……前編からえらい間が空いてしまって申し訳ないです……。リアルの仕事が忙しかったのに加えて、新しく買ったゲームに熱中しすぎまして……
それでいてなんかもう、いつも通りかつ勢いのままの終わり方な気がしますが、楽しんでいただければ幸いです。どうぞ。
(……おかしい……!)
アルベドはいぶかしんでいた。
ここ最近のことである。
『ドラゴンクエスト作戦』『竜王討伐作戦』といった大きな作戦を完遂し、しばしの間は内政に力を入れる期間となったナザリック。
訪れたつかの間の平穏ではあるが、ナザリックにて働く者達からすれば、だからと言って何もせずにだらだらと惰眠を貪るなどありえない。むしろ今こそ、絶対の主であるアインズのために、できたこの時間で何ができるか、どれだけ見事にこの世界の侵略統治――ただし、主の意に沿わない野蛮で非効率な、美しくない方法は避けて――を進めることができるか。自分達の忠誠心とともにそれを試されているに等しいと皆が奮起し、進んで仕事を探してこなしていった。
なお、アインズとしては『せっかくできた余暇時間を仕事以外で有効に活用してほしいんだが、仕事ができない(アインズのために働けない)方がストレスになるみたいだから強く言えない……』と頭を悩ませていたりする。
もちろん、これを口にしてしまうとそれはそれでしもべ達が落ち込むので、ぐっと飲みこんでいるが。
アインズ・ウール・ゴウン。本名・鈴木悟。
ブラック企業で働いていたがゆえにこそ、ギルメンから託された子供達同然のしもべ達に対しては、できればゆとりある労働環境をプレゼントしたかったが、上手くいかないものだと今日もため息をついていた。
それはさておき。
そのアインズに『守護者統括』として仕える最高位のしもべの1人であり、彼の『正妻』を自負しているアルベドだが……先ほども言った通り、彼女はここ最近、あることについていぶかしんでいた。
それは、自分と同じようにアインズの妻の座を狙うライバル
今ちょうど、階層守護者達で集まって、各々の仕事の進捗状況について報告しているところなのだが……
「そういうわけで、今度行われる『アレフガルド都市国家連合』での式典にアインズ様が参加される際には、補佐として私が同行するわ。他には、道中の雑事を任せるために『プレアデス』から誰か1人連れていく予定だけれど、人員についてはまだ選定中よ」
「連れていくのは1人で大丈夫なのでありんすか? ずいぶんと距離もあるようだし、アインズ様にご不便があってはいけないと思いんすが」
「それについては、ラスト様の方から必要な人員を回してくださるそうだから問題ないわ。そもそも『道中』といっても、途中転移魔法を使って大幅にショートカットするから、旅程と呼べる予定はほぼないも同然だしね」
そう答えるアルベドに対し、守護者達は『なら問題ないか』と納得した様子だった。特に反対意見が述べられることもなく、2つ3つ確認した程度で、話はスムーズに進んでいく。
そして……アルベドがいぶかしんでいたのは、まさにそこである。
(外泊を伴った婚前旅行(※仕事です)……だというのに、シャルティアが何も言ってこないなんておかしい……! 最終的には理詰めで諭されて折れるとしても、何かしら頭の悪い難癖をつけてくるくらいはしてもおかしくはないのに……!?)
