クリアなマインドに脳を焼かれて、オリTCGモノを書きたいと思って始めたはずなのに、癖に忠実なTSボーイミーツガールが出来上がってました。
二番煎じどころか手垢の付きまくった出涸らしのような設定ですが、ご容赦ください。

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私がボーイミーツガールが好きなことを最近になって自覚しました。


TCGアニメの2期にTS転生するやつ(自傷デッキ)

 

──TURN 7

 

流煙(りゅうえん)ミズキ HP160

スペア    HP80

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 

 青髪の少年はそう宣言して、山札(デッキ)からカードを1枚ドローする。

 

 

「……来た!」

 

 

 引いたカードを見て、目を見開く少年。

 相対する黒尽くめの人物は、その表情こそ黒いヘルメットに覆われ確認できないが、少年の一挙一動を注意深く観察している様子だった。

 

 

「アクション1! エフェクトカード【水蒸気爆発(ハイドロエクスプロージョン)】を発動! このカードは僕のグラウンドに【スチームレックス】が存在する時に発動でき、相手グラウンドのマテリアカードを全て破壊する! いくぞスペア!」

 

「……受けよう」

 

 

 スペアと呼ばれた黒衣の人物がそう言って頷く。その声はヘルメットの機能なのか低く加工されている。

 少年が手に持った1枚のカードを掲げると、少年の傍に居る恐竜を模した煙の塊が、呼応するように咆哮を上げた。

 

 すると、スペアの目前に居た3羽の巨大なカラスを中心に大きな爆発が巻き起こり、黒羽が舞い散った。

 

 

「アクション2! 僕のグラウンドにある【スチームメイカー】を代償に、手札からマテリアカード【パンクアーマー】を生成!」

 

「異論ない」

 

 

 スペアが承諾すると、少年の前に存在していた蒸気を噴き出す機巧が閃光と共に消え去り、元あった場所に機械仕掛けの篭手が現れていた。

 

 

「【パンクアーマー】自体のパワーは0! しかしその代わり、他のマテリア1体に装着する事でパワーを50増やすことが出来る! そして、僕の【スチームレックス】の元々のパワーは30だ!」

 

 

 恐竜の小さな前足に篭手が装着され、装甲の隙間から蒸気が噴き出す。篭手のサイズは前足と比べて2回り以上大きく見えたが、指先に付いた鉤爪を問題なく動かせている様子である。

 

 

「アクション3! アタックだ! パワーが80になった【スチームレックス】で直接攻撃!」

 

 

 少年の宣言と共に、蒸気の恐竜はスペア目掛けて駆け出す。

 

 

「カウンターアクション。マテリアカード【凝血壁ブラッドウォール】を生成」

 

 

 突如スペアの前に赤黒い壁が現れる。

 衝突した【スチームレックス】はその壁を破壊したものの、反動で断末魔を上げながら霧散した。

 

 

「【スチームレックス】ッ!」

 

「【凝血壁ブラッドウォール】のパワーは80。ただしアタックに参加できず、私のHPが半分(100)より少ない時にしか生成できない」

 

 

 スペアは冷静に効果を読み上げた。

 (グラウンド)には機械仕掛けの篭手のみが残されている。

 

 

「くっ……! ターンエンド」

 

 

──TURN8

 

流煙ミズキ HP160

スペア   HP80

 

 

「私のターン、ドロー」

 

 

 スペアが宣言し、カードを1枚引く。

 

 

「アクション1。エフェクトカード【1to3(ワン・トゥー・スリー)】を発動。デッキから3枚ドローする。……流煙ミズキ、残念ながらここまでのようだな」

 

 

 手に取ったカードを見つめながら、スペアが告げる。

 

 

「なんだとっ!?」

 

「アクション2。私は手札からマテリアカード【傷痍鯱(しょういこ)ゴアオルカ】を生成」

 

 

 大柄な体格のシャチがグラウンド(地面)から泳ぐように現れる。

 その身体のあちこちには古傷や生傷が多数存在し、痛々しくも力強さを感じ取れた。

 

 

