。
他所じゃ体裁が悪くてできたもんじゃない。
皿に、皮すらなくなった骨を戻す。
乾いた音に腹をさすった。
このもう食えるとこは何もないってのがいい。
「ごっそさん」