何気にひどい言い草であるが、時にガチバトル未遂までいくレベルで火花を散らして
そして何度も言うが、問題はそこではない。今回のような、一歩間違えば自分が大きくリードしてしまえそうな事態において、シャルティアが黙って自分とアインズを送り出す。以前までの彼女であれば、ありえないことだ。
それも、今回だけではない。ここ最近、今までならば噛みついてきた(物理的にも)であろうタイミングで、シャルティアが何も言わず、あるいはちょっとだけ不満そうにする程度で、自分とアインズを二人きりにしたり、仕事に送り出したりと、アインズとの距離が縮まりかねないような仕事その他を認め、送り出す。
この変化は一体、何を意味しているのか。
そしてもう1つ。アルベドは……恐らく、この、自分とシャルティアの争いに、もう1人……静かに参戦してきた者がいることにも気付いていた。
アウラ・ベラ・フィオーラ。第6階層の守護者にして、至高の41人の1人、ぶくぶく茶釜によって創造されたダークエルフの少女。現在76歳でまだまだこどもだが、その美しさは被創造物の中でも感嘆を持って評される1人。
今までは、アインズに対して敬意や忠誠心こそあれど、自分やシャルティアのように女として彼にアピールするようなことはなかったはずだ。
いや、今も別に女としての自分をアピールしているわけではない。なんなら、今までと同じように、子供らしい態度で、それでいて礼儀正しくアインズに接している。
しかし、アルベドにはわかった。アウラの目が……アインズに向けるその目だけが、今までとは違うものになっていることに。
自分達と同じ、女としてアインズと共にありたい、という望みを湛えたものになっているということに。
そして、しかし……アウラもまた、シャルティア同様、アインズに対してグイグイ前に出るようなことはしていない。今言ったように、接し方は前と同じなのだ。アピールらしいアピールもないため、おそらくアウラの心変わりに気づいているのは……自分だけだろう。
あるいは、同じ恋敵として、シャルティアあたりは気づいているかもしれないが。
どうやら、それについて気になっていたのは、アルベドだけではないらしい。
話し合いの最中、ふと気になったかのような自然な様子で、デミウルゴスが切り出した。
「しかし、いつもなら……アルベドがアインズ様に付き添って遠出するとなれば、シャルティア、君なら『自分が行く』とでも言いだしていたと思うんだがね……今日は随分と物分かりがいいね? アルベドにお役目を譲ってしまっていいのかい?」
そう聞くと、気づいていなかったコキュートスなども『そういえば』とでも言いたげな様子で、シャルティアに視線を集中させる。もちろん、これ幸いとアルベドも。
「ん? ああ、そういえばそうね……」
その中心で、シャルティアは特に何も気にした様子もなく、さらりと答えた。
「仕事として、『神』として動くアインズ様に同道するとなると、政治とか外交にも明るい方がいいわけだし……となれば、それらに加えて護衛もできるアルベドが適任なのは確か。無論、ご指名であれば全力で務めるつもりはありんすが、これが最善であるなら、私情であーだこーだと言って、万が一にもアインズ様を困らせるようなことをするつもりはありんせん」
演技や強がりではない。本心からそう、さらりと言ってのけたシャルティア。
それを聞いて、デミウルゴスらは『ほう』と感心したような様子になっていた。彼らにとって、シャルティアはアルベド同様、アインズのことになると抑えが利かず、私情を大いに振りかざしてとにかく前に出て、アインズにくっついていこうとする問題児という印象が強かった。
しかし今のシャルティアは、アインズにとって利になることは何かを考え、そのために自分の欲望を抑え込んで『最善』を選ぶだけの落ち着きと自制、判断力がある。驚くべき変化であると同時に、間違いなくアインズのためになる喜ばしい『成長』だった。
ゆえに、デミウルゴスもコキュートスも、驚きこそすれど、おおむね肯定的にシャルティアの意見を、そして成長を受け止めていた。
一方でアルベドはと言えば……『血狂いかつアインズ様狂いのヤツメウナギ』という認識だった目の前の吸血鬼が、これほど理知的で自制の利いた判断を下す。それも、本心から。
不満が全くないわけではなさそうとはいえ、恋敵であり、アインズ関係であればとにもかくにもアルベドの邪魔をしておきたいとまで思っていたであろう、あのシャルティアが。
咄嗟に『偽物か!?』とすら思ってしまったが、感じ取れる気配は間違いなくシャルティアのものだ。自分と同じナザリックのしもべ特有の気配を見間違えることなどない。
そして、そんな大きすぎる変化を見せたシャルティアを、こちらも普段仲が悪いはずのアウラが……微笑ましいものを見るような目で見ていることにも気づいていた。
「少々偉そうな物言いになってしまうが、すばらしくそして喜ばしい『成長』だと思うよ、シャルティア。その姿勢はきっと君自身の、そしてナザリックの今後のためになることだし、アインズ様もきっと喜んで下さるだろう。……色々な意味で(ぼそっ)」
「あら本当? それは喜ばしいわね……いえ、これで満足していちゃダメでありんす。それなら、この先もこの調子でアインズ様のために少しでも優れたしもべとなれるように、できることを探して自分を磨いていかないと。もしかしたらデミウルゴスに、アルベド。あなた達を頼ることになるかもしれないから、その時はよろしくね」
「っ!? え、ええ……もちろんよ、シャルティア」
「無論だとも。君のその向上心に敬意を払おう、協力は惜しまないから、その時は存分に頼ってくれたまえ」
「喜バシイコトダナ。ナザリックノ未来ノタメニ、守護者達ガ手ヲ取ッテ奮励努力スルトアラバ、アインズ様モオ喜ビ下サルダロウ」
(いったい何があったら、ここまでの変化を……!? 恐ろしい子!)