「このカードは私のHPが半分未満の時、手札を2枚捨てて生成できる。そのパワーは私の失ったHPに等しい」

 

「そんな……つまり、パワー120!?」

 

 

 少年──ミズキが驚きの声を上げる。

 

 

「アクション3。アタック。【傷痍鯱(しょういこ)ゴアオルカ】で【パンクアーマー】を攻撃」

 

「させない! カウンターアクション! エフェクトカード【圧力限界(リミットオーバー)】! 自分の【パンク】マテリアを1体破壊し、相手グラウンドのマテリア1体を破壊する!」

 

 

 ミズキは最善のタイミングでカードを発動した。

 これでお互いの場はガラ空きとなるが、3回のアクションを使い切ったスペアはターンエンドをするしかない……はずだった。

 

 

「──ダブルカウンターアクション。エフェクトカード【ハートレス・イージス】」

 

 

 スペアの眼前に禍々しい儀礼用の短剣が現れ、それがスペアの胸へと突き刺さったあと勢いよく引き抜かれる。

 短剣や宙に舞う鮮血は立体映像のはずだが、スペアは微かにうめき声を漏らす。

 

 

「【ハートレス】カードはHPを半分失う代わりに、1ターンに1度だけ追加のアクション──エクストラアクションを行える」

 

「エクストラ、アクション……?」

 

 

 聞いたことのない単語に、ミズキは戸惑いを見せる。

 しかし、そんなミズキをよそにスペアは無慈悲に告げる。

 

 

「そして【ハートレス・イージス】の効果により、私のマテリアはこのターン破壊されない」

 

 

スペア   HP80→40

 

 その言葉通り、ミズキの【圧力限界(リミットオーバー)】により【パンクアーマー】が自爆するが、スペアから飛び散った血が膜のように【ゴアオルカ】を覆うことでその衝撃を防いだ。

 

 

「……アタック継続だ。そして【ハートレス】カードの代償により私のHPは40、【ゴアオルカ】のパワーは160となっている」

 

「なっ…うわあああ!」

 

 

流煙ミズキ HP160→0

 

──DUEL ENDED

 

 

 

 

 

「お前は今回のターゲットじゃない」

 

 

 膝をつき肩を上下させて息をするミズキの前にスペアが立ち、告げる。

 

 

「──だが、次は無い。【スチームレックス】を失いたくなくば私に関わるな、流煙ミズキ」

 

「ま、待て……!」

 

 

 態勢を崩しうつ伏せに倒れたミズキは、黒衣を翻しその場を去って行くスペアの背中に呼びかけるが、デュエルで消耗した身体では上体を反らしてその姿が遠ざかっていく様子を目に映すことで精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ミズキ!」

 

「ミズキ君!」

 

 

 暫くして黒と赤のツートンヘアの少年と、白髪の少女がその場に駆けつける。

 

 

「レッカ、ありがとう……」

 

 

 レッカと呼んだ少年の肩を借りて、ミズキは起き上がる。

 

 

「いったい何があった? この相手……スペアってのは何者なんだ?」

 

 

 レッカがもう片方の腕で持っていたスマホの画面をミズキに見せながら問いかける。

 そこには地図が写っており、現在位置に流煙ミズキの名前と決闘結果が表示されている。

 彼等がこれを頼りに此処へ辿り着いた事が分かる。

 

 

「詳しくは分からない。だけど、彼が噂の『暗決闘者(ヒットマン)』だと思う」

 

 

 ミズキの答えを聞いた2人は、驚いた表情を見せた。

 

 

「それじゃあ、ミズキ君のカードは……」

 

「いや、僕がターゲットだったわけじゃない。彼が強制デュエルを仕掛けようとした所に割り込んだんだ」

 

 

──「暗決闘者(ヒットマン)」。

 レッカ達がその噂を聞いたのは買い物の為に遠出して訪れたこの街、阪手周(はんです)市に来てからの事だった。

 

 「依頼」に従い、特定の人物に賭け(アンティ)デュエルを強制的に仕掛け、そのエースカードを奪っていく謎の人物。

 素性は一切不明で、「暗決闘者」という呼び名も通称に過ぎない。

 また、その「依頼主」も同様に謎に包まれている。

 

