MFG -Meteor Fate Gemini- 作:翠 -SUI-
プロローグはルビーちゃん視点。
――さりなちゃん!!しっかりするんだ!
――さりなちゃん!!
――せんせ、アイちゃん……ありがと、だいすきだよ――。
何も見えない。真っ暗だ。
あれ、私は何をしてたんだっけ……?
バトル中にスピンして、視界がくるくる回って、発作が起きて……それで…………なんだっけ。
頭がぼんやりする……。
――んん、なんだか明るく……まぶしっ。
「おぎゃぁ、おぎゃぁあ!!」
「おめでとうございます藤原さん、産まれましたよ!!」
「はぁあ、よかったぁ……!!」
え?え?視界がぼんやりしてるけど、私これ赤ちゃんになってる??
誰かに抱えられる感覚がある。すっぽり腕の中なくらい身体が小さい。私はどうやら生まれ変わったらしい。
些か混乱しつつ、ぼんやりした視界で辺りを見ていると、私を取り上げたらしい人からまた違う人へ抱かれたようだ。たぶん今世のママかな……?
「どうぞ、抱いてあげて下さい」
「わぁ――この子達が私の、私と拓海くんの子供なんだね……!」
少しはっきりしてきた私の聴覚に聴こえてくるのは、妙に聴き覚えのある可愛らしい声。鈴を転がすような涼やかで可憐なその声は、まさしく私の前世?の最期に――
「産まれてきてくれてありがとう、愛久愛海、瑠美衣!!愛してる!!」
やっと視界もじんわり見えるようになってきた。
目の前に見えるのは紫紺に輝く黒髪と、精巧に整った美貌、星を宿すアメジストの瞳。
私を抱く今世のママは何を隠そう、ついさっきの事のように感じられる前世の最期に全力バトルを演じた相手である憧れの走り屋、"一番星"こと星野アイであった。
ふぁっ!?私ってば死んで推しの娘になっちゃったってこと!?!?
私の名前は
群馬県の渋川市、秋名山の麓に住む華のJKだ。華というか名前がキラキラすぎだって?ママがつけてくれた名前だもん、何も問題ないもんね!
私には前世の記憶がある。病弱で難病を患った挙句、最期が来る前に自由を見てみたいと足掻き、とある走り屋に憧れてその恒星のような姿を追い、並び、超えて超新星のように輝いた果てに散った一人の走り屋だったと自身の記憶は言っている。
前世では色々辛いこともあったけど、推しとの全開バトルを心ゆくまで味わってから最期を迎えられたのは私的には悔いが無かったと思う。
私の事を気にかけてくれた前世のお兄ちゃんズと、主治医のゴローせんせのことはちょっと心配だけど。前世の私――さりなが居なくなっても元気にしてるといいな。
でも良いんだ。今世はそれよりもとびっきり幸せなんだから!!
私の今世の家族は両親にお兄ちゃんとお祖父ちゃん。みんな大好き。
まずママ。今世のママはまさかの前世の憧れ!!最推しであり、前世の私の最初で最後のバトル相手だった星野アイ!!今はパパと結婚してるから藤原アイだけど。
まさか推しとの全開バトルの末に推しの娘に生まれ変われるなんて何の因果かって感じだよね!!運命だよね!!超幸せって感じ!!
私たちを産んで、私の前世の頃から随分経ってるはずなんだけどママの美貌は全く変わってない。夜空みたいな紫掛かった不思議な輝きを纏う黒髪ロングヘアに小柄で細身な体躯、ぱっちりおめめに星みたいな輝きを宿すアメジストみたいな瞳。正直未だ十代って言っても通じるんじゃないかってくらいかつてと全く変わってない。さすが私の推し!!最強で無敵の走り屋はルックスも衰えないって事だよね!!