守護者達が口々に称える中、アルベドは表情を変えずに冷や汗を流していた。
心の中では白目をむいて衝撃を受けていたが。
今回は無事、自分がアインズに同行する栄誉を勝ち取った。それはいい。
しかし、この違和感を放置していれば……取り返しのつかない事態を招いてしまう恐れがある。アルベドは、直感的にそう感じていた。
(楽観的に考えて、放置していてはだめだわ……どうして彼女がこんなことになったのか、突き止めて対処しないと……)
(とか思ってるんだろうなあ……アルベド)
普段であれば、アルベドの頭脳を先読みして上回ることができる者など、ほぼいない。
いるとしても、ナザリックにおいて彼女と同等の頭脳を持つ2人……デミウルゴスとパンドラズ・アクターくらいのもの。そして、全てを凌駕する絶対の英知をその身に宿す支配者・アインズくらいのものだ(しもべ視点)。
少なくとも、彼女……アウラにとっては、同じ守護者、同じしもべであっても、アルベドと自分ではその頭脳の出来に大きいどころではない開きがあるのは明白で、しかし別にそれを悔しいとも羨ましいとも思ったことはなかった。
そんな彼女が、ポーカーフェイスの向こうに隠されたアルベドの思考を読み取ることができたのは、その分野においてアルベドの先を行くことができていたからに他ならない。
現在進行形で色々ひどいアルベド。本人はそれを恥とも何とも思っていないようだが、それはそれとして、今の『きれいなシャルティア』に対しては危機感を覚えているらしい。
そう思うなら自分も少しは『きれいなアルベド』になる努力をしようとは思わないのだろうか、とアウラは心の中でため息をつく。
(まあでも実際、シャルティアも、そして私も、こんな風に心変わりするなんて自分達でも思ってなかったから……驚いて焦るのもそりゃ無理ないってもの、かな)
アウラ自身も、これまでの自分とは大きく変わった自覚のある1人。
そしてもちろん、そのきっかけについても自分でわかっている。
あの時目にして、手で触れた小さな命……弟・マーレと、ラストにゃんにゃんの間に生まれたダークエルフの子供。あれが、全てのきっかけであることは、考えるまでもなく明らかだった。
アウラとて、赤子を(種族問わず)目にしたことはもう何度もある。しもべにしている魔物達が繁殖して生まれた子獣であったり、支配下に置いている村や町で、弱弱しい人間や亜人の女が、さらに弱弱しい赤子を抱いているのを見たこともある。
その時は、モンスター達については『早く育ってアインズ様のお役に立つんだよ』という思いが主だったし、人間達については『弱くて邪魔』としか思えなかった。
それが今回、マーレの子供を……自分と血のつながっている姪っ子を見てこんな風に価値観が大きく変わったのは、やはり、肉親と呼べる小さな命の誕生が、それだけ特別な経験だったということなのだろう。
初めてその小さく弱弱しい、1人では生きていくこともできない命を『愛しい』と思えたのに加えて、いつか自分も、自分が産んだ子供を抱くのだろうということを考えると……とても、今までのままではいられなかったのだ。アウラも……シャルティアも。
もちろん、シャルティアは今でもアインズの妃になりたいと思っている。
アウラもまた、以前は『まだ子供である自分がそんな……』と思って特に考えていなかったが、ここ最近は意識するようになった。
思っている上で、意識するようになった上で……がっついてアインズに押しかけたり、押し倒したりして迷惑をかけるような真似は一切していない。
彼女達が大事にしているのは、相手となるアインズにとって『傍に置いて、一緒にいて心地よく過ごしてもらえる存在』になるということだからだ。
ただ大きすぎる、重すぎる愛をぶつけるのではなく、それを受け止め、受け入れてもらうことこそ最重要課題。妻となる者が、アインズの心身に負担をかけるようなことは断じてあってはいけない。しもべとしてあまりに当然のことだが……それを実行できている例が、割と身近に少ない。
だからこそ、今、シャルティアとアウラが重要視しつつ学んでいるのは、アインズに心地よく過ごしてもらえるような接し方や、適切な距離感。そのために必要な知識や技術。
そういったものを、日々の暮らしの中で、そして時折訪れる『空中庭園』において、ラストにゃんにゃんという先達に師事することで学んでいる。時に座学で、時に実技で。
そう、彼女達は今、『花嫁修業』の最中なのである。
まさに先ほどシャルティアが行っていたように、今の自分達に満足せず、公私ともにいくらでもアインスの役に立てる自分になるために、磨きをかけている真っ最中なのだ。
自分には向いていないからとか、『そうあれ』と作られていないからとか、そういった言い訳で満足も納得もせず、ライバルを排除するのではなく、自分を磨くことでアインズに選んでもらおうとして、そして同時に、アインズをより力強く支えられる女になろうとしている。
(シャルティアも私もまだまだだ、ってラストにゃんにゃん様には言われてるからね……気長に、時間はかかっても丁寧に、しっかり学んでいかないと。アインズ様の、至高の御方の人生を支えるのにふさわしい女になるために。そして、そのお子の立派な母親になれるように、ね……!)