 

 ハッキリとしているのはただ1つ、”強い”という事だけである。

 

 

「良かった……って、こんな事言っちゃダメですよね」

 

 

 白髮の少女は安堵の声を漏らしたが、配慮に欠けていた事に気付いて慌てた様子を見せる。

 

 

「何も間違ってないよ天白(あましろ)さん。【スチームレックス】を奪われなかっただけでも幸運だったと思わないと」

 

「ミズキ君……」

 

 

 普段と比べて弱気な発言をするミズキに、天白と呼ばれた少女は心配そうな声を上げる。

 

 

「2人も『暗決闘者(ヒットマン)』には気を付けた方が良い。ターゲットになってしまったら、きっと──」

 

「ミズキ」

 

 

 ミズキの話を遮るように、レッカが名前を呼んだ。

 

 

決闘(デュエル)しようぜ!」

 

「え?」

 

 

 レッカの唐突な提案に、ミズキは目を丸くする。

 

 

「俺とスペアが決闘したら、どっちが勝つと思う?」

 

 

 隼鳶(はやとび)レッカはミズキにとって常に一歩先を進むライバルであるが、過去に勝利した事も何度かある。

 歴然とした差を感じたスペアと比べると、追いつくことの出来ない背中ではない。

 しかし世界征服を企む組織の長と戦った時のように、いざという場面でのレッカは無限の可能性を秘めており、悪を前にした彼が負ける姿を想像出来なかった。

 

 

「……レッカ、だと思う」

 

「なら、俺に勝てるくらい強くなればスペアにも勝てるはずだ!」

 

 

 なんという暴論。そもそも、前述の通りミズキはレッカに勝った事が無いわけではない。

 しかし不思議な事に、ミズキはその言葉に妙な説得力を感じていた。

 

 

「さあ、特訓だ!」

 

 

 そう言ってデッキを眼前に掲げるレッカだったが、背後から頭を手刀で軽く叩かれた。

 

 

「少しはミズキ君の体調も考えて? 自分が戦りたいからって急かさないの」

 

「おっと、そうだったな!」

 

 

 そう言って大口を開けて笑うレッカに対して、呆れた表情を見せる天白。

 その見慣れた光景を見ているうちに、ミズキの心を覆っていた諦めの雲は晴れ、その目には新たな決意の炎が宿っていた。

 

 

「エクストラアクション……」

 

 

 先程のスペアの言葉を反芻するように、ミズキは呟く。

 

 自分が超えなければならない、新たなる力。

 

 その名を胸に刻み、拳を握りしめる。

 

 

「いつか、辿り着いてみせる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ミズキ達から幾許(いくばく)か離れた阪手周市内の裏路地。

 

 

『依頼完了。報酬は送金済み。次の依頼までの自由行動を許可。なお、自由行動中も禁則事項に抵触する行為は認められません。違反した場合……』

 

 

 ターゲットから奪取したカードの転送を終えた「暗決闘者」は、通信を最後まで聞かずにヘルメットを外し、桃色の長髪を靡かせた。

 大きく深呼吸をした()()が思い浮かべていたのは、いつもと変わらない伝達事項などではなく、先程戦った青髪の少年だった。

 

 

(……焦った。マジで負けるかと思った)

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 皆はTCG──トレーディング(Trading)カード(Card)ゲーム(Game)のアニメを観た事があるだろうか。

 かくいう私もちゃんと全話観たのは子供の頃に世代だった1作品くらいだが、数多ある作品の世界観は大抵共通している部分がある。

 

 それは、「カードゲームが世界的に流行っている」という事と「悪の組織」が居る事だ。

 流行っているというのは些か過小表現かもしれない。世界がカードゲームを中心に回っていると言っても過言じゃない。

 主人公がカードゲームをする理由付けと言ってしまえばそれまでの話だが、人類の三大欲求にカードゲーム欲を付け足されていなければおかしいレベルで普及しているのだ。

 そんな世界でカードゲームを悪事に使う集団は、程度の違いはあれどそれだけでもう「悪の組織」足り得るというわけである。

 

