昨日、通勤中に、落葉が頭をかすり、緑色のどんぐりが落ちていた。
何これ、九月になったからって急すぎない?
肌寒く、身体が熱を、カロリーを求めている。
しかし、胃を殴るようなものではない。
身体を内側から温める、優しい家庭の味がいい。
目を閉じ、内なる声に耳を澄ます。
窓に打ち付ける雨が騒がしい。明日はこの中を出社せねばなるまい。
つまり、戦飯。
静かに目を開けた。
「肉じゃがだ」
米を炊きながら、しらたきを茹でる。男爵イモの皮を剥いて、水にさらす。
しらたきをザルに上げ、同じ雪平で昆布とカツオの出汁を取り、玉ねぎを切る。
下準備に迷いはない。
鍋に玉ねぎと牛肉を投入。油は敷かない。牛肉から十分脂が出る。
牛肉の色がおおかた変わったら、大体を取り出す。
鍋には、玉ねぎから出た水分と透明になり始めた玉ねぎ。
そこに、じゃがいもとしらたきを入れる。
出張で増えた地酒と出汁一カップくらい入れたら、蓋をしてしばし放置。
踏み台と兼ねた椅子に座り、買ったばかりの本を開く。
本をめくる音
雨の音
小さく開けた窓から、寒いくらいの風が入って来る。
くつくつと煮える鍋の蓋を開け、時折混ぜて、煮え具合と汁の具合を様子見。
牛肉は少しだけ鍋に残してある。
固くなっても構わない。こいつは食感のためじゃない。玉ねぎと一緒に、じゃがいもへ牛のうま味を渡すためだ。
じゃがいもに火が通った頃合いに、汁気が飛ぶ頃合いを測り、火を強めたり、弱めたり。
そして、また本に戻る。
鼻をひくつかせて、また蓋を開ける。
「よし、頃合いだ」
取り出しておいた牛肉を全部、鍋に戻す。
そこに、砂糖、みりん、しょうゆを入れる。すきやきの要領で、味を決めるわけだ。
ぐつぐつと煮える中に砂糖の小山が崩れていく。
みりんをかけて、砂糖がどろりとしたところに、
しょうゆで、色をさっと変える。
この具合が、最高にそそる。
野菜と出汁の香りだった台所が、肉としょうゆの香りで満ちる。
ここで終わると思うことなかれ!
火を強くし、しょうゆの風味を立たせてやる。
焦げるの手前、その瞬間を見極めるのが俺流。
炊き立てのご飯に、肉じゃがを居室に運ぶ。
大雨の中、閉めきった部屋の暖かさに、ほっと一息。
まずはしらたき。
箸ですくうと、眼鏡が曇った。
ちょっとだけ焦がしたしょうゆの風味に、にやけてしまう。
一呼吸し、深皿を見る。
色づいたじゃがいもを肉と一緒に口へ運ぶ。
口の中で、ほろほろのじゃがいもの端がほどける。
牛肉の濃厚な味が広がり、しょうゆが唾液を誘う。
慌てて白米を食べれば、じゃがいもが口の中で崩れ、中まで入った玉ねぎと牛肉のうまみが絡む。
はふっ
温かい息をついて、また一口、また一口。
最後に深皿に残ったわずかな汁を、白米にかける。
行儀が悪いが、何のなんの。
一人暮らしである、誰も見ていないから許して欲しい。
空になった器を前に、眼鏡をTシャツの裾で拭く。
身体が内から温かい。
ぴかぴかになった眼鏡をかける。
「よし!」