そんなママはサーキットをメインにしたプロのレーシングドライバーとして大活躍してる。あのSUPER GTにも参戦してるんだよ!さすがママだよねっ☆
そのママと結婚したパパが、かつてのプロジェクトDのダウンヒルエースこと、藤原拓海。群馬の誇るスーパーエース同士がくっつくなんてなんかエモいよね。どっかの変な馬の骨になんかにはママは任せられるわけないけど、うちのパパなら全然おっけーだもん。あとママと釣り合うくらいイケメンだし。
パパはトヨタのWRCチームに専属ドライバーとして所属して、世界の酷道を股にかけた獅子奮迅。ママに勝るとも劣らないスーパードライバーっぷりだよね。
そんなモータースポーツ界の二強みたいなパパとママのそれぞれのパパ、つまり私達の母方、父方それぞれのお祖父ちゃんが好造じいじと文太じいじの二人。
二人とも昔はママやパパと同じく峠の走り屋をしてたらしくて、その頃のお話を聴かせてくれたりもするんだ。じいじーズ同士も仲が良いみたいで、時々二人でなんか盛り上がってる事もある。
文太じいじは前世の私が生きてた頃からあるお豆腐屋さんを続けてるから、小さい頃からたまにお兄ちゃんと一緒にお店をお手伝いした事もあるんだー。文太じいじのお豆腐美味しいんだよー。
そして私の双子のお兄ちゃん、藤原
これで「アクアマリン」。冷静に考えると私よりよっぽどキラキラだよね、お兄ちゃん。たぶん初見で読める人はほぼ居ないと思う。
お兄ちゃんもどうやら私と同じ前世持ちらしいって事は私とお兄ちゃんだけの秘密。小さい頃、夜中にこっそりベビーベッドを抜け出して、ママの出てる◯ットバージョンのビデオを観てはしゃぎ散らかしてる所をお兄ちゃんに見つかって、それでお互いが前世持ちだって分かったんだった。
『赤ん坊が喋ってるぅぅ!?きんもーー!?』
『いやそれはお前もだろ』
こんなようなやり取りをした覚えがある。当時は思わずなかなかな事を言っちゃったけど、確かにお兄ちゃん視点でも同じ感想かもしれない。
お兄ちゃんも前世でどうやら走り屋だったらしい事と、私と同じくアイの走りに魅せられた者だって事は分かってるけど、あんまり細かい部分を根掘り葉掘りしても、ってことでお互い突っ込まないようにした。変な藪蛇してもやだもんね。
当初は戸惑ったけど、そんなアクアも十八年も一緒に居れば大事なお兄ちゃんだ。そんな大好きな家族達と、前世と違ってすこぶる健康な身体、ママの遺伝子を色濃く継いだルックス。今世の私はこれ以上無いくらい幸せに生きている。
そんな私、瑠美衣――家族や友達からは親しみを込めてカタカナっぽく「ルビー」と呼ばれる――は現在高校三年生の十八歳。
そう、日本では十八歳から自動車免許の取得が可能となる。ということでこのたび、無事免許を取ってきたのだ。
「みてみてお兄ちゃん!じゃじゃーん!!」
「ルビーも無事取れたみたいだな」
「もちろーん!!だってママの娘だもん!」
「そりゃぁそうか」
リビングのソファでコーヒーを飲みつつスマホを見ていたアクアにぴっかぴかの免許証を見せつける。年々ママにそっくりになってきた顔でドヤってみせた。アクアはその名前の通り、アクアマリンのような青い目をこちらへ向け、フッと笑って見せた。
言葉の上ではややぶっきらぼうだけど、このお兄ちゃんは割とシスコンだ。嬉しさと安堵が滲み出ている。十八年妹をやってる私にとってはお見通しだよ。
ちなみに今日はママとパパはそれぞれレースのお仕事だ。やっぱりプロドライバーはレースシーズンになると多忙だねぇ。サーキットが雪で閉ざされる冬になるとママは比較的オフが多くなるんだけど、ラリードライバーたるパパはスノーラリーで忙しくなる。なかなか家族勢揃いって難しいよね。
「なぁルビー。これ見たか?」
「ん?なあにお兄ちゃん」
ふとアクアが先程まで観ていたらしいスマホの画面を見せてきた。言われるがままに覗き込んでみると、画面の反射で私の赤い瞳――名前通りルビーのよう――が映り込み、その後に内容が見えてきた。何やら新規に開催されるモータースポーツのホームページのようだ。えっと……えむ、えふ……?
「えむえふじー??」
「あぁ。公道を封鎖してクローズドコースとし行う新機軸のモータースポーツとのことだ。縮小傾向にあるガソリンエンジンのみの車輌を用いたレギュレーションによる公道レース、となっているが、つまり合法的にかつての公道最速理論を競えるって事だろうな」
そんなアクアの解説に耳を傾けながら画面を再度覗く。
「MFG……!」
その赤いロゴが目に焼き付いて離れなかった。
そのまま情報収集をするというアクアを置いてリビングを出た私は、ガレージにやって来ていた。免許を取るタイミングに合わせて「アクアとルビーも車に興味があるんだもんね!」とママからプレゼントされた車。
アクアの白いBRZの横に並ぶ、赤いZ34型フェアレディZ。今世の私の初めての愛車だ。ママのGT-Rと同じ、真紅のボディ。
初心者マークを貼り付けた真っ赤なボンネットにそっと触れる。ツルツルつやつやの塗装が気持ちいい。
静かにガレージに佇むZに触れて、あのロゴを思い出す。
MFG。この令和の時代に相応しい形で復活する公道最速伝説の新しい舞台。
目を閉じて思い出す。かつての前世の一度きりの全開バトルを。
憧れを超えて一番にはなれた。でもそのまま走り切る事は叶わなかった。"一等賞"にはなれなかった。
思えばこの事がママの、星野アイの娘として生まれ変わるきっかけになったのかもしれない。
決めた。私の――藤原瑠美衣のゴールはそこだ。
もう一度あの峠の舞台に立って、今度は一等賞になる!!もう一度ママに匹敵するスーパードライバーになる!!
そうだよ、だって――。
「憧れは、止められないんだから……!!」
星を宿した紅い宝玉が走り出す。
Beginning of Ruby LAUNCH.
この世界線のアクルビはアイと拓海の子供。推しの子本編とは違いますがここでもバグみたいな天才同士のサラブレッドですね。
はやくかなちゃんと愉快な仲間たちを出したいぞ…!!