 とまあ何故こんな話を唐突にしているのかと言えば、その「悪の組織」に私が所属しているからだ。

 

 

 

 

 

 そもそも私が何者なのかについて、簡単に記そう。

 

 私はこのカードゲームが当たり前な世界の住人とは異なる記憶を持っている。先程「子供の頃」と述べたが、今の私は恐らく13、4歳……子供と言うべき年齢なのだ。

 

 その記憶は、今の私と年齢どころか性別すら一致しないものだったが、おかげで物心がついた頃から自分がどのような環境に置かれているのか、ある程度客観的に理解する事ができた。

 

 窓の無い無機質な白い部屋、日に数度訪れる白衣の面々。

 伏せたトランプの山から特定の絵柄を引くよう指示されたり、コイントスで表が出るよう念じろと指示され、その様子を額に貼り付けられた電極で計測される。

 

──私には、確率を操作できる特殊な力がある。

 

 それが私本来のものなのか、与えられたのかは分からないが、それを研究している施設に居るということは何となく分かった。

 そしてこの人道的とは言えない環境からして、これが公に認められていない研究だという事も。

 

 とはいえ、この力は全てをコントロールできる訳では無い。

 あくまでランダムな事象を少しだけ自分に有利に変える程度、簡単に言えば非科学的に運が良いというだけの話である。

 

 

 

 

 

 そんな力の使い道がカードゲームであると知ったのは2年前──恐らく私が12歳頃のことだった。

 

 Material effects Ground──MeGと略される事の多いそれについて最初に教えられた時、彼等が私に娯楽を与えてくれるのかと驚いたのを覚えている。

 まあ当然そんなはずもなく、日々の実験内容がMeGへと置き換わっただけだということを理解するのに時間はかからなかった。

 

 それから1年ほど経った頃、私はMeGへのゲーム理解と力の制御が十分と判断され、ある人物の前へと連れて行かれた。

 その人物こそ、研究施設のトップ──既に此処がただの研究施設などではないと気づいていたが──「フィクサー」を名乗る「悪の組織」の首領(ボス)

 

 そこで私は「スペア」という名と、1つのデッキ……そして()()を与えられた。

 そして「依頼」をこなす代わりに、私は施設の外に出てもよいと言われたのである。

 

 外で暮らすための住まいは組織が用意し、生活費も支払われるという。

 とはいえ今までの扱いを考えれば、そんな話に裏が無い筈もなく、直後に「依頼」の詳細について聞かされる事となった。

 

 特定の相手とMeGで賭け勝負をして、勝って目的のカードを奪い取る……もし負けたり、「依頼」を放棄したりすれば、()()に内蔵された装置が起動して、私は死ぬ。

 

 その時初めて、私はこの世界と自分の常識にズレがあるということを理解した。

 こんな非人道的な事が出来るなら、たかがカードなど殺して奪ってしまえばいいはずだ。

 ……それが出来ない()()()でも無い限り。

 

 だが、それについて深く知ろうとするよりも、その場で私がするべきは首を縦に振る事だった。

 

 「依頼」とはよく言ったものだ……私に拒否権など無いではないか。

 

 

 

 

 

 そんなわけで定期的に来る「依頼」をこなしながら、施設の外で暮らし始めて約1年が過ぎた現在。

 なるべく目立たないよう活動してきたが、活動地域では「暗決闘者」という噂も流れだし、ターゲット以外から決闘を挑まれるケースが増えてきた。

 

 たとえ「依頼」とは関係なくとも「スペア」として決闘する際は()()が有効であるため絶対に負けるわけにはいかないのだが、私の「力」と「フィクサー」に与えられたデッキのおかげで危なげなく対処する事が出来ていた。

 

 

 私が知る限り【ハートレス】カード……牽いてはエクストラアクションが行えるカードは、まだ世にほとんど出回っていないらしい。

 与えられたデッキに入っていた数枚を除き、「依頼」で決闘した相手や奪ったカードでも見たことはない。

 