もしかしたら、その間にアルベドとアインズが結ばれてしまうかもしれない。しかし、その時はその時で仕方ない。自分達が至らなかったというだけの話だ。言い訳も現実逃避もするべきではないし、アインズの選択に異を唱えることは不敬でしかない。
そうならないために、最善最高の自分を見てもらい、そしてもらってもらうために、今は自分を高め続ける。そう決意して、2人とも努力しているのだから。
今まだ、激重感情型メインヒドインとしてアインズにアピールしているアルベド。
着々と自分を高め、主にふさわしい超妻賢母を目指すシャルティアとアウラ。
この3人、あるいはこの先また誰かが加わるのかもわからないが……1人の絶対的支配者を巡る恋模様が、どのような形で決着することになるのか……それはまだ、誰にも分らない。
☆☆☆
「そんなわけで最近、シャルティアだけでなくアルベドもちょっとずつ大人しくなってきてる気がするんですよね。まじめにきちんと仕事はしてくれるのはもちろん、今まであった……何ていうか、強引すぎるアプローチが鳴りを潜めてるというか」
「あー……シャルティアの意識改革とか、自分磨きの花嫁修業が思わぬ形で作用してますね多分。今まで自分と同じように、とにかく押して押しまくる感じだった恋敵が突然戦法を変えて来て、さすがのアルベドも警戒してるんだと思います」
いくつもの大仕事を終え、割とのんびり時間が取れるようになったということで、アインズさんはまたちょいちょいこの『空中庭園』に遊びに来るようになった。前よりも高頻度で。
テレサを『非常勤守護者』として招いてナザリックで食事とかすることもあるけど、さすがに娯楽のバリエーションはまだまだこっちの方が上だからね。食事だけじゃなく、色々な遊びを楽しむ目的の時は、こっちに足を運ぶことが多い。
ちなみに今日は、サルベージしたゲームソフト(昔のやつ)の中から、『サバイバルホラーの金字塔』と呼ばれるシリーズのうちの1つを遊びに来てます。アインズさん気に入ったみたいで、シリーズのナンバリングタイトルを1から順にプレイしていってるんだけど……アンデッドのアインズさんが人間を操ってアンデッドを撃ち殺しながら進んでるのってなんとも……まあいいか。
今やってるのは、そのナンバリング5作目で、主人公とパートナーキャラクターが2人で協力して敵を倒しながら進んでいくものなんだけど……これが発売されてた当時は、技術的な問題でAIの挙動があまりにお粗末すぎて、『真の敵は味方キャラのAI』なんて言われていたんだとか。
実際、アインズさんが遊んでみた時も、低難易度なら問題なかったけど、高難易度のステージを進んでいく際に、ペース配分ってものを考えずに弾薬を撃ち尽くして、その結果ナイフ1本で無謀にも前に出ていって死んじゃったりしてて……。まあ、昔のゲームだし、仕方ないのかな……。
パートナーが死ぬとゲームオーバーになるから、アインズさん何度もそれでやられて『おい、まて、バカ、そっち行くな! お前弾もう無……やめろォ!』って画面に向かって叫んでて(直後に鎮静化)……見てる私としては苦笑するしかなかったな……。
ただこのゲーム、2人で協力プレイする形での遊べて、今はアインズさんが主人公を、私がそのパートナーキャラを操作して遊んでるので、そういうストレスに悩まされることなく2人でスムーズに進めております。
で、それを進めていく中で『ちょっと休憩』ってことで2人、目を休めつつ雑談してた中での会話が、冒頭のアレである。
この前……ってほど最近でもないけど、私とマーレの間に子供ができたじゃない? そんで、その子を抱っこしてから……シャルティアとアウラが、なんていうか、はっきりと『女』の顔をするようになったんだよね。
けどシャルティアは、アルベドみたいにめっちゃ肉食系で強引にアインズさんにせまる、って感じじゃなくて……静かに、けど着実に牙を研いでいる感じで……これまでとは違った調子で、アインズさんの妃の座を狙って邁進して行ってる感じ。
そして、元々そうだったシャルティアのみならず、アウラもまた、自分が『女の子』であり、ゆくゆくは『母』になることを意識し始めたみたいで。
そしてかなうなら、アインズさんの妻の1人になれれば……みたいに考え始めたみたいで。
