自動車メーカーでデザイナーとして働く轟輪太郎はペーパードライバーだった。駐車が苦手過ぎてペーパードライバーになった彼の野望は、運転が下手でも駐車が楽々出来るほど小さな車を作る事だった。

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ペーパードライバーの自動車屋さん

轟輪太郎は自動車メーカーで車のデザイナーをしている。

そんな仕事をしていながら、彼は免許を取ってから20年、ほとんど車に乗った事がないペーパードライバーだった。

彼はその事を周りには秘密にしていたが、実は彼の周りの人達は皆んな知っていた。

彼がペーパードライバーになったのはひとえに駐車が苦手だからである。

小さな車を作りたい。

あと運転席は真ん中に欲しい。

乗れる人数は1人か2人でいい。小さくて狭い駐車スペースでも両サイドの車にぶつけずに楽々入れられる車が作りたい。

それが彼の野望だった。

その野望を叶える為に自動車メーカーに入社したとすら言える。

 

しかし、自動車の開発には金がかかる。

だからどのメーカーも尖った今までにないデザインを嫌う風習がある事を入社してから轟氏は知る。

購買層はファミリー層と言う固定概念から抜け出せていないのだ。

そこで轟氏は地道に実績を積み上げて、チャンスが来るのを待つ事にする。

 

世間的に不景気の為か、高級車から軽自動車に需要が移ってはいたが、需要がファミリー層に偏った状況は変わらなかった。

若い男性の非婚化が進み、当然の結果として少子化になっても車はファミリー向けという価値観は変わらなかった。

チャンスは無かったわけではなかった。

SDGSの時は、多様性社会と言う名目に便乗して1人乗り自家用車の開発を会社の上層部に掛け合い、企画も通って、チームの一人がSDGSに絡めてシンボルカラーの「レインボー」と言う名前で販売していこうというところまで決まった。

しかし、役員の一人の

「レインボーって今、性的マイノリティーの人のシンボルにされちゃったから、ノーマルの人達が敬遠しちゃわない?」

と言う発言から、元々保守的な役員達が尻込みをしてしまい、なし崩し的に白紙に戻ってしまった。

 

そして今、次なるチャンスが到来する。

ガソリン暫定税率の廃止に伴って、再び自動車の購買意欲が高まりつつある事を察知したマーケティング部の提案によって、新たなターゲットを開拓出来る車のアイディアが社内で募集される。

これをチャンスとばかりに急いで企画をまとめ、再度、上層部に掛け合う。

上層部は、

「車はファミリー層が強いんだから、最低でも4人乗りじゃないと売れないだろう」

「単身世帯や個人での使用ならバイクなどの二輪の需要の方があるんじゃないか?」

などと従来通りの理由で却下しようとしたが、轟氏は粘り強く説得した。

「車の使用は、個人での所有が法人による所有の3倍ではあるが、個人所有の使用用途の半分以上が『通勤・通学』。そして法人所有の自動車のうち多くが営業などに使われますが、年間の走行距離で見ると営業車の年間走行距離は平均約6万kmで、個人所有の自家用車の6倍以上です。すなわち!車を利用する人はほとんどが1人で利用しているのです!この省エネの時代に、大半が一人で使用する車のために、燃費、場所、維持費を家族で使用したのと同額支払っているのです!こんな勿体無い事ありますか?

しかも、ファミリー層では7割の人が自家用車を所有していますが、単身世帯や子供がいない世帯で車を所有している世帯はたったの2割ちょっと。8割近くの潜在的顧客をファミリー層に拘るがあまり、みすみす取り逃しているのです!」

と言った内容をプレゼンテーションした所、その熱意を評価される、やっとのことで開発にGOが出た。

 

小さな車の開発は難航を極めたが、ある程度の構想は既に組み上がっていたので順調に進んだ。

小さな車は小ささ故に軽く、横転の危険がある。その弱点は倉庫などで使用されるフォークリフトを参考に、下部に重心を置く事で解決する。その為にバッテリーやエンジンなどを全て車体の下部、すなわち座席の下に作った。この為、車体は一般の軽自動車よりも40cmほど高くなったが、その分、車体の全長や車幅を小さく作る事に成功し、軽自動車でも全長4m、車幅1.8mが一般的な車体を全長2m、車幅1.1mの前後に2人乗れる乗用車が誕生する。

名前は「ソロ」と名付けられた。

 

ソロは単身世帯の若者に受け入れられ、ヒット商品となった。

ちょっとした荷物なら積め、冷暖房完備でどんな狭い道も楽々通れるその自動車は若者達の移動のお供として必要不可欠な存在となっていた。

多くの人が通勤電車の地獄から解放された。

道路は通行量自体は増えたが、元々小さい為、渋滞はむしろ緩和された。

小さいながらも一人の空間を持てるその自動車は今時の若者にとって丁度良い自分に戻れる空間を提供した。皆んな、少しだけ穏やかに過ごせるようになった。

轟氏も念願の小さい車を手に入れ、ペーパードライバーを卒業した。

 

しかし、増え過ぎたソロの影響で駐車場が不足しだす。

車の購入には駐車場の確保が必要なのだ。

そこで駐車場の所有者達は苦肉の策と売上増強の為に、ソロ専用の小さな駐車スペースを作った。

ソロ専用の駐車場。

狭いスペースにひしめくソロ。

車と車の間は十数cmしか空いていない。

轟氏は再びペーパードライバーとなった。


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