 故に、エクストラアクションは奥の手としてなるべく使わないようにしていたのだが、先程の決闘では久々に使わざるを得ない状況まで追い込まれた。

 

 年齢に見合わぬ実力に、「力」を使っている私に匹敵する勝負運、そして悪に対する鋭い嗅覚と正義感。

 

 

 流煙ミズキ──あれは絶対にこの世界の「メインキャラ」だ。

 

 

 こんなおかしな世界だからこそ、どこか存在するだろうと常々考えてはいたが、決闘をする中で確信を得た。

 主人公かどうかは分からないが、彼との衝突を繰り返せば私は確実に負けてしまう。

 これは彼が「メインキャラ」であればいずれ訪れる必然だ。

 

 

 一応、関わるなと忠告したが素直に従うとは思えず、この先が思いやられる……と悩む必要は無かった。

 

 

 実は最近、組織から今の拠点である阪手周市を離れ、代わりに用意した他の町へ拠点を移すよう指示されていたのだ。

 いくら正義感が強いといえど、私よりも年下……小学校高学年であろう彼の行動範囲には限りがある。

 もう二度と会うことは無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「最近、隣に引っ越してきた七嶋(ななしま)です。……よろしくお願いします”流煙”さん」

 

「あら、お若いのにご丁寧にありがとう! よければウチのミズキと仲良くしてちょうだい!」

 

「ミズキ……さん。というのは、もしかして」

 

「ええと、息子よ。そろそろ学校から帰ってくる頃なんだけど……まーたカードショップで道草食べてるな、こりゃ」

 

「そ、そうなんですか」

 

「また今度、改めて紹介させて!」

 

「ええと……はい」

 

 

 まだ焦る時間じゃない。

 

 こんな事を考えている時点で焦っているのではないかとは言ってはいけない。

 

 確かに、流煙ミズキの自宅が引っ越し先のアパートの隣室というのは完全に想定外だった。

 彼と一度決闘してしまった時点で、私は「ストーリー」に巻き込まれてしまったとでもいうのか。

 とはいえ今回の転居は私の意思ではなく「組織」の決定であり、私からの再転居の要求は不可能だ。

 

 しかし、今の私は「七嶋エリカ」だ。

 当然これも組織から与えられた仮の名だが、流煙ミズキは私を見ても「スペア」だとは思わないだろう。

 彼との衝突が避けられない運命だというのならば、このアドバンテージを活かしてどうにか負けないよう対策を練るしかない。

 

 そのためには──

 

 

「あの、流煙さん。お聞きしたい事があるんですけど……」

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

──TURN1

 

隼鳶(はやとび)レッカ HP200

流煙(りゅうえん)ミズキ HP200

 

 

「俺の先行!」

 

 

 レッカが宣言し、手札から1枚のカードを掲げる。

 

 

「アクション1! マテリアカード【ファイアスパロー】を生成!」

 

 

 その声に合わせレッカの前に、どこからともなく現れた火の粉が渦のように集まり、光の球が形成されていく。

 瞬間、集まっていた火の粉は一気に霧散し、中から頭頂部でトサカのように炎が揺らめく、赤いスズメが現れた。

 

 

「アクション2! アタックだ!【ファイアスパロー】のパワーは40!」

 

「くっ……カウンターは無い!」

 

 

 手札を一瞥したミズキが歯噛みする。

 【ファイアスパロー】の放った燃え盛る羽根が、ミズキの目前で炸裂する。

 

 

流煙ミズキ HP200→160

 

 

「アクション3! もう1度アタックだぜ!」

 

「ちょっと! 1ターン目はアクション2までよ? ミズキ君との決闘(デュエル)が楽しいからって、初歩的なルールまで忘れたの?」

 

 

 隣で2人の決闘を見ていた天白(あましろ)ヒカリがツッコミを入れる。

 

 

「いっけね! じゃあ……ターンエンドだ!」

 

 

 そう言って頭を掻きながら眉尻を下げるレッカを見て、ヒカリはわざとらしく肩をすくめながら溜息を吐いた。

 

 

──TURN2

 