アインズさんの隣に立っても恥ずかしくない自分にならなきゃいけない。
生まれてくる子供に胸を張れる立派な母親にならなきゃいけない。
アインズさんを押し切って妻の座に収まるんじゃなく、アインズさんに選ばれなきゃいけない。
ただ妻の座に甘んじるなんてもってのほか。妻としてアインズさんを公私ともに支えることができる女にならなきゃいけない。
ここ最近でシャルティアもアウラも、そんな感じで意識高い系の考え方ができるようになったみたいで。
きちんと『自分が満足できるようにじゃなく、あくまでアインズさんに喜んでもらえるように』って考え方で動けるようになったの、大きな成長だと思います。
『母』としての大先輩としては、そんな健気で一生懸命な女の子を応援したくなってしまうものでして……最近、時間がある時にシャルティア達に色々と教えてあげてるんだよね。
良妻として夫を支えるための心得とか、母親としてきちんと子供に愛情を持って、しかし時には厳しさも持って接することの大切さとか。そのあたりを、座学と実習込みで。
なお、そういう知識はアルベドは既に持ってるらしいし、技術もある。スキルを持っていないからできない料理以外……掃除とか裁縫とかの家事全般大得意なんだってさ。
さらに、彼女にはニグレドっていう子供大好きなお姉さんがいて、有識者的に助言もしてくれるし子育ての助力も期待できる。なので、実はアルベドはこの分野でもシャルティア達よりもかなり前に進んではいるのだ。
……ただ、本人の性格と欲求の強さのせいでそれらをいまいち生かすことができておらず、空回りを通りこしてたびたび暴走するせいで『ヒドイン』評価になっちゃってるだけで。
こないだ、アインズさんを押し倒してそのままコトに及ぼうとして謹慎処分くらったとかなんとか……。
私みたいにフレーバーテキストにそれ系の文言を書いてるわけでもないのに、しもべとしての忠誠心をぶっちぎれるレベルの暴走ができるって、ある意味すごいな……そしてよく無事に済んだなアインズさん。
そんなアルベドだが、最近露骨に『これまでとは違う成長』を遂げているシャルティアや、『女』としての顔を見せ始めたアウラに警戒感と焦りを覚えてきているようで……そのせいで逆にアインズさんに強引に迫ることがなくなってきてるみたいだ。
自分はこのままでいいのか、自分ももっと何かしら、アインズさんのために成長するべきなんじゃないか……そんな風に思ってるのかもね。
……ちなみに、もしもアルベドも私に『花嫁修業』を希望して申し出てくるようなら、それはもちろん差別せず彼女に対しても指導してあげるつもりだ。
シャルティア達にするのとは別なメニューになるかもしれないけどね。母として、そしてサキュバス系統の悪魔としても私の場合先達だから、色々とアドバイスはできるとは思うんだ。
……まあ何よりもまず、欲望に負けて襲い掛からないようにっていう指導が第一かもだが。
そんな雑談をしている間に、ラスボスにロケットランチャーをぶち込んでゲームをクリアしたので、ふぅ、と2人で一息つく。
ふかふかのソファの背もたれに身を預けつつ、ふと思いついたようにアインズさんが言った。
「しかし……こうしてゲームしながらのんびり過ごせるのは嬉しいし楽でいいですけど、ちょっとだけ罪悪感あるなあ……。こうしてる間も、アルベドやデミウルゴスは、今回の作戦の後処理を含めた色んな仕事してくれてるわけだし……そんな中1人遊んでるのは……」
「あー、わかります。なんか罪悪感出てきますよね……。私ももうこの世界来て400年にもなるのに、いまだにその手の社畜根性、時々顔出してきますもん」
「夢も希望もないけど適切すぎるネーミング……」
リアルで『週休二日? 残業代? 何それ美味しいの?』な生活を送っていた私達。最早遠い昔の出来事ではあるんだけど……思い出すと今でも、その時に培った……培ってしまった『休むことは悪いこと』的な価値観、ないし強迫観念がちょいちょい顔を出す。
『ああっ、納期が! クレームが! 会議資料が! 納品前の急な仕様変更が!』ってどんよりした気分になりますことよ。