隼鳶レッカ HP200

流煙ミズキ HP160

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 

 レッカの勢いに気圧されず、カードを引いたミズキは冷静に手札を見比べた後、1枚を繰り出した。

 

 

「アクション1、エフェクトカード【1to3(ワン・トゥー・スリー)】! これで更に3枚ドロー!」

 

 

 ミズキがデッキに手をかけようとした瞬間、レッカが待ったをかける。

 

 

「カウンターアクション! エフェクトカード【緊急停止(キルスイッチ)】! 手札にカードを加える効果を無効だ!」

 

「このタイミングでカウンターアクションを消費するなんて……」

「……なるほど」

「アタックされたら防げないんじゃ」

 

 

 レッカの宣言を聞き、店内に居た観客は様々なざわめきをあげる。

 相手のターンに1度しか行えないカウンターアクションは、マテリアの総攻撃である「アタック」を凌ぐために使うのがセオリー(定石)だ。

 だが、レッカは自信満々に言い放つ。

 

 

決闘(デュエル)はスピード! 相手のスタートダッシュは全力で警戒すべきだぜ!」

 

 

 しかし、妨害された当のミズキは動揺を見せていなかった。

 

 

「流石レッカ。でも、今日は僕が勝つ! アクション2! マテリアカード【スチームメイカー】を生成!」

 

 

 ミズキの前に箱形の複雑な機巧が現れ、垣間見える歯車やピストンが高速で動き始めた後、側面から蒸気を放出した。

 

 

「【スチームメイカー】は生成した時、デッキから【スチーム】マテリアと【パンク】マテリアをそれぞれ1枚ずつ手札に加える事ができる!」

 

「【1to3(ワン・トゥー・スリー)】はデコイ(おとり)……狙いは最初からそのサーチ能力か! やられたぜ!」

 

「そうだ。僕が選ぶのは【パンクスタンド】、そして【スチームレックス】!」

 

 

 レッカの戦い方はスピード勝負、しかしながら今回デッキのエースを繰り出すのはミズキの方が先手となった。

 

 

「アクション3! 手札からマテリアカード【スチームレックス】を生成!」

 

 

 【スチームメイカー】から吹き出ていた蒸気がひとかたまりとなり、2本指の小さな前足を持つ巨大な獣脚類の姿へと形を変え、唸り声を上げた。

 

 

「【スチームレックス】は生成時、デッキから好きなエフェクトカード1枚を手札に加える事ができる! 加えるカードは【水蒸気爆発(ハイドロエクスプロージョン)】!」

 

「だけど、その能力で手札に加えたエフェクトカードは、カウンターアクションに使えないという縛りを受けるんだったよな!」

 

「その通り。そして僕はこれでターンエンドだ」

 

 

──TUNE3

 

隼鳶レッカ HP200

流煙ミズキ HP160

 

 

「俺のターン! ドロー!」

 

 

 レッカは威勢よく宣言し、カードを手札に加える。

 

 

「アクション1! グラウンドの【ファイアスパロー】を代償に、マテリアカード【フレイムスターリング】を生成!」

 

 

 【ファイアスパロー】が火の粉の塊へと戻ったかと思うと、その炎は更に強く燃え上がり、中から星のような白の(きら)めきを纏った赤いムクドリが姿を現した。

 

 

「まだまだ! アクション2! 手札から更に【フレイムスターリング】を生成!」

 

 

 既にグラウンドに居た【フレイムスターリング】がさえずりを上げると、身体に纏っているのと同じ煌めきが周囲に集まって来た。

 やがてその輝きの中から、もう1匹の【フレイムスターリング】が現れる。

 

 

「【フレイムスターリング】は同じカードがグラウンドに居る時、代償無しで生成できるぜ!」

 

「パワー60のマテリアが2体……!」

 

「アクション3! アタックだ! 【水蒸気爆発(ハイドロエクスプロージョン)】は使わせないぜ!」

 

 

 【水蒸気爆発(ハイドロエクスプロージョン)】は相手のマテリアを全て破壊できる強力なエフェクトカードだが、グラウンドに【スチームレックス】が居なければ使うことが出来ない。