ふと見ると、アインズさんも何かしら思い出してるみたいで……『4時起き……残業……上司より先に出勤して帰った後に退勤しなきゃ……』うーん、聞こえてきた単語だけでも労働環境が目に浮かぶ。技術やら何やらは進歩しても、なぜか企業体質は旧時代のまま変わらんのよね……。
「ま、まあでもほら、自分で言うのもなんですけど、めっちゃすごい『神様』がそんなあくせく働く姿を見せるわけにもいきませんし? きちんと象徴的な役割を果たせるように、玉座に座ってどっしり構えておかないといけないですし? 私達が堂々として揺るがない様子でいるのを見て、民達は安心するっていう側面も確かにあるわけですしね?」
「そ、そうですね。俺達はその分、『ナザリックに味方してよかった』って顧客……というか、その民達に思ってもらえるように世界をよくしていけばいいわけですから! そうすれば、『竜王』達を討伐したことで不安になってる民達も、好意的に俺達を受け入れてくれるはずですし、支配も穏便かつ盤石なものになるはずだし……うん、くれぐれも穏便に支配しなきゃ……」
言ってる途中からまた不安そうなトーンになるアインズさん。感情が忙しいな……。『鎮静化』が働くほどでもない変化だからか、今度は光らずに微妙に落ち込んだままだ。
まあ、ナザリックの子達は、この世界に来た当初よりはマシになったとはいえ、未だに人間蔑視がひどくて……『あら、アインズ様に対してそんな態度を? 許せないわ、滅ぼしましょう』とか言っていとも簡単にやりかねない危うさは、まだまだ油断できないくらいにはあるのだ。
さすがに国もろとも消そうとかはしないと思うけど……村とか町1つくらいなら現場判断で沈黙させかねない。
将来、世界全体を平和に、穏便に支配するためには、そういうのは極力避けていくべきだと思うし、何よりアインズさんの場合は……将来、ギルメンと合流するかもしれない、っていう希望を持った上での戦略目標だからね。
たしか、最終日はヘロヘロさんがログインして一緒にいたんだっけ……あの人も私らと同じかそれ以上の企業戦士だったからなあ……。
アインズさん(当時はまだ“モモンガ”さん)にも、体ボロボロだって言ってたそうだし……心配だなあ。ホントにこっちに来てればいいのにと思うよ。
ふと見ると、アインズさんもどうやらその時のことを思い出してたようで。
「ヘロヘロさんもそうだし、他の皆も……もしこの世界に来ている、あるいはこれから来るのなら……絶対に助けて、ナザリックに迎えてあげたいですから。そのための『手段』として……『世界征服』、やってやりますよ」
「お手伝いしますよ、アインズさん。もしそうなったら……きっと皆喜んでくれるでしょうし」
誰に強制されるでもなく、必要だからいやいやでもなく。
この世界に来た当初から彼が掲げている、絶対にやってみせるという目標。そのためにアインズさんは、眼窩の奥に光る赤い目を、エフェクトだけでなく輝かせている……ように見えた。
そして同時にその光は、彼が『
こう言っちゃなんだけど、そういったものを失ったままに、ある意味『暴走』してこの世界に手をかけてしまったとしたら……その時はたぶん、アインズさんが当初思っていた、仲間達を迎えるための楽園としての形とは違う形になってしまうと思うんだよね。この世界も、ナザリックも。
けど、今もこうして、人間だった頃の感性や遊び心、誠実さや儚さ、楽しさや平穏を愛する心が残っているアインズさんなら……きっと、ギルメンの皆さんが本当に心から安らげる形で、ナザリックを作り上げ、保って行けると思う。
そしてそのためなら、今言った通り、私も全力で協力するつもりだ。皆、私にとっても大切な人達ばかりだから……温かく、優しく迎え入れて上げられるように頑張ろうね。
いつか、時間や仕事に追われることもないこの世界で、のんびり仲良くゲームやおしゃべりや食事を楽しめたら……そんな時が来たらいいな、って、私も思うよ。
………………
「ここで『ただし“るし☆ふぁー”テメーはダメだ』って言ったらさすがに不謹慎というか空気読めてないですかね?」
「……正直俺もちらっと頭によぎりました。この現実になった世界にあいつが来たら何するのか、ちょっと怖い……」
……ま、まあ、臨機応変にケースバイケースでってことで、ね?