 2体の【フレイムスターリング】がそれぞれ【スチームメイカー】と【スチームレックス】に狙いを定めた。

 

 

「カウンターアクション! 【スチームメイカー】を代償に、マテリアカード【パンクスタンド】を生成!」

 

 

 その宣言の直後、2体の【フレイムスターリング】が放った煌めきがミズキ側のグラウンドに届き、大きな爆発を引き起こす。

 

 舞い上がった土煙が晴れた時、そこには機械仕掛けの脛当を装着した蒸気の竜が立っていた。

 

 

流煙ミズキ HP160→100

 

 

「【パンクスタンド】を装着したマテリアは、パワーの上回っている相手のアタックを受けても破壊されない!」

 

「そう来たか! しかし【スチームレックス】のパワーは30! 超過したパワーの分、ダメージも受けているはずだぜ!」

 

「ああ。でも、【スチームレックス】はまだ立っている!」

 

 

 汗を拭いながらそう告げたミズキの口元は、笑みを浮かべていた。

 それを見たレッカも一度大きく頷くと、歯を見せて笑う。

 

 

「熱くなってきたぜ! ターンエンド!」

 

 

──TUNE4

 

隼鳶レッカ HP200

流煙ミズキ HP100

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 

 引いたカードを確認するが、ミズキが使うと決めたカードは変わらなかった。

 

 

「アクション1! エフェクトカード【水蒸気爆発(ハイドロエクスプロージョン)】を発動!」

 

 

 【スチームレックス】が咆哮を上げると、先程とは比べ物にならない大きさの爆発がレッカのグラウンドで巻き起こり、2体の【フレイムスターリング】はロウソクの火を吹き消すように跡形も無く消え去った。

 

 

「ぐッ……! だが【スチームレックス】のパワーは30! このターン受けるダメージは──」

 

「アクション2! 【パンクスタンド】を代償に【パワードパンク】を生成!」

 

 

 レッカの計算を否定するように、ミズキは宣言した。

 【スチームレックス】の上半身に、外骨格のような強化フレームが装着され、蒸気の身体を覆い隠した。

 

 

「【パワードパンク】は他のマテリアに装着でき、装着したマテリアのパワーを80上げる事ができる!」

 

「何っ!?」

 

「アクション3! アタック! レッカに直接攻撃!」

 

 

 周囲の観衆はカウンターアクションが来るかと息を呑んだが、レッカは顔の前で腕を交差させ、衝撃に備えて構えるのみだった。

 駆け出した【スチームレックス】はレッカに向けて頭突きを放った。

 レッカの眼前に浮かび上がった障壁に大きなヒビが出来上がった後、徐々に薄くなり見えなくなる。

 

 

隼鳶レッカ HP200→90

 

 

「カウンターできるカードが無いからこそ、さっきのターン【スチームレックス】をアタックで破壊しようとした……」

 

「ああ、その通りだぜ」

 

 

 ミズキの予測に同意するレッカ。

 

 

「次がレッカのラストターンだ! ターンエンド!」

 

「確かにピンチ……だが、俺はまだ諦めないぜ!」

 

 

──TUNE5

 

隼鳶レッカ HP90

流煙ミズキ HP100

 

 

「俺の、ターン」

 

 

 レッカは目を閉じ、大きく息を吸い込んだ。

 

 

「……ッ! ドロー!」

 

 

 目を開けると同時にデッキから1枚のカードを引き抜く。その瞬間、レッカの瞳がひときわ輝いて見えた。

 ミズキはその様子を、少し前にスペアと決闘した時の自分自身に重ねていた。

 

 

「アクション1! エフェクトカード【不死鳥の息吹(Re・イグニッション)】!」

 

「そのカードは……!」

 

 

 通常、強力なマテリアは生成にグラウンドのマテリアを代償にする必要があるが、【不死鳥の息吹(Re・イグニッション)】は既に代償になっていたり、破壊されたマテリアが送られるアンダーグラウンド──通称アンダーのカードを代償扱いにマテリアを生成するカードだった。

 

 