☆☆☆
ゲームもクリアしたし、ちょうどいいタイミングでお茶請けのお菓子その他もなくなった。
なので、ひとまずお開きにするかってことで今日は解散。それぞれ自室に戻ることにしたんだけど……その途中、視線を感じた。
もっとも、ここ最近よく感じるようになった……というか、もう慣れ親しんだと言っていいそれなので、驚きも不安も何もない。
むしろ歓喜と期待がある。
ちょっとだけ振り返って視線を向ければ、そこには……曲がり角の向こうからちょこんと除く、ダークエルフの色黒で長い耳が。
と同時に、私に気づかれたことに気づいたんだろう。隠れるのはやめて、マーレがおずおずと出て来て……そのまま私のそばに来る。
最初の内は、仕事ないし役目とはいえ恐れ多く思っていた彼だけど、今はこの通りだ。恥ずかしそうにしつつも……きちんと私を『誘う』ことができるまでになった。
ここ最近忙しくて、久しぶりだもんね……我慢できなくなっちゃったかな? アインズさんとの話し合いが終わって、私が部屋に帰る様子なのを見計らって声かけて来たわけだ。
「あ、あの……ラストにゃんにゃん様。これからお時間、って、あったり……しますか?」
おずおずと遠慮がちにそんなことを聞いてくるマーレ。しかしその実、頭の中は多分、この後のあれこれへの期待でいっぱいと見た。……気のせいじゃなければ、スカートの下で、ちょっと窮屈そうにしてるみたいだしね……?
ここで『ごめん、この後予定があってさ』なんて言って断ったら泣いちゃうかもな……まあもちろんそんなのないから、何も問題ないわけだが。
「うん、何も予定ないから大丈夫だよ? よかったら……お部屋、一緒に来る?」
「っ……はいっ!」
こんなかわいい顔の歓喜の笑顔の中にも、確かに興奮と欲望が見える。大好物だ。
竜王達との戦いも終わったことだし……今、デミアが戦場で回収した彼らの体組織を元に、新たな『クローン竜王』の作成に着手してくれているはずだ。
それができたら、また、向こう数十年遊べる『種竜』もできるだろうし……それが今から楽しみと言えば楽しみではある。
けどそれもまだまだ時間かかるだろうし、となれば今は……ナザリックとの協定の通りに、『万魔の母』を受け継いだ子供を作るために、マーレと一緒に頑張って、1回でも多く子供スキルガチャ回せるように……うん、がんばらなきゃね。
なんて、誰に言うでもない言い訳をしながら、私は……マーレと手を繋いで、私の部屋へ。
そして、我慢できなくなって、歩きながら部屋の中で服を脱ぎ捨てながら、それを見て顔を真っ赤にしつつも、自分も服に手をかけていくマーレを見てにやけながら……2人で、その奥の寝室に消えていき……扉を閉めた。
やっぱ私の場合、異世界生活の醍醐味はこれなんだよねえ……♪
今までも、これからも……。
これにて本作は完結となります!
昨年11月から連載が始まったものの、途中で色々あって(主に作者が目先の欲望に負けてさぼってただけなんですが…)だいぶ間が開きながらの投稿になったりしましたが、どうにか完結させることができました。
ここまでこれたのも、ひとえに温かく見守って下さった読者の方々のおかげだと思っております。感想その他、全て読んで力に変えさせていただいておりました。
果たして『オーバーロード』という偉大な原作の面白さを損なうことなく表現できていたかどうかは微妙ですが……少しでも皆さんに楽しんでもらえる作品に仕上がっていたら、作者としても嬉しいです。
次にまた何か書く機会があるとしたら、その時はまた身に来てくだされば幸いです。
ご愛読いただきましてどうもありがとうございました!