「俺が代償にするのはアンダーの【ファイアスパロー】と【フレイムスターリング】2体! 来い相棒! 【バーンファルコン】!」

 

 

 甲高い鳴き声と共に燃え盛る巨躯のハヤブサが飛来し、互いのエースマテリアがグラウンドで対峙した。

 

 

「アクション2! アタックだ!」

 

 

 【バーンファルコン】が全身に炎を纏い、軽く飛び上がったかと思うと【スチームレックス】目掛けて突進を始めた。

 【バーンファルコン】のパワーは120。パワー110のスチームレックスを犠牲にすれば1度は10ダメージで抑えられるが、アクション2と3で2度のアタックを受ければミズキのHPは0となる。

 しかしミズキはその瞬間を待っていたとばかりにカードを繰り出した。

 

 

「カウンターアクション! マテリアカード【パンクテール】を生成! 【スチームレックス】のパワーを30上昇させる!」

 

 

 蒸気の尾に金属の装甲が装着され、パワーが140となった【スチームレックス】は、尾の先端に装備された刃で迎撃の構えをとる。

 

 

「アクション3! ダブルカウンターアクション! エフェクトカード【高高度強襲(フライオーバー)】!」

 

 

 レッカの宣言と同時に、【スチームレックス】の目前へと迫っていた【バーンファルコン】は翼を大きくはためかせ、衝突を避けるように高く舞い上がった。

 上昇が収まると再び急降下を開始したが、向かう先は【スチームレックス】ではなくミズキ本人であった。

 

 

「【高高度強襲(フライオーバー)】を発動したターン、俺のマテリアは相手マテリアを無視して直接攻撃できる!」

 

「……! しまっ──」

 

 

流煙ミズキ HP100→0

 

──DUEL ENDED

 

 

 

 決着と共に仮想グラウンドの投影が終了し、馴染みのカードショップの店内が露わになった。

 

 対戦コーナーの傍で見届けていた客たちは、いいものが見れたといった様子で白熱した戦いに拍手を送る。

 

 

「2人ともお疲れ様!」

 

 

 最も近くで見ていたヒカリがレッカとミズキに労いの言葉をかける。

 

 

「うーん、やっぱりレッカは強いね」

 

「ミズキもな! 読みの鋭さがどんどん上がっている感じがするぜ!」

 

「ありがとう。でも、今日はいけると思ったんだけどな〜」

 

「へへっ! 俺も黙って追い抜かれはしないぜ?」

 

 

 しかし当の2人は先程の決闘の感想戦に夢中になっており、蚊帳の外なヒカリは頬を膨らませる。

 

 

 その時、センサーに反応して入店音が流れた。

 

 

「いらっしゃいませー」

 

 

 大学生のアルバイトが、レジ内から気だるげな声をあげた。

 レッカと談笑していたミズキは、それを聞いてちらりと店の入り口の方へ視線を向ける。

 桃色の髪の少女が、キョロキョロと店内のあちこちを見回しているのが見えた。

 その視線がミズキのそれと重なった瞬間、少女は目を見開いた。

 

 

「あっ、いた」

 

 

 そう言いながら、少女は対戦コーナーの方へと真っ直ぐ向かってくる。

 思わずミズキは自分の背後を確認するが、既に周囲にはレッカとヒカリしか残っていなかった。

 

 

「レッカ、あの子知ってる?」

 

「いや、見たことないな。中学の人か?」

 

 

 訊ねたレッカにそう返されたミズキは、その少女が自分達よりも何歳か年上らしいことに気づく。

 そうこうしている内に、桃髪の少女は3人の前へとやってきていた。

 

 

「キミが流煙ミズキ君、だよね?」

 

「え? そう……です、けど」

 

 

 突然見知らぬ人物に名前を言い当てられ、応答が遅れるミズキ。

 それを聞いた少女は、喜びとも落胆ともとれるような微妙な表情を浮かべる。

 隣のヒカリに「知ってる人?」と言いたげな目線を向けられ、ミズキは小刻みに首を横に振った。

 

 そして、謎の少女は告げる。

 

 

「私にMeGを教えて欲しいの